イセカン!?〜異世界の空き缶に転生した我だけれど、諦めずに魔王に成ってみせるカァアン!〜

イチ力ハチ力

文字の大きさ
27 / 99

第27話 お天道様が見ているぞ

しおりを挟む
「率先して汚れる仕事が出来る人って、僕は凄いと思うよ。カンは、人じゃなくて、缶だけど」
  
「わざわざ訂正しなくても、分かっておるわ。それはそれとして、確かに自ら進んで汚れ仕事が出来る者は、徳が高そうではある。しかし字面から判断するに、我の〝ヨゴレ耐性〟はそう言う意味では無い気がするんだが?」
  
 スキルの意味としては、おそらくカンの認識で間違いはなかった。

「細かい事を気にしてたら、立派なヨゴレに成れないぞ! もっと下ネタや一発芸を磨くことが、カンが光り輝く道と知れ!」
  
「そんな道は知らぬわ! 魔王! 我が成るのは、魔王の方だから!」

 そんな魂からの叫びは、果たして面白がっているイチカに響いたかどうかは、甚だ謎である。
  
「と言うことで、新たな力に目覚めたカンよ。早速、次の異世界に……」

 そう言うなり、イチカはカンに向かって右手を突き出すと、カンが立っている机の上に、空き缶サイズの転送魔法陣を出現させ、そのまま起動しようとした。
  
「待て待て待つカァアアアアン!? 〝魔法〟はどうしたのだ! フリ逃げするでないわ! これまでの話の流れを、よく考えてから次の行動を起こすべきだろうに!」
  
「だからぁ、その〝魔法〟の為に異世界へと、今から転移して貰うんじゃないか」
  
「ど……どういう事なのだ?」

 イチカは、勝手にそのまま異世界に飛ばしてしまおうとしていた転送陣の発動をキャンセルすると、椅子に深く座り直した。

 そして目を細めると、如何にも楽しそうに微笑んだ。
  
「例えばだよ? 僕がカンのボディのアルミ缶を、ファンタジーの定番金属である〝魔鉄〟とか、最終的には〝オリハルコン〟とか〝アダマンタイト〟とかにしたとしよう」
  
 浪漫溢れるイチカの言葉に、カッと身を見開いた様な雰囲気を出したカンは、興奮しながら叫ぶ。

「それだぁああ! そんなのになりたいのだぁああ! 
  
「だがしかし、転生したらカンのボディは、どうなるんだった?」
  
「……また空き缶ということなのか?」
  
「その通りだ! 転生出来る! 尚且つボディは、転生前のオリハルコン!……そんな訳あるかぁあ! 缶生人生的感じそんなに甘いと思うなよぉおお! 調子になるなぁああ!」
  
「調子に乗ったのではなくて、ファンタジーに夢を見ただけカァアアアアアン!?」

 カタカタを空き缶ボディを震わせながら、カンはまるで地面に這いつくばっているかのような絶望感を、器用に空き缶の身体で見事に表現した。

 そして、その姿を見ているイチカは、ゆっくりと頷くと、諭す様にカンに語りかけた。
  
「潰れて、人で言えば〝死んでしまった〟としても、新しい空き缶に転生できて、尚且つ空き缶であるのにも関わらず、どの世界の者達ともコミュニケーションが取れるんだぞ? これ以上望むのであれば、本当にチート不正だと思わないか? そんなご都合主義のような強さを、カンは欲しかったのかい?」
  
「……我は……」
  
「それでカンは、胸を張ってお天道様に向かって、自分は〝強くなった〟と言えるのかい? そんな紛い物の強さが、カンの目指す〝最強最恐最高の魔王様〟なのかい?」
  
「……我は……最強で最恐で最高で……〝本物〟の魔王に成りたいのだ……我は……我は……」

 イチカの問いかけに、自らの魂に語りかける微動だにしないカンの姿は、本当にただの空き缶にしか見えなかった。

 その見事なまでのただの空き缶の如き姿は、思わずイチカが資源ゴミの袋に思わず放り投げるのを、本気で思いとどまる程だった。

「なぁ、カンよ。〝最弱〟と自他と元に認める空き缶のカンよ。強くなる手間を惜しんだ先に見る景色が、美しいとは限らないんだよ」

 喋らないカンなど、ただの空き缶のゴミにしか見えない為、イチカは自己分析中のカンに話しかけた。

 要は、ただの空き缶を見ていることに飽きたのだ。
  
「なぁ、イチカよ? 確認したいことがあるのだが」
  
「そんな美しい世界が、この世界にはあるんだよ」
  
「ねぇってば」
  
「だから……頑張ろうな!」
  
「我の話をきぃけぇえええ!」
  
「何だよ? 空き缶の分際で、自らの夢とは何か、強さとは何か、そして自分自身の事について黄昏ていたゴミが!」
  
「自分自身の事を考えただけで、そこまで言われる我は、同情されるべき存在だと思うぞ。それにメンタル折れたら逝くことを知っているのだから、もうちょい優しく我をかまえよ。思わず心が折れたら、どうするつもりなのだ。逝くぞ? お主の目の前で、逝ってしまうぞ? いいのか、うん?」
  
「メンヘラ缶みたいな脅し方だな、それ。逝ったところで、次の空き缶に転生するだけだろうに」
  
「まぁ、良い。確認したい事とはだな、イチカがストックしているその空き缶に、我は転生するから、ボディを鍛えてもリセットされてしまう訳であるな?」
  
 机の角に置いてある先程飲み干した空き缶を見ながら、カンはイチカに問いかける。

「そうだね。もう一つ言っておくと、空き缶のストックがなくなったら、転生出来ないからね」
  
「カァアン!? そうだったのか!?」
  
「当たり前だろ? 空き缶が手元にないのに、どうやって転生するんだよ。何を今更なことを聞いてくるんだ」
  
「と言うことは、今の我のボディのストックは……」

「これだけだね」

 ひょいと机の角に置いてあった空き缶をイチカは摘み、カンの前でひらひらと揺らしながら見せつけた。

「はようじゃんじゃん飲め! 我の身には、何が起きるか分からぬのだぞ!?」

 自分の予備の残機が、あと一機だと判明したことで、焦るカン。その様子を見て、呆れたように首を横に振るイチカ。
  
「これ全部微糖なんだぞ? 糖分摂り過ぎたら、どうするつもりだよ? 責任とれんの? あぁ?」
  
「ほどほどにストックの為に飲んでぇカァアアン……は!? 魔法の話をまた進められなかったカァアァアアアン!?」

「何がしたいのさ、本当に」

 今度は、本当に呆れるイチカであった。
 
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。

【完結】487222760年間女神様に仕えてきた俺は、そろそろ普通の異世界転生をしてもいいと思う

こすもすさんど(元:ムメイザクラ)
ファンタジー
 異世界転生の女神様に四億年近くも仕えてきた、名も無きオリ主。  億千の異世界転生を繰り返してきた彼は、女神様に"休暇"と称して『普通の異世界転生がしたい』とお願いする。  彼の願いを聞き入れた女神様は、彼を無難な異世界へと送り出す。  四億年の経験知識と共に異世界へ降り立ったオリ主――『アヤト』は、自由気ままな転生者生活を満喫しようとするのだが、そんなぶっ壊れチートを持ったなろう系オリ主が平穏無事な"普通の異世界転生"など出来るはずもなく……?  道行く美少女ヒロイン達をスパルタ特訓で徹底的に鍛え上げ、邪魔する奴はただのパンチで滅殺抹殺一撃必殺、それも全ては"普通の異世界転生"をするために!  気が付けばヒロインが増え、気が付けば厄介事に巻き込まれる、テメーの頭はハッピーセットな、なろう系最強チーレム無双オリ主の明日はどっちだ!?    ※小説家になろう、エブリスタ、ノベルアップ+にも掲載しております。

白いもふもふ好きの僕が転生したらフェンリルになっていた!!

ろき
ファンタジー
ブラック企業で消耗する社畜・白瀬陸空(しらせりくう)の唯一の癒し。それは「白いもふもふ」だった。 ある日、白い子犬を助けて命を落とした彼は、異世界で目を覚ます。 ふと水面を覗き込むと、そこに映っていたのは―― 伝説の神獣【フェンリル】になった自分自身!? 「どうせ転生するなら、テイマーになって、もふもふパラダイスを作りたかった!」 「なんで俺自身がもふもふの神獣になってるんだよ!」 理想と真逆の姿に絶望する陸空。 だが、彼には規格外の魔力と、前世の異常なまでの「もふもふへの執着」が変化した、とある謎のスキルが備わっていた。 これは、最強の神獣になってしまった男が、ただひたすらに「もふもふ」を愛でようとした結果、周囲の人間(とくにエルフ)に崇拝され、勘違いが勘違いを呼んで国を動かしてしまう、予測不能な異世界もふもふライフ!

『異世界ガチャでユニークスキル全部乗せ!? ポンコツ神と俺の無自覚最強スローライフ』

チャチャ
ファンタジー
> 仕事帰りにファンタジー小説を買った帰り道、不運にも事故死した38歳の男。 気がつくと、目の前には“ポンコツ”と噂される神様がいた——。 「君、うっかり死んじゃったから、異世界に転生させてあげるよ♪」 「スキル? ステータス? もちろんガチャで決めるから!」 最初はブチギレ寸前だったが、引いたスキルはなんと全部ユニーク! 本人は気づいていないが、【超幸運】の持ち主だった! 「冒険? 魔王? いや、俺は村でのんびり暮らしたいんだけど……」 そんな願いとは裏腹に、次々とトラブルに巻き込まれ、無自覚に“最強伝説”を打ち立てていく! 神様のミスで始まった異世界生活。目指すはスローライフ、されど周囲は大騒ぎ! ◆ガチャ転生×最強×スローライフ! 無自覚チートな元おっさんが、今日も異世界でのんびり無双中!

異世界転生~チート魔法でスローライフ

玲央
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。 43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。 その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」 大型連休を利用して、 穴場スポットへやってきた! テントを建て、BBQコンロに テーブル等用意して……。 近くの川まで散歩しに来たら、 何やら動物か?の気配が…… 木の影からこっそり覗くとそこには…… キラキラと光注ぐように発光した 「え!オオカミ!」 3メートルはありそうな巨大なオオカミが!! 急いでテントまで戻ってくると 「え!ここどこだ??」 都会の生活に疲れた主人公が、 異世界へ転生して 冒険者になって 魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。 恋愛は多分ありません。 基本スローライフを目指してます(笑) ※挿絵有りますが、自作です。 無断転載はしてません。 イラストは、あくまで私のイメージです ※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが 少し趣向を変えて、 若干ですが恋愛有りになります。 ※カクヨム、なろうでも公開しています

高校生の俺、異世界転移していきなり追放されるが、じつは最強魔法使い。可愛い看板娘がいる宿屋に拾われたのでもう戻りません

下昴しん
ファンタジー
高校生のタクトは部活帰りに突然異世界へ転移してしまう。 横柄な態度の王から、魔法使いはいらんわ、城から出ていけと言われ、いきなり無職になったタクト。 偶然会った宿屋の店長トロに仕事をもらい、看板娘のマロンと一緒に宿と食堂を手伝うことに。 すると突然、客の兵士が暴れだし宿はメチャクチャになる。 兵士に殴り飛ばされるトロとマロン。 この世界の魔法は、生活で利用する程度の威力しかなく、とても弱い。 しかし──タクトの魔法は人並み外れて、無法者も脳筋男もひれ伏すほど強かった。

スティールスキルが進化したら魔物の天敵になりました

東束末木
ファンタジー
第18回ファンタジー小説大賞 奨励賞、いただきました!! スティールスキル。 皆さん、どんなイメージを持ってますか? 使うのが敵であっても主人公であっても、あまりいい印象は持たれない……そんなスキル。 でもこの物語のスティールスキルはちょっと違います。 スティールスキルが一人の少年の人生を救い、やがて世界を変えてゆく。 楽しくも心温まるそんなスティールの物語をお楽しみください。 それでは「スティールスキルが進化したら魔物の天敵になりました」、開幕です。 2025/12/7 一話あたりの文字数が多くなってしまったため、第31話から1回2~3千文字となるよう分割掲載となっています。

【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます

腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった! 私が死ぬまでには完結させます。 追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。 追記2:ひとまず完結しました!

処理中です...