イセカン!?〜異世界の空き缶に転生した我だけれど、諦めずに魔王に成ってみせるカァアン!〜

イチ力ハチ力

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第37話 死亡フラグはベタが良い

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『あったかい淹れたてブラックコーヒーでホッと一息、心の休息が生活にはとても重要だね』
  
「我は息もつけぬほどの、ピンチなのだカァアアアアン!? こんな状況で、一息つけるお主の神経を疑うカァアアアアン!」

 聞こえた銃声はどんどんカンに近づき、最終的にはカンは何者か達の銃撃戦のど真ん中に立っている状況となっていた。
  
『カンが慌てふためく様子を、安全圏から眺めながら飲むコーヒーは、控えめに言って美味だね』
  
「この外道がぁ!? よく見えておるのだろう! マジであかん系の、笑いなしのピンチなんだが!? ヒュンヒュンと風切り音が耳元で聞こえるのが、恐ろしいカァアアアアン!?」

『いやいや、カンに耳なんてないじゃない。どこにあるのさ? 耳元って何処のことなのさ?』

「比喩も認められんのか! 我だって、どこの部分で音を聞いておるかなんて分からんわ! それよりもだ! 我に銃弾が当たって、穴が空いたらぁあどうするカァアアァン!?」

 既に泣き言を喚き散らすカンだったが、イチカは冷静に言葉を返す。
  
『空き缶に穴が開いたところで、別に〝空き〟缶なのだからどうでも良くない? あ、せっかく魔力を貯められる様になったのに、穴が空いてたら漏れちゃうね。残念だねぇ』
  
「そうなのカァアアアアアン!? いやいやいや、魔力が漏れる漏れないの以前に、ボディに銃弾で穴が開く時点で、ほぼ転生確定ではないか!」
  
 カンは、見事に銃撃戦の真っ只中に立っている状況であった。。

 頭上を無数の銃弾が行き交っており、そして跳弾した銃弾がカンの周りを跳ねまくっていた。

 最早、カンに当たりボディに穴が空くのも時間の問題だった。
  
「周りを、火花が踊るカァアァアン!? まるで狙われているかのようカァン!? まさか!?」

『いやいや、間違いなく路上の空き缶なんて、誰も気にしていないでしょ。自信過剰にも程があるね』

「そうであろうな! しかしそれが逆にフラグになりそうな……」
   
 カンが、そんな今の状況を情けなくガチガチ震えていると、遂にその時はやってきた。

 跳ねた銃弾が丁度缶の底に当たり、カンは大きく跳ねあげられてしまったのだ。
  
「カィイイン!?」

 カンは、空を翔けた。

 あたかも空き缶には、初めから飛ぶ為の羽があると言わんばかりに意思を持って、飛んでいるかの様だった。
  
「あだ!? なんてツイねぇんだよ! この状況で普通、空き缶が頭にあたるか!?」

 そして、狙いすましたかのように、見知らぬ男の頭部に直撃したのだった。
  
「これは申し訳ない! 不可抗力につき、許して欲しい!」
  
「おう、謝ってくれりゃ、俺も別に……は?」

 カンの謝罪に、男は固まる。
  
「底が凹んでおるぅうう」

 カンは跳弾した銃弾に被弾した際に、ボディの底の部分が凹んだことに、メンタルまでも凹ましていた。

 男はしゃがみ込むと、何度周りを見回しても目の前に転がっている空き缶から声が聞こえてくる事を確認すると、銃弾が飛び交う戦場だと言うのに、頭が混乱した。
  
「……空き缶が喋るだとぉおおお!?」
  
「よろしくの」
 
『ねぇねぇ、冬にさ、朝起きたら外が雪で白くなってたりした時に、カンの中に雪を詰めたらどうなるかなと考えてるんだけど、どうなると思う? カンは寒いのかな?』
  
「何て事を考えとるんだ! 我の中を、そんなもので一杯にしたら、中が壊れちゃったりしちゃうかもしれないだろうが! 新しき出会いの真っ只中で、お主は何を考えておるのだ!」
  
 カンが突然一人ツッコミをした為、目の前に立っていた銃を構えたスーツ姿の男は、カンから少し距離をとった。
  
「待て待て待ちたまえよ!? 我は、悪い空き缶じゃない!」

 定番の台詞を吐くカンだったが、全くウケることなく、男は眼光鋭くカンを睨みつけていた。
  
「おい、色々とツッコミ所が満載なんだが、今はそれどころじゃねぇ。簡潔に答えろ、お前は何だ?」
  
「簡潔に……か。よかろう。包み隠さず、全て我のボディの成分表示に、記載してあるわぁあ!」
  
「は? 成分表示?」
  
 男は周りを警戒しながらも、カンを手に取り、表記されている表示を読んだ。そして、思わず微笑んだ。
  
「なんだ、子供の玩具か。最近の玩具はよく出来てるんだな。そうだ、この仕事から帰ったら面白いものを見つけたと、お土産にユウヤにでもやるか」

 死が隣り合わせの戦場で、男の緊張が僅かに緩む。

 カンを子供用の玩具おもちゃであると判断した結果、家に待たせている自身の子供のことを思い出したのだった。
  
「確かに玩具と記載はあるが……ちなみにそのユウヤというのは、お主の子供か?」
  
「ん? AI内臓なんだろうが、本当に生きてるみたいだな。おう、ユウヤは俺の子供だ。先月に六歳になったばかりの男の子でかわいいぞぉ。この仕事が終わったら、久しぶりの休暇を貰える予定でな。あいつと遊ぶ約束をしてるんだよ」

 銃弾が飛び交う戦場に居るとは思えぬほどの、幸せそうな男の言葉と表情は、逆にカンを不安な気持ちにさせるのだった。
  
「完全にそれ、ベッタベタの死亡フラグぅううううカァアアァアアン!? そして、未だ状況把握出来ずぅうう!」

 新たな場所で、新しき出会いを果たしたカン。

 既にボディには銃弾による傷が付いているが、そのことを忘れるほどに、見事な死亡フラグを建てた男を前に、カンは全力で叫んでいたのだった。
 
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