イセカン!?〜異世界の空き缶に転生した我だけれど、諦めずに魔王に成ってみせるカァアン!〜

イチ力ハチ力

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第36話 一体何が起きると言うのか

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「缶コーヒーだけが、僕の回復薬だと思うないでね。レギュラーコーヒーもインスタントコーヒーも好きで、毎日飲んでるしさ」
  
「缶コーヒーを箱で買うのだ。我のストックが、減るではないか」

 缶コーヒーを飲み干し、イチカは二杯目のコーヒーを既に飲んでいたが、それはカップに淹れたインスタントコーヒーであった。
  
「確かに、これからどんどんストック減りそうだものね。缶コーヒーを箱買いするのは、悪くないかな」
  
「ん? どういうことだ?」
  
「だって、魔力を得たでしょ。あとは戦って、勝たないと。RPGの定番は、モンスターを倒してレベルアップじゃないか」

 さも当然とイチカはカンに告げるが、カンの脳裏にはゴブリンに握り潰され、スライムにすら雑魚扱いを受けた記憶が蘇る。そして、小刻みにボディを震わす。
  
「……確かに魔力を得たが、この〝風龍の戯れ(Lv.1)〟の扱い方が分からぬぞ? 先ずは、それからではないか?」

 すぐさまモンスターのいる場所へと転移させられてはかなわんと、カンは現状把握に焦点を当てて会話を続けようとした。
  
「そんな、お戯れを♪」
  
「やかましいわ」
  
「風龍が戯れるくらいの風を、カンが操れるってことじゃないの? 知らんけど、取り敢えず一度使ってみれば良いじゃない。自分の力なのだから!」
  
「急に熱くテンション上げられても、こちらの対応が困るからやめよ。しかし、ふむ……確かに使用してみないことには、何も分からぬし、始まらぬか。一度使ってみるしか、ないようだな」

 イチカのテンションの上げ方に、若干引きながらも、カンは〝一度使ってみる〟という提案に納得した様だった。
  
「……ちょっと離れるから、少し待ってて」

 カンが〝風龍の戯れ(Lv.1)〟を使用することを決断した様子を見たイチカが、徐に椅子から立ち上がると、カンが立っている書斎の机から出来うる限りの距離を取る様に、反対側の壁にもたれかかる様にして佇んだ。
  
「……離れすぎではないか? お主、何か知っておるのか?」
  
「……気にしなくて良いよ。さぁ! どうぞぉおおおお!」
  
「そんな大声で、叫ばなくても聞こえるわ。そしてそのあからさまに身構えている姿は、とても不安にさせるのだが……まぁ、よい。さて! 何はともあれ、使ってみるか!」

 イチカの様子に一抹の不安を感じながらも、カンは技能スキルを使ってみることにした。

 技能スキルを使用することを、凄く凄く楽しみに本人がしているので、止められる筈が無かったのである。

カァアアアアン行くぞぉおおお! 我が力に応えよ必要の無い詠唱! 〝風龍の戯れ(Lv.1)〟!」
  
 "カンは、【風龍の戯れ(Lv.1)】を唱えた!"
 "カンは、魔力を5消費した!"
 "カンは、魔法制御に失敗した! 魔法の暴走が起きた!"

 世界の声は、確かにカンが〝風龍の戯れ(Lv.1)〟の発動を認めたが、それと同時に〝魔法の暴走〟をも検知した。

「魔法の暴走……カァアン?」

「不味い!? やっぱり・・・・そうなったか!」

 イチカの書斎に、突如として突風が吹き荒れ始めた。

 カンは、その様子に唖然としたが、イチカはまるで事態を予想していたかの様に、すぐさま棚を押さえていた。

 そして一際激しい風が巻き起こると、部屋にある物を巻き上げた。
  
「突風に我が攫われるカァアァアアアン!?」

 案の定、カンはその突風に攫われ、窓から外へと吹き飛ばされてしまった。
  
  
 「何となくこんな事になるような気がしてたカァアアアアアン!?」

 カンは、自分で起こした突風で空の彼方に飛ばされてしまい、既にイチカの書斎など何処にも見えぬ程に、空に舞い上がっていた。
  
『まるで、何処かの童話のようだね。カンは、心を探すブリキの空き缶でもなるつもりかい?』
  
「そこは主人公役ではないのカァアアァン!?」

『どうして空き缶に、物語の主役が務まる? 思い上がるのも大概にしなよ』

「貴様の物言いも、大概にせよ。いつ、メンタルにダメージが入ってもおかしくないぞ」
  
 お約束のイチカの辛辣な言葉に、心が冷めて冷静になったカンは、もう自身を運ぶ風に身も心も任せきっていた。最早、慣れたものである。

『おや? 風が弱まって来たみたいだけど、一体どこまで飛んで行ったんだい』
  
「我も、それを知りたいのだが……きっと、碌でもない所なのだろうよ。そして、どうせこのまま風が止んで、地上に激突した後に、イチカの書斎に戻るのであろう?」

『スレてるねぇ。でも今回は、そんな事はなさそうだよ。暴走したと言っても、やっぱりカンが発動した技能スキルだったから、術者の身を守ったようだね』

「ふんわり着地だとぉおお!?」

 ややすれた様子のカンに対し、イチカが告げたように、風はカンを傷つける事なく何処かの路地裏へと着地させた。そのことに、相当に予想外だったカンは、素直に感動し驚いた。

 しかし、その感動も次の瞬間に吹き飛んだ。何故なら、路地裏に銃音が響き渡ったからだ。
  
「なんだ!? この音は銃声なのカァアン!?」
  
 自ら起こした風で、遠くの地へと吹き飛ばされてしまったカン。

 何やら不穏な状況に巻き込まれそうな気配しかしないが、果たしてカンの身に一体何が起きるというのか。

「カァアアアアン……」

 毎度のことになりつつあるトラブルへの巻き込まれだが、今回もまた慣れることなくボディをカタカタと震わせるカンであった。
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