イセカン!?〜異世界の空き缶に転生した我だけれど、諦めずに魔王に成ってみせるカァアン!〜

イチ力ハチ力

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第55話 あの伝説の!?

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『珈琲を優雅に楽しみながら、明日の天気を気にしているんだけど、明日は雨かな?』
  
「知らんがな。それに我の事も、少しは気にせよ。どうせ書斎に引きこもっておって、外に出ぬのであろう。天気なんて気にしたところで、意味はないぞ」
  
『……カンなんて、どうなっても良いから、寝ようかな……』
  
「図星をつかれたからといって、いきなりふて寝しようとするでないわ。我はいきなり、学園長の所へ行くのだぞ? 心配せよ」
  
『潰れたらいいのに』

「返しが雑な上に、鬼か!? 転生できぬハードモードにした癖に! した癖に!」
  
『とても面倒くさい空き缶は、さっさと心優しいカインと共に女性教諭に連れられて、学園長室へと向かって移動していきなよ』
  
「ちょくちょく、毒を吐くでないわ」
  
「え? カンは毒を吐ける能力を持ってるの?」

 何故か、毒に食い付くカイン。
  
「いや、毒をむしろ吐かれることの方が日常で……おい、穢れているかのように、つまんで持つでないわ。別に毒を吐かれて、喜んでいる訳ではない」
  
『毒が大好きな新種の空き缶であるカンは、完全に二人にドン引きされながらも、またその引かれる様子に悶えるんだね。ないわぁ、マジないわぁ』
  
「引きこもり発言を根に持ってるのカァアン!? 語弊のある言い方をやめるカァアアン!?」
  
「アーキ君、学園長室に着きましたよ。その変態缶を、少し黙らせなさい」
  
「はい! すみません、ティーナ先生。ねぇ! フリとかじゃなくて、本気のお願いなんだけど、変態は我慢してね? 押すな押すなってやつじゃないからね? 念を押したからって、やってって意味じゃ絶対にないからね?」
  
「我はそんな性質は、持っておらぬカァアアン!?」
  
 そして、ティーナ教諭がドアをノックすると、中から男性の声で入るようにとの声が聞こえて来た。

 そして二人と一本は、学園長室へと入って行ったのだった。
  
「おや? この術式の気配は……イチカ君かの?」

 校長室の机に座る老人は、カンが入室したと同時に、そう呟いた。
  
「校長の口から、イチカの名前が!?」
  
 突然、異世界の魔法学園の校長が呟いた〝イチカ〟の名に、カンは驚くしかなかった。

『カンばかりずるいぞ! 楽しそうに異世界満喫しやがって!』
  
「唐突に何なのだ! こっちは、お主の名前が校長から聞かされて、驚いているというのに」
  
『暇つぶしに話に参加してみたくてさ。という事で、少しだけ登場して満足』
  
「名前がちょろっとで、良かったのか……案外、控えめな性格なのだな」

 イチカがカンの異世界生活に、名前だけの存在ではあるが絡んだことを満足していたが、カンはイチカの割には、然程目立たない感じに絡んできたなと感じていた。
  
 そして学園長は、机の上に置かれたカンが通常運転で一人ツッコミをしていても、全く気にする様子がなかった。
  
「ふむ、今もイチカ君と会話が出来ているという事かの。それにしても、また変わったモノを創ったのぅ」
  
「ほほう、お主、我の正体を見破るとは……できるな、ご老人」
  
「ふぉっふぉっふぉ、伊達に長生きしておらぬよ」 

 学園長とカンが、不敵に笑い合っていると、今まで黙って様子を伺っていたティーナ教諭が、一歩踏み出し前に出た。
  
「学園長、コレは一体何者なのでしょうか? 人の言葉を話すなど、高位の竜や伯爵級の魔族並みの化け物でなければ、聞いた事がありません」
  
「ふぉおお!? そんな強き者たちと、我は同列なのか!」
  
『喋る空き缶であるカンは、全くそのような高位の生物ではないから、安心しなよ。何処までいったって、空き缶は空き缶だよ』
  
「そこまで、しっかり否定しなくても、良いではないか」
  
「ふむ、この空き缶はおそらく〝喋る〟が元々持っておった能力故に、言葉を話せるだけであろう。それを証拠に、魔力も召喚獣の中でも、断トツ最下位じゃろうて。まぁ、なんじゃ、〝喋る空き缶〟以上でも以下でもない存在じゃろう」
  
「オブラートに包む事を、覚えてカァアァン」
  
「……学園長先生……僕はそんな最下級の召喚缶、もとい唯の喋る空き缶で、この学園生活を生き延びれるでしょうか……」
  
「カイン……お主も、さらっと我を落とすのぉ」
  
 カインは、一緒に頑張ろうと思っていた気持ちが、学園長の言葉により小さく萎んでいってしまっていた。
  
「ふむ……仮にもイチカ君の関係缶だからのぉ……育てればもしかしたら、もしかするかも知れん」
  
「学園長、そのイチカ君と言うのは、まさか伝説の?」

 ティーナ教諭が〝イチカ〟という名に、若干興奮と期待が籠った表情になりながら、学園長に尋ねた。
  
「伝説? ん? どういう事カァン?」
  
「そうじゃ、あの伝説のじゃ」
  
「なんですって!? あの伝説の!?」

 学園長の答えに、今度は我慢する事なく興奮した様子でティーナ教諭は反応していた。

 その姿は、先ほどまでの厳格な教師という雰囲気はなく、溢れんばかりの笑顔で、もしここに年頃の男が居たら、きっとイチコロだろう。
  
「そう、あの伝説のじゃ! じゃから、カイン君じゃったな。なんら心配することはない。この喋る空き缶は、きっと何とかなるじゃろうて」
  
「だから伝説の何なのだ?」
  
「は……はい! わかりました! この空き缶に、僕の人生を賭けてみます!」

 頬を赤く染めながら、カインは元気よく返事をした。
  
「訳が分からぬ内に話がまとまった上に、想定外に重い発言が飛び出したカァアアアアン!?」
 
 全く話の流れについていけないまま、カンは一人の少年の人生を、その空き缶に背負うことになったのだった。

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