イセカン！？〜異世界の空き缶に転生した我だけれど、諦めずに魔王に成ってみせるカァアン！〜

第64話 その咆哮は

『一人一人に物語があり、漫画や小説の脇役にだって当然それはあるんだよ。だからこそ、カンにしか紡げない物語はあるってことさ。そこんとこ、しっかり理解してるかい？』
　 
「暗にお前は脇役って念を推してくるでないわ！　そして我って、脇役枠だったのカァアアアン！？」

『え？』

「え？」
　 
『主役は、当然カイン君でしょ。前髪上げれば、実は超絶イケメンだし。しかも、性格はショタ系の可愛らしさ。これ、無双でしょ』
　 
「くっ、バレておったか。奴の主人公特性とも言える力を。しかし、イチカがネットに晒しているのは、我の活躍なのであろう？」

『え？』

「え？」
　 
『活躍……？　それより、まだフェアリーと戦っているってのに、随分余裕だね』
　 
「その疑問系が引っかかるのだが……戦闘時の今は、こちらの時間をイチカが停止しているであろう？」
　 
『え？』
　 
「え？　あばばばばばっばばばばばば！？　二撃目の電撃がぁあああ！？」
　 
　こうして、再びカンはライティからの電撃を、無防備で全身に浴びてしまったのだった。

　そして、当然の如く転生するために、消えていったのだった。


　 
「おぉ、カンよ情けない。レベルが11になってしまったぞ」
　 
「時間を止めたり止めなかったり、色々するんじゃないカァアアン！？」

　最近は、時間が停止した状態で色々していたこともあって、完全に今回もそうだと勘違いしたカンは、普通にライティの二撃目の雷撃で転生してしまった。
　 
「勝手に油断したカンが悪いんだろうが。責任転換するんじゃないよ、この駄缶が！」
　 
「確かに油断と言われればその通りなのだが、度々おぬしは我に罵声を浴びせなければ死ぬ病にでもかかってるのか？」
　 
「カイン君、可哀想に。立て続けにカンが何も出来ずに戦闘不能で帰還してしまったから、完全にクラスで益々浮いちゃったよ。あぁあぁ、カァンのせいだカァンのせいぃい」
　 
「面目ないカァアアアン！？」
　 
「彼はもしかしたら、彼の世界における救世主になり得る力を持った子だというのに、この空き缶は全く」
　 
「救世主？　一体あの世界に、何か起きるというのか？」

　主人公の条件を揃えるカインが、救世主になる可能性に対して、何ら疑問を持たないカンであったが、〝救世主になる〟という状況が発生するという言葉には反応していた。
　 
「あえて、カンを無視しよう。しかし、今の彼は一人だ」
　 
「わざわざ無視をするということを、口に出す必要はないわ。そして、当たり前だが無視をするでない」
　 
「カイン君はカンの御主人様だろ。ちゃんと助けてあげなよ」
　 
「……相棒じゃなかったカァアン！？」
　 
「ほら、行ってこい。強制転移っと。ポチッとな」

　イチカがノートパソコンのキーボードに何かを打ち込み、最後にエンターキーを勢いよくと叩くと、カンの底材の下に魔法陣が浮かび上がった。
　 
「魔法の雰囲気すら省略するなカァアアアン！？」

　カンは、再びカインのいる世界へと送り出されるので合った。
　 
「お互い対等になれるかどうかは、これからの接し方だろうさ」

　そしてイチカの呟きだけが、書斎に残るのであった。
　 

　 
「くっ、イチカめ適当な感じに転移なぞしよって」
　 
「あれ？　カン、僕召喚してないのに、何でいるの？」
　 
「反応が若干傷付くが……カイン、我と話をしようではないか」
　 
　カインは、一人で夕方の校舎の屋上へと来ていた。そこに突然カンが現れたので驚いたが、カンが真剣な声で話しかけてきたので、一先ずカンと向かい合った。
　 
「カインよ、今日は腑甲斐ない姿を晒してしまい、申し訳なかった」
　 
「ううん、僕がもっと魔法でカンをサポート出来れば良かっただけだよ。気にしないで」
　 
「気にしないで……か。では、お主も気にするでない」
　 
「僕だって、別に気にしていないさ」
　 
「ならば、何故泣いておったのだ」

　カインはカンが現れた瞬間、腕で目元を拭っていた。それを、カンは目ざとく気が付いていた。
　 
「……ドライアイなんだよ」
　 
「そうか、我と一緒だな」
　 
『空気を読まず、敢えて言おう。空き缶に目はない』
　 
「何の為に敢えて言ったカァン？」
　 
「ねぇ、カンは独り言が趣味なの？」
　 
「そうではないぃい」
　 
「そっか、なら誰かと話をしているの？」
　 
「まぁの。我が普段いる世界から、我にちょっかいをかけてくるのだ」
　 
「仲が良いんだね」
　 
『相思相愛といって過言じゃないね』
　 
「過言である」

　カインはカンから目を話すと、屋上の手摺りにもたれかかり、天を仰ぎ見た。　 

「僕はさ、両親が十歳の時に失踪してから、この六年間はおばあちゃん以外には誰も友達とかいなくてさ。僕ら召喚士を目指す者は、十六歳でこの魔法学校に入らないといけないんだけど……きっとまた一人だろうな」
　 
「ニヤンコと、早速部屋で打ち解けていたではないか」
　 
「ふふ、ここは誰もが強い召喚士を目指して競い合う所だよ。すぐに魔法を一つも使えない能無しなんて分かれば、空気と変わるさ……魔力が沢山あったって使えなきゃ、全くの意味がないよね……」
　 
「大分捻くれておるのぉ」
　 
「ふふ、自覚してるさ」
　 
「魔力は多いのか。であれば、我にその魔力を送り込めば良いであろう」
　 
「駄目なんだよ。下手に多すぎて、使用する時の魔力量が調節出来ないんだ。きっと送った瞬間、カンの魔力が暴走しちゃうよ」
　 
「ふむ、我の出力がカインの供給に合えば、良いのであるのだな
　 
「それはそうだけど……空き缶に何が出来るの？　さっき空中に浮いたのは、ちょっと凄かったけど」

　そう問いかけるカインの瞳には、光と呼べるものは浮かび上がることはなかった。
　 
「空き缶に何が出来る……か。ものは試しに、我にカインの魔力を供給してみよ」
　 
「だって、そんなの事したら弾けて爆散するよ？」
　 
「魔力暴走って、やっぱり結構エグいのだな……だが心配するな！　カインカモン！」
　 
「一回だけだよ？」
　 
『流石、M体質だね。〝弾けて爆散する〟という言葉に、そこまでテンション上げなくても……正直、ひくわぁ』
　 
「違うわ！？」
　 
「え！？　違うの！？　もう供給しちゃったよ！」
　 
「いや、こちらの話カァン！　これで良いのだぁあああ！」
　 
　そして、カンにカインの膨大な魔力が一気に供給された。そしてカンのボディが光り輝くと、まばゆい閃光を放ちながら爆発したのだった。
　 
「ほらね……この魔力に釣られ強い召喚獣が来てくれることが、最後の希望だったんだけど……」

　再び瞳から溢れる涙は、カインの絶望を決定づけるものとなる筈だった。
　 
「グルカァアアアアン！」
　 
「え？」

　空に轟く、その咆哮を聞くまでは。