イセカン!?〜異世界の空き缶に転生した我だけれど、諦めずに魔王に成ってみせるカァアン!〜

イチ力ハチ力

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第70話 想定外といえば想定外

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『巨大な敵に立ち向かう時、一番の武器は何なのだろうね。それはもしかしたら、〝絶対に勝つ〟という信念なのかもしれない』

 カンを力強く掴み、恐れを振り払うかのように全力で走るカインの様子を、書斎から眺めるイチカは、目を細めがら呟いた。
  
「ちょっ、気合が、入りすぎて、握力が、コフ!?」

 カンは、ボディが潰されそうで焦っていた。

そんなことには構わずに、カインは走った。魔族に対して、学園教諭達と上級生達が戦う校庭へ向かって。
  
「クハハハ! 虫けら共が、まだ抵抗するのか? さっさと、勇者の子供を差し出した方が身の為だと思うが?」
  
「黙れ外道共が! そもそも勇者とはなんじゃ、聞いた事もない。儂の学園には、その様な者はおらぬ!」
  
「ククク、白々しいが良かろう。少々面倒だが、全員始末した後にでも魂を調べれば良かろう。では、全員燃え尽きろ!」  

 魔族と先頭きって対峙する学園長に向かって、無慈悲の一撃が放たれる直前、それを止めようとする者がいた。
  
「ちょっと、待ったぁあああ!」
  
 魔族が振り上げた手を振り下ろそうとした時、それを遮る様に大声を出しながら、カインは学園達の前に飛び出したのだった。
  
「お主は……何故、出てきたのじゃ!」
  
「その様子だと、学園長先生、知っていらしたのですね。僕の素性のことを」
  
「……当たり前じゃ、お主の両親は儂の弟子じゃったからの」
  
「驚愕の事実だが、ボディがぁあぁ!? 盛り上がりが合わせて、カインの握力があがががが!?」

 カインの情けない悲鳴は、今もこの場に聞こえる戦場音によってかき消される。
  
「そうだったのですね……僕はもう決意しました。だから、ここに来たんです!」
  
「そうか……」

 学園長は、カインの瞳に宿る焔にかつての彼の両親を視た。そして、死地であるにも関わらず、思わず微笑んでいたのだった。
  
「クハハハ! 本当に出てきおったな!」
  
「さぁ、僕は此処に出てきたぞ! 空にあるアレを消せ!」
  
 カインは、空に浮かぶ紅蓮に燃え盛る巨大な岩石を指差しながら、魔族に向かって言い放った。
  
「クハハハ、こちらの情報では、勇者は一人では無いのだよ。全員が此処に現れない限り、当然アレは消すことはせぬよ!」
  
「何だって!?」
  
「実は、その残りが我と言う可能性もあると言うことカァアアァン!? 本缶さえ知らぬ過去……その出生の秘密が、今まさに敵の口から明かされる展開がクルゥウ!?」
  
『カンは、生意気にも自分かも知れないと大声を上げてるけど、ただ五月蝿いだけなんだけど。出生の秘密もクソも、良くて村人Cに転生する筈だった魂が、飲み終わった空き缶に転生しただけだよ? そこに、主人公特性が隠れているとかないから。その場のノリで、そんな発言をしたのだとしたら、空気読めないどころか、カイン君達に失礼極まりないね』
  
「長台詞で全否定及び説教とか、普通にメンタルにダメージが入るからやめるカァン。良いでは無いか、お決まりのリアクションぐらい」

 ガチの注意を受けて、カンは若干やさぐれる。
  
「……今の声は、その空き缶か?」
  
「そうだが? そうだが!? 貴様、我の言葉を認識したのだな!? 無視しても良いところを、あえて我に話しかけのだな!?」

「カン……面倒な感じになってるよ?」

『必死すぎて、キモいわぁ』

「やかましいカァアン! 我に話しかけているのは、あの魔族なのだ! さぁ! 何ようなのだ!」

 期待する空き缶。
  
「空き缶が喋るだとぉおおお!?」
  
「驚いちゃったカァアアァン!?」

 単に空き缶が喋っていることに、魔族は驚いたのだった。
  
「空き缶ぐらい喋るだろ! 魔族の癖に、何ということだ!」

『空き缶が喋りかけてきたら、一種のホラーだけれどもね。ぶふ……魔族にさえ驚かれひゃひゃひゃひゃ!』
  
「笑いすぎカァン! おぬしの笑いのツボは、どうなっておるのだ!」
  
 魔族は突然喋り出した空き缶が、今度は大声で一人ツッコミを入れたのを見て引いていた。
  
「おいコラ魔族。何、我と精神的な距離を置こうとしておるのだ。魔族が情けないぞ! 引くな!」
  
 カンは魔族に対して文句を言っていたが、実は味方の学園側でも、決して少なくない人数が引いていた。
  
「味方側もカァン!? 我、敵じゃない! 良い空き缶カァァアン!?」 
  
「ク……クハハハ! 良く良く見てみれば、魔力も殆ど感じぬ様な、ただの喋る空き缶ではないか! とんだ変態に、驚いてしまったわ! この代償は、潰れて償え!」  
  
「酷い言いがかりカァアン!?」
  
「カン、落ち着いて。カンは喋るMな変態空き缶だけど、僕の大事な召喚獣だから、ね? だから変なこと、これ以上言わないように黙っておいて?」
  
「カインの方も、大概が酷いこと言っておるがな」
  
「クハハハ! とにかく、既に時間だ! 一人だけなら、このまま全滅だが良いのか?」

「く……どうすれば」

 カインが強く拳を握りしめ、どうするか考えていた時、新たな声が響く。
  
「待てぇええ!」
「待ってぇええ!」
「待つのよ!」
  
「……は? ん? 三人カァン?」
  
魔族が再び手を振りかざした瞬間、大声を上げながらカインに駆け寄る者達がいたのだ。
  
「ゴイラ、ニャンコ……それに、ティーナ先生!?」
  
「まさか、お主達全員が……勇者の子供だというつもりカァアン?」
  
「そうだ」
「そうだよ!」
「そうです」
  
「えぇええええ!?」
「カァアァアアアァアン!?」

 カインとカンの驚きが、これまでで一番に重なったのであった。
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