イセカン!?〜異世界の空き缶に転生した我だけれど、諦めずに魔王に成ってみせるカァアン!〜

イチ力ハチ力

文字の大きさ
71 / 99

第71話 魔族の階級って案外ノリで決めてそう

しおりを挟む
『一人じゃ無いよ。君は、一人じゃないんだ。合わせて四人なんだよ』
  
「他に、三人もいたカァアァアアン!?」
  
 カンは驚きの声を上げ、カインは事態が飲み込めずに絶句していた。それもその筈でカインは、勇者はこの学園に自分一人だけだと思っていただけでなく、現れたメンバーも彼にとっては予想外だったのだ。
  
「三人とも……なの?」
  
「敵を前にボケっとするな! 詳しい話は後だ!」
「そうだよ! ボクも驚いてるんだけど、その前にやる事があるからね!」
「全員、召喚獣を前に!」
  
 ティーナ教諭の指示で、全員の召喚獣を前に配置し、魔族と相対した形となった。その中でもカンは勇敢にも、一缶だけ前に出ているのだった。  
  
「何故、我の後ろで整列なのカァアアァン!?」
  
「くくく、やっと出てきたか。これで、魂を探す手間が省けたな! 全員、燃え尽きろぉおお!」
  
「約束が違うカァアアァアン!? 我、先頭なのカァアァアン!?」
  
 魔族は初めから、この学園全ての者を殲滅するつもりだったのだ。そして、勇者の子供達の魂を回収するつもりだった。

 学園の者を餌に釣られて名乗り出れば、手間が省ける程度の考えだった為、当然のものとして紅蓮に燃え盛る巨大な岩石を、約束など守らず落とそうとしたのだった。
  
「学園長! 生徒達と先生方の避難を! 私が時間を稼ぎます!」
  
「ティーナ先生……その目に、もう迷いは見えぬ。他の者は、儂が命に代えても逃す。それまで、頼んだのじゃ!」
  
「えぇ、学園長……必ず私達も追いつきます。ご武運を」

 学園長を振り返ることなく、真っ直ぐに魔族に視線を向けながらも、祈りを込めてティーナは言葉を贈った。
  
「それ絶対言っちゃ駄目な感じのフラグカァアアァアン!?」

 あからさまな死亡フラグを建てるティーナに、焦るカン。
  
「馬鹿め! 時間など稼がせるか! すぐさま潰れて焼かれろ!」

 当然、魔族も黙って見逃す筈もない。すぐさま腕を振り下ろし、燃える岩石を落としたのだった。

「あカァアァアアン!? 我、最初に潰れて焼かれるカァアアン!?」

 情けない悲鳴をあげるカン。そこへ、はらりと粉雪が舞い落ちる。

「ゆ……雪カァン? ぬぁ!? 絶世の美女雪女がいるカァアアン!?」

『空き缶の癖に、人型の召喚獣に興奮してるんじゃないよ、変態缶が節操なしか!』

「よけいなお世話カァン!」

 全身雪のような白い和装で身を固めた雪女が、冷たい目線を燃える岩石に向けて立っていた。
  
「コユキ!〝大雪男ユキダルマ〟よ!」
  
 "任せてだっちゃ!"
  
「雪女の召喚獣の語尾が、だっちゃだと!? だっちゃだとぉおカァアァアン!?」

『興奮しているところ悪いけど、他の人には、ヒュオォオオとしか聞こえてないからね?』
  
 ティーナの召喚獣である雪女の雪が、雪で作った巨大な〝大雪男ユキダルマを操り、燃え盛る巨大な岩石を受け止めていた。
  
「ゴレモイ!〝金剛力士〟!」
  
 "どすこいぃい! 力が湧いてくるでごっつあん!"
  
「ライティ!〝疾風迅雷〟!」
  
 "あっはぁあん! 早くなっちゃうわぁああん"
  
 ゴイラとニヤンの二人は、自身の召喚獣に身体強化魔法をかけ、魔族に向かって駆け出した。

 二人は、ティーナ教諭が岩石を止めている間に、元凶である魔族を討ち取りにかかったのだった。
  
「クハハハ! 舐められたものだな! 雑魚召喚獣共に、この魔族公爵がやられる訳がなかろぉおお!」
  
 "ごっつあぁあああん!?"
 "いやぁぁあああん!?"
  
「腕を一振りするだけで、二人が速攻で光の粒子になったカァアアァン!?」
  
 向かってきたゴレモイゴーレムライティピクシーを、魔族公爵と名乗った魔族は二人を一笑に伏し、一瞬にして返り討ちにした。
  
「え!? 我以外は、光の粒子になると精霊界に戻るだけで、別に死んでないよね!? 良くないけど、良かったね!? そして残った我らは、よろしくない状況カァアン!?」

『カン、慌てすぎ。もう少し冷静にしなきゃ。あ、雨降ってきたみたいだから、洗濯物とりこんでくるねぇ』
  
「こっちは、血の雨が降ってもおかしくないのだけれもカァアァン!?」
  
 学園長率いる教諭達は、魔族が放った魔物達と応戦しながらも、学園の外へと脱出を図ろうとしていた。

 そして、勇者の子供であり現場に残った唯一の教諭であるティーナは、空から降り注ごうとしている紅蓮に燃え盛る巨大な岩石を、召喚獣と共に止めていた。
  
「くっ……持ってもう数分ね……あとは学園長先生達に任せるしかないわね……ふふ、少しだったけど、先生出来て良かったな」 
  
 そして、魔族に立ち向かった勇者の子供であるゴイラとニヤンもまた、魔力を全て注ぎ込んだ召喚獣があっさりと倒されると、自身も魔力切れとなりその場に片膝をついていた。
  
「はは、流石に昨日今日に召喚術を覚えたくらいじゃ、歯も立たないか……」 
  
「ゴイラ君……あれ? ゴイラ君ってそんな落ち着いた感じだったっけ? 結構、ボクとかカイン君にきつくて、威張ってた感じだったけど」
  
「あれか……いずれ自分を狙ってこういう事が起きるかもと思っていたからな。なるべく俺の周りに、人が寄り付かないようにしてたのさ」
  
「なんだ! キャラ作ってたんだね! なら、僕と一緒だね!」
  
「そうなのか、実際は女装が趣味とかじゃないわけか」
  
「これは趣味じゃなくて、ガチ!」
  
「お……おう……」
  
 ゴイラとニヤンは、お互いの本当の姿を話すと微笑んだ。二人とも、既に覚悟を決めていたのだ。

 抗う事の出来ない宿命を背負った者たちは、絶望を受け入れようとしていた。

 空き缶と、その持ち主を除いては。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。

【完結】487222760年間女神様に仕えてきた俺は、そろそろ普通の異世界転生をしてもいいと思う

こすもすさんど(元:ムメイザクラ)
ファンタジー
 異世界転生の女神様に四億年近くも仕えてきた、名も無きオリ主。  億千の異世界転生を繰り返してきた彼は、女神様に"休暇"と称して『普通の異世界転生がしたい』とお願いする。  彼の願いを聞き入れた女神様は、彼を無難な異世界へと送り出す。  四億年の経験知識と共に異世界へ降り立ったオリ主――『アヤト』は、自由気ままな転生者生活を満喫しようとするのだが、そんなぶっ壊れチートを持ったなろう系オリ主が平穏無事な"普通の異世界転生"など出来るはずもなく……?  道行く美少女ヒロイン達をスパルタ特訓で徹底的に鍛え上げ、邪魔する奴はただのパンチで滅殺抹殺一撃必殺、それも全ては"普通の異世界転生"をするために!  気が付けばヒロインが増え、気が付けば厄介事に巻き込まれる、テメーの頭はハッピーセットな、なろう系最強チーレム無双オリ主の明日はどっちだ!?    ※小説家になろう、エブリスタ、ノベルアップ+にも掲載しております。

白いもふもふ好きの僕が転生したらフェンリルになっていた!!

ろき
ファンタジー
ブラック企業で消耗する社畜・白瀬陸空(しらせりくう)の唯一の癒し。それは「白いもふもふ」だった。 ある日、白い子犬を助けて命を落とした彼は、異世界で目を覚ます。 ふと水面を覗き込むと、そこに映っていたのは―― 伝説の神獣【フェンリル】になった自分自身!? 「どうせ転生するなら、テイマーになって、もふもふパラダイスを作りたかった!」 「なんで俺自身がもふもふの神獣になってるんだよ!」 理想と真逆の姿に絶望する陸空。 だが、彼には規格外の魔力と、前世の異常なまでの「もふもふへの執着」が変化した、とある謎のスキルが備わっていた。 これは、最強の神獣になってしまった男が、ただひたすらに「もふもふ」を愛でようとした結果、周囲の人間(とくにエルフ)に崇拝され、勘違いが勘違いを呼んで国を動かしてしまう、予測不能な異世界もふもふライフ!

『異世界ガチャでユニークスキル全部乗せ!? ポンコツ神と俺の無自覚最強スローライフ』

チャチャ
ファンタジー
> 仕事帰りにファンタジー小説を買った帰り道、不運にも事故死した38歳の男。 気がつくと、目の前には“ポンコツ”と噂される神様がいた——。 「君、うっかり死んじゃったから、異世界に転生させてあげるよ♪」 「スキル? ステータス? もちろんガチャで決めるから!」 最初はブチギレ寸前だったが、引いたスキルはなんと全部ユニーク! 本人は気づいていないが、【超幸運】の持ち主だった! 「冒険? 魔王? いや、俺は村でのんびり暮らしたいんだけど……」 そんな願いとは裏腹に、次々とトラブルに巻き込まれ、無自覚に“最強伝説”を打ち立てていく! 神様のミスで始まった異世界生活。目指すはスローライフ、されど周囲は大騒ぎ! ◆ガチャ転生×最強×スローライフ! 無自覚チートな元おっさんが、今日も異世界でのんびり無双中!

異世界転生~チート魔法でスローライフ

玲央
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。 43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。 その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」 大型連休を利用して、 穴場スポットへやってきた! テントを建て、BBQコンロに テーブル等用意して……。 近くの川まで散歩しに来たら、 何やら動物か?の気配が…… 木の影からこっそり覗くとそこには…… キラキラと光注ぐように発光した 「え!オオカミ!」 3メートルはありそうな巨大なオオカミが!! 急いでテントまで戻ってくると 「え!ここどこだ??」 都会の生活に疲れた主人公が、 異世界へ転生して 冒険者になって 魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。 恋愛は多分ありません。 基本スローライフを目指してます(笑) ※挿絵有りますが、自作です。 無断転載はしてません。 イラストは、あくまで私のイメージです ※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが 少し趣向を変えて、 若干ですが恋愛有りになります。 ※カクヨム、なろうでも公開しています

高校生の俺、異世界転移していきなり追放されるが、じつは最強魔法使い。可愛い看板娘がいる宿屋に拾われたのでもう戻りません

下昴しん
ファンタジー
高校生のタクトは部活帰りに突然異世界へ転移してしまう。 横柄な態度の王から、魔法使いはいらんわ、城から出ていけと言われ、いきなり無職になったタクト。 偶然会った宿屋の店長トロに仕事をもらい、看板娘のマロンと一緒に宿と食堂を手伝うことに。 すると突然、客の兵士が暴れだし宿はメチャクチャになる。 兵士に殴り飛ばされるトロとマロン。 この世界の魔法は、生活で利用する程度の威力しかなく、とても弱い。 しかし──タクトの魔法は人並み外れて、無法者も脳筋男もひれ伏すほど強かった。

スティールスキルが進化したら魔物の天敵になりました

東束末木
ファンタジー
第18回ファンタジー小説大賞 奨励賞、いただきました!! スティールスキル。 皆さん、どんなイメージを持ってますか? 使うのが敵であっても主人公であっても、あまりいい印象は持たれない……そんなスキル。 でもこの物語のスティールスキルはちょっと違います。 スティールスキルが一人の少年の人生を救い、やがて世界を変えてゆく。 楽しくも心温まるそんなスティールの物語をお楽しみください。 それでは「スティールスキルが進化したら魔物の天敵になりました」、開幕です。 2025/12/7 一話あたりの文字数が多くなってしまったため、第31話から1回2~3千文字となるよう分割掲載となっています。

【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます

腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった! 私が死ぬまでには完結させます。 追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。 追記2:ひとまず完結しました!

処理中です...