イセカン!?〜異世界の空き缶に転生した我だけれど、諦めずに魔王に成ってみせるカァアン!〜

イチ力ハチ力

文字の大きさ
79 / 99

第79話 MPは常に把握しなくちゃね

しおりを挟む
『普通に生活していて、本来起きるはずのない事が起きた場合、混乱が生じてしまうのは、仕方がないだろうね。ただでさえ、異世界に召喚されている状況なら、なおさらの事に』
  
「まぁ、普通の空き缶は、確かに喋らぬが」
  
 葉桜を筆頭に、大きなリアクションを取ったクラスの面々は、一様にカンに奇異な目線を向けていた。
  
「さっき思いっきり我が、ここの王や大臣とかと喋っておったではないカァン」
  
「さっき僕達は頭がぼうっとしていたし、いきなり王様が姫を斬ったりしてるのを見て、空き缶どころじゃなかったんだよ!」
  
「空き缶が喋ったくらいで、取り乱すではないカァン。情けないカァン」
  
「何だと! 空き缶が喋ったら、驚くに決まっているだろう!」 
  
「驚くは、別に良いのだ。しかし、取り乱すなと言っておるのカァン。これから先、空き缶が喋る以上の事が起きるのだぞ。そんな程度でいちいち驚いている様では、皆のリーダーとしての器があるのか、疑問を感じずにはおれんな。それに、かっちゃんは取り乱すことなく、我を友として受けれたぞ」

「な!? 空き缶と……友……だと?」

「やめろ。俺を、空き缶と友達になった痛い子みたいに見るな。特に蜜柑、主にお前のことだからな?」
  
 カンは、ここぞとばかりに自分の存在アピールする為に、調子に乗って葉桜を煽ってしまった。

 当然、その代償は大きいものとなる。
 
『あらら、煽るということは、どういう事か覚悟は出来ているかい?』
 
「ん? 何がカァン」
  
「この空き缶がぁああ!」
  
「カァアアアン!? 普通に蹴られたカァアアァン!? まるで缶蹴りの時のようで、かっちゃんと蜜柑との出会いが、フラッシュバックするカァアァン!」

 激昂した葉桜に、カンは力一杯に蹴られてしまった。
  
「ドMカン! 割と余裕ありそうな感じだが、大丈夫か!?」
「カンちゃん! それって、死ぬ間際に見る走馬灯じゃないかな!」
  
 部屋の隅の方へと転がっていったカンを追いかけ、かっちゃんと蜜柑が駆け出したが、辺りを見渡してもカンの姿は見つからなかった。
  
「おい! お前ら、空き缶をどこやった!」
  
「あぁ? しらねぇよ。誰か拾ったか?」
「しらねぇー」
「見てねぇー」

 にやにやと笑う学生服を着崩したグループが、かっちゃんの問いに適当に答えた。
  
「こいつら……」
  
「ほがほが!? 我はここがががカァン!?」
  
「今聞こえたよ! ねぇ! 喋る空き缶を渡してよ!」

 カンの声が聞こえたのは、かっちゃんと対峙している不良グループのリーダーからだった。
  
「しらねぇっつってんだろうが!」
  
「きゃ!?」
「蜜柑!?」
  
 クラスの五人組の不良グループのリーダーに、蜜柑が突き飛ばされ、かっちゃんが蜜柑を受け止めた。
  
「てめぇええ!」
  
「やんのかぁああ!」

 そして始まる乱闘騒ぎで、部屋は騒然となる。
  
「我も舐められたものだな。〝風龍の戯れ〟カァアアアン!」
  
 "カンは、不良の上着のポケットの中で【風龍の戯れ(Lv.3)】を発動した!"
 "しかし、MPが足りない!"
  
「……さっき玉座の間で使ってたからカァアァン!?」
  
 先程までの余裕さは、カンからは見る影もなく、情けない声を出していた。
  
「我をポケットに入れたまま、喧嘩しないでほしいカァアァン!?」

『喧嘩に巻き込まれると、大変危ないよねぇ。大体は、余程の覚悟がなければ、止めることさえも難しいものね』
  
「せめて殴り合いで、決着をしてほしいカァアァン!?」
  
 カンは、不良グループのリーダーの上着のポケットに入っていた為、取っ組み合いになる事で自分が潰れるのではないかと恐れていた。
  
「この野郎! 蜜柑に謝れや!」
「うるせぇよ!」

 カンの心配をよそに、かっちゃんと不良のリーダーはお互いの胸元を同時に掴んだ。
  
「案の定、取っ組み合いにぃいい!? くぷけふかふ!?」
  
 上着を着たままで取っ組み合いを始めた二人だったが、かっちゃんが頃合いを見て上着を投げ捨てると、つられるように不良のリーダーも上着を投げ捨てた。
  
「カァアアアン!? 何がどうなってきゃぷらぷかぁん!?」
 
「蜜柑!」
「わかってる!」
  
 不良グループのリーダーが上着を投げ捨てると、素早く蜜柑がそれを拾い上げ、ポケットからボコベコに潰れているカンを掴んだ。
  
「あ! てめえ!」

『かっちゃんは、あくまで冷静だったんだね。やるじゃない』
  
「まさか我を回収するために、ワザと喧嘩をしかけたカァン!? さすが、我が親愛なる魂の友カァアン!」

「なわけあるかぁああ! 表現が重すぎるわ!」

 かっちゃんは、首尾良くカンを回収したが、それにより更に頭に血が上り始める不良のリーダーが、喧嘩を再開しようとした時、部屋の空気が震えるほどの大声が部屋に響く。


「やめないか! 鬼崎君も阿木君も、今はそんな事をしている場合じゃないだろう!」
  
「葉桜……」
「チッ、わぁったよ」
  
「結局、我がボコボコなっただけだったカァン……というか、喧嘩の原因は元はと言えば、あの委員長の所為ではないカァン?」
  
 葉桜が、かっちゃん阿木と不良グループのリーダー鬼崎の喧嘩を止めた後、客間のメイドに改めて自分が代表者決まったと伝えた。それを受けてメイドの一人が部屋を退出すると、数分後に再び全員が王の間へと呼ばれたのだった。
  
「カンちゃん、大丈夫?」

 蜜柑が、カンのアルミボディの凹みを見ながら、声をかけた。
  
「これくらいは、慣れておるカァン……」
  
「おい、ドMカンの体力表示が、残り5になってるぞ? 本当に、大丈夫なのか?」
  
「案外瀕死であったカァアァン!?」
  
「しょうがねぇなぁ……蜜柑、ちょっと貸してみろ」
  
「どうするつもりなの?」

 蜜柑からカンを貰い受けると、かっちゃんは眉間に皺を寄せながら、小さく嘆息を吐いた。
  
「中二っぽくて嫌なんだが……〝復元〟!」
  
「〝復元〟だとカァアアアン!?」

 カンは、かっちゃんの手のひらの上で、淡い碧色の光に包まれるのであった。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。

【完結】487222760年間女神様に仕えてきた俺は、そろそろ普通の異世界転生をしてもいいと思う

こすもすさんど(元:ムメイザクラ)
ファンタジー
 異世界転生の女神様に四億年近くも仕えてきた、名も無きオリ主。  億千の異世界転生を繰り返してきた彼は、女神様に"休暇"と称して『普通の異世界転生がしたい』とお願いする。  彼の願いを聞き入れた女神様は、彼を無難な異世界へと送り出す。  四億年の経験知識と共に異世界へ降り立ったオリ主――『アヤト』は、自由気ままな転生者生活を満喫しようとするのだが、そんなぶっ壊れチートを持ったなろう系オリ主が平穏無事な"普通の異世界転生"など出来るはずもなく……?  道行く美少女ヒロイン達をスパルタ特訓で徹底的に鍛え上げ、邪魔する奴はただのパンチで滅殺抹殺一撃必殺、それも全ては"普通の異世界転生"をするために!  気が付けばヒロインが増え、気が付けば厄介事に巻き込まれる、テメーの頭はハッピーセットな、なろう系最強チーレム無双オリ主の明日はどっちだ!?    ※小説家になろう、エブリスタ、ノベルアップ+にも掲載しております。

白いもふもふ好きの僕が転生したらフェンリルになっていた!!

ろき
ファンタジー
ブラック企業で消耗する社畜・白瀬陸空(しらせりくう)の唯一の癒し。それは「白いもふもふ」だった。 ある日、白い子犬を助けて命を落とした彼は、異世界で目を覚ます。 ふと水面を覗き込むと、そこに映っていたのは―― 伝説の神獣【フェンリル】になった自分自身!? 「どうせ転生するなら、テイマーになって、もふもふパラダイスを作りたかった!」 「なんで俺自身がもふもふの神獣になってるんだよ!」 理想と真逆の姿に絶望する陸空。 だが、彼には規格外の魔力と、前世の異常なまでの「もふもふへの執着」が変化した、とある謎のスキルが備わっていた。 これは、最強の神獣になってしまった男が、ただひたすらに「もふもふ」を愛でようとした結果、周囲の人間(とくにエルフ)に崇拝され、勘違いが勘違いを呼んで国を動かしてしまう、予測不能な異世界もふもふライフ!

『異世界ガチャでユニークスキル全部乗せ!? ポンコツ神と俺の無自覚最強スローライフ』

チャチャ
ファンタジー
> 仕事帰りにファンタジー小説を買った帰り道、不運にも事故死した38歳の男。 気がつくと、目の前には“ポンコツ”と噂される神様がいた——。 「君、うっかり死んじゃったから、異世界に転生させてあげるよ♪」 「スキル? ステータス? もちろんガチャで決めるから!」 最初はブチギレ寸前だったが、引いたスキルはなんと全部ユニーク! 本人は気づいていないが、【超幸運】の持ち主だった! 「冒険? 魔王? いや、俺は村でのんびり暮らしたいんだけど……」 そんな願いとは裏腹に、次々とトラブルに巻き込まれ、無自覚に“最強伝説”を打ち立てていく! 神様のミスで始まった異世界生活。目指すはスローライフ、されど周囲は大騒ぎ! ◆ガチャ転生×最強×スローライフ! 無自覚チートな元おっさんが、今日も異世界でのんびり無双中!

異世界転生~チート魔法でスローライフ

玲央
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。 43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。 その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」 大型連休を利用して、 穴場スポットへやってきた! テントを建て、BBQコンロに テーブル等用意して……。 近くの川まで散歩しに来たら、 何やら動物か?の気配が…… 木の影からこっそり覗くとそこには…… キラキラと光注ぐように発光した 「え!オオカミ!」 3メートルはありそうな巨大なオオカミが!! 急いでテントまで戻ってくると 「え!ここどこだ??」 都会の生活に疲れた主人公が、 異世界へ転生して 冒険者になって 魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。 恋愛は多分ありません。 基本スローライフを目指してます(笑) ※挿絵有りますが、自作です。 無断転載はしてません。 イラストは、あくまで私のイメージです ※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが 少し趣向を変えて、 若干ですが恋愛有りになります。 ※カクヨム、なろうでも公開しています

高校生の俺、異世界転移していきなり追放されるが、じつは最強魔法使い。可愛い看板娘がいる宿屋に拾われたのでもう戻りません

下昴しん
ファンタジー
高校生のタクトは部活帰りに突然異世界へ転移してしまう。 横柄な態度の王から、魔法使いはいらんわ、城から出ていけと言われ、いきなり無職になったタクト。 偶然会った宿屋の店長トロに仕事をもらい、看板娘のマロンと一緒に宿と食堂を手伝うことに。 すると突然、客の兵士が暴れだし宿はメチャクチャになる。 兵士に殴り飛ばされるトロとマロン。 この世界の魔法は、生活で利用する程度の威力しかなく、とても弱い。 しかし──タクトの魔法は人並み外れて、無法者も脳筋男もひれ伏すほど強かった。

スティールスキルが進化したら魔物の天敵になりました

東束末木
ファンタジー
第18回ファンタジー小説大賞 奨励賞、いただきました!! スティールスキル。 皆さん、どんなイメージを持ってますか? 使うのが敵であっても主人公であっても、あまりいい印象は持たれない……そんなスキル。 でもこの物語のスティールスキルはちょっと違います。 スティールスキルが一人の少年の人生を救い、やがて世界を変えてゆく。 楽しくも心温まるそんなスティールの物語をお楽しみください。 それでは「スティールスキルが進化したら魔物の天敵になりました」、開幕です。 2025/12/7 一話あたりの文字数が多くなってしまったため、第31話から1回2~3千文字となるよう分割掲載となっています。

【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます

腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった! 私が死ぬまでには完結させます。 追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。 追記2:ひとまず完結しました!

処理中です...