99 / 99
第99話 世界の端っこで新たな物語は始まる
しおりを挟む
『ゾンビ映画の定番としては、生者に群がるゾンビの大群だけれども、実際はどんな感じかな?』
「それは、どう言う意味……ん? 何やら家の外が騒がしいカァン」
ゾンビのビンゾの家の外から、大勢の何かが集まっているような声が、小屋の中にまで聞こえくるのであった。
"ビンゾの家に、旅人がきたらしいンビ"
"めんこいおなごらしんンビ!"
"ほったら集落全員で、歓迎せないかンビ!"
"興奮してきたンビぃいい!"
「マスターカン! 完全に外を囲まれた様子です! 唸り声が物凄いです! 完全に狙われています!」
アミルは、青い顔をしながら額に汗を流していた。
「あ、うん。狙われていると言うかなんと言うカァン……」
アミルは、廃屋の外から聞こえるゾンビ達の唸り声を聞いて、絶体絶命の危機だと感じ、マスターカンに助けを求めるような視線を投げかけた。
「縋るような目を向けられても困るカァン。だがしかし、このままでは我も危ない。ビンゾよ、今この小屋を出たら、我々はどうなるカァン?」
"アルミちゃんは、大歓迎の上に興奮したみんなに噛まれまくってゾンビ化ンビ。空き缶は……喋らなければ、間違いなく無視ンビ"
「我も構ってくれカァン!?」
"空き缶のかまってちゃんとか、誰得ンビよ"
『間違いないね』
空き缶が、ゾンビに見向きもされずアミルにばかり注目される状況に嫉妬していると、更に外のゾンビ達は興奮していた。
そして、遂に廃屋の扉が破られテンションMAXのゾンビ達が入ってきたのだった。
「不味いカァアァン!?」
「マスターカン! キャァ!」
「アミルぅううカァアァン!?」
ゾンビ達は、空き缶には目もくれずアミルに向かって殺到しようとした。アミルの悲鳴に、カンは最悪を覚悟した時だった。
突然、カンのアルミボディ全身に悪寒が走ったのだった。
「この感覚は……ゾンビ達! 離れろぉおお! 【風龍の戯れ(Lv.3)】発動カァアァン!」
「「「ンビぃいい!?」」」
カンが発動させた【風龍の戯れ(Lv.3)】の魔風により、ゾンビ達は足を掬われ、次々と転倒した。
そしてゾンビ達が転倒したと同時に、廃屋の天井が完全に消え去った。
「カ……カァン!? 天井は、どこいったカァン!?」
「「「……ンビ!?」」」
空き缶とゾンビが、突然の出来事に固まっていると、更なる混乱が彼らを襲う。
「ククク……あははははははは! やっと目が覚めたぞぉおお!」
高笑いと共に、まるで竜の咆哮の様な大声が小屋を振動させた。
そして、その声の主はカンでもなく、ゾンビ達ではなかった。
「目が覚めたカァン? おぬしは、誰だ。アミルではないカァン」
先程の小屋を吹き飛ばしそうな声を張り上げたのは、先程までゾンビの大群に青い顔を見せていたアミルであった。
「なんだ? 我に偉そうな口を聞くのは、誰だ」
「ふっ、我の事が分からぬとは。やはりお主、見た目はアミルだが中身は違うカァアアアアン!?」
台詞を言い終える前に、カンは前触れなく小屋から空へと吹き飛ばされた。
『あ……カン、それは不味いなぁ。かつてこの世界を絶望一色に染め上げた〝災厄の魔王〟の転生体に向かって、さも大物ぶって語りかけてしまうなんて、無礼にも程があるね』
唯の空き缶に偉そうにされたアミルは、イチカの予測通りにカンの態度に即キレて、話を遮るように上空へと吹き飛ばした。
「災厄の魔王とか聞いてないぃいカァアァン!?」
「ゴミクズが目障りだぁああああ! 〝無限滅殺覇道波〟!」
「いきなり酷ぃいいカァアァァン!?」
『まぁ、実際飲み終わった後の空き缶な訳で。即ちゴミであるわけで』
アミルよりカンに向けて、無限滅殺覇道波が放たれた。
カンは、アミルの突然のキレっぷりに全く対応出来ず、終わることがないと思えるほどの魔弾に襲われた。
常時発動M型の効力により、一度は魔弾を受けても復活したが、御構い無しに魔弾はカンを襲い続け、瞬きする間も無いほどの時間で、カンは体力を再び失ったのだった。
「……ここは……どこカァン……」
〝やぁ、意識が戻ったかい〟
「その声はイチカか、やはり我はアミルにやられて空き缶に転生してしまったのか」
〝空き缶転生? もう一度冷静に、周りを確認してご覧よ〟
カンは、イチカの妙に優しげな声だけを認識していた。
「周りを?」
言われるがままに、カンは周りに意識を向けた。
「……ここ、どこカァン!? いつものイチカの書斎ではないカァン!? むしろ何もないカァン!?」
カンの言葉が、全てを物語っていた。今、カンは本当に何も無い場所にいたのだった。
〝そこは、世界の狭間さ〟
「……嫌な予感しかしないのカァン」
〝カンさぁ、ちょっと想像以上にあの魔王を怒らせちゃったみたいなんだよ。身体が消滅したのにも関わらず、カンがいた空間を攻撃しまくるものだから、空間が見事に破壊されちゃってね。カンの魂が、その空間の歪みに吸い込まれて、こっちに帰ってこれなかったんだよ〟
「……あカァアァアアアァアアンやつそれぇええ!?」
〝別にそれくらいなら、カンの魂を回収出来ない事もなかったんだけど、ちょっと不味いことが起きてるみたいなんだよね〟
「魂の消滅だけはご勘弁カァアン」
〝それは大丈夫だろうけど……ある異世界の管理システムが、何者かにハッキングされて、強制的にその世界の【理】を改変されたみたいでさ〟
「世界の管理システムなぞ言われても、意味が分からんが、何故そんな事をするのだ。我が言うのはなんだが、そんな事をすれば、世界が混乱する原因を作るではないカァン」
〝まぁ、そうだね。犯人の目的は、よく分からないけど、カンにとっての問題は空き缶ボディに魂が定着している状態ではなく、魂だけの存在でその世界に誘導されようとしていることだね〟
「それが、何が問題なのカァン?」
〝カンの魂は、いつでもこちらの空き缶ストックに転生できるように、魂を【イチカが飲んだコーヒーの空き缶】に転生するように術を施してあるんだけど〟
「何気に、新事実カァン」
〝ちょうど、ストックの空き缶切らしちゃってさ。だから、糸の切れた凧状態だったから、簡単に空間の歪みに魂が吸い込まれていっちゃたんだよねぇ。ってことは置いといて。引き寄せられた世界でカンの魂が、何に魂が定着して転生するかわかんないんだよねぇ。消しゴムのカスや使用済みのティッシュとかに転生したら、ちょっと可哀想かなって。てへぺろ♪〟
「てへぺろ♪ちゃうカァアァン!? 色々ツッコミどころが多すぎる長台詞を、軽い感じで吐くんじゃないカァアァン!?」
〝しかもさ、今までとあまりに形が違うものに転生しちゃうと、完全に記憶とか吹き飛んじゃうよ、きっと。まぁ、魂に刻まれたスキルなんかは、なんかの拍子に覚醒するかも知れないけど……あれだよ、あれあれ、ニューゲーム的な?〟
「我的にはセーブデータ消えた気分カァン!?」
〝きっと、一回目に死んだりしたら常時発動M型が発動するだろうから、その強い魂の波動に合わせて、意思疎通が取れるようなモノにカンが転生してたら、こちらから何とかコンタクト取ってみるさ。常時発動M型が発動した瞬間なら意識ぐらいは、引っ張って来れるだろう……意識があるものならば……だけど〟
「怖い怖い怖い怖い怖い怖いカァァアン!? 意思疎通がとれたらって、どういうことカァアァン!?」
〝しょうがないでしょ。だって、記憶もなくして、転生するんだから、本気でボウフラとかノミとかだったら、そもそも無理だって〟
「諦めるなカァアアァン!?」
〝そろそろ、会話も出来なくなりそうだ。そうだ、最後に言っておきたい言葉があったんだよ〟
イチカは、カンの魂が完全に異世界へと引き込まれる間際、改めて真剣な雰囲気を作り直した。
「なんじゃ、別れの言葉カァン……」
〝カンの本当の戦いは、これからだ!〟
「……打ち切りエンドぉおおおおカァアァン!?」
こうして、喋る空き缶カンの魂は、世界規模で異変が起きている世界へと引き込まれていった。
そして本来カンが転生の為に戻ってくる筈だった書斎では、天を仰ぎならがら目を閉じていたイチカが、ゆっくりと目を開けた。
そして、アラームの鳴り響くノートパソコンの画面を、渋面をつくりながら眺めていた。
「よりにもよって、あの世界の〝理〟を弄る奴がいるなんて……全く狂ってるとしか、言いようがないね」
顔を掌で覆うと、首を左右にゆっくりと振ると、イチカは身体を震わせ始めた。
「く……くくく……あっはっはっはっはっは!」
そして、狂ったように嗤いだした。
「面白い! 面白いよ! どこの誰かは分からないけれども、これは面白い! 他の奴らは、恐らくシステムエラーの影響で干渉も鑑賞も出来ないだろう。 だけれども……カンが巻き込まれたボクは、きっと干渉は出来なくとも〝鑑賞と会話〟くらいはできる筈」
飲みかけていた缶コーヒーを飲み干すと、楽しそうにその空となった缶を撫でた。
「何だかんだとカンの得てきたステータスに、転生物は引っ張られるだろうし、潰れるのも時間の問題だろうから……取り敢えず、新しい缶コーヒーでも買ってこよっと」
まるで映画の続きを観る前に、飲み物の準備をするかのように、イチカは軽い足取りで書斎を出ていくのであった。
魔力など存在しない、現代社会。
異世界より帰還し者達は、この世界より拒絶され続け、非能力者達の前では力を扱うことを許されなかった。
しかしこの日、突然に『世界の理』が書き換えられ、同時に世界各地で大規模なテロが多発した。
その時に人々が目にしたのは、これまで空想の世界の力であった筈の『魔法』であった。そして、これまでの世界は終わりを告げ、新しい世界が始まることとなる。
これより始まるは、〝地球〟を舞台に混沌と化していく世界を生き抜こうとする者の物語。
“終わりと始まりの日”と呼ばれるこの日、この世界の端っこで、誰かが飲み干したコーヒーの空き缶が、誰かが触れたわけでもなく、僅かに動いたのだった。
「それは、どう言う意味……ん? 何やら家の外が騒がしいカァン」
ゾンビのビンゾの家の外から、大勢の何かが集まっているような声が、小屋の中にまで聞こえくるのであった。
"ビンゾの家に、旅人がきたらしいンビ"
"めんこいおなごらしんンビ!"
"ほったら集落全員で、歓迎せないかンビ!"
"興奮してきたンビぃいい!"
「マスターカン! 完全に外を囲まれた様子です! 唸り声が物凄いです! 完全に狙われています!」
アミルは、青い顔をしながら額に汗を流していた。
「あ、うん。狙われていると言うかなんと言うカァン……」
アミルは、廃屋の外から聞こえるゾンビ達の唸り声を聞いて、絶体絶命の危機だと感じ、マスターカンに助けを求めるような視線を投げかけた。
「縋るような目を向けられても困るカァン。だがしかし、このままでは我も危ない。ビンゾよ、今この小屋を出たら、我々はどうなるカァン?」
"アルミちゃんは、大歓迎の上に興奮したみんなに噛まれまくってゾンビ化ンビ。空き缶は……喋らなければ、間違いなく無視ンビ"
「我も構ってくれカァン!?」
"空き缶のかまってちゃんとか、誰得ンビよ"
『間違いないね』
空き缶が、ゾンビに見向きもされずアミルにばかり注目される状況に嫉妬していると、更に外のゾンビ達は興奮していた。
そして、遂に廃屋の扉が破られテンションMAXのゾンビ達が入ってきたのだった。
「不味いカァアァン!?」
「マスターカン! キャァ!」
「アミルぅううカァアァン!?」
ゾンビ達は、空き缶には目もくれずアミルに向かって殺到しようとした。アミルの悲鳴に、カンは最悪を覚悟した時だった。
突然、カンのアルミボディ全身に悪寒が走ったのだった。
「この感覚は……ゾンビ達! 離れろぉおお! 【風龍の戯れ(Lv.3)】発動カァアァン!」
「「「ンビぃいい!?」」」
カンが発動させた【風龍の戯れ(Lv.3)】の魔風により、ゾンビ達は足を掬われ、次々と転倒した。
そしてゾンビ達が転倒したと同時に、廃屋の天井が完全に消え去った。
「カ……カァン!? 天井は、どこいったカァン!?」
「「「……ンビ!?」」」
空き缶とゾンビが、突然の出来事に固まっていると、更なる混乱が彼らを襲う。
「ククク……あははははははは! やっと目が覚めたぞぉおお!」
高笑いと共に、まるで竜の咆哮の様な大声が小屋を振動させた。
そして、その声の主はカンでもなく、ゾンビ達ではなかった。
「目が覚めたカァン? おぬしは、誰だ。アミルではないカァン」
先程の小屋を吹き飛ばしそうな声を張り上げたのは、先程までゾンビの大群に青い顔を見せていたアミルであった。
「なんだ? 我に偉そうな口を聞くのは、誰だ」
「ふっ、我の事が分からぬとは。やはりお主、見た目はアミルだが中身は違うカァアアアアン!?」
台詞を言い終える前に、カンは前触れなく小屋から空へと吹き飛ばされた。
『あ……カン、それは不味いなぁ。かつてこの世界を絶望一色に染め上げた〝災厄の魔王〟の転生体に向かって、さも大物ぶって語りかけてしまうなんて、無礼にも程があるね』
唯の空き缶に偉そうにされたアミルは、イチカの予測通りにカンの態度に即キレて、話を遮るように上空へと吹き飛ばした。
「災厄の魔王とか聞いてないぃいカァアァン!?」
「ゴミクズが目障りだぁああああ! 〝無限滅殺覇道波〟!」
「いきなり酷ぃいいカァアァァン!?」
『まぁ、実際飲み終わった後の空き缶な訳で。即ちゴミであるわけで』
アミルよりカンに向けて、無限滅殺覇道波が放たれた。
カンは、アミルの突然のキレっぷりに全く対応出来ず、終わることがないと思えるほどの魔弾に襲われた。
常時発動M型の効力により、一度は魔弾を受けても復活したが、御構い無しに魔弾はカンを襲い続け、瞬きする間も無いほどの時間で、カンは体力を再び失ったのだった。
「……ここは……どこカァン……」
〝やぁ、意識が戻ったかい〟
「その声はイチカか、やはり我はアミルにやられて空き缶に転生してしまったのか」
〝空き缶転生? もう一度冷静に、周りを確認してご覧よ〟
カンは、イチカの妙に優しげな声だけを認識していた。
「周りを?」
言われるがままに、カンは周りに意識を向けた。
「……ここ、どこカァン!? いつものイチカの書斎ではないカァン!? むしろ何もないカァン!?」
カンの言葉が、全てを物語っていた。今、カンは本当に何も無い場所にいたのだった。
〝そこは、世界の狭間さ〟
「……嫌な予感しかしないのカァン」
〝カンさぁ、ちょっと想像以上にあの魔王を怒らせちゃったみたいなんだよ。身体が消滅したのにも関わらず、カンがいた空間を攻撃しまくるものだから、空間が見事に破壊されちゃってね。カンの魂が、その空間の歪みに吸い込まれて、こっちに帰ってこれなかったんだよ〟
「……あカァアァアアアァアアンやつそれぇええ!?」
〝別にそれくらいなら、カンの魂を回収出来ない事もなかったんだけど、ちょっと不味いことが起きてるみたいなんだよね〟
「魂の消滅だけはご勘弁カァアン」
〝それは大丈夫だろうけど……ある異世界の管理システムが、何者かにハッキングされて、強制的にその世界の【理】を改変されたみたいでさ〟
「世界の管理システムなぞ言われても、意味が分からんが、何故そんな事をするのだ。我が言うのはなんだが、そんな事をすれば、世界が混乱する原因を作るではないカァン」
〝まぁ、そうだね。犯人の目的は、よく分からないけど、カンにとっての問題は空き缶ボディに魂が定着している状態ではなく、魂だけの存在でその世界に誘導されようとしていることだね〟
「それが、何が問題なのカァン?」
〝カンの魂は、いつでもこちらの空き缶ストックに転生できるように、魂を【イチカが飲んだコーヒーの空き缶】に転生するように術を施してあるんだけど〟
「何気に、新事実カァン」
〝ちょうど、ストックの空き缶切らしちゃってさ。だから、糸の切れた凧状態だったから、簡単に空間の歪みに魂が吸い込まれていっちゃたんだよねぇ。ってことは置いといて。引き寄せられた世界でカンの魂が、何に魂が定着して転生するかわかんないんだよねぇ。消しゴムのカスや使用済みのティッシュとかに転生したら、ちょっと可哀想かなって。てへぺろ♪〟
「てへぺろ♪ちゃうカァアァン!? 色々ツッコミどころが多すぎる長台詞を、軽い感じで吐くんじゃないカァアァン!?」
〝しかもさ、今までとあまりに形が違うものに転生しちゃうと、完全に記憶とか吹き飛んじゃうよ、きっと。まぁ、魂に刻まれたスキルなんかは、なんかの拍子に覚醒するかも知れないけど……あれだよ、あれあれ、ニューゲーム的な?〟
「我的にはセーブデータ消えた気分カァン!?」
〝きっと、一回目に死んだりしたら常時発動M型が発動するだろうから、その強い魂の波動に合わせて、意思疎通が取れるようなモノにカンが転生してたら、こちらから何とかコンタクト取ってみるさ。常時発動M型が発動した瞬間なら意識ぐらいは、引っ張って来れるだろう……意識があるものならば……だけど〟
「怖い怖い怖い怖い怖い怖いカァァアン!? 意思疎通がとれたらって、どういうことカァアァン!?」
〝しょうがないでしょ。だって、記憶もなくして、転生するんだから、本気でボウフラとかノミとかだったら、そもそも無理だって〟
「諦めるなカァアアァン!?」
〝そろそろ、会話も出来なくなりそうだ。そうだ、最後に言っておきたい言葉があったんだよ〟
イチカは、カンの魂が完全に異世界へと引き込まれる間際、改めて真剣な雰囲気を作り直した。
「なんじゃ、別れの言葉カァン……」
〝カンの本当の戦いは、これからだ!〟
「……打ち切りエンドぉおおおおカァアァン!?」
こうして、喋る空き缶カンの魂は、世界規模で異変が起きている世界へと引き込まれていった。
そして本来カンが転生の為に戻ってくる筈だった書斎では、天を仰ぎならがら目を閉じていたイチカが、ゆっくりと目を開けた。
そして、アラームの鳴り響くノートパソコンの画面を、渋面をつくりながら眺めていた。
「よりにもよって、あの世界の〝理〟を弄る奴がいるなんて……全く狂ってるとしか、言いようがないね」
顔を掌で覆うと、首を左右にゆっくりと振ると、イチカは身体を震わせ始めた。
「く……くくく……あっはっはっはっはっは!」
そして、狂ったように嗤いだした。
「面白い! 面白いよ! どこの誰かは分からないけれども、これは面白い! 他の奴らは、恐らくシステムエラーの影響で干渉も鑑賞も出来ないだろう。 だけれども……カンが巻き込まれたボクは、きっと干渉は出来なくとも〝鑑賞と会話〟くらいはできる筈」
飲みかけていた缶コーヒーを飲み干すと、楽しそうにその空となった缶を撫でた。
「何だかんだとカンの得てきたステータスに、転生物は引っ張られるだろうし、潰れるのも時間の問題だろうから……取り敢えず、新しい缶コーヒーでも買ってこよっと」
まるで映画の続きを観る前に、飲み物の準備をするかのように、イチカは軽い足取りで書斎を出ていくのであった。
魔力など存在しない、現代社会。
異世界より帰還し者達は、この世界より拒絶され続け、非能力者達の前では力を扱うことを許されなかった。
しかしこの日、突然に『世界の理』が書き換えられ、同時に世界各地で大規模なテロが多発した。
その時に人々が目にしたのは、これまで空想の世界の力であった筈の『魔法』であった。そして、これまでの世界は終わりを告げ、新しい世界が始まることとなる。
これより始まるは、〝地球〟を舞台に混沌と化していく世界を生き抜こうとする者の物語。
“終わりと始まりの日”と呼ばれるこの日、この世界の端っこで、誰かが飲み干したコーヒーの空き缶が、誰かが触れたわけでもなく、僅かに動いたのだった。
0
この作品の感想を投稿する
みんなの感想(2件)
あなたにおすすめの小説
【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜
一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m
✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。
【あらすじ】
神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!
そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!
事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます!
カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。
【完結】487222760年間女神様に仕えてきた俺は、そろそろ普通の異世界転生をしてもいいと思う
こすもすさんど(元:ムメイザクラ)
ファンタジー
異世界転生の女神様に四億年近くも仕えてきた、名も無きオリ主。
億千の異世界転生を繰り返してきた彼は、女神様に"休暇"と称して『普通の異世界転生がしたい』とお願いする。
彼の願いを聞き入れた女神様は、彼を無難な異世界へと送り出す。
四億年の経験知識と共に異世界へ降り立ったオリ主――『アヤト』は、自由気ままな転生者生活を満喫しようとするのだが、そんなぶっ壊れチートを持ったなろう系オリ主が平穏無事な"普通の異世界転生"など出来るはずもなく……?
道行く美少女ヒロイン達をスパルタ特訓で徹底的に鍛え上げ、邪魔する奴はただのパンチで滅殺抹殺一撃必殺、それも全ては"普通の異世界転生"をするために!
気が付けばヒロインが増え、気が付けば厄介事に巻き込まれる、テメーの頭はハッピーセットな、なろう系最強チーレム無双オリ主の明日はどっちだ!?
※小説家になろう、エブリスタ、ノベルアップ+にも掲載しております。
白いもふもふ好きの僕が転生したらフェンリルになっていた!!
ろき
ファンタジー
ブラック企業で消耗する社畜・白瀬陸空(しらせりくう)の唯一の癒し。それは「白いもふもふ」だった。 ある日、白い子犬を助けて命を落とした彼は、異世界で目を覚ます。
ふと水面を覗き込むと、そこに映っていたのは―― 伝説の神獣【フェンリル】になった自分自身!?
「どうせ転生するなら、テイマーになって、もふもふパラダイスを作りたかった!」 「なんで俺自身がもふもふの神獣になってるんだよ!」
理想と真逆の姿に絶望する陸空。 だが、彼には規格外の魔力と、前世の異常なまでの「もふもふへの執着」が変化した、とある謎のスキルが備わっていた。
これは、最強の神獣になってしまった男が、ただひたすらに「もふもふ」を愛でようとした結果、周囲の人間(とくにエルフ)に崇拝され、勘違いが勘違いを呼んで国を動かしてしまう、予測不能な異世界もふもふライフ!
『異世界ガチャでユニークスキル全部乗せ!? ポンコツ神と俺の無自覚最強スローライフ』
チャチャ
ファンタジー
> 仕事帰りにファンタジー小説を買った帰り道、不運にも事故死した38歳の男。
気がつくと、目の前には“ポンコツ”と噂される神様がいた——。
「君、うっかり死んじゃったから、異世界に転生させてあげるよ♪」
「スキル? ステータス? もちろんガチャで決めるから!」
最初はブチギレ寸前だったが、引いたスキルはなんと全部ユニーク!
本人は気づいていないが、【超幸運】の持ち主だった!
「冒険? 魔王? いや、俺は村でのんびり暮らしたいんだけど……」
そんな願いとは裏腹に、次々とトラブルに巻き込まれ、無自覚に“最強伝説”を打ち立てていく!
神様のミスで始まった異世界生活。目指すはスローライフ、されど周囲は大騒ぎ!
◆ガチャ転生×最強×スローライフ!
無自覚チートな元おっさんが、今日も異世界でのんびり無双中!
異世界転生~チート魔法でスローライフ
玲央
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。
43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。
その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」
大型連休を利用して、
穴場スポットへやってきた!
テントを建て、BBQコンロに
テーブル等用意して……。
近くの川まで散歩しに来たら、
何やら動物か?の気配が……
木の影からこっそり覗くとそこには……
キラキラと光注ぐように発光した
「え!オオカミ!」
3メートルはありそうな巨大なオオカミが!!
急いでテントまで戻ってくると
「え!ここどこだ??」
都会の生活に疲れた主人公が、
異世界へ転生して 冒険者になって
魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。
恋愛は多分ありません。
基本スローライフを目指してます(笑)
※挿絵有りますが、自作です。
無断転載はしてません。
イラストは、あくまで私のイメージです
※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが
少し趣向を変えて、
若干ですが恋愛有りになります。
※カクヨム、なろうでも公開しています
高校生の俺、異世界転移していきなり追放されるが、じつは最強魔法使い。可愛い看板娘がいる宿屋に拾われたのでもう戻りません
下昴しん
ファンタジー
高校生のタクトは部活帰りに突然異世界へ転移してしまう。
横柄な態度の王から、魔法使いはいらんわ、城から出ていけと言われ、いきなり無職になったタクト。
偶然会った宿屋の店長トロに仕事をもらい、看板娘のマロンと一緒に宿と食堂を手伝うことに。
すると突然、客の兵士が暴れだし宿はメチャクチャになる。
兵士に殴り飛ばされるトロとマロン。
この世界の魔法は、生活で利用する程度の威力しかなく、とても弱い。
しかし──タクトの魔法は人並み外れて、無法者も脳筋男もひれ伏すほど強かった。
スティールスキルが進化したら魔物の天敵になりました
東束末木
ファンタジー
第18回ファンタジー小説大賞 奨励賞、いただきました!!
スティールスキル。
皆さん、どんなイメージを持ってますか?
使うのが敵であっても主人公であっても、あまりいい印象は持たれない……そんなスキル。
でもこの物語のスティールスキルはちょっと違います。
スティールスキルが一人の少年の人生を救い、やがて世界を変えてゆく。
楽しくも心温まるそんなスティールの物語をお楽しみください。
それでは「スティールスキルが進化したら魔物の天敵になりました」、開幕です。
2025/12/7
一話あたりの文字数が多くなってしまったため、第31話から1回2~3千文字となるよう分割掲載となっています。
【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます
腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった!
私が死ぬまでには完結させます。
追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。
追記2:ひとまず完結しました!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。
題名で惹かれてお気に登録しました!
こらから読み始めます。
ありがとうでありますうぅうう。゚(゚´ω`゚)゚。
おもしろい!
お気に入りに登録しました~
ありがとうぉおおおおございますうぅうう。゚(゚´ω`゚)゚。