神運営と魔王様〜ゲームのバグは魔王様!? ここが何処であろうと、我は魔王なのである!〜

イチ力ハチ力

文字の大きさ
38 / 40

危機

しおりを挟む
「こんな人間味があり過ぎる人が、レイドボスとか……恐るべし、神運営」

「ソラよ」

「何ですか? 魔王様」

「それで、今日は俺を討伐しに来たのか?」

「は? そんな訳ないじゃないですか。取り敢えず、イベクエの内容みたら、明らかに魔王様らしき写真の人がレイドボスになってたから、確認しに来たついでに、一緒に遊ぶつもりだったんです!」

 力強く拳を握り締めて天井を見上げてるが、そこに何か見えるのか? アリンが、釣られて天井を見ているぞ。

「確認しに来たついでにという事は、俺が賞金首だったとしても、これまで通りに遊ぶつもりだったのか?」

「え、はい。そのつもりですよ? 野生の魔王様と遭遇した上に、パテ組んでフレにもなっているんですよ? そんなレアな状況を、自分から手放してどうするんですか」

「しかし、俺と一緒にいると間違いなく、俺を狙う者達との戦闘に巻き込まれると思うが、それは良いのか?」

 恐らくクエストに表示されていた俺の顔だけでも、十分特定はされるだろう。この村に滞在しているのを知っているのは、他にはサンゴだけだが、行動を始めれば、戦いの日々となる筈だ。

「確かに、それは此処に来る途中でも考えていました。本当に魔王様が〝魔王〟だった場合、これまで通りの関係でいられるのか? 冒険者らしく、魔王討伐の為に仲間と共に立ち向かうべきなのか……だけれども、もう魔王様は……私のフレンドなんです! 先に私が知ったのは、この世界を侵略しようとしていた魔王ではなく、この世界を一緒に楽しもうとしていた魔王様だったんです! 今更それを変えるだなんて、私の中での筋が通りません!」

 きらきらと輝く瞳には、一切の迷いのない光が宿っていた。今の言葉に、嘘偽りがないことは、この瞳の輝き以上の証明はありはしないだろう。

「ふふ……そうか。ならば〝深淵の魔術師アビスマジシャン〟ソラよ、これからもよろしくな」

「ま……」

「ま?」

「真顔でシリアスな場面で、恥ずかしげもなく私のことを〝深淵の魔術師アビスマジシャン〟って呼ばないでぇええ!!! 不意打ちすぐるぅうう!!! ひぃいいい!!!」

「ソラが自分で、そうちょくちょく魔法を放つ時に叫んでいるだろう」

「違うんですよ! 戦闘時のテンションで名乗りをあげる時は、良いんです! 一種の戦闘ルーティンなのですから! しかしここは、今戦闘中ですか!?」

「いや、シリルの家だから違うな」

「そうでしょうとも! しかも、アリンちゃんやシリルさんの目の前で、魔王様がそんなことを言えば……」

 ソラが恐る恐るアリンの方を振り返るので、俺も釣られて親子に目を向けると、尊敬の眼差しでアリンとシリルがソラを見ていた。

「深淵……カッコいい! ソラおねぇちゃん! 二つ名持ちだったんだね!」
「自称だからね!」

「流石は、魔王様と共に旅をする方……まさか〝深淵〟たる称号をお持ちの方だったとは、これまでの非礼をお許しください」
「だから自称だからぁあああ!!!」

 ソラが慌てた様子で、二人にあれやこれやと説明していると、メッセージが届き、それはサンゴからだった。

 それは俺の今の居場所を教えてほしいと言うことだったが、俺はこの場所を即答するのを躊躇っていた。

 サンゴは間違いなく、神運営側の者であり、且つハイレベルな戦士である事は分かっている。ここで俺を討伐と言い出した場合、村人達に損害が出るかどうかが不明だ。

 〝冒険者はNPCに危害を加えることは出来ない〟というこの世界の理は、普通であればサンゴも適用される筈だ。

 しかし彼女は、神運営の眷属だと言うことは、ほぼ確実という中で、果たして必ずしもそれ理が適用されるのか。それが分からない状況で、此処に呼んで良いものかの判断を迫られた。

「まぁ、念の為だ。場所を変えた方が無難ではあるか」

「あれ? 魔王様? どこ行くんですか? 私も一緒に狩りに行きたいんですけど!」

 俺が立ち上がり出口に向かって歩き出したところで、女子達の話し合いも丁度終わった所だった。

「狩りではなくてだな。サンゴという冒険者が、俺の今の居場所をメッセージで訪ねてきてな。会って早々戦闘になる可能性も捨て切れんから、村で派手に立ち回るのは迷惑をかけると思ってな」

「サンゴ? 初めて聞くプレーヤーの名ですね。魔王様のフレンドの方ですか?」

「あぁ、少々縁があってな。ソラがいない時間に、サンゴはこの世界にいる事が多くてな。今まで会うことはなかったようだ」

「なるほど、ログインする時間帯のズレがあったわけですか。正直、もっとちゃんと魔王様の今の状況とかこれからの事とか、色々聞きたいことあったんですが、それは仕方がないですね」

 他の冒険者に会うと告げると、ソラは再び椅子に腰掛けた。どうやら、付いてくる気はない様子だが、その瞳には迷いも見てとれた。

「サンゴに会ってみたくはないのか?」

「元々人見知りな上に、ブレイブさんと紅さんの件があって、他のプレーヤーの人と会うのが、ちょっと怖いなぁと……」

「アレらに比べたら、サンゴは大分普通だと思うぞ」

 普通の冒険者ではないだろうが、少なくてもアレらと同類にされるのは可哀想だ。

「普通の人ですか……怖くはない感じですか?」

「そうだな。特に怖いとか、そんな感じではなかったな」

「そうなんですね……魔王様が、怖くないって言うなら、折角だし、私も会ってみたいです! 私以外の、魔王様のフレに!」

「そうか、なら一緒に行くとするか」

「はい!」

 アリルとシリルにまた来ると告げ、ソラと二人でハスレ村を出た俺は、万が一に備え、ハスレ村から東に向かった先にある開けた草原で、サンゴと会うことにした。丁度、この辺りの魔物達の強さが、ソラのレベル上げに適していた事もその理由だった。

 メニューからマップを選択し、マップに表示されているこの位置の座標を、メッセージでサンゴに送った。

「この世界の理は、参考になるな。帰ったら、俺もコレを世界の理に組み込んでみるか。ん?」

「どうかしましたか、魔王様」

 俺が不意に明後日の方向を見たことに釣られて、ソラも同じ方向を見ていた。

 そして、サンゴにこの場所を教えてから、僅か数分後に俺達は悲劇に見舞われる。

「……魔王様? 足がガクブルする程に、怖い女性の方が、私達の前に立っているのですが、もしかしなくても、この方が?」

「……サンゴだな」

「魔王様の嘘つきぃいい! アレのどこが普通の目何ですかぁああ! アバターなのに、目つきが完全病み系じゃないですか!? 一体、魔王様は何したんですか!?」

「いや、俺は知らんが……」

「胸……」

「ん?」

 気迫とも殺気とも言える様なオーラを纏った状態のサンゴが、俺達を前にして、最初の言葉が発せられたが、予想外のすぎて俺はこの後に固まった。

「この世界で胸を揉んだって、本当なの? 本当に揉めるのであれば、何故私のを揉まないの? 取り敢えず、他の女の胸を揉んだ手は、排除するわ。動かないでね、他の部分も切り落としちゃ、可哀想だから」

「いや、何を言ってるんだ?」

「魔王様? 一体全体どうしたら、こんな状況になるんです? どうして私は、バッドエンドルートのクライマックスな場面に出くわして、トラウマを植え付けられそうになってるんですか?」

 それは、俺が一番教えてほしいことなのだが。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

白いもふもふ好きの僕が転生したらフェンリルになっていた!!

ろき
ファンタジー
ブラック企業で消耗する社畜・白瀬陸空(しらせりくう)の唯一の癒し。それは「白いもふもふ」だった。 ある日、白い子犬を助けて命を落とした彼は、異世界で目を覚ます。 ふと水面を覗き込むと、そこに映っていたのは―― 伝説の神獣【フェンリル】になった自分自身!? 「どうせ転生するなら、テイマーになって、もふもふパラダイスを作りたかった!」 「なんで俺自身がもふもふの神獣になってるんだよ!」 理想と真逆の姿に絶望する陸空。 だが、彼には規格外の魔力と、前世の異常なまでの「もふもふへの執着」が変化した、とある謎のスキルが備わっていた。 これは、最強の神獣になってしまった男が、ただひたすらに「もふもふ」を愛でようとした結果、周囲の人間(とくにエルフ)に崇拝され、勘違いが勘違いを呼んで国を動かしてしまう、予測不能な異世界もふもふライフ!

魔法属性が遺伝する異世界で、人間なのに、何故か魔族のみ保有する闇属性だったので魔王サイドに付きたいと思います

町島航太
ファンタジー
 異常なお人好しである高校生雨宮良太は、見ず知らずの少女を通り魔から守り、死んでしまう。  善行と幸運がまるで釣り合っていない事を哀れんだ転生の女神ダネスは、彼を丁度平和な魔法の世界へと転生させる。  しかし、転生したと同時に魔王軍が復活。更に、良太自身も転生した家系的にも、人間的にもあり得ない闇の魔法属性を持って生まれてしまうのだった。  存在を疎んだ父に地下牢に入れられ、虐げられる毎日。そんな日常を壊してくれたのは、まさかの新魔王の幹部だった。

転生したら『塔』の主になった。ポイントでガチャ回してフロア増やしたら、いつの間にか世界最強のダンジョンになってた

季未
ファンタジー
【書き溜めがなくなるまで高頻度更新!♡٩( 'ω' )و】 気がつくとダンジョンコア(石)になっていた。 手持ちの資源はわずか。迫りくる野生の魔物やコアを狙う冒険者たち。 頼れるのは怪しげな「魔物ガチャ」だけ!? 傷ついた少女・リナを保護したことをきっかけにダンジョンは急速に進化を始める。 罠を張り巡らせた塔を建築し、資源を集め、強力な魔物をガチャで召喚! 人間と魔族、どこの勢力にも属さない独立した「最強のダンジョン」が今、産声を上げる!

追放された俺のスキル【整理整頓】が覚醒!もふもふフェンリルと訳あり令嬢と辺境で最強ギルドはじめます

黒崎隼人
ファンタジー
「お前の【整理整頓】なんてゴミスキル、もういらない」――勇者パーティーの雑用係だったカイは、ダンジョンの最深部で無一文で追放された。死を覚悟したその時、彼のスキルは真の能力に覚醒する。鑑定、無限収納、状態異常回復、スキル強化……森羅万象を“整理”するその力は、まさに規格外の万能チートだった! 呪われたもふもふ聖獣と、没落寸前の騎士令嬢。心優しき仲間と出会ったカイは、辺境の街で小さなギルド『クローゼット』を立ち上げる。一方、カイという“本当の勇者”を失ったパーティーは崩壊寸前に。これは、地味なスキル一つで世界を“整理整頓”していく、一人の青年の爽快成り上がり英雄譚!

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。

悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる

竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。 評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。 身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。

スライムすら倒せない底辺冒険者の俺、レベルアップしてハーレムを築く(予定)〜ユニークスキル[レベルアップ]を手に入れた俺は最弱魔法で無双する

カツラノエース
ファンタジー
ろくでもない人生を送っていた俺、海乃 哲也は、 23歳にして交通事故で死に、異世界転生をする。 急に異世界に飛ばされた俺、もちろん金は無い。何とか超初級クエストで金を集め武器を買ったが、俺に戦いの才能は無かったらしく、スライムすら倒せずに返り討ちにあってしまう。 完全に戦うということを諦めた俺は危険の無い薬草集めで、何とか金を稼ぎ、ひもじい思いをしながらも生き繋いでいた。 そんな日々を過ごしていると、突然ユニークスキル[レベルアップ]とやらを獲得する。 最初はこの胡散臭過ぎるユニークスキルを疑ったが、薬草集めでレベルが2に上がった俺は、好奇心に負け、ダメ元で再びスライムと戦う。 すると、前までは歯が立たなかったスライムをすんなり倒せてしまう。 どうやら本当にレベルアップしている模様。 「ちょっと待てよ?これなら最強になれるんじゃね?」 最弱魔法しか使う事の出来ない底辺冒険者である俺が、レベルアップで高みを目指す物語。 他サイトにも掲載しています。

喪女だった私が異世界転生した途端に地味枠を脱却して逆転恋愛

タマ マコト
ファンタジー
喪女として誰にも選ばれない人生を終えた佐倉真凛は、異世界の伯爵家三女リーナとして転生する。 しかしそこでも彼女は、美しい姉妹に埋もれた「地味枠」の令嬢だった。 前世の経験から派手さを捨て、魔法地雷や罠といったトラップ魔法を選んだリーナは、目立たず確実に力を磨いていく。 魔法学園で騎士カイにその才能を見抜かれたことで、彼女の止まっていた人生は静かに動き出す。

処理中です...