ダークな乙女ゲーム世界で命を狙われてます

夢月 なぞる

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3章 天空寮(ダイジェスト版)

寮案内4

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 紅原の背中を見送り、廊下に一人になった真田はそっと幼馴染の様子を思い出す。
 普段軽いキャラクターを演じている紅原だが、実際にはかなりの人見知りだ。
 卒なく人をあしらう技術だけは高いため気づかれにくいが、決して自分の本当の感情を軽々しく表に出すことはしない。
 十年以上の付き合いのある真田にさえ、たまに感情を隠すところのある彼である。
 それなのに、今日の彼は素に近い表情を浮かべていた。

 その原因について思いつくのは一人しかいなかった。
 多岐環。今日入寮したばかりの同い年の少女だ。
 彼女が天空寮に転寮してきた経緯ははっきりとは聞いていない。

 利音だけであればまだ、納得出来た気はする。
 はっきりとわからないが、利音はなんとなく吸血鬼の花嫁である気がしていた。
 雰囲気があまりに薄いのは気にはなるが、それでも彼女はおそらく何らか吸血鬼とつながりがある。
 真田は、それにはおそらく緑水副会長が絡んでいるのではと睨んでいた。

 最近たまに緑水副会長を天空寮で見かけるのだ。
 出くわして声をかければ、散歩だと口を濁すのだが、下手な口実であることは彼の視線の先に常に一人の少女がいるのを見れば明らかだった。
 緑水副会長はその吸血鬼の中でも群を抜く美貌のためか、異性どころか同性にもやや敬遠されがちだ。
 本人もあまり他人と馴れ合うことをよしとしない質なので、普段から月下騎士以外とは一緒にいる姿を見ることはなかった。
 特に女性が嫌いらしく、仕事以外の接触を避けている。
 円から伝え聞いた彼の生い立ちを考えればわからなくもない。
 そのため女の園である天空寮に来ることなどなかったというのに、利音が来てからというもののわかりやすく姿を見かけるのだ。
 あまりに珍しい光景に真田などは驚いていつも遠巻きにするだけなのだが、そんなことを知らない利音は見かけるたびに普通に声をかける。

 最初は戸惑う様子だったが、最近では大分慣れたのか、見かければ挨拶と雑談に興じる姿も見かける。
 真田たちほかの花嫁とはすれ違っても最初は挨拶すらしないかった。
 まあ、声をかけられても困るだけなのでよかったのだが、最近どうもそれで利音に怒られたらしく渋々ではあるが挨拶をするようになっている。
 そのあまりの変わりように、こちらとしては呆気にとられるしかない。
 だがそれほど利音に執着しているのだと、見て取れた。
 利音と共にいる副会長の見たこともない穏やかな表情を見れば、今まで花嫁を決して持とうとしなかった彼の心変わりを疑って当然だろう。

 だが、そんな緑水だが、利音は彼の花嫁でも親衛隊でもない。
 あれだけ、思いが駄々漏れで、利音もさほど嫌っている様子もないし、さっさと花嫁としてしまえばいいのにと思う。

 だって、彼女たちの立場はそうしなければあまりに危ういのだから。

 利音も環も今は『親衛隊候補』でしかない。
 天空寮に住まう権利はあるが、それ以外はほとんど一般の生徒と変わらないのだ。
 そうであるのに天空寮にいるという言うだけで、今後彼女たちは学園中の羨望と嫉妬を受けることになる。
 身を守るにはあまりにも立場が弱いと真田は思わざるを得ない。
 それでも、利音ならば誰かが守るだろうという妙な安心感があった。

 それはいい。だが、環は?
 もともと自立心の強そうな女子生徒だ。
 誰かに頼るような雰囲気はなくそれがなおさら危うい気配を漂わせる。
 普通の学校で陥るような危機であればなんとか自力で解決しそうなバイタリティは感じるが、ここは良くも悪くも普通の学園ではない。
 そのことを彼女が理解しているのか、真田は甚だ怪しいと思っていた。

 それでも彼女を気にしている、紅原あたりはいざとなったら助けるかもしれない。
 しかし、彼自身は吸血鬼の中でも力が弱い。それに伴っての発言力が弱いのだ。
 彼には悪いが、彼女の身を守るにはあまりに頼りないと言わざるを得ない。
 それにあの幼馴染が他人を積極的に守ろうとする姿も想像できない。
 そうなれば彼女だけが一人、その悪意に身を晒されることになる。
 なんの変哲もない人間にしか見えない彼女である。
 あっさり悪意に飲み込まれ、身も精神こころもボロボロにされかねない。
 どうしてそんな状態においておく必要があるのか、真田などは理解に苦しむが上の決定は絶対なので真田に反論の自由などない。

 真田ができるのは精々寮の中で彼女たちが心穏やかに過ごせるよう環境を整えてやることくらいだ。

 異例だらけの現状に先行きの見えない不安を覚えて、真田はそっと溜息を吐いた。
 実はこういった空気は初めてではない。しかしだからと言って慣れるものでもない。
 過去に思いを馳せると大切なモノを失った記憶に行き着く。
 記憶を行き過ぎるとある面影に、なぜか今日初めて言葉を交わした黒髪の少女の面影が重なる。
 なぜなのかはわからない。姿、形も顔も何もかも似通ったことのない二人だというのに。
 少しだけ懐かしいかつての友の面影に真田は目を閉じた。

(……しずか

 もう二度と会えないその面影に懐かしい反面寂しい思いにかられるが、同時に先ほどの幼馴染の様子を思いだし、胸に苦いものが広がる。

(……円、いつまで君は…)

 思い出せる友人の性格を考えればいつまでも彼があの状態であることをよしとするとは思えない。
 しかし、真田にはそれを指摘することはできなかった。
 口止めされているのだ。
 しかしそうでなくてもあの頃の紅原の様子を思えば決して口にすることはできなかった。

「…まあ、それは自分の無力さへの言い訳かな?」

 思わず漏れた自嘲に口元が歪む。
 もし万が一口止めされていなくても真田が何を言っても届くとは思えなかった。
 大切な友に何もできない自身の無力感を感じるが、それは今に始まったことではない。

 脳裏に浮かぶのは、普段はあまり感情を乱すことのない円に変化を与えた少女。
 黒髪の理知的な彼女であれば、もしかして変えてくれるだろうか。
 あの馬鹿で寂しがり屋の、朴念仁で愚かな幼馴染の思い違いを。
 他力本願過ぎて自己嫌悪に入りかけるが、それすら無意味であることを知っているのでやめにする。
 そう教えてくれた大切な友人に思いを馳せながら、真田は利音の元に戻るべく歩き出した。

◇ ◆ ◆

 環の寝室での一連の顛末でした。
 ほらほら、なでてなでて。
 あた、あだだだ! 
 そんなかきむしるような感じじゃなくて、もっと優しく。

 え?出てくる分量が多い?
 どうせ隠してたんだろうって?
 
 うわあ、君って目ざといねえ。
 確かにその通りだけど。

 で、どうだった?
 え? 文章がちょっとエロいって?
 それは仕方ないよ。
 ほら、僕は環を書くとき、君を想像してあれこれ……。

 わあ! 嘘だって。
 冗談だから、椅子は凶器だから!

 はあ、本当に君って恥ずかしがり屋さんなんだから……サーセン。

 あれ? もうこんな時間。
 じゃあ、僕はこれで。
 え? どこに行くのかって?
 ちょっとね、実家。
 おや、……もしかして心配してくれるの?

 え?早く行けって? うわあ、素直じゃないなあ。
 わかってるよ。もう二度と雨にぬれるような真似はしないから。
 悲しくなったら君の家に行く。
 
 そんな事、約束していない?
 やだな、あの日に君が僕を部屋に上げたんだから、最後までめんどうみてよ。
 拾った動物の面倒は最後までってね。
 拾ってないなんて言わせないから。
 覚悟しておいてよね。

 あ、そろそろ本当に行くね。
 じゃあ、またね。
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