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3章 天空寮(ダイジェスト版)
寮案内3
しおりを挟む……どうだった?
え? 毎度いいところで切ってって。
うわ、原稿投げないでよ!。
そこまで、熱心になってくれるなら書いた者冥利に尽きるけど、それはやめて!
うう、僕だって頑張って書いてるけど、そんなに一変にはかけないよ。
だから、ちゃんと続きは話をしてあげるから許してよ。
え? 文章で読みたいって?
でも、いろいろそれには都合があって、それに君が読んでいる間、僕すごく暇なんだもん。
語らせてよ~。
え? いいの?
やっぱり、君って優しいね。
まあ、怒られる前に続きを言えばね。
紅原が環に身を寄せられて気付いたのは、環から吸血香がするってこと。
吸血香は吸血鬼に血を吸われた人間が放つ独特香りで、吸血鬼のみが嗅ぎ分けることができる。
え? それくらい知ってるって?
まあ、そうだよね。ゲームにも出てくるもの。
でも説明はさせてもらうよ。
吸血香はマーキングのようなもの。
その香りがする人間には血を与える吸血鬼がいるという証になる。
通常吸血鬼が血を貰うのは恋人か伴侶に限られるから、吸血香がする=恋人がいる証になる。
それに気付いて、紅原は環に恋人がいるんだと勘違いしてしまう。
でも同時に怒りも湧いてくる。
だって、紅原は環の不調の原因に気付いちゃったから。
環の不調は吸血された際に、同時に取り込んでしまった吸血鬼の体液によるものだ。
吸血鬼の血液は人間にとっては猛毒で触れただけで、精神の異常をきたして、化け物と化すって設定だろ?
そんな吸血鬼の体液は強弱はあれど人間にとっては毒で、吸血という行為は傷口から体内に彼等の少量であっても取り込む行為になる。
そのため、昔から吸血された人間が体調を崩すことは多かった。
環の症状はそれだったんだ。
でもそれは開発された薬なり、昔ながらの毒を吸い上げる方法成で防げる症状ではある。
紅原には血をあげているにもかかわらず、恋人にしんどい思いをさせている最低男の恋人が環にいると思い込んじゃったんだね……と、できた。
え? なにがって……。
君が見たがってた続きだよ。
はなししているついでにペンを走らせました。
といっても今話してた所以降だけどね。
やれば出来る子だよ。
褒めても良いんだよ? 頭なでても良いんだよ?
え? 読んでから?
ちぇ、いいんだ。じゃあ後で褒めてね。はい。
◆ ◆ ◆
涙も落ち着き、穏やかな寝息を立てる環に安堵する。
そろりと手を伸ばし、首にかかった髪をどけるが、彼女は起きなかった。
リボンのないシャツの喉元がはだけており。白い肌が無防備にさらされている。
シミひとつないきめ細かい肌に、他の男が一度でも触れたのだと思うと妙に紅原の頭を冷えさせた。
相手の男の身勝手さが腹立たしい。
そしてそんな男に血を赦した彼女にも無性に腹が立った。
おそらくこのままだといつまでたっても彼女は体調が悪いままだ。
薬があれば簡単だが、あいにく紅原は持ち歩いていない。
実は解決方法は薬以外にないわけではない。
かつて薬が開発されるまでは、吸血鬼自身が相手の中に入った自身の毒を吸い出すことにより、相手の体調の悪さを緩和してきた。
だが、それは毒素を完全に取り除くことはできないため、薬の開発とともに廃れた対処法だ。
その上、寝ている女性に対し同意もなしにやるのはあまりに礼儀に反する。
それに体調が良くなるにしても、おそらくこんなことを彼女は望まないだろう。
分かっていたが、彼女の白い首に誰かの牙が突き立てられたのだと思うとどす黒い澱が胸の奥に溜まった。
黒いものは囁くように紅原をそそのかす。
これは彼女を楽にするために必要な行為。言ってみれば消毒のようなものだ。
まるで吸い寄せられるようにそろりと彼女の首筋に顔を寄せた。
普段はシャツによって隠された、日焼けのない白く柔らかそうな肌に唇を寄せ――――。
――――円。
「っ!……」
突然、それまでの比ではない激しい頭痛が紅原を襲う。
瞬間抱えた彼女の体を取り落としそうになり、その身を引き寄せ支えたがそれ以上彼女に気を取られることはできなかった。
激しい痛みにきつく目を閉じ、頭を押さえた。
目の奥が猛烈に熱く、まるでそこに心臓があるかのようにドクンドクンと脈打つのを感じる。
ずくずくと脳裏に痛みが走る。
頭蓋骨を揺さぶられるような痛みと同時に何かの映像が明滅するように瞼裏にすぎる。
白を染める赤い色。どす黒く変色した赤は一体なんなのか。
痛みは徐々に鈍い痛みに変わる。
乱れた息を整えながら、ようやく行き過ぎた痛みに目を開けた。
目を開けた先に、眠る少女を見えた。
そう言えばこんな痛みを感じ始めたのは先程彼女に会って以降だということを思い出す。
じっと彼女の顔を見るが、頭痛の原因となり得るような記憶は何もない。
また、だった。
また何かわからないが大切な感情を忘れた気がする。
ただ一つわかったことは、この頭痛が彼女に起因するもののようだということだけ。
感情があったことだけは覚えている。
だが、その感情がどういったものか思い出せなかった。
そう言えばこのことを彼女に確認するためにここに戻ってきたことを思い出す。
しかし腕の中の彼女はよく眠っている。起こすのも忍びなかった。
仕方なくそっと抱き上げ、今度こそ彼女の体をベッドに運んだ。
寝かしつけシーツをかけてやると、いつの間にか彼女の手が紅原の袖をつかんでいた。
驚いたが、まるで子供が親を離したくないような仕草が微笑ましく思わず笑みがこぼれた。
仕方なくベッドに腰掛け、そっと彼女の額に触れる。
前髪をかき分け、髪をすくように頭を撫でてやる。
そうしていると気持ち良いのか彼女の顔が僅かに穏やかになる。
あどけない表情で眠る彼女の様子は微笑ましい。
紅原の袖を掴んで離れない手が見えた。
その手は細く頼りなく見えた。
どれだけ見ても彼女に関する記憶は思い出せなかった。
しかし相変わらすその顔色は悪い。
そのことで紅原は先程自分がしようとしていたことの一部を思い出す。
しかし再び行う気にはなれなかった。
モラルに欠いている行為だとわかっているし、何より先ほどの激しい頭痛の存在が紅原を尻込みさせる。
一体あの頭痛はなんなのだろうか。
そして頭痛がするたびに脳裏にチラつく赤い記憶。
思い出そうとするが、靄がかって考えが阻まれる。
同時に脳裏に浮かぶ赤があまりに不吉な気がして、思い出そうとする気力を削いだ。
視線を落とすと眠る少女の顔が見えた。
記憶の欠落、頭痛と自身の体のおかしさは全て彼女に関わった時にだけ起こる。
どう見てもただの人間にしか見えないというのに一体彼女は何者なのか。
「……環」
再び名前を呼んでやると、なぜか寝ているはずの彼女の顔が僅かに嬉しそうに綻ぶ。
そのわずかでしかない変化に記憶にはないのに、なぜだろうか。ひどく胸が騒いだ。
本当に何なんなのだろうか。この感情は。
不安やいらだちとは異なる感情に戸惑う。
「……君は本当に、一体何者なん?」
ため息と同時に唇から漏れた疑問は誰にも伝わることなく薄暗い空気に溶けた。
その問いに応える声はない。
ただ眠る彼女の顔を見ているうちに何とも言えない感情が再び胸に湧き上がるのを感じる。
自分という存在がいるというのに安心しきったように眠る彼女の無防備さに苛立ちと同時に感じるこの感情は一体何なのか。
他の誰にも感じたことのない気持ちに、不意にいつの間にか彼女に触れようとする自身の手に気づいて、慌てて引っ込める。
極力視線を彼女から逸らしながら考える。
本当に彼女の男は一体何を考えているのか。もう少し彼女を教育しろと言いたかった。
こんなに無防備な様子では勘違いしてしまう男もいるだろう。
だが、彼女の体調の悪さを放置するような男だ。
もしかしたらこんな無防備な彼女の状態に惑わされる男をも見て笑っているのかもしれない。
その光景を思い浮かべ、顔もしれない男に憎悪に似た感情を抱く。
同時に彼女の見る目のなさも。
頬にかかる髪を払ってやれば、くすぐったそうに身じろぐ彼女の様子に紅原はなぜかこれ以上ここにいるのは危険な気がした。
なぜ危険なのか自分でもわからないまま、とりあえず立ち去らなければという焦りに紅原は部屋の外に足を向けた。
部屋を出る瞬間、一度だけ室内を振り返る。
ベッドの横たわった少女は動かない。
目覚める気配のない彼女に紅原は自分でもわからない感情のまま「…ゴメンな」とだけつぶやく。
それは結局なにもしてやれなかった自分に対してか、それとも別の感情故か。
自分の感情すら分からず、紅原はそっと部屋を出た。
共有スペースも出て、最後の扉を後ろ手で閉め、そっと溜息を吐いた。
なんだかとても疲れていた。
体は丈夫だし、体力も人よりあるつもりだが、主に精神的な疲れにすぐに立ち去ることができずぐったりして廊下の壁に寄りかかっていた時だった。。
しばらく扉の前でじっとしていたら、突然かけられ驚いた。
慌てて声の方に目をやれば、 部屋の前の廊下に幼馴染の姿があった。
「お、おまっ!いつから!?」
「え?今だけど……。なんだい。お化けでも見た顔で」
驚く真田の様子に、紅原はどうやら部屋から出てきたところは見られていないようだと判断する。
なんとか冷静さを取り戻し、軽く咳をしてごまかす。
「……いや、別になんでもない。でもなんでおまえがここに?」
「一応、ねえ。二人きりで送り出したものの、ちょっと無責任だったと反省して見に来たんだ」
「なにを反省することがあるんや?」
「そりゃ、君が送り狼になっていないか」
「なっ!!」
あまりの話に驚くこちらに怪訝な目を幼馴染が向けてくる。
「それは冗談だけど……てなに?その反応。…もしかして、君まさか本当に多岐さんに?」
「あ、あほ!なんもしとらんわ!」
嘘ではないはずだ。未遂は何していないことになるはずだ。
「まあ、ね。君にそんな甲斐性があるとは思ってないけどさ」
「……お前、俺を馬鹿にしとんのか?」
「まさか。むしろ信用してるって話だよ。これが蒼矢会長あたりだったら、そもそも二人きりになんてさせないし」
それもそれで男としては微妙な言われようである。
とはいえ、怒られないに越したことはないので、黙っておく。
……こういう対応こそが、甲斐性がないなどという評価をうける原因なのだろうということは自分でも気づいていたが、どうしようもなかった。
「……でもさ、円」
「なんや?」
「だからって、女の子の部屋に勝手に入っていいわけじゃないんだよ?」
にっこり笑う幼馴染の顔に硬直する。
「君、さっき多岐さんの部屋から出てきたね?
もう一度聞くよ?……まさかとは思うけど、多岐さんに本当に不埒な真似してないだろうね?」
「………なにもしとらんわ」
希の言葉に思わず、一瞬先程やりかけた行為を思いだし間が空く。
しかし流石に付き合いの長い幼馴染。見逃してはくれなかった。
「なんだい、その間は。ま、まさか円のくせに本当に…!?」
「あ、アホ!そんなわけあるか!ただ単に……」
言い訳しようとして、だが事実を言ってしまうには躊躇われた。
だがここで見逃してくれるほど目の前の幼馴染は甘くはなかった。
「ただ単に?……一応言い訳は聞いてあげるから、洗いざらい白状しなね?
じゃないとおば様にあることないこと話すよ?」
笑顔だが目が笑っていない幼馴染に円は口端がひきつるのを感じた。
希の言うおば様とは紅原の母親のことだ。
幼馴染で一応許嫁であるが希とは友情以上のものはないことを知っており、息子に彼女ができないのは自分のせいだと思い込んでいる節があるのだ。
だから必要以上に息子の女性関係が気になるらしい。
何かにつけて希に探りを入れているのを知っていたが、流石にあまり変な吹き込みをされるのは困る。
紅原は希の脅しにとうとう白旗を上げた。
仕方なく血を吸いかけたことと彼女に血を吸われた痕があったことだけ暈して、幼馴染に部屋での顛末を話す。
吸血香のことはたまたま知ってしまっただけで、彼女は知られたくないことだったかもしれないからだ。
あらかた語り終えると、希は深い溜息をついた。
「まったく、君も君だけど、彼女も彼女だね。さっき言ったばかりなのに、鍵をかけ忘れるなんて」
「…それは、体調が悪かったからとちゃうか…?」
「だとしても、女子部屋に勝手に入っていいというわけではないよ?」
じろりと睨まれ、視線を外らす。罪悪感があるだけにまっすぐ見れなかった。
紅原の様子をそのまま数拍観察していた希はそっと溜息を吐いた。
「だが、やはり疲れていたのだな。彼女には悪いことをしたな。そんなに体調が良くないなら案内に連れ回したりしなかったのに」
「それは仕方がないんやないか? あの娘も断らへんかったねんから。…ってなんや、その顔は」
「いや、君がフォロー入れてくるなんて思いもしなくてね」
心底意外そうな顔の幼馴染の顔になんだか気恥ずかしくなって、先ほどまで一緒にいたはずの利音の行方について訪ねれば、双子の相手をしているらしい。
「お前は一緒にいなくてよかったんか?」
「双子の目当ては利音だからね。私がいなくても問題はない。それより君たちの方が気になったからね」
まさか円に送り狼の資質があるとは思わなかった、と茶化され紅原は顔を顰めた。
「あのな、だから送り狼とかちゃうて。体調の悪い女の子心配するんは人として当たり前のことやろ?」
それに、初対面の女の子に手を出すほど困ってない、と言えば唐突に真田が真顔に戻る。
「…本当に?」
突然の幼馴染の反問の雰囲気に驚いて幼馴染の顔を見る。
珍しくからかいのない真っ直ぐな真剣な視線に驚き、次いで困惑する。
しかしこちらの当惑など気にせず、希はさらに質問を重ねてくる。
「本当に、多岐さんとは初対面かい?」
その答えははっきりしていた。何度考えてもあの顔や名前に見覚えはない。
間違いなく初対面のはずだ。
確かにおかしな感情や感覚はある。しかしあくまでも主観は一貫している。
「たしかに利音ちゃんの話やったら一回会うたことあるらしいけど、俺かて一度会った人間全て覚えているわけやあらへんし」
「それはそうかもしれないけど。でも、それにしては君、今回は様子がおかしかったから」
幼馴染の探るような目になぜか居心地が悪くて、視線をそらす。
そっと彼女の眠る扉に視線を送る。
ベッドで無防備に眠る彼女の寝姿を思い出すと、づくづくとした頭痛がした。
それに不安を覚えると同時に感じる締め付けられるような胸の痛みに自分がわからなかった。
不安が募るが、自身の精神的なものなので誰に相談していいのかもわからない。
そんな紅原をどう思っているのか。幼馴染はどこか苦しそうに眉根を僅かに寄せた。
「…円、君は…」
なにか言いたそうな希の様子に聞き返すが、真田は首を横に振った。
「いや、なんでもない。それより、円。君もなんだか顔色悪いよ。帰った方がいいんじゃない?」
突然体調を心配する言葉に、どうやら話を打ち切りたい相手の意図を読み取り、紅原はあえてそれに乗っかる。
「なんや、それ。今日はえらい優しいやないか」
「何だよ、それは。それじゃあ私がいつもは優しくないみたいじゃないか?」
憮然とする幼馴染の姿に少しだけ作り笑いでなく笑った。
「休みたいんはやまやまやけど、仕事戻るわ。五月は行事多いからサボれん」
「まあ、そうだね。中間テスト以外にもこれからいろいろ行事があるしね」
「そういえば、お茶会もあるしな」
名前を挙げれば、真田がおもいっきり嫌な顔をした。
お茶会とは名目上は新入生歓迎パーティーだが、事実上親衛隊主催の各それぞれのファンクラブと月下騎士会との交流会イベントだ。
これは親衛隊が主催となって行われる。
芸能人ではあるまいし、女子生徒に愛想を振りまかないといけないので紅原自身面倒であまり好きではないのだが、毎年楽しみにしている生徒がいる以上、行わざるを得ない。
それに、中間テストで上位者には月下騎士より特別なサプライズを用意するという謳い文句はなかなか効果があるらしく、この時期の中間テストの平均点を跳ね上げる効果を発揮したりもする。まあ女子限定ではあるが。
その点では教師陣からもなかなか受けの良いイベントだけに面倒でもやるしかない。
基本授業のないテスト休み期間に開催され、参加は自由だ。
しかし、ほぼすべての女子生徒と食べ物目当ての一部の男子生徒が参加するなかなかの大きなイベントだ。
「お茶会に関しては親衛隊の仕事やろ?今年は人数少ないし、どうするん?」
「そうなんだよ。全く、人手不足も甚だしいよ。でもここに来て二人補充されたからね。なんとかなるんじゃないかな?」
「二人って、利音ちゃんと、たま……いや、多岐さんの二人か?」
流石に入ったばっかりでこき使うんはどうか、と問えば希は溜息を付きつつ腕を組んだ。
「まあ、二人には悪いとは思うけど、正直手伝ってもらわないと手が足りないんだよ。
正直助かるよ。三年生は一人欠けているし。
美香ちゃんは中等部から親衛隊だからわかっているとは思うけど、高等部のイベントは初めてだしね」
現在の親衛隊の人物編成を見れば、なるほど新入りと言ってもあの二人は重要な戦力になるだろう。
間違いなく主として動くのは希になるとは思うが、それ以外の雑用も膨大な量になる。
例年であればもう少し近衛の数は多いのだが、今年は稀に見る少なさだ。
通常花嫁は何人いても困らないというのが吸血鬼の考えだ。
一人の月下騎士に数人の花嫁がいるのはごく普通だ。
しかし、今年は月下騎士に一人に対して多くて二人だ。
双子は二人で一人しか花嫁はいないし、緑水副会長のように親衛隊の存在そのものを否定し持たないものもいる。
正直通常近衛に割り振っている仕事も月下騎士で回しているような状態だ。
現在の月下騎士が歴代でも優秀と言われているがゆえに回っているが、通常では考えられない体制だ。
「手が足りへんほど仕事が多いのは申し訳ないと思っとるよ。
……まあ最近は、ちょっとそれとは別に仕事忙しうて大変なんやけどな」
「なにかあったのかい?」
「何かあったっちゅうか、……なんか会長の様子が変でな。」
「彼が変なのはいつものことだろう?」
希の珍しく刺を含んだ物言いに紅原は呆れて溜息を吐いた。
「…お前、本当に会長には辛口やな。嫌いなんか?」
「別に彼の手腕には素直に感心するけどね。それはそれ。人として尊敬できるとは別物なんだよ」
遠まわしに嫌いと言っているようなものだが、あえて指摘はしなかった。
「まあ、ええけど。まあ、いつもに輪をかけておかしい会長に緑先輩がご立腹なんよ。
もう部屋の空気が悪くてたまらんわ」
思わず出た愚痴に対しては希は何も言わず肩をすくめただけだった。
「まあその辺はご愁傷様としか言えないね。
こっちだって人数少ないなりに、手一杯なんだ。嫌なら親衛隊を増やすよう努力すればいい」
真田の言葉に紅原は渋面をつくる。
それはつまり花嫁を増やせということだ。
「嫌なこと言うな、お前」
「まあ、君が花嫁の存在をよく思っていないのは私とて承知しているよ。
でもね、私は君たちが私たち以外の自分で選んだ相手を見つけることに賛成だよ。
会長に関しては流石にいろいろ周りがうるさいだろうからね。
愛理香先輩みたいな人もいるからあまり大ピラに進めにくいが、君なんかは好きな相手があるのであれば素直になればいい。
別に私のことは気にするな」
実に朗らかに微笑まれるが、内容は決して笑えたものではない。
「希。せやかて、お前」
「真田は私が誰に嫁いだところで気にしない。欲しいのは血による縁故だけだ。
私はむしろ恵まれている方だと思うよ。少なくとも君がいてくれたおかげで割と自由にして来れた。だから……」
「っやめえ!そんな話。聞きたない」
紅原が睨むと流石に怒ったのが伝わったのか珍しく希が視線を逸した。
お互いに恋愛感情は皆無とは言え、それなりに長い時間を過ごした幼馴染だ。
紅原が彼女を捨てた場合彼女の立場が悪くなるのは明らかで、ヘタをすると顔もしれない吸血鬼に嫁ぐことになりかねない。
「まあ、そうだねこんなところでする話じゃない」
「せや。……はあ、俺は戻るわ」
「そうか。手伝うか?」
「いや、ええよ。まだこっちでできる範囲の仕事しかあらへん。どうせ放っといたかて、忙しくなるんやし」
「そうか。ならば言葉に甘えよう」
笑った真田のその言葉でこの場はお開きになった。
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