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3章 天空寮(ダイジェスト版)
ゲームの世界と、
しおりを挟むどこか怪訝な表情で見下ろす桃李にわたしはそっと閉じていた瞳を開いた。
視界は乳白色の薄い膜を隔てた様に見えるが支障はない。下の方に表示される枠も健在だ。
わたしはゆっくり首を振った。
『いいえ。なんでもありません。……それより桃李先生、ありがとうございます』
わたしは深々と桃李先生に頭を下げた。
視界下の枠は律儀にわたしの台詞さえ文字として表示する。まあゲームだしね。
そんな納得の仕方をしながら顔を上げれば桃李が怪訝なそうな視線と視線がぶつかった。
『何がだ?』
どうやら桃李先生はわたしの突然の謝礼に困惑しているようだ。わたしは自分で思う最大の笑顔を向けた。
『先生のお話を聞いているうちに悩みが晴れたんです』
わたしの言葉と顔に桃李がわずかに息を飲む気配がした。
『そ、そうか。ならいいんだが』
『はい、ありがとうございます』
再度お礼を言えば、桃李の頬にわずかに朱が走る。
照れているようだ。その表情の変化に、内心くすっと笑みをこぼす。
(かわいい)
桃李先生は年上だけど、その教育熱心なところが災いしたのか、あまり女の扱いがうまくなく意外に純情だ。
主人公が年下で生徒であるためか、恋愛感情がきちんと育つまではあまりこういった顔を見せてはくれない。
だから、私は内心首をかしげた。どうしてこんな表情を今の私に見せるのか。
脇役でしかない、しかも思いっきりモブ顔のわたしに。主人公差し置いてなんなわけ?
でも、まあこの際どうでもいいか。せっかくのゲームだし、楽しまなくちゃね。
わたしの考えなど全く気付きもしない桃李先生がそっと首を振った。
『いや、結局何も事情を聞いていないし、アドバイスもしてない。君一人出した結論に礼などいらない」
結局、相談に乗ってやれなくすまない、と少しさみしそうに微笑む桃李先生にキュンキュンする。
やん、やっぱり大人の魅力もいいわ~。桃李先生の仕草にいちいち見惚れつつもわたしは反応も欠かさない。
『いいえ、そんなことないです。桃李先生がいてくれたから出せた答えですし』
『いや、そんな謙遜しなくていい。だが俺は駄目だな。先日の詫びも兼ねてアドバイスしようと思っていたんだが……』
先日の、て。ああ、あの濡れ衣事件か。お詫びなんてこんなモブ相手に本当に気にしなくてもいいのにねえ。
あ、でもそれだったら。
『あ、それじゃあ、別のお願い聞いてくれませんか?』
わたしはにっこりと笑って、先日の数学の授業で分からないところがあったので教えてほしいと告げれば、どこか困惑したような表情の桃李がぎこちなくだが首を縦に振った。
『え?……あ、ああ。構わないが…』
『ありがとうございます!』
ちょっとぎこちないところが気になるけど、でも補講の約束を取り付けわたしは舞い上がる!
やった!これで一つフラグが立った。立ったよね?嬉しくて浮かれている私の背中に不意に視線を感じて、振り返ると桃李先生の視線とぶつかった。
戸惑うような表情の桃李先生がなぜか困惑気味に目を眇めている。
『……多岐?』
『はい。なんでしょう?』
突然名前を呼ばれて素直に答えたのに、なぜか怪訝な顔をされた。
『……いや、本当に多岐だよな?』
『そうですけど?』
目の前にいて先ほど言葉を交わしているというのに何を今更と思うのだが、目の前の桃李先生はしきりに首を傾げている。
『……いや。突然雰囲気が変わった気がしたから……、と、何を言っているのだろうな俺は』
『そうです、わたしはわたしですよ?』
桃李先生は疑わしそうにしながらも、はっきりと言えず困惑しているようだ。
その様子がなんだかかわいくて、わたしは思わずくすっと笑ってしまった。
『そんなにわたし、別の誰かにでも見えます?それとも……』
わたしはまっすぐ桃李先生に向かって少し寂しそうな上目づかいで見上げた。
『また、わたしの言うことを信じてくれないんですか?』
わたしの言葉に桃李先生が一瞬息を飲んだ後、わずかに苦しそうに胸を抑えた。
『……やはり、あのことを許してはもらえていないのか』
その反応にわたしは驚いた。あれ?なにこの反応?
なんか言葉の選択間違えた?
『そういうわけじゃありません。そんなに深刻にとらないで』
冗談ですよ、と笑って見せれば、今度はなぜか眉間に皺を寄せて睨まれた。
『どうして、あの出来事で冗談なんか言えるんだ?君は』
信じられないとばかりの顔にわたしはだんだん面倒臭くなってきた。
なんか意外に好感度高くない反応だな。やっぱり主人公でなきゃ靡かないのかな?
なんだ、やっぱり所詮は脇役なのか。つまらない。
せっかく苦労してここまでしたのに。
(あ、でも別の攻略対象なら反応違うのかな?)
そうとなれば、こんな相手に構ってはいられない。幸いすでに天空寮への転寮を果たしている。
寮に帰れば誰かしらと遭遇できるだろう。
わたしはその場からお暇するべく桃李先生に向き会おうとした時だった。
「桃李先生」
二人しかいないはずの広場の空間に別の声が響く。その声を聞いた途端、わたしの体は意思とは関係なく、ぴたりと固まった。
突然の硬直に訝しむが、体は動かない。原因として考えられるのは先程聞こえた声だが。
(あの声はあの人じゃない。ど、どうして…こんな反応するわけ?)
訳が分からないなりにわたしは必死に体を動かそうとする。そうしてようやく動いた首で声の方に顔を向けた。
そこには、予想通りの人物の姿。そして、それに重なるような黒っぽいフードをかぶった男の姿が見えた。
目の前の登場人物に重なるように表示されるフードコート姿に目を見開く。フードの男はわずかに見える口元を笑みの形に歪めた。
「ソレハ、ルール、イハン、ダヨ」
ピ―――っ。突然脳内に響く甲高いビープ音。雑音交じりの画像の乱れにわたしの意識は暗転した。
* * *
無心に原稿に目を落としていた彼女は不意に顔をあげる。
その瞳はどこか潤み、その瞳に僕をまっすぐ映す。
そして、どこか赤みを帯びた頬と艶かしい唇が動き、熱い視線に愛の言葉を……。
……え? 変なナレーションをいれるな?
気が散るから話しかけるな?
でも、君、今少し集中力途切れさせていたでしょう?
え、なんで分かるのかって?
そりゃ、ずっと君を見てるからね。
で、何か悩み事?
え? 言いたくない?
まあ、無理には聞き出さないよ。
僕って優しいから。
でも、言いたくなったら聞くから、言ってね。
……え?
読む気が失せたから続きは話せって?
もう、君ってばわがままだなあ。
でも、君のためならいくらでも。
えっと、どこまで読んだの?
あ、環が変な風になっちゃったところからだね。
この後、桃李と一緒の広場にきた第三者の声で環は意識を取り戻すんだ。
その人は蒼矢会長だ。
なぜ、彼がきたのかと言えば、門限やぶりしている天空寮生がいるという連絡を受けて探していた。
つまりは環を探していたんだね。
だが、近づく蒼矢会長に環は震え上がった。
環は先日の誘拐事件で蒼矢会長に噛み付かれていただろう?
あの、後遺症で、蒼矢会長を見ると本能的な恐怖で震えが止まらなくなっちゃってたんだ。
環は思わず、桃李にしがみついちゃうんだけど、幽霊に似た環を見た蒼矢会長は、なんとか環と話がしたいと躍起になる。
そこで、環の門限やぶりを盾に一緒に来るように蒼矢会長は手を差し出す。
だが、見るだけで震えが止まらない環は当然拒否。
しかし、月下騎士会の顧問である桃李も自分の味方ではない気がして、環はその場を逃げようとする。
でも、それに気付いたように桃李に手を掴まれて逃げられない。
絶体絶命のピンチに青ざめていたら、まさかの救いの手が現れた。
誰だと思う?
分からない?
桃李だよ。
桃李は門限やぶりは誤解だと蒼矢会長に告げた。
曰く、自分の仕事を手伝っていたから遅くなっていたのだと。
もちろんそんなのは嘘八百で、蒼矢会長は納得しなかったけど、桃李は言葉巧みに蒼矢会長を追い払うんだ。
さすがにそこは年の功というか、桃李のほうが一枚上手なんだね。
蒼矢会長は悔しそうにしているけど、桃李の言葉に逆らえず、去っていく。
それに安堵していたら、当然桃李に蒼矢会長との関係を聞かれるけど、環は答えられない。
幸い桃李はすぐに引いてくれた。
しかも、門限の件も蒼矢会長に説明したとおりで口裏をあわせることになったんだ。
その時、「二人だけの秘密」とささやかれて、桃李の大人の色香に環はちょっと頬を赤らめさせた。
そんな話をして、いざ、帰る段になって、環は桃李にしがみついたままだということを思い出す。
しがみついたままだったためかシワになってしまった桃李のスーツに慌てふためく環。
桃李はそんな環に、別にアイロンをかけておけばなおるから、と優しく声をかけるんだけど、その答えが環にはとても以外に聞こえて、思わずそれを口にしてしまう。
つまりは桃李先生はお金持ちなのに、アイロンがけなんてするの? イメージわかな~いってね。
まあ実際こんな言葉は使わかないけど、ニュアンス的に同じようになって、桃李を少しむっとさせてしまうんだ。
桃李は環が自分に対して偏見があると指摘する。
桃李は自分の身の回りのことはひと通り自分でするぞ、て環にいうけど、それに対し、全くイメージが出来ない自分に愕然とする。
だって、その時に環が思い浮かべられた桃李の姿は全てゲーム内のものだったから。
彼女はいつの間にかゲームを通してしか現実を見なくなっていた自分を自覚して、落ち込む。
桃李に謝るけれど、詳細を伏せての環の話に桃李は困惑する。
そのうち、そろそろ夜も遅いから帰ろうという話になるわけだ。
その時に環はゲームの知識はほどほどにちゃんとこの世界の人間として周りと関わろうと決意する。
うまくいくかわからないけど、それでも自覚して行動することは良いことだよね。
誰に対してだって偏見だけで付き合っていても、うまくいくはずがないからね。
まっすぐ向かい合って、相手のことをちゃんと見て。
実際に向き合わないと見えないこともたくさんあるからね。
ほら、今僕らも向かい合っているだろう。見つめ合って、何か感じるところはない?
……て、突然立ち上がって何?
え? ちょっと行ってくるって?
どこに?
え? ちゃんと差し向かいで話し合ってくるって、誰と?
ちょっと、待って……ああ、行っちゃった。
でもあの様子だとなにか吹っ切れたのかなあ。
まあ、また明日聞けばいいか。
……て、そこにいるお前。
なにフードかぶって、こっちを見てるの。ちょっと怪しいよ。
なに、もしかしてずっと見てたの?
相変わらず、悪趣味だなあ。
え? 彼女が誰かって?
……珍しいね。お前が彼女以外に興味持つなんて。
でも教えないよ。
え? ケチって。
お前に彼女紹介したら減りそうだから当然だろう。
お前にはあのヒステリー女がお似合いだよ。
え? 彼女を悪く言うな?
絶賛迷惑かけられ中なのにお前こそ、良くそんなことを言えるね。
恋は盲目とはよく言ったものだよね。
まあ、悪く言ったのは悪かったよ。ごめん。
それより、一応これ、今までの原稿だよ。
あの娘に見てもらったから、多分大幅に外してないと思う。
……うん。彼女結構なゲーマーらしいから、参考になるよ。
さすがの僕も女の子目線できっちり仕上げられるか不安だったし。
……ああ、わかってるよ。あのことは話してないから。
気付かれてもないよ。
その証拠に今までこの原稿渡しても普通に読むだけで、特に疑問を挟んできたことはないから。
彼女は純粋にこれがただの物語だと思ってる。
え? そんなに僕があの娘に話さないかが心配?
そこは信じてもらうしかないよ。
お前、僕を信用したから話を持ちかけてきたんじゃないの?
まあ、ともかくお前はお前で頑張れよ。
僕なんかに構うよりずっとやることがあるんだろう。
実際こんなところに入る隙あるの?
ああ、じゃあ、また……用事があったら連絡するよ。
ばいばい。
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