ダークな乙女ゲーム世界で命を狙われてますSS集

夢月 なぞる

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童話パロ:シンデレラ

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 それから男は国王を守るためだろう準備をするために出て行った。
 なぜかあたしにここに居るようにきつく言いおいて。
 なんでなのだろう?あたしは彼にとって怖い、気絶するほどこわーい幽霊だというのに。
 再び会いたいとでも言うのだろうか?気絶したいのだろうか。
 ……マゾなのか?

 とりあえず、約束はさせられてしまったものの、もちろん守る謂れはない。
 というか、万が一衛兵率いて戻ってこられた日にはマジ死亡フラグです。
 あたしはそっと部屋から抜け出そうとした。しかし。

「っ!」

 開けようとした扉を慌てて元に戻す。
 な、なんで?なんで外に衛兵が立っているわけ?
 そのことで男の考えがわかって青ざめた。
 たぶんあの男はあたしを不審人物だって思ってこの部屋に閉じ込めたんだ。

 そりゃそうか、俄然怪しいもんな、自称幽霊女。
 先ほどの何やら真剣に話を聞いてくれていたから、こちらを信用してくれたのだと勝手に思い込んでいたようだ。
 自分の迂闊さに腹が立つ。
 だがこのままおとなしくお縄になるつもりはない。
 あたしはそっとバルコニーの方へ歩いて行った。
 窓を開け周囲を確かめる。誰も見張りはいないようだ。

 ふ、詰めが甘いな。
 あたしは邪魔なスカートをたくし上げ手すりに足をかけた。
 …もちろん自殺なんてしないよ?
 足元を見ればもちろん落ちれば死ぬ高さなので極力見ない。
 勢いつけて隣のバルコニーに飛び移った。
 足場は悪いが距離はない。運動神経たいしたことないあたしでも無事着地だ。
 ふう、人間命掛かればそれなりのことができるもんだ。

 それを何度か繰り返し閉じ込められていた部屋から離れた部屋で内鍵のかかっていない部屋を発見しそこから脱出した。
 衛兵に見つからないように移動するのは普通の女でしかないあたしにはなかなか骨の折れる作業だった。
 しかし見つかれば縛り首だ。
 
 なんとしても逃れなければという思いから、あたしはある場所へ向かっていた。
 もはや舞踏会が終わるまでとか悠長なことを言っていられない。
 移動しながら喧騒のする方に耳を澄ませる。
 舞踏会は特段問題なく進んでいるようだった。
 国王の身辺は気になったが、おそらく大丈夫だろうとなぜか思った。
 先ほどの男は確かにあたしを騙し射ちにして閉じ込めたけど、おそらく国王を守ると言った言葉は嘘じゃない。
 そう信じたかった。
 最早あたしにできることはないから、言い訳なのかもしれないけど。

 あたしはそっと舞踏会の会場とは逆の方向へ走った。

「…君、ちょっと待ちなさい」
「は、はい!?」

 突然呼び止められ硬直する。
 う、気づかれたか?逃亡中の不法侵入者だと。
 いやバレてない可能性もある。いまのあたしは女中服を着ているのだ。
 女中と間違えてくれていれば問題はないはずだ。
 だからあたしは内心の動揺をひた隠して振り返った。
 振り返った先に黒い服を来た男性が立っていた。
 服装が城の門に立っている衛兵と同じだ。
 ということは衛兵か?二十代半ばくらいの黒い髪をなでつけた美丈夫だ。
 なんか高貴そうな血筋っぽい雰囲気だ。
 本当に衛兵か疑問はあるが、彼が何者なのかあたしに判断などつくはずもない。
 まあいいや、とりあえず衛兵で。
 衛兵はあたしを怪訝な視線で見下ろす。

「すまないが、三つ先の部屋の女性に飲み物と軽い軽食を持って行ってくれないか?
 私は給仕係ではないと言っているのに聞かなくてな」

 どうやら、あたしを女中と勘違いして話しかけてきたらしい。
 バレていないことにホッとして、ついでバレないように姿勢を正して女中を演じる

「分かりました。少々お待ちくださいとお伝えください」

 もちろんそんなことするつもりはないが、嘘も方便だ。
 あたしは、男に軽く会釈するとその場を離れようとした。

「君、そちらは厨房ではないだろう、何処へ行くんだ?」
「え?あ、そうでしたね」

 男に注意されて慌てて別の方向に足を向ける。

「そちらでもない!…君は本当に給仕か?」

 しまったと思ったが遅かったらしい。
 なんだか疑いの眼を向けてくる衛兵に内心汗だくで誤魔化す。

「す、すみません。方向音痴の上に最近入ったばかりで」
「そうか、まあ見かけない顔とは思ったが…。ん?なんだか君濡れていないか?」
「え?」

 あ、やばい。
 考えてみればずぶ濡れの服のまま歩いていた。
 時間がたって表面はやや乾いてきていたが、それでもじっくり見られれば濡れていることはわかるだろう。
 ずぶ濡れの新人女中。
 怪しい。怪しすぎるでしょ、自分!
 だがここで捕まるわけにはいかない。
 目的地まであと少しなのだ。
 なんとか誤魔化そうとない知恵を乏しい演技力とともに搾り出す。

「え、えっと先程まで、厨房の手伝いで水回りをしていたので」
「……厨房とは頭から水をかぶる仕事でもあるのか?」

 明らかな疑惑の眼差しで見られれば、顔を伏せるしかない。
 ううう、あんまり見ないでくれ。顔を覚えないで!
 だって、覚えられたら後で人相書きとか出回りそうじゃないか。
 やだよ?犯罪者として国中に指名手配は。
 しかし衛兵の男の厳しい視線は向いたまま。どうしたらいいんだろう?

「…それにその服、…君は…」

 このままでは不審者として突き出されてしまうかもと、内心泣きそうになっていると天の助けが来た。

「ちょっと、貴方何サボってるの?」

 あたしと同じ服を着た知らない女性が声をかけてきた。

「この忙しいのに、呆と突っ立ってるんじゃないわよ。早くテーブル片付けて頂戴」
「は、はい!」

 言われてあたしはこれ幸いとその場から指示された場所に飛んでいく。
 背後で衛兵が「ちょっと」と声をかけてきているのが聞こえたが、無視だ!
 テーブルに向かう途中、背後から先程あたしに指示を飛ばした女性の猫なで声が聞こえた。

「桃李将軍?あんな小娘に構わないで」

 女性の言葉の内容に足を止めずに驚く。
 あの衛兵、王国の守護者といわれる桃李将軍だったのか。

 うわ、とんでもないのに捕まるところだったよ自分、危ない危ない!
 ていうか、なんで将軍がそんな衛兵みたいな姿してんだよ!
 もっとキラキラしいよくわかる服着てろよ!紛らわしい!

「…君、私はあの娘に話が…」
「嫌ですわ?あんな小娘のどこがよろしいのです?あんなのより私の方が…」

 背後から聞こえる何とも艶かしいやり取り。
 うむむ。助かったからあんまり言いたくはないんだけどさ。
 それにしてもあの女中、将軍に色目を使いたかっただけで、声かけてきたんかい! 
 まあ桃李将軍が美形であることは同意するが、仕事中色目を使うなど働く職業女を目指すあたしとしては言語道断。仕事をなんだと思ってんだ! 
 怒鳴りつけてやりたいが、今は逃げる方が先だ。職業も命あっての物種だ。
 背後に突き刺さったままの将軍の視線から逃げるように舞踏会の会場の人ごみに紛れるように突入した。

 その場所はとても華やかだった。
 大勢のきらやかな衣装をまとった男女が実に楽しそうに談笑していた。
 その顔には仮面がかけられ、仮面をつけていないものはその服装からも給仕なのだとわかった。
 多くの魔法の光がともされたシャンデリア、豪奢な装飾のエントランスホール。
 キラキラと輝いてみえたが、入って早々の感想は「来なくてよかった」だ。

 室内の中央はオーケストラを背景にしたダンスホールと化しているが、その中でもとても目立っている二人組の姿があった。
 ひとりは本当に人間だろうかと思うほどの美貌の男だ。黒いタキシードに黒いマントを付け、それが豪奢な金の髪をより引き立てている。どんな美女も虜にするだろう綺麗な葵瞳は、しかしただ一人しか姿を映していない。
 その相手たる少女はこれまた男に見劣りしない美少女だ。
 茶色の巻き毛をゆうことなく後ろに流し、薄いピンクのドレスを翻し、その踊りながらもくるくると変わる表情は周囲の異性の視線を独り占めにしていると言ってもいい。
 …だれが想像で来るだろうか。
 この二人がついこの間まで世界を恐怖のどん底に落とそうとしていた魔王とそれを倒した勇者であることを。
 周囲の視線をひたすら集めまくる二人だが、彼らは全く気にすることなく踊っている。
 あのひと目もはばからない魔王の熱視線に当てられた周囲の女性たちが時々ぱたりと倒れているのが見える。
 何とも歩く公害だなあの人は。
 ともかくやっぱり舞踏会断っといてよかった。
 なんでか利音お姉さまはあたしがいるとあたしにべったりひっついてくるからね。

 そうなれば必然と魔王の嫉妬とその他の人々の嫉妬と羨望と興味の視線を受ける羽目になる。ううう、想像しただけで胃に穴が飽きそうだ。

 とにかくあんまりここにいて存在がバレても怖い。あたしは給仕するふりをしながらもそっと目的の場所へ移動していった。

「あ、あの困ります」
「いいじゃないか、ねえ、一曲だけだから」

 壁際を給仕している振りをするためにお盆に飲み物を乗っけたものを持って移動していたあたしにその言葉は聞こえてきた。
 みれば進行方向にドレスの女の子に絡んでいる男がいた。
 双方とも仮面をつけているが、女の子の方は素顔が見えないにもかかわらず、その美少女っぷりがダダ漏れているほど可愛い。
 やや幼目だが、レースのふんだんにあしらわれた白いドレスは彼女の愛らしい容姿を引き立て、小動物を思わせる仕草がさらにその可愛らしさに華を添えている。
 どう見てもダンスに誘う男を嫌がっているようにしか見えないが、その仕草すらむしろ男を燃え上がらせるだけにしか見えない。

「ねえ、どうせ一人でしょ?俺とこのあとどう?」
「え?ど、どうって?」
「だからさ、二人でこのまま抜けようってこと」
「ええ!?い、いえ、流石に連れがいるので」
「え~、さっきから見てるけど、一緒にいなかったじゃない」
「い、いや、なんか食べ物を取りに行ったきり戻ってこないだけで…た、琢磨ぁ」

 ツレを呼ぶ声にどこか聞き覚えがあって、思わず立ち止まる。
 あれ?なんか聞き覚えが。声の主である美少女。
 あんな美少女知り合いにいたっけか?
 だが、疑問に思っている間にも二人の会話は進んでいく。

「そんなに怯えないでよ。別に変なことをしようというわけじゃないしさ」

 そう言ってグイグイと美少女の手を引いて連れて行こうとする男。

「あの、は、離してください!」

 怯えた様子の美少女は抵抗しているが、男の力に抵抗できておらず、ズルズルと引きずられそうになっている。
 ・・・流石にここで見捨てるのはなんだか寝覚め悪いかね?
 逃亡中としてはあんまり派手に立ち回りたくないし、そもそもあたし自身非力だし。

「いいじゃない。二人で楽しいことしようよ?」

 ニヤニヤといやらしい顔で笑う男にうつむいたまま美少女が何かつぶやいた。
 その光景になぜかあたしは既視感を覚える。

「え?なんか言った?」
「…赤い色は…炎の…」

 のんきな男の前で美少女のつぶやきを聞いた瞬間あたしは手に持った飲み物を思いっきり音に投げつけた。

 ばしゃ!がっちゃん!

 盛大な音がして、周囲の視線が向くが、かまってられるか。

「わっ!な、何するんだ!お前!」
「っ!た、多岐さん!?」

 投げつけたあたしに向かって美少女が名前を呼んだ。
 や、やっぱりか。

「ど、どうしてこんなところに…!?」

 それはこちらのセリフです。一体なぜに貴方がこんなところにそんな格好でいるんですか?霧島くん。
 霧島くんは冒険者ギルドの魔法使いだ。
 先日たまたま、街で絡まれていたのを助けたのが縁で知り合った。
 自警団呼んだふりしたら男が逃げてったので、助けたかって言うとどうかと思うけど。

 その時も彼は男に美少女と間違われて絡まれていました。
 いや、その美少女顔は正直間違われても仕方ないのですけど、彼ってば絡まれて混乱すると魔法を所構わずぶっぱなすところがあると、その相棒に言われていたのだ。
 どう考えても、さっきぶっぱなそうとしてたよね?
 王宮で、しかもこんな人の多いところで。
 国家反逆罪にでもなりたいんですか!?
 男に対してはぶっぱなしても自業自得ですむが、流石にここではまずいでしょうが!
 流石に知り合いが縛り首とか見たくないから!

「おい、お前。メイドがこんなことしてただで済むと…」
「お前こそ。俺のツレに手を出してただで済むと思ってんの?」
「うわ、お前なに…いでででで!」

 突然男の背後から聞こえた別の声に驚くと同時に、男の悲鳴が木霊する。
 男の手をひねりあげている男は。

「た、琢磨あ!どこ言ってたんだよ!」
「悪い、大翔。ちょっといろいろ摘んでたら時間かかってな」

 女装男子の美少女が半泣きで指を突きつける相手は、彼女…いや彼の仲間の冒険者だ。
 やっぱり二人で来ていたか。
 お願いだから目を離さないでもらえないか?
 しかしこちらの願いなど当たり前だが届かず、霧島くんの相棒はニコニコ笑いながら

「それより喜べ。なかなか面白い料理が見れたぞ。これで結構レパートリー増えたから食事楽しみにしろよ?」
「そ、それは嬉しいけどさ。それよりもう帰ろうよ。琢磨が、城で出される料理を見たいっていうから、僕がこんな格好したけど。もうこれ以上は…」

 …大体の事情は把握した。
 どうやらこのふたりは城に料理を見に忍び込んできたようだ。
 今日の舞踏会は若い女性連れなら大抵、ほとんどノーパスで入れるから、おそらく霧島くんに女装させたのだろう。
 恐ろしくにあっているので誰も彼が男だとは思うまい。

「おい、お前たち。そこで何を騒いでいる!」

 騒ぎを聞きつけたのだろう、衛兵が数人こちらに来るのが見えた。
 やばい!見つかったらあたしの方こそ縛り首だ。
 あたしは慌てて身を翻して、人ごみに紛れた。

「あれ?多岐さん?!ど、何処へ?」

 背後から霧島くんの声が聞こえたけど無視して逃げる。
 どうか衛兵にあたしのことを言ってくれるなよ?
 それだけを願いながらあたしはその場を逃げ出した。
 くっそー、いらない時間を食った。

 とりあえず、さっさとここからでなければ。
 ほんと下手に知り合いに会いたくない!
 なんか下手に絡まれたらひどい目に会いそうな気しかしない。
 それこそ死んじゃいそうな特大の死亡フラグだ。

 舞踏会会場はやっぱり思った以上に危険がいっぱいだ。
 目的地に行くなら、ここを突っ切った方が早いけど、死亡フラグには変えられない。
 とりあえずここから出るべく、一番近い奥に通じる通路に出た。
 やや明かりを落とした感じの通路で、なんだか不思議な雰囲気の場所だ。
 そう言えば舞踏会から入ってすぐの場所だというのに既に人気がなくなっている。
 うう、一体どういうところなんだろう。
 だが、通路はまっすぐ伸びている。
 方角的に見てもこのまま進んだら目的地につくだろう。
 あたしは意を決して足を進めた。
 しかし進み始めて激しく後悔した。
 こ、ここは…。

「…あ……」

 薄闇に溶けるような甘い女の声がかすかに聞こえる。
 喘ぐような吐息と、ついで衣擦れの音が静かな空間にかすかに響いた。

 のおおおおお。
 一体何ですか?この通路は。
 なんか柱の影とか置かれている家具のところとかに一定間隔に見えないけれど人の気配がする。
 しかも大抵男女の二人組で…。
 しかもさなんか…すっごい密着してて、ううううううう。

 とりあえず、目をつぶり気味にさっさと歩いてきたけど、もうヤダ。
 なんなの?こんな通路なんかで皆なんでそんなことできんの?
 とりあえずあたしはただのメイドの幽霊なので何も見てません。見てませんから!

 必死で通路を抜けるべくあたしは極力耳を塞ぎ、目を塞ぎ歩いていく。
 だが、いくらなんでも歩いているので全部塞いで歩くことができない。
 あたしは必死で頭から聞こえてくる音を追い出しながら歩いていた。
 そこへ聞こえた声にあたしは思わず立ち止まった。

「……で?あれの方どうなの?」

 それまで聞こえてきていた意味不明な声とは違うはっきりと聞き取れる声にハッとする。
 その声はあたしの進もうとしていた場所から聞こえてきて、あたしは慌てて柱の影に身を隠した。
 なぜ、隠れたのかといえば、声に聞き覚えがあったからだ。
 その声は先程リネン室で聞いた女の声だった。
 国王暗殺計画を練っていた男女の片割れ。
 どうしてこんなところに彼女がいるのか。
 あたしは緊張に胸が早鐘のように打つのを感じた。

「…無事にことは進んでいるさ。…心配するな」

 今度は男の声が聞こえる。
 こちらも先程聞いた声だった。
 どうやら犯人グループが密談しているようだ。
 さらなる緊張にあたしは混乱した。
 な、なぜにあたしの進行方向にいる!?
 さっきから嫌がらせか?!…いやそうじゃないだろうけど。
 どうやらこちらの存在には気づいていないらしい男女はそのまま会話を進めていく。

「時間は?」
「もうすぐだ。どうやら王子様は相手を決めたらしい。」
「そう。じゃあ、あとは手はず通り、お披露目と同時に…」
「…ああ、長い間だったが、ようやく俺たちの悲願が…」
「…しっ!」

 突然男の声を女が遮った。
 その音にギクッと体が震える。
 ま、まさか…。

「?…なんだ?どうした」
「…どうやら子猫が一匹柱の影にいるようよ?」

 女の声に背中に嫌な汗が伝ったのを感じた。
 見つかったー!!
 隠れようかと周りを見回すが、そもそも今隠れている時点でこれ以上どう隠れればいいんだ!
 そう考える間にも人の気配が近づいてきているのを感じる。
 心臓がばくばく口から飛び出そうだ。

「…まったく、どこの子猫かしら?立ち聞きなど躾がなっていないわ?」

 カツンカツンとヒールの音が静かな空間に否応にも響く。
 艶やかな女の声が少しづつ近づいてくる。
 どう考えてもこのまま見つかれば、ろくな結果が待っていなさそうな気がする。

「ねえ、出ていらっしゃいな。今なら許してあげるから?」

 いや、絶対それ嘘だよね。どう考えても無事じゃすまない前フリだよね?
 汗がダラダラと流れる。
 相手はただでさえ男女の二人、あたしは今ひとり。
 しかもただの一般市民だ。
 不思議なチートとかありませんから!
 ああ、絶体絶命。どうやらあたしの命運もここまでか!?
 そう思ってあたしは何もかも諦め目を閉じた。
 次の瞬間あたしは横合いからすごい力で引き摺り出された。

「…あら?」

 女の声が響く。

「どうした?」
「……おかしいわね?誰かいたと思ったのだけど?」
「気のせいじゃないのか?こんな場所早々人が来るはずもないだろう?」
「…そうね。緊張して神経が過敏になっているのかしら」
「なんだ珍しいな、お前が緊張なんて」
「…こんなときに茶化さないでちょうだい。…それより行くわよ。ぐずぐずして、計画が崩れたら大変だもの」
「ああ、そうだな」

 ………。
 二人分の足音が遠ざかっていく。
 十分時間がたって、二人の気配が完全に消えたときようやく体をはなされた。
 闇に溶けるかのような狭い空間から解放され、あたしは背後に向き直った。
 そこには一人の魔法使いの姿があった。
 その魔法使いには見覚えがあった。

「…なにやってんの?環ちゃん、こんなとこで?」

 赤毛の魔法使いは胡散臭い笑顔でそんなことを聞いてくる。
 いや、それはこちらのセリフだ。変態魔法使い。いや、自称魔女か?
 あたしを背後から引き摺り、暗がりの部屋に隠してくれたのが彼だった。
 彼は今日の昼頃に突然あたしの前に現れた魔法使いだ。
 突然現れて魔法でドレスアップしてやるから、お城の舞踏会に出てくれと行ってきた。
 舞踏会に行く気はもちろんなかったし、何より目の前の存在が怪しいことこの上なかったのでダッシュで逃げた。
 そのままもう二度と会うこともないと思っていたのだが。
 とりあえず助けてもらったことには変わりないので、お礼を言うことにする。

「あの、助けてくれてありがとうございます」

 じゃ、あたし、ちょっと急いでますので、と続けようとすると言葉を遮られた。

「…ちょい待ち、何処へ行くん?まだ質問に答えてもらってへんのやけど?」

 っち、このまま見逃してくれる気はないらしい。
 面倒な。ていうか、なんであたしの名前知ってるんだ?魔法使い。
 名乗ったつもりも名前呼びも許した覚えはないんだが。
 だが、今は不法侵入で逃亡中の身の上。あんまり突っ込むとこちらが突っ込まれそうなので、ごまかす方に全力を尽くす。

「あの、ちょっと迷い込んでしまって…」
「うん、そうやろね。ここがどういうところだか分かってへんやろ?」

 魔法使いが言うには、ここは舞踏会でであった男女が逢引を楽しむために、わざと薄暗く作っているらしい。
 その話に思わず赤くなる。ううう、なんとなくわかってたけど、やっぱりそんな場所だったとは、お城にそんな場所があるなんてなんかショックだ。

 この地帯は暗黙の了解で男女二人でしか行かない地帯になっているらしい。
 そこにメイドがのこのこ女一人で歩いて入っていったのを見とがめ、さらに見知った顔であったので魔法使いは追いかけてきたらしい。

「な、なんでそんな場所が、お城に?」
「先代の王の悪しき風習やね。こういうところをいきなりなくすと貴族の反発とかあるからなかなかなくされへん。国王はとっととこんな場所廃止したいらしいけど…、てまあ、ええわ。それは。それよりなんでそんな姿でいるん?」
「え?…いや、これには深い事情が…」

 大した事情じゃないが、自称神様にプリンのお礼に強制されたといったら頭の構造を疑われてしまうのでごまかしておきたい。

「それ、王族専属のメイドの服やろ?どこで手に入れた?」

 え?なんですと?!
 そんなの知らないよ。

「えっとそれは…」

 追求されて答えにつまる。ええ、どう答えればいいの。

「それは?」

 目の前の赤毛の魔法使いが目を細めた時だった。
 ばっと、突然明かりが消える。
 それに驚いた魔法使いの意識が一瞬あたしからそらされた。
 その気を見逃すはずもない。
 あたしは火事場の馬鹿力とも言える瞬発力で、その場を逃げだした。
 背後で、遠く「暗闇ダンスの趣向です。お楽しみください」のアナウンスが聞こえた。
 なるほど、粋なイベントだ。グットなタイミングです。

「え?あ、ちょい、君…!?」

 後ろで魔法使いの呼び止める声が聞こえたけれどもちろんまるっと無視です。
 あたしは全速力でその場を駆け去った。

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