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第三章 あなた
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しおりを挟む木枯らしの吹き荒れる中、なんとか辿り着いた場所。
「おはようございます」
声を掛けると、事務仕事をしていた職員さんが振り返った。
「あら、今日も早いですね」
「ええ…寒いから、綿入れを持ってきたんです」
「暖かそうですね」
「…彼、これが好きなんですよ」
面会受付で名前を書いて、中に入る。
スリッパの音が廊下に響き渡る。
一番奥の部屋。
そこに彼は居る。
「智紀くん。来たよ」
「あ、祥ちゃん!」
ベッドの上で、智紀くんは嬉しそうに笑う。
絵を描いていたのか、鉛筆を握ってスケッチブックを膝に乗せていた。
俺はさっそく紙袋の中から綿入れを取り出した。
「ほら、これ。持ってきたよ?」
「おお!ありがとう!」
頭にニット帽を被ったまま、嬉しそうに綿入れに袖を通す。
「髪がないから、あったけえや…」
「もうすぐ生えてくるでしょ」
「うん…」
そういってニット帽を撫でる。
「生えるまで、生きてればね」
ここはホスピス。
末期のがん患者を受け入れている。
智紀くんはここに入って一ヶ月になる。
ご両親はとうに亡く、たったひとりで智紀くんは病気と戦ってきた。
白血病という病に冒され、一度は寛解したけど。
また再発した。
何度目かの抗癌剤治療をしたけど、これ以上の効果は認められないと。
治療は中止された。
「…そんなこと…言わないの…」
俯いてしまった俺の髪を、智紀くんは撫でた。
「ごめんね…祥ちゃん…」
それは優しい響きで。
残していく者の悲哀なんてちっとも感じさせないものだった。
髪を撫でる手をぎゅっと掴んだ。
「お願い…治療、しようよ?」
「無理だよ…」
「だって…まだいい方法、あるかもしれないし…」
「祥ちゃん…もう…俺、疲れた…」
細くなった腕…
抗癌剤治療で、吐いてしまって…
ろくに食事も摂れなくて。
智紀くんは一回り小さくなってしまった。
「もう…次の抗癌剤治療を受ける体力がないんだよ…」
「智紀くんっ…」
ぎゅっとその細い身体を抱きしめる。
「いかないで…」
「ごめん…祥ちゃん…」
「そばに居てよ…」
答えはなかった。
そのままじっと、智紀くんを抱きしめていた。
「祥ちゃん…」
「ん…?」
「俺ね、お願いがあるんだ」
智紀くんは、俺を見上げるとにっこり笑った。
次の週末、外出許可を貰った。
午後でいい。しかも3時過ぎに来いって言うから、その通りにした。
車いすを車に積み込み、智紀くんを助手席に乗せた。
「では、いってきまーす!」
元気に、職員の人たちに挨拶して、車を走らせた。
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【登場人物】ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
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