HEAVEN B HELL【BL短編集】

野瀬 さと

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第四章 哀婉

残像1

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租界を彷徨い歩いてた。

どこもかしこも汚い。
犬のクソだらけ…

なんでこんなとこ来ちゃったんだろ…

夜なのにひときわ明るい界隈にでると、その風景は一変した。

綺麗に整備された道路。
どぶの臭いなんてしない。

「なんだ…?ここ…」

気をつけて見てると、客引きが居る。

ああ…吉原よしわらみたいなところなんだ…

ぼけっと通りを眺めていたら、旗袍チイパオ(チャイナドレス)を着た女性が道を横切っていった。

春麗チュンリー…!」

この春まで、俺が付き合ってた中国娘。

まさか、こんなところにいるなんて…!
田舎に帰るからと泣く泣く別れたのに。
本当は嫁さんにして日本に連れて帰ろうと思ってたのに。

急いで追いかけると、春麗の後ろ姿は怪しげな建物の中に消えた。

一際明るい界隈なのに、そこだけは紫のベールが掛かってるみたいだった。

そこがなんだかもわからずに足を踏み入れた。

「いらっしゃいませ…」

蝶ネクタイの男が近寄ってくる。

「あんた、初めてネ?」
「あ、ああ…」
「男がいい?女がいい?」

カタコトが耳につくが、一応わかるからまだマシだ。
ここの支那人は、日本語を覚える努力もしないのが多いから。

やっぱりここ娼館なんだ…

ということは春麗は身体、売ってる…?

ぞっとした。

俺だけがあの身体を抱けるのに…!

「一通り、見る?」

そう言われて、彼女を探すために頷いた。

最初に見た部屋は10人近くいた。
雑多な人種が居て、とてもじゃないけど抱こうと思えるようなツラの女は居なかった。

次の部屋は5人くらい。
ここはもうちょっとマシなツラしてた。

次の部屋は2人。
ここまで来ると、ぐっとそそる。

でも春麗はいない。

最後の部屋は見るのをやめようかと思った。
だって、ここは一番人気の部屋だっていうし。

お世辞にも春麗は綺麗とはいえない。
可愛い子ではあるんだけど、とても一番人気なんて…

それでも部屋のドアを蝶ネクタイに開けられて、少しだけ覗いた。

あの旗袍を着た女が居た。

「春麗…!」

思わず声を上げた。

でも…

振り返ったその顔は、男だった。

「え…?」

ソイツは戸惑っていた。


…っていうか、こいつが一番人気…?


「お客さん、ラッキーだよ?この時間にユウが空いてるの」
「え…?え…何?らっきー?」
「日本人だし、いいモノ持ってるヨ?」
「え?この人日本人なの?」
「ソウダヨ。どうする?買う?」

春麗とは似ても似つかない、綺麗な顔でぽかんと俺を見上げている。

男なのに…さっきの女達よりも、いいことしてくれるってこと…?


「…買う…」


ありったけの金が懐から出て行った。
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