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第五章 あまのじゃくからの手紙
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少しだけ逡巡してるようだったけど、すぐに大樹は僕の顔を見て笑った。
「じゃあ、おまえをくれよ」
「えっ!?」
「それと…旅に出よう」
「え?え?」
「思い出、たくさん作ればいいじゃん」
あっさりと大樹は答えた。
「俺だっていつ死ぬかわかんねえよ。だから、おまえに思い出たくさんやるよ。それしかやれねえし」
「でも大樹は病気なんかしてないじゃないか…」
風邪ひとつ引かない、健康体じゃないか。
僕と違って、ぜんぜん男らしい体格してるし。
手の大きさだって腕の太さだって、ぜんぜん違う。
「ん?俺、病気だよ?」
「は?」
「だって…おまえのこと愛してるもん」
「はあっ…!?」
「充分、病気だろうよ」
言ってる間に、器用に箸とスプーンを使って煮魚を小皿に取り分けてくれた。
「ほれ、食え」
コトリと僕の前に小皿を置いた。
「ばっ…ばかじゃないのっ!?」
あ…愛してるとか…
まだキスだってしたことないのに。
「だから…病気だから、馬鹿なんだろ?」
一口、自分の小皿から煮魚を放り込んで旨さに悶えてる。
「…ほんと、ばか…」
「おまえだって、ばかだろうが」
「もおっ…」
…なんで…こんな僕を好きになってくれたんだろう…
なんで大樹は…ここまで来てくれたんだろ…
ノリコさんの怒り顔がまた浮かんだ。
松にいや、松木のお父さんお母さんの笑った顔…
ノリコさんはちゃんと伝えたんだ。
愛してるよって。
そして、僕の家族の笑ってる顔が浮かんだ。
父さんも母さんも、姉ちゃんも…
みんな、僕のこと愛してくれていたはず。
僕ももちろん、愛してた。
でもそれを伝えることは、永遠にできない。
「大樹…」
僕が、好きだから
僕を愛してるから
ここまで来てくれた、その気持ちにちゃんと応えなきゃ
「ん?どした?」
「…あのね…」
伝えなきゃ
もう、後悔したくない
「大樹と一緒に住む!一生、一緒に居て?」
恥ずかしかったけど、叫ぶように言うと食堂の外から拍手が聞こえてきた。
…やっぱり聞かれてた…
大樹はびっくりしてふすまの向こうを見てたけど、やがて破顔した。
「よしっ…明日から旅だ!」
「えっ…ちょっと待って僕、検査…」
「ああ、そうだったな。じゃあ検査が終わったら旅に出るぞ!まずは…どこにする?」
「ええー?日本にしてよ?僕、デリケートなんだから…」
もお…また天の邪鬼発動しちゃったよ…
いつになったら大樹に発動しなくなるんだろ。
「国内は高いじゃないか…俺、金ねえぞ」
ぜんぜん、気にしてないし。
「金なら僕が持ってる」
「ばあか…それは『家族の命』なんだから、取っとけ」
「大樹…」
「ちゃんと、おまえの命に変えるんだろ?」
「う、うん…」
「覚えてるよ?ちゃんと、直人が真剣に俺に言ってくれたことなんだから」
東京で最後に会ったとき…
あのとき、僕は『家族の命の金』の話もしてた。
大樹はそれをちゃんと覚えててくれた。
胸が、熱くなった。
泣きそうになった。
ああ…なんて僕は臆病だったんだろう。
あのときちゃんと確かめていれば…
こんな回り道せずに済んだのかもしれない。
…でも
そしたら、ここの人たちに出会えてなかったかもしれない
「あ、じゃあ絵を売ろう」
「え?」
「直人を描いた絵、売れそうなんだ…いい?」
いい?ってもう…それ、決定事項なんでしょ…?
大樹はいつも、決めてから物を言うんだから…
「…また、描いてよ?」
「当たり前だろ」
それまで笑ってたのに、急に真顔になった。
「…おまえしか描きたくねえし」
「ばっ…ばかっ…」
大樹の顔が優しく微笑んだかと思うと、ゆっくりと近づいてきた。
心臓がありえないくらい、ドキンと跳ね上がった。
…もしかして、キスされんの…かな…
そう思って目を閉じた瞬間、スパーンとふすまが開いた。
「そういうことなら、旅の第一弾は民宿まつきにて承りまーす!」
「そうだぞ!水臭いな…検査終わったら、もう一回ここからスタートすりゃいいじゃねえか!な?」
ノリコさんと松にいが乱入してきて、初キスは流れてしまった。
「何怒ってんだよ?」
「べつにぃ…?」
縁側に腰掛けながら、松にい特製のパインジュースを泡盛で割ったのを飲んでる大樹は上機嫌だ。
その隣に腰掛けてる僕は、少し不機嫌だ。
「直人~?拗ねるなよ…」
「拗ねてなんかないもん」
「なんでだよ。唇とんがってるぞ?」
「ちがうもん」
食堂からはついたままのテレビの音が聞こえる。
松木のお父さんとお母さんは今日は早く家に帰った。
松にいとノリコさんは厨房で酒盛りをしてるみたい。
上機嫌な声が、ここまで聞こえてくる。
夜の庭は静かで…
昼間の暑さを残したまま、僕達を包んでる。
「いいとこだな…ここ…」
「うん…いい人たちだよ…」
「良かった…」
「え?」
「おまえがここに居て、良かった…」
満足気に笑うと、グラスからお酒をごくりと一口飲んだ。
「なんで?」
「あの人達のお陰で、素直になったんだろ?だから、良かった」
なんだ…
やっぱ、何もかもお見通しなんだ
寡黙だけど、その分人のことよく見てるんだ
大樹にも、一生敵わないなぁ…
「…うん…そう、だね…」
ふっと笑った大樹の顔が近づいてきた。
僕はそっと目を閉じて大樹の手を握った。
初キスは、パインの味がした。
お元気ですか?
僕はとても元気です。
日々、透明な空と海を恋しく思いながら、東京の空を眺めています。
あれから、皆さんはどう過ごしていますか?
僕の部屋はまだそのままになっているでしょうか。
来週、そちらに帰ります。
やっぱり西表の空と海が一番元気になります。
だから、帰ります。
大樹も、一緒です。
皆さんに会えるのを楽しみにしています。
直人
【END】
「じゃあ、おまえをくれよ」
「えっ!?」
「それと…旅に出よう」
「え?え?」
「思い出、たくさん作ればいいじゃん」
あっさりと大樹は答えた。
「俺だっていつ死ぬかわかんねえよ。だから、おまえに思い出たくさんやるよ。それしかやれねえし」
「でも大樹は病気なんかしてないじゃないか…」
風邪ひとつ引かない、健康体じゃないか。
僕と違って、ぜんぜん男らしい体格してるし。
手の大きさだって腕の太さだって、ぜんぜん違う。
「ん?俺、病気だよ?」
「は?」
「だって…おまえのこと愛してるもん」
「はあっ…!?」
「充分、病気だろうよ」
言ってる間に、器用に箸とスプーンを使って煮魚を小皿に取り分けてくれた。
「ほれ、食え」
コトリと僕の前に小皿を置いた。
「ばっ…ばかじゃないのっ!?」
あ…愛してるとか…
まだキスだってしたことないのに。
「だから…病気だから、馬鹿なんだろ?」
一口、自分の小皿から煮魚を放り込んで旨さに悶えてる。
「…ほんと、ばか…」
「おまえだって、ばかだろうが」
「もおっ…」
…なんで…こんな僕を好きになってくれたんだろう…
なんで大樹は…ここまで来てくれたんだろ…
ノリコさんの怒り顔がまた浮かんだ。
松にいや、松木のお父さんお母さんの笑った顔…
ノリコさんはちゃんと伝えたんだ。
愛してるよって。
そして、僕の家族の笑ってる顔が浮かんだ。
父さんも母さんも、姉ちゃんも…
みんな、僕のこと愛してくれていたはず。
僕ももちろん、愛してた。
でもそれを伝えることは、永遠にできない。
「大樹…」
僕が、好きだから
僕を愛してるから
ここまで来てくれた、その気持ちにちゃんと応えなきゃ
「ん?どした?」
「…あのね…」
伝えなきゃ
もう、後悔したくない
「大樹と一緒に住む!一生、一緒に居て?」
恥ずかしかったけど、叫ぶように言うと食堂の外から拍手が聞こえてきた。
…やっぱり聞かれてた…
大樹はびっくりしてふすまの向こうを見てたけど、やがて破顔した。
「よしっ…明日から旅だ!」
「えっ…ちょっと待って僕、検査…」
「ああ、そうだったな。じゃあ検査が終わったら旅に出るぞ!まずは…どこにする?」
「ええー?日本にしてよ?僕、デリケートなんだから…」
もお…また天の邪鬼発動しちゃったよ…
いつになったら大樹に発動しなくなるんだろ。
「国内は高いじゃないか…俺、金ねえぞ」
ぜんぜん、気にしてないし。
「金なら僕が持ってる」
「ばあか…それは『家族の命』なんだから、取っとけ」
「大樹…」
「ちゃんと、おまえの命に変えるんだろ?」
「う、うん…」
「覚えてるよ?ちゃんと、直人が真剣に俺に言ってくれたことなんだから」
東京で最後に会ったとき…
あのとき、僕は『家族の命の金』の話もしてた。
大樹はそれをちゃんと覚えててくれた。
胸が、熱くなった。
泣きそうになった。
ああ…なんて僕は臆病だったんだろう。
あのときちゃんと確かめていれば…
こんな回り道せずに済んだのかもしれない。
…でも
そしたら、ここの人たちに出会えてなかったかもしれない
「あ、じゃあ絵を売ろう」
「え?」
「直人を描いた絵、売れそうなんだ…いい?」
いい?ってもう…それ、決定事項なんでしょ…?
大樹はいつも、決めてから物を言うんだから…
「…また、描いてよ?」
「当たり前だろ」
それまで笑ってたのに、急に真顔になった。
「…おまえしか描きたくねえし」
「ばっ…ばかっ…」
大樹の顔が優しく微笑んだかと思うと、ゆっくりと近づいてきた。
心臓がありえないくらい、ドキンと跳ね上がった。
…もしかして、キスされんの…かな…
そう思って目を閉じた瞬間、スパーンとふすまが開いた。
「そういうことなら、旅の第一弾は民宿まつきにて承りまーす!」
「そうだぞ!水臭いな…検査終わったら、もう一回ここからスタートすりゃいいじゃねえか!な?」
ノリコさんと松にいが乱入してきて、初キスは流れてしまった。
「何怒ってんだよ?」
「べつにぃ…?」
縁側に腰掛けながら、松にい特製のパインジュースを泡盛で割ったのを飲んでる大樹は上機嫌だ。
その隣に腰掛けてる僕は、少し不機嫌だ。
「直人~?拗ねるなよ…」
「拗ねてなんかないもん」
「なんでだよ。唇とんがってるぞ?」
「ちがうもん」
食堂からはついたままのテレビの音が聞こえる。
松木のお父さんとお母さんは今日は早く家に帰った。
松にいとノリコさんは厨房で酒盛りをしてるみたい。
上機嫌な声が、ここまで聞こえてくる。
夜の庭は静かで…
昼間の暑さを残したまま、僕達を包んでる。
「いいとこだな…ここ…」
「うん…いい人たちだよ…」
「良かった…」
「え?」
「おまえがここに居て、良かった…」
満足気に笑うと、グラスからお酒をごくりと一口飲んだ。
「なんで?」
「あの人達のお陰で、素直になったんだろ?だから、良かった」
なんだ…
やっぱ、何もかもお見通しなんだ
寡黙だけど、その分人のことよく見てるんだ
大樹にも、一生敵わないなぁ…
「…うん…そう、だね…」
ふっと笑った大樹の顔が近づいてきた。
僕はそっと目を閉じて大樹の手を握った。
初キスは、パインの味がした。
お元気ですか?
僕はとても元気です。
日々、透明な空と海を恋しく思いながら、東京の空を眺めています。
あれから、皆さんはどう過ごしていますか?
僕の部屋はまだそのままになっているでしょうか。
来週、そちらに帰ります。
やっぱり西表の空と海が一番元気になります。
だから、帰ります。
大樹も、一緒です。
皆さんに会えるのを楽しみにしています。
直人
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