HEAVEN B HELL【BL短編集】

野瀬 さと

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最終章 願わくば花の下にて恋死なむ

22

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好きだよ…


愛してる…




「教授、外に飯行きません?」

だいぶ遅くなった研究室に、教授とふたりきりだった。

中島さんも青木くんもとっくに先に帰ってて。
後片付けをしながら、飯に誘ってみた。

「えっ…」

顔面いっぱいに、不信感を表明していた。

こんな顔も、思い切り年上なのに…
思い切り、可愛い。

「なに…その顔」
「だって…遠藤が外で飯食おうなんて、珍しい事言うから…」

雪が降るとか言いながら、窓の外を見た。

「外食くらいしますよ俺だって…」
「だって、家が大好きだろ?おまえ…」

誰も居ないからって、教授は油断しきったことを言う。

「違うな…家でゲームしてんのが大好きなんだよな?」
「あのねえ…」


違うよ
家に居たかったのは、あなたと一緒にいたかったからだよ
こんな可愛い笑顔、他の誰にも見せたくなかったからだよ


「いっつも俺になんか作れって言うくせにさ。珍しいな」
「嫌ならいいですよぉ…」
「最近、家にも入れてくんないし…」
「…浮気なんかしてないよ?」

そう言うと、いたずらっぽく笑った。

「いいよ!どこいく?」



…いつまでも、この笑顔を見ていたい



片付け終わって、研究室を出た。

14号館の中は、必要なところ以外は電気が消えてて。
エレベーターの前に、二人で立った。

「ねえ…覚えてる…?」
「ん?」

教授は微笑んで俺を見た。

「ここ、遠藤と初めて会った場所だったよね」

ああ…覚えててくれたんだ…

「よく…覚えてたね…」
「遠藤も覚えてた?」
「うん…当たり前だよ」
「そっか…」

そっと俺の手の小指に、手を当てた。

「覚えてるよ…ちゃんと…」

見上げると、教授は微笑んで目を閉じた。


…そっと…


宝物に触るみたいにそっと、唇を重ねた








『桜は満開です。どうぞ、あの木の下に埋まった宝物を取りに来てください』







二人で14号館を出ると、腕時計を見た。

「ん?どうした?」
「ううん…」

胸が、張り裂けそうだった。


だけど…もう、時は来たんだ…


「こっちから行こ?」

いつも家に帰る道とは反対に歩く。

「わぁ…こっちはまだ桜が綺麗だねえ…」
「ね。満開だね…」

さらさらと、俺達の間に春の優しい風が吹き抜けた。

桜の花びらが、ふわりふわりと暗い構内に舞い散る。

「わ…凄い綺麗だ…」

教授は桜が舞い散るのに見惚れてる。

俺はそれを、後ろから心ゆくまで眺めた。




「……ゆずる……?」

あなたは、驚いて振り返った。

「え…?今、名前…呼んだ…?」

そのびっくり顔が可愛くて…思わず微笑んだ。

「も、もう…なんだよ、圭一…」

照れた顔を見ながら、後ろの桜を指差した。

「あの桜…綺麗だね」
「え…?」

振り返ったあなたの動きが止まった。





「なんで……」





止まっていた時が、動き出したようだった。





「久しぶり…」
「健市…」

二人は、あの桜の木の下で向かい合った。

「迎えに…来た…譲…」
「え…?」
「親が…去年死んだんだ。やっと…」
「嘘…」
「妻とも別れた。今は、東京に戻って就職してる」

あの人は、あなたの肩に手を置いた。

「譲…俺には…俺の人生には、おまえが必要なんだ」







桜の木は…包み込むようにふたりを花びらのヴェールで包み込んだ
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