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海鳴り
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それから2週間、俺は直也くんの代わりに民宿で働いた。
そりゃ、できないことだらけだったけど、優也よりはマシにできることだってあった。
チビたちの面倒を見ながら、民宿の仕事をして…
慌ただしく一日が過ぎていく。
「秋津さん!お疲れっ!」
全ての仕事を終えて、優也と晩酌する瞬間。
たまらなくビールが旨い。
「ねえねえ!直あんちゃん、明日帰ってくる!?」
陸人がくりくりの目で優也の顔を覗きこむ。
「うん。明日ね」
優也が嬉しそうに答える。
「やったー!なーあんちゃんのプリン食べたいー!」
海人がガッツポーズをしながら、食堂中転げまわる。
「こらっ!行儀悪い!」
べしっと海人のケツを叩くと、首根っこを掴んで起き上がらせる。
「ごめんなさぁい…」
「ほら、さっさと食う!」
急かさないとチビたちはいつまで経ってもご飯を食わない。
直也くんは、毎日こんなことやってるのか…
そら、熱出るわ…
陸人がお箸を持ったまま、俺の顔をじーっと見てる。
「なんだよ?」
「駿あんちゃん、ここに住むの?」
「えっ?」
「僕、駿あんちゃんと一緒に、毎日寝る!」
「あっ…ズルい!僕だって秋津あんちゃんと一緒に寝るもん!」
「ずるい!俺だって、秋津あんちゃんと…!」
優也が言ったところで、べしっと後ろ頭を叩いてやった。
「いってー…」
「ほら、お前がそんなんだから、チビたちこんななんだろ?」
「そんなってなんだよお!」
涙目になりながら怒ってるけど、しらね。
「ほら、チビども。さっさと食え。お客さんたちが風呂から上がってくるだろ…」
「はあ~い」
「ねえ!駿あんちゃん!僕と寝ようね?」
「僕だもん!」
「どうでもいいから食えや!」
次の日、お客さんを送り出してから、直也くんを迎えに行った。
病室で、すっかり準備を整えた直也くんは、俺達を見つけると微笑んだ。
まぶしい…笑顔。
直也くんの荷物を持って、皆で歩き出す。
車に乗り込むと、海人と陸人は直也くんに抱きついて離れない。
苦しそうにしながらも、直也くんはとっても嬉しそうで。
ぎゅっと二人を抱きしめていた。
あけぼの荘についたら、直也くんを自室へ連れて行く。
「病院でたっぷり寝たから、いいよ…」
そう言って嫌がる直也くんを、無理やりベッドに寝かす。
「無理したら、俺、東京帰るよ?」
そう言って笑ったら、直也くんの目が大きく見開かれた。
遠くで、海人と陸人の笑い声が聴こえる。
優也の顔を見たら、こくんと頷いた。
「あのね…直也くん…俺…」
直也くんがじっと俺を見つめる。
真っ直ぐな眼差しを、俺は受け止めた。
「ここに住んじゃだめかな…?」
優也にはもう話してあった。
漁師の仕事を手伝いながら、民宿の仕事もする。
つまり…この家の住み込み従業員になる。
東京に居る両親にも電話で話してある。
この家の親父さんは連絡が取れないから、連絡が取れ次第、話をする予定だ。
後は、直也くんの答えだけだった。
「え…?秋津さんが、ここに住むの…?」
「うん…ここで、働きたいんだ。直也くん、どうかな…?」
「秋津さん…」
「直也くんが反対なら、俺…」
「そっ…そんなわけ無いじゃんっ」
直也くんは飛び起きて、布団をぎゅっと掴んだ。
「もう…死ぬのやめたの?」
恐る恐る聞いてくる声に、笑顔で答えた。
「うん」
「秋津さん…」
がばっと直也くんが俺に抱きついてきた。
「えっ…」
「ちょ、直也っ…」
「う…うえぇ…よ、よかったぁ…」
直也くんが声を上げて泣きだした。
「駿さん、死ななくてよかったぁ…」
ぎゅうっと抱きしめられると、直也くんの襟足からいい匂いがした。
ぼぼっとほっぺたが熱くなる。
あのときのこと、思い出した。
夢の中の…直也くんのキス。
そりゃ、できないことだらけだったけど、優也よりはマシにできることだってあった。
チビたちの面倒を見ながら、民宿の仕事をして…
慌ただしく一日が過ぎていく。
「秋津さん!お疲れっ!」
全ての仕事を終えて、優也と晩酌する瞬間。
たまらなくビールが旨い。
「ねえねえ!直あんちゃん、明日帰ってくる!?」
陸人がくりくりの目で優也の顔を覗きこむ。
「うん。明日ね」
優也が嬉しそうに答える。
「やったー!なーあんちゃんのプリン食べたいー!」
海人がガッツポーズをしながら、食堂中転げまわる。
「こらっ!行儀悪い!」
べしっと海人のケツを叩くと、首根っこを掴んで起き上がらせる。
「ごめんなさぁい…」
「ほら、さっさと食う!」
急かさないとチビたちはいつまで経ってもご飯を食わない。
直也くんは、毎日こんなことやってるのか…
そら、熱出るわ…
陸人がお箸を持ったまま、俺の顔をじーっと見てる。
「なんだよ?」
「駿あんちゃん、ここに住むの?」
「えっ?」
「僕、駿あんちゃんと一緒に、毎日寝る!」
「あっ…ズルい!僕だって秋津あんちゃんと一緒に寝るもん!」
「ずるい!俺だって、秋津あんちゃんと…!」
優也が言ったところで、べしっと後ろ頭を叩いてやった。
「いってー…」
「ほら、お前がそんなんだから、チビたちこんななんだろ?」
「そんなってなんだよお!」
涙目になりながら怒ってるけど、しらね。
「ほら、チビども。さっさと食え。お客さんたちが風呂から上がってくるだろ…」
「はあ~い」
「ねえ!駿あんちゃん!僕と寝ようね?」
「僕だもん!」
「どうでもいいから食えや!」
次の日、お客さんを送り出してから、直也くんを迎えに行った。
病室で、すっかり準備を整えた直也くんは、俺達を見つけると微笑んだ。
まぶしい…笑顔。
直也くんの荷物を持って、皆で歩き出す。
車に乗り込むと、海人と陸人は直也くんに抱きついて離れない。
苦しそうにしながらも、直也くんはとっても嬉しそうで。
ぎゅっと二人を抱きしめていた。
あけぼの荘についたら、直也くんを自室へ連れて行く。
「病院でたっぷり寝たから、いいよ…」
そう言って嫌がる直也くんを、無理やりベッドに寝かす。
「無理したら、俺、東京帰るよ?」
そう言って笑ったら、直也くんの目が大きく見開かれた。
遠くで、海人と陸人の笑い声が聴こえる。
優也の顔を見たら、こくんと頷いた。
「あのね…直也くん…俺…」
直也くんがじっと俺を見つめる。
真っ直ぐな眼差しを、俺は受け止めた。
「ここに住んじゃだめかな…?」
優也にはもう話してあった。
漁師の仕事を手伝いながら、民宿の仕事もする。
つまり…この家の住み込み従業員になる。
東京に居る両親にも電話で話してある。
この家の親父さんは連絡が取れないから、連絡が取れ次第、話をする予定だ。
後は、直也くんの答えだけだった。
「え…?秋津さんが、ここに住むの…?」
「うん…ここで、働きたいんだ。直也くん、どうかな…?」
「秋津さん…」
「直也くんが反対なら、俺…」
「そっ…そんなわけ無いじゃんっ」
直也くんは飛び起きて、布団をぎゅっと掴んだ。
「もう…死ぬのやめたの?」
恐る恐る聞いてくる声に、笑顔で答えた。
「うん」
「秋津さん…」
がばっと直也くんが俺に抱きついてきた。
「えっ…」
「ちょ、直也っ…」
「う…うえぇ…よ、よかったぁ…」
直也くんが声を上げて泣きだした。
「駿さん、死ななくてよかったぁ…」
ぎゅうっと抱きしめられると、直也くんの襟足からいい匂いがした。
ぼぼっとほっぺたが熱くなる。
あのときのこと、思い出した。
夢の中の…直也くんのキス。
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