海鳴り

野瀬 さと

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海鳴り

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"秋津あきつさん…好きだよ…"

夢で直也なおやくんが言った言葉まで、耳に甦る。

「な、直也くん…」

直也くんは泣きやまない。
ぎゅうっと俺を抱く手も緩まない。

直也くんの匂いに、頭がくらくらしてきた。

ちらと優也ゆうやの顔を見上げた。
ぼけっと俺たちを見ている。

「え?」

手をちょいちょいと振った。

「は?」

にぶちん…

目で出てけと合図してみた。
それでもわかんないみたくて。

俺も直也くんをぎゅうっと抱きしめた。
またちらと優也を見上げると、やっとわかったみたい。

一瞬、呆然とした顔をしたけど、真っ赤な顔をして出て行った。

「直也くん…?」

身体を離すと、直也くんの顔を覗きこむ。
目を真っ赤にして直也くんは俺を見ている。
まっすぐに、俺も直也くんを見ることができた。

「これから…よろしくね…?」
「うん…駿しゅんさん…よろしく…」

嬉しそうに、微笑んだ。

その唇が、あんまり艶っぽくて…




俺はキスをした




「へ…?夢…?これ…」

なんて直也くんが言うから、ほっぺをつねってやった。

「い。痛い…」
「ね、もう一回してもいい?」
「えっ?」
「もう一回」
「えっ?」
「だから、もう一回」

いつまでたっても、2回目のキスはできなかった。



3日後、俺は東京に帰った。

しばらくひとりで住んでいた部屋を引き払い、会社に辞表を提出した。
15年勤めた会社は、あっさりと辞表を受理してくれた。
なんの後腐れもなく、俺は会社を後にした。

自動ドアを出た瞬間、見上げるととても青い空が、ビルの谷間から見えた。

バタバタと後ろから走ってくる音がした。

振り返ると、後輩の有岡ありおかが駆け寄ってくるところだった。

「秋津先輩っ…辞めるって本当ですか!?」
「おお…わりいな…挨拶もしないで」
「なんで!?なんでですか!?」

食って掛かるように俺の腕を掴んだ。

「え?」
「だって…あと半年もしたら、秋津先輩を呼び戻そうって、部長が言ってました…」
「えっ…ほんとかよ…」
「だからっ…辞めないでください!また、一緒に仕事しましょうよ!」

有岡が目を真っ赤にして訴える。


ああ…直也くん…


直也くんの、言ったとおりだったのかもしれない…


「ごめんな…有岡…」
「秋津先輩…」
「俺、漁師になるんだ!」
「へっ!?」



有岡の顔は傑作だった。

夜、あけぼの荘に戻ってもあの顔を思い出すと笑えた。

「なーに?駿さん…やらしい…」

直也くんが俺のにやにや顔をみて、嫌な顔をしてる。

「直也くん…俺さ…」
「ん?」

食堂で横になる俺の横で、洗濯物のタオルを畳んでる。

「こころの目、まだ開いてないなぁ…」
「え…?」
「ほら、直也くんが言ってくれたじゃん?」
「俺、その話したっけ…?」
「あっ…」

夢の中の話だった。
やばい…恥ずかしい。

「ごめん…夢でね…直也くんが話してくれたんだよ…」
「え…?夢…」
「うん…」

直也くんの夢の話をした。
恥ずかしくて顔が見れなかった。


その…だって…

直也くんが俺のこと好きって言ったところも話したから…
ちゅーしたところまで…
だって、先を話せ話せって言うから…

はじゅかちいっ。


話し終わって、直也くんが笑うかなと思ったけど、反応がなかった。
見上げると、真面目な顔をしてた。

「え…?どうしたの直也くん…」
「駿さん…」

直也くんはあの日から、俺のことを駿さんと呼ぶようになった。
ちょっとくすぐったいけど、でもなんだかしっくりと来る。

「なに?」
「俺も…その夢、見た」
「えっ?」
「全く同じ夢…」
「嘘だろ…」

直也くんがじっと俺を見つめる。

「駿さん…俺…」

そっと俺に手を伸ばしてくる。
俺はその手を受け取って、ぎゅっと握りしめた。

「直也くん…」
「夢で言ったこと…本当だから…」
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