海鳴り

野瀬 さと

文字の大きさ
11 / 37
海鳴り

11

しおりを挟む
"秋津あきつさん…好きだよ…"

夢で直也なおやくんが言った言葉まで、耳に甦る。

「な、直也くん…」

直也くんは泣きやまない。
ぎゅうっと俺を抱く手も緩まない。

直也くんの匂いに、頭がくらくらしてきた。

ちらと優也ゆうやの顔を見上げた。
ぼけっと俺たちを見ている。

「え?」

手をちょいちょいと振った。

「は?」

にぶちん…

目で出てけと合図してみた。
それでもわかんないみたくて。

俺も直也くんをぎゅうっと抱きしめた。
またちらと優也を見上げると、やっとわかったみたい。

一瞬、呆然とした顔をしたけど、真っ赤な顔をして出て行った。

「直也くん…?」

身体を離すと、直也くんの顔を覗きこむ。
目を真っ赤にして直也くんは俺を見ている。
まっすぐに、俺も直也くんを見ることができた。

「これから…よろしくね…?」
「うん…駿しゅんさん…よろしく…」

嬉しそうに、微笑んだ。

その唇が、あんまり艶っぽくて…




俺はキスをした




「へ…?夢…?これ…」

なんて直也くんが言うから、ほっぺをつねってやった。

「い。痛い…」
「ね、もう一回してもいい?」
「えっ?」
「もう一回」
「えっ?」
「だから、もう一回」

いつまでたっても、2回目のキスはできなかった。



3日後、俺は東京に帰った。

しばらくひとりで住んでいた部屋を引き払い、会社に辞表を提出した。
15年勤めた会社は、あっさりと辞表を受理してくれた。
なんの後腐れもなく、俺は会社を後にした。

自動ドアを出た瞬間、見上げるととても青い空が、ビルの谷間から見えた。

バタバタと後ろから走ってくる音がした。

振り返ると、後輩の有岡ありおかが駆け寄ってくるところだった。

「秋津先輩っ…辞めるって本当ですか!?」
「おお…わりいな…挨拶もしないで」
「なんで!?なんでですか!?」

食って掛かるように俺の腕を掴んだ。

「え?」
「だって…あと半年もしたら、秋津先輩を呼び戻そうって、部長が言ってました…」
「えっ…ほんとかよ…」
「だからっ…辞めないでください!また、一緒に仕事しましょうよ!」

有岡が目を真っ赤にして訴える。


ああ…直也くん…


直也くんの、言ったとおりだったのかもしれない…


「ごめんな…有岡…」
「秋津先輩…」
「俺、漁師になるんだ!」
「へっ!?」



有岡の顔は傑作だった。

夜、あけぼの荘に戻ってもあの顔を思い出すと笑えた。

「なーに?駿さん…やらしい…」

直也くんが俺のにやにや顔をみて、嫌な顔をしてる。

「直也くん…俺さ…」
「ん?」

食堂で横になる俺の横で、洗濯物のタオルを畳んでる。

「こころの目、まだ開いてないなぁ…」
「え…?」
「ほら、直也くんが言ってくれたじゃん?」
「俺、その話したっけ…?」
「あっ…」

夢の中の話だった。
やばい…恥ずかしい。

「ごめん…夢でね…直也くんが話してくれたんだよ…」
「え…?夢…」
「うん…」

直也くんの夢の話をした。
恥ずかしくて顔が見れなかった。


その…だって…

直也くんが俺のこと好きって言ったところも話したから…
ちゅーしたところまで…
だって、先を話せ話せって言うから…

はじゅかちいっ。


話し終わって、直也くんが笑うかなと思ったけど、反応がなかった。
見上げると、真面目な顔をしてた。

「え…?どうしたの直也くん…」
「駿さん…」

直也くんはあの日から、俺のことを駿さんと呼ぶようになった。
ちょっとくすぐったいけど、でもなんだかしっくりと来る。

「なに?」
「俺も…その夢、見た」
「えっ?」
「全く同じ夢…」
「嘘だろ…」

直也くんがじっと俺を見つめる。

「駿さん…俺…」

そっと俺に手を伸ばしてくる。
俺はその手を受け取って、ぎゅっと握りしめた。

「直也くん…」
「夢で言ったこと…本当だから…」
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

【完結】愛されたかった僕の人生

Kanade
BL
✯オメガバース 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。 今日も《夫》は帰らない。 《夫》には僕以外の『番』がいる。 ねぇ、どうしてなの? 一目惚れだって言ったじゃない。 愛してるって言ってくれたじゃないか。 ねぇ、僕はもう要らないの…? 独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。

愛してやまなかった婚約者は俺に興味がない

了承
BL
卒業パーティー。 皇子は婚約者に破棄を告げ、左腕には新しい恋人を抱いていた。 青年はただ微笑み、一枚の紙を手渡す。 皇子が目を向けた、その瞬間——。 「この瞬間だと思った。」 すべてを愛で終わらせた、沈黙の恋の物語。   IFストーリーあり 誤字あれば報告お願いします!

【完結】毎日きみに恋してる

藤吉めぐみ
BL
青春BLカップ1次選考通過しておりました! 応援ありがとうございました! ******************* その日、澤下壱月は王子様に恋をした―― 高校の頃、王子と異名をとっていた楽(がく)に恋した壱月(いづき)。 見ているだけでいいと思っていたのに、ちょっとしたきっかけから友人になり、大学進学と同時にルームメイトになる。 けれど、恋愛模様が派手な楽の傍で暮らすのは、あまりにも辛い。 けれど離れられない。傍にいたい。特別でありたい。たくさんの行きずりの一人にはなりたくない。けれど―― このまま親友でいるか、勇気を持つかで揺れる壱月の切ない同居ライフ。

若頭と小鳥

真木
BL
極悪人といわれる若頭、けれど義弟にだけは優しい。小さくて弱い義弟を構いたくて仕方ない義兄と、自信がなくて病弱な義弟の甘々な日々。

後宮の男妃

紅林
BL
碧凌帝国には年老いた名君がいた。 もう間もなくその命尽きると噂される宮殿で皇帝の寵愛を一身に受けていると噂される男妃のお話。

前世が教師だった少年は辺境で愛される

結衣可
BL
雪深い帝国北端の地で、傷つき行き倒れていた少年ミカを拾ったのは、寡黙な辺境伯ダリウスだった。妻を亡くし、幼い息子リアムと静かに暮らしていた彼は、ミカの知識と優しさに驚きつつも、次第にその穏やかな笑顔に心を癒されていく。 ミカは実は異世界からの転生者。前世の記憶を抱え、この世界でどう生きるべきか迷っていたが、リアムの教育係として過ごすうちに、“誰かに必要とされる”温もりを思い出していく。 雪の館で共に過ごす日々は、やがてお互いにとってかけがえのない時間となり、新しい日々へと続いていく――。

何故よりにもよって恋愛ゲームの親友ルートに突入するのか

BL
平凡な学生だったはずの俺が転生したのは、恋愛ゲーム世界の“王子”という役割。 ……けれど、攻略対象の女の子たちは次々に幸せを見つけて旅立ち、 気づけば残されたのは――幼馴染みであり、忠誠を誓った騎士アレスだけだった。 「僕は、あなたを守ると決めたのです」 いつも優しく、忠実で、完璧すぎるその親友。 けれど次第に、その視線が“友人”のそれではないことに気づき始め――? 身分差? 常識? そんなものは、もうどうでもいい。 “王子”である俺は、彼に恋をした。 だからこそ、全部受け止める。たとえ、世界がどう言おうとも。 これは転生者としての使命を終え、“ただの一人の少年”として生きると決めた王子と、 彼だけを見つめ続けた騎士の、 世界でいちばん優しくて、少しだけ不器用な、じれじれ純愛ファンタジー。

借金のカタで二十歳上の実業家に嫁いだΩ。鳥かごで一年過ごすだけの契約だったのに、氷の帝王と呼ばれた彼に激しく愛され、唯一無二の番になる

水凪しおん
BL
名家の次男として生まれたΩ(オメガ)の青年、藍沢伊織。彼はある日突然、家の負債の肩代わりとして、二十歳も年上のα(アルファ)である実業家、久遠征四郎の屋敷へと送られる。事実上の政略結婚。しかし伊織を待ち受けていたのは、愛のない契約だった。 「一年間、俺の『鳥』としてこの屋敷で静かに暮らせ。そうすれば君の家族は救おう」 過去に愛する番を亡くし心を凍てつかせた「氷の帝王」こと征四郎。伊織はただ美しい置物として鳥かごの中で生きることを強いられる。しかしその瞳の奥に宿る深い孤独に触れるうち、伊織の心には反発とは違う感情が芽生え始める。 ひたむきな優しさは、氷の心を溶かす陽だまりとなるか。 孤独なαと健気なΩが、偽りの契約から真実の愛を見出すまでの、切なくも美しいシンデレラストーリー。

処理中です...