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父、あけぼの荘に帰還す。
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勝手口のドアを開けると、小さい男が俺を見上げていた。
「……誰だ」
「あんたこそ…誰だ」
午後も2時になろうとしている。
俺はなぜか小男と睨み合う形になっていた。
日に焼けた顔に目一杯、不信感を表明しているのだが、残念ながらここは俺の家だ。
男は短髪の頭にねじり鉢巻のようにタオルを頭に巻いている。
日に焼けた顔は外で働いていることを示していた。
なにか作業中だったのか、手にはすりこ木を握っている。
格好はというと、エンジのMA-1を着込んでカーゴパンツを履いている。
まるでコソ泥である。
「ここは俺の家だが?」
「ふがっ…!?」
小男は勝手に後ろに吹っ飛ぶと、自分のサンダルを踏んづけて床に思い切りコケた。
すりこ木が、厨房の出口の段差まで飛んでいった。
カコーンとすりこ木の落ちる音がした。
男は、そのまま呆然と俺を見上げた。
「おっ…おとうさん!?」
「俺は、おまえのような息子を作った覚えはない」
ずいっと勝手口から厨房に入る。
「おまえ、コソ泥か?」
「ち、ちがっ…」
男は額に汗を浮かべながら後ずさっていく。
「あ、怪しい者ではありませんっ…!」
そういう奴が一番怪しいのだ。
俺は食器棚の上に手を伸ばすと、こんなこともあろうかと随分前に用意していた金属バットを取った。
ホコリが舞ったが気にしない。
「まっ…待って…!」
その時、廊下のガラスの引き戸が開いた。
「駿さーん?どうしたの?」
入ってきたのは、長男の直也だった。
「おと…お父さん!?」
ここはあけぼの荘。
俺と妻の明希子が建てた、釣宿であり民宿である。
明希子はとっくに亡くなったが、ここは長男の直也、漁業は次男の優也が継いでいる。
あと、ちびが二匹ばかりいるが、こいつらはまだ戦力にはなっていない。
「で?この小男はなんなんだ?」
小さいのに更に小さくなっている男の襟首を掴むと、食堂にぶち込んだ。
直也の出してくれた座布団に座ると、早速尋問を開始した。
「もお…お父さん、帰ってくるなら言ってよね…」
呆れながらも、直也はポットから急須に湯を入れて、茶を淹れてくれている。
「あっ…あの!」
小男がなんとか体勢を立て直して、正座した。
畳に手をつくと、深々と頭を垂れた。
「俺っ…ここで働かせてもらってます、秋津 駿と言います!」
「あ?いつ従業員なんか雇ったんだ?」
直也を見ると、しょうがないなあと言わんばかりにため息を付いた。
「手紙書いたでしょう?届いてなかったの?」
「あ」
そう言えば、帰国してから分厚い封書を受け取った。
他の郵便物も随分な束になっていて、読むのが面倒でそのまま持って帰ってきたのだった。
俺の仕事は外国航路の船の乗組員で。
普通だったら携帯を持っていれば連絡が着くのだが、面倒なので手紙でやり取りするよう子どもたちには言いつけてある。
携帯料金だってばかにならないのだ。
俺にはまだちびどもが居るから、金を稼がねばならない。
そして、貯金しなければならない。
定年の年にはまだあいつらは成人していないのだから…
明希子が亡くなって、頼みにしていた長男は病気になるし、家族の面倒を見るため次男は勤めをやめて漁師になった。
だが、こいつらもいずれ結婚してここを出ていくんだ。
長男については…身体のことがあるから、どうなるかはわからんが…
とにかく父親の俺が、ちびどもの食い扶持を稼がねばならない。
ただ、今は長男と次男に、どうしても面倒をかけてしまっているのが心苦しいが…
「…俺は、こいつらの父親で春田 行信という。よろしく頼む」
あぐらを崩して俺も正座をして頭を下げた。
「いえっ…そんな滅相もないっ!」
頭を上げてくださいとお願いされて顔をあげると、改めて頭を下げられ自己紹介された。
卒なく受け答えするところを見ると、前職は営業でもやっていたのか。
「ほう…宿の方と船の方、両方手伝ってもらっているのか…」
「うん。駿さ…秋津さんはね、がんばって船舶も遊漁船業務主任者も取ったんだよ。これから特定操縦免許も取るんだって」
「なるほど…」
なんだこいつは…
うちを乗っ取りそうな勢いじゃないか…
それにしても直也がこんなに鼻の下を伸ばしている顔は初めて見る。
一体どうしたと言うんだ。
「……誰だ」
「あんたこそ…誰だ」
午後も2時になろうとしている。
俺はなぜか小男と睨み合う形になっていた。
日に焼けた顔に目一杯、不信感を表明しているのだが、残念ながらここは俺の家だ。
男は短髪の頭にねじり鉢巻のようにタオルを頭に巻いている。
日に焼けた顔は外で働いていることを示していた。
なにか作業中だったのか、手にはすりこ木を握っている。
格好はというと、エンジのMA-1を着込んでカーゴパンツを履いている。
まるでコソ泥である。
「ここは俺の家だが?」
「ふがっ…!?」
小男は勝手に後ろに吹っ飛ぶと、自分のサンダルを踏んづけて床に思い切りコケた。
すりこ木が、厨房の出口の段差まで飛んでいった。
カコーンとすりこ木の落ちる音がした。
男は、そのまま呆然と俺を見上げた。
「おっ…おとうさん!?」
「俺は、おまえのような息子を作った覚えはない」
ずいっと勝手口から厨房に入る。
「おまえ、コソ泥か?」
「ち、ちがっ…」
男は額に汗を浮かべながら後ずさっていく。
「あ、怪しい者ではありませんっ…!」
そういう奴が一番怪しいのだ。
俺は食器棚の上に手を伸ばすと、こんなこともあろうかと随分前に用意していた金属バットを取った。
ホコリが舞ったが気にしない。
「まっ…待って…!」
その時、廊下のガラスの引き戸が開いた。
「駿さーん?どうしたの?」
入ってきたのは、長男の直也だった。
「おと…お父さん!?」
ここはあけぼの荘。
俺と妻の明希子が建てた、釣宿であり民宿である。
明希子はとっくに亡くなったが、ここは長男の直也、漁業は次男の優也が継いでいる。
あと、ちびが二匹ばかりいるが、こいつらはまだ戦力にはなっていない。
「で?この小男はなんなんだ?」
小さいのに更に小さくなっている男の襟首を掴むと、食堂にぶち込んだ。
直也の出してくれた座布団に座ると、早速尋問を開始した。
「もお…お父さん、帰ってくるなら言ってよね…」
呆れながらも、直也はポットから急須に湯を入れて、茶を淹れてくれている。
「あっ…あの!」
小男がなんとか体勢を立て直して、正座した。
畳に手をつくと、深々と頭を垂れた。
「俺っ…ここで働かせてもらってます、秋津 駿と言います!」
「あ?いつ従業員なんか雇ったんだ?」
直也を見ると、しょうがないなあと言わんばかりにため息を付いた。
「手紙書いたでしょう?届いてなかったの?」
「あ」
そう言えば、帰国してから分厚い封書を受け取った。
他の郵便物も随分な束になっていて、読むのが面倒でそのまま持って帰ってきたのだった。
俺の仕事は外国航路の船の乗組員で。
普通だったら携帯を持っていれば連絡が着くのだが、面倒なので手紙でやり取りするよう子どもたちには言いつけてある。
携帯料金だってばかにならないのだ。
俺にはまだちびどもが居るから、金を稼がねばならない。
そして、貯金しなければならない。
定年の年にはまだあいつらは成人していないのだから…
明希子が亡くなって、頼みにしていた長男は病気になるし、家族の面倒を見るため次男は勤めをやめて漁師になった。
だが、こいつらもいずれ結婚してここを出ていくんだ。
長男については…身体のことがあるから、どうなるかはわからんが…
とにかく父親の俺が、ちびどもの食い扶持を稼がねばならない。
ただ、今は長男と次男に、どうしても面倒をかけてしまっているのが心苦しいが…
「…俺は、こいつらの父親で春田 行信という。よろしく頼む」
あぐらを崩して俺も正座をして頭を下げた。
「いえっ…そんな滅相もないっ!」
頭を上げてくださいとお願いされて顔をあげると、改めて頭を下げられ自己紹介された。
卒なく受け答えするところを見ると、前職は営業でもやっていたのか。
「ほう…宿の方と船の方、両方手伝ってもらっているのか…」
「うん。駿さ…秋津さんはね、がんばって船舶も遊漁船業務主任者も取ったんだよ。これから特定操縦免許も取るんだって」
「なるほど…」
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うちを乗っ取りそうな勢いじゃないか…
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一体どうしたと言うんだ。
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