海鳴り

野瀬 さと

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父、あけぼの荘に帰還す。

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しかし、そうですかと納得できるような問題じゃない。
大切に育ててきた息子が…まさか男と付き合ってるなんて。

ショックを受けたまま、ちびたちの眠る客室に戻った。

「なあ…明希子あきこ…一体どうしちまったんだろうな…直也なおやは…」

ちびたちは健やかな寝息を立てて熟睡している。
豆電球の明かりの中、俺は思考がまとまらなくてもやもやしたまま横になった。

身内に同性愛者なんかいない。
…いや、もしかして言い出せないだけで、本当は居るのかもしれない。

いや…血筋の問題じゃないんだろう…

昔、直也はつきあってるという女の子を家に連れてきたことがあった。
無理してつきあってる風でもなかったから、根っから同性愛者ってこともないんだろう。

「いやぁ…いやぁ…」

眠れなくてごろりと天井を仰ぐ。

「なんで…こんなことに…」

もしかして直也の罹ってる病気のせいか…?
いや、そしたら秋津あきつはどうなんだ。
あいつは根っからの同性愛者なのか。

よりによってなんで直也を選んだんだ。
何で俺の息子を…

「とうちゃぁん…」
「とーちゃ…」

ちびたちが眠りながらゴロゴロとこちらに転がってきた。
二卵性双生児のくせに、動きがシンクロしている。

二人まとめて胸に抱きとめ、ぎゅうっと抱きしめた。

「ぐるじい…」
「ううう…」

何やら言っているが、このしあわせの塊みたいなやつらを手放すことができなかった。

「明希子…俺、どうしたらいいんだろうなあ…」

優也ゆうやに認めろ、何も言うなと言われても…
次に秋津の顔を見たらぶん殴りそうだ。

ちびたちがもぞもぞし始めたから、少し腕を緩めてやると、やっと安心したように眠りだした。

その寝顔を見ながら、いろんなことが頭を駆け巡った。

直也が4歳の頃、優也が生まれて。
明希子と一緒になって弟を可愛がっていたっけなあ…

不器用だが、何年も兄ちゃんしてたら、段々世話も堂に入って、俺よりも器用に世話してたっけ。

ちびたちが生まれた頃にはもう直也は成人していたけど、就職先からわざわざ休暇を取って帰ってきて。

おめでとう!おめでとう!って自分のことみたいに喜んで…

高齢出産でしかも双子だった上に、産後の肥立ちが悪かった明希子は、肺炎をこじらせてあっけなく旅立った。

その時、直也はもう発病していて…

でも、まだ前の勤務先はやめていなかった。
症状が落ち着けば、復職する予定になっていたのに…

『ちびたちの面倒、俺が見るから』

そう言って、ここに戻ってきたんだ。

優也も漁師になって直也を支えると言い出した。

俺は、外国航路の船員になって、家計を支える決意をした。
あけぼの荘と漁をするよりも稼げるからだ。

その結果、一家の大黒柱として息子達の傍に居てやることはできなくなってしまったが…後悔はしていない。


そうやって、家族みんなが支え合って生きてきた


ちびたちの寝顔を眺めながら、昼間に見た光景を思い出した。

秋津と直也がちびたちを抱っこしながら笑い合う風景。


しあわせな親子みたいな風景──


「あ…」

そうだ

何処かで見たことがあると思ったら、あれは…


翌朝、起きて居間に行くと、もう直也は身支度を済ませてエプロンを付けていた。

「あ、お父さんおはよう」
「おお…」

優也と秋津は居ないようだった。

「あいつらは?」
「もうとっくに起きて漁に出てったよ?」
「ああ…そうか…」
「朝食用意するね。今日は秋津さんが作ってくれたんだよ」
「えっ…」

直也が飯を用意してくれて、ひとりでもそもそと食べた。
その間に直也はちびどもを叩き起こして、幼稚園に送り出す準備をするようだ。

「ほら、顔洗って!」
「ねみゅい~…」
「うにゃ~…」

久しぶりの朝の騒音を聞きながら、テーブルに乗った飯を眺める。

俺の好きなポークスパムの卵焼きが作ってあった。

「チっ…こんなので絆されるかよ…」

ポイッと口に放り込んだ。

「ん…?」

懐かしい味がした。

明希子が作ってくれた卵焼きに味がそっくりだった。

「…ふん…」

ずずずと味噌汁をすすり込む。

ほだされてなんかねーぞ…」
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