海鳴り

野瀬 さと

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父、あけぼの荘に帰還す。

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それから一週間。
いよいよ俺が船に戻る日が来た。

この日までに、あけぼの荘の名義の変更やら銀行口座の変更やら…やることがしこたまあって、休む暇もなかった。

手続きも途中の物もあったが、後のことは直也なおや優也ゆうや、そして秋津あきつが上手いことやるだろう。

「とーちゃん!」
「父ちゃーん!」
「おわっ…」

朝、荷物をまとめていると、子供たちがまとめて俺の部屋に襲撃してきた。
まだ片付けているというのに、ちびどもは俺のベッドの上でトランポリンをして遊びだした。

「やめなさい!おまえたち!」

直也が怒っているが、一向にちびどもはやめない。

「それ、壊したらケツバットだぞ」
「けつ…ばっと?」
「なにそれ?父ちゃん?」

むう…時代なのか…
もしかして、しむらー!うしろー!も、もう通じないのか…

秋津と優也がちびどもを抑えている間に、直也に手伝ってもらってなんとか荷物をまとめた。

「じゃあ、何かあったら連絡しなさい」
「するけど…お父さん、手紙を受け取ったら電話してね?」
「む…」
「面倒くさいんだろうけど、こっちは生きてるのか死んでるのかすらわかんないんだからさあ…」
「わかった…」

秋津と優也は説教されてる俺を見て、くすくす笑ってやがる。
ちびどもまで…くそう。

「あ。直也」
「うん?」

ちょいちょいと近くまで直也を呼んだ。

「なに?」
「あのな…」

ぐいと肩を掴んで、耳元にこしょこしょと話した。

「秋津と籍入れるなら、俺の養子にしとくから…そうなったら手続きや向こうのご両親に挨拶いくのに帰国するから言いなさい。あ、逆でもいいけどな?あっちの籍に入るんなら、それでもいいから」
「ぶふぉっ…」

真っ赤になって直也はひっくり返った。

俺だってなあ…同性同士の結婚がどんなもんか、調べることができるんだからな。
優也に手伝ってもらったけど。

「わあ!なーあんちゃん大丈夫!?」
「お顔、真っ赤だよ!お熱?お熱?」
「ち、違っ…おと、おと、お父さんっ!」

狼狽うろたえる直也というのも、珍しくて面白い。

「むふ…」

説教の仕返しは三倍返しだ!(古い?)

ちびどもの幼稚園の準備をするのに、一旦子供たちは部屋を出ていった。

「ったく、騒がしいったりゃありゃしねえぜ…」
「あの…お義父さん」
「うおっ!?」

誰もいないと思っていたから油断したぜ。
後ろを見ると、秋津が部屋を覗いていた。

「お?なんだ」

秋津は俺の前に正座すると、改めて頭を下げた。

「俺たちのこと、認めてくれてありがとうございます」
「よせよ…大人同士のことなんだから。とやかく言うほど野暮じゃねえよ」
「はい…あの、ご相談があって」
「あんだ?」
「あけぼの荘を昔みたいに通年つうねん泊まれる民宿に戻そうかと思ってて…」
「おお…」
「ただ、今のままの客室数だと手が回らないから、ちょっとリフォームして縮小したりしたくて…」
「そんな予算…」
「あけぼの荘を株式会社にしようかと思っています。そしたら俺も出資できるし…」
「いや、秋津。それは…」
「やりたいんです」

じっと、秋津は俺の目をまっすぐに見る。

「…俺、実はここに死にに来たんです」
「え?」
「でも…ここの人たちに俺は、命を救われたんです」
「おまえが…?死のうとしてたのか?」

秋津は、俺の目を見ながら頷いた。

「実際、海に飛び込んで…優也ゆうやには凄い迷惑をかけました」
「ばかやろうだな」
「はい。とてもばかやろうだと思ってます…」
「んで?」
「今はもちろんそんな気ありません。だからここの役に少しでも立ちたいんです。…それに俺…まだこころの目、開いてないから…」

心の目…

それは明希子あきこがよく子どもたちに言って聞かせていた言葉だ。


"人の言葉や行動を表面的に見るのではなく心の目で見なさい。そうしたら…本当のことが見えるよ…"


「直也から聞いたのか?」
「はい。俺、ずっと閉じてきてたから…だからまだ心の目、開いてないんです」
「そうか…」

よっぽど…心を閉じて生きてきたのか。

そうしないと生きてこれなかったのか…


"心の目、開くといいね…行信ゆきのぶくん"


俺だって…まだ開いてるのかどうか…わからない。

「ま、ゆっくりやれや…」
「はい。まだリフォームとかは、先の話で…でも、お義父さんの許可は貰っておきたくて」
「ああ。もう代替わりしたんだから、俺はとやかく言わねえよ。おめえらがいいと思うことやっていきな」
「それでも…」
「ん?」
「ここは、お義父さんの作った家ですから。お義父さんの家です」
「秋津…」
「だから、これからもなんだって相談させてもらいます!」

そう言って、絨毯に手を付いて頭を下げた。

「これからも!どうかよろしくお願いします!」



ほんと、敵わないねえ…

きっとこいつらに任せておけば、あけぼの荘も安泰だろう。

俺は、安心して海の上に帰れるわけだ。


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