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第八章 魔島殲滅戦
宝麗仙宮崩壊⑪
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「も、もしそれが事実であったら…
い、いやそれよりも、現在ババイヴめはどうしておるのだッ!?」
蛸ノ宮が性急に問い質すが、アトラス=ソードの答えは予想通り最悪なものであった。
「…さすがと称えるのも業腹ですが、負極界四惑星を絶対の恐怖で支配した超魔人だけのことはあります。
覚醒するとほぼ同時にザジナス配下の遠征隊員たちを多数血祭りに上げ、たちどころに宝麗仙宮を制圧してしまった模様ですね…」
「くッ…そ、それでレイガルは…聞くところではババイヴに絶対の忠誠を誓っているとかいうあのアクメピア星人はやはり彼奴の蹶起に追従しておるのかねッ!?」
「はははッ…あ、いや失礼。
やはり怨敵であるアイツの動向は気になるご様子ですね。
実は現在、彼はとある任務を帯びて他県に滞在中でして、大教帝の覚醒には一切関与しておりません。
もちろんしばらくすれば戻って来るでしょうがね──頼もしい二人の友を連れて。
とはいえ彼らはむしろ“反大教帝主義者”と見なしてよいのですから、本来ならばレイガルとの共闘はあり得ぬはずなのです…ところが。
例のカイツ星爵は月面上に潜む股肱の臣であるウィラーク艦長に命じて遠征隊の存在自体を消去すべく、皮肉にも浄化委員会の虎の子ともいうべき討伐隊を出撃させたようです。
この連中こそ、ついさっきあなたの飛翔基地を取り囲み、無礼な罵言を投げ付けたD‐EYESなる三人組の悪たれ小僧どもですが…。
つまりこのままゆけば、彼らとレイガルら三戦士の激突は必至──遅くとも今夜中には火蓋が切られるものと思われます」
「当然そこにババイヴが加わるか…。
とはいえ戦力的にはあまりにも心許ないといわざるを得んが、君自身は戦闘の行方をどう見ておるのだ?
もとより戦局はレイガルが帯同する二人の友とやらの力量に大きく左右されることになりそうだが…」
果たして人間時代の名残かそれとも演技かは定かではなかったが、それ自体が凄まじい凶器であろう鋼の両腕を組んでウ~ンと唸った髑髏戦士は、申し訳なさそうにこの含みのある質問に回答する。
「──こればかりは分かりませんねえ…。
個人的には強力な神霊闘術師でもある指揮官の支援もあって、D‐EYESが勝利するのではと予想しておりますが、まず何よりの脅威と懸念されるのがやはり土壇場に追い詰められた際に発現するであろう大教帝の“究極的潜在能力”ではないでしょうか?
そしてもう一つ未知数なのが、これまたわが不肖の後輩である太鬼真護という星渕特抜生の存在なのですが…」
「た、太鬼真護だとッ!?
きゃ…彼奴めがレイガルと行動を共にしておるのかッ!?」
「──そうです。通常時ならば考えられませんが…。
現在、ヤツはわが銀魔星の宿敵であるペトゥルナワスの帝界聖衛軍においていわば副将格のポジションにあり、本来ならば負極界勢と何らの接点もないわけですからね。
ですが持ち前の狡猾な計算によって言葉巧みにレイガルらに接近し、遠征隊は言うに及ばず、負極界四惑星においても屈指の戦闘者である二人を戦功のため利用しようともくろんでいるようです──いやはや、汲めども尽きせぬ唾棄すべき悪知恵にはただただ呆れ果てるばかりですが、戦闘者としての実力はひょっとするとレイガル以上かもしれません…!
そして残るは“ペティグロス最強戦士”との称号を持つラゼム=エルド。
レイガルや太鬼に比して地味な存在と見る向きもありましょうが、わが銀魔星的見解においては最も評価すべき兵であり、その境遇にも多分に同情すべき悲劇の軍人と申せましょう…。
何故ならばレイガルには崇拝する大教帝が傍らに在り、太鬼もまた信奉する聖剣皇を利するために今夜の戦いに臨むわけですが、彼エルドには母星から見棄てられたという痛切な悲哀のみがあり、ズタズタに傷付けられた自尊心を抱いたままで負極界首脳部が絶対の勝算を持って送り込む強力な刺客たちを迎撃せねばならぬわけですからね…」
「……」
「もちろん、ガズムオルをも凌駕するペティグロスの兵器開発技術が生み出した【特装戦甲】を纏った百戦錬磨の彼がポッと出の新兵どもに易々と仕留められるとも思えませんが、三者中誰よりも不安定な精神状態であるだけに、最も戦死リスクに曝されていると見なせましょう…」
「……」
「──さて、ここで気になるのは、博士ご自身がどう動かれるのかということなのですが…。
ここで一つ私が掴んだ情報をご披露しますと、フザケたことに太鬼は破壊した人工戦士の〈目玉〉を得意の念術で支配下に置き、あろうことかそれを媒介にあなたにババイヴ健在の証拠を突き付けて激昂させ、宿敵誅滅のための刺客を派遣させようと企んでいるということなのです…!」
「ううぬッ、何と狡猾なッ…!!」
「全くです。
その行状を観察する限り、ヤツには誇り高き星渕精神が根本的に欠如していると断ぜざるを得ない。
尤も伝統ある校風を踏み躙ることを生き甲斐にしていた四元ごとき反逆的異端児に心酔する時点でお里が知れるというものですが、かくなる上は母校愛に燃える先輩として渾身の鉄拳制裁もやむなし、との認識に至っている次第なのですがね…。
まあそれはともかく、このままではあの太鬼真護が厚顔にもあなたに出動要請してくることは確実──ですが今すぐ人工戦士群を出撃させ、連中の帰島前にババイヴを斃してしまえば少なくとも、早くて十数時間後に到着するであろうD‐EYESとは交戦せずとも済むわけです…」
されど既に肚は決まっていたのか、復讐に燃える蒼頭星人の返事は速やかだった。
「──なるほど分かった。
貴君の貴重な情報提供には大いに感謝する…誠に忝ない。
提言通り今すぐ“最強”の美沙門を筆頭に、残る3体の人工戦士を出撃させよう。
主目標はいうまでもなくババイヴ=ゴドゥエブンたが、レイガル及び太鬼真護も生かしておくわけにはいかん…!
特に三番目の抹殺に関しては、先程帰還した美沙門が真っ先に私に訴えてきたことでもあるのでな…!!」
い、いやそれよりも、現在ババイヴめはどうしておるのだッ!?」
蛸ノ宮が性急に問い質すが、アトラス=ソードの答えは予想通り最悪なものであった。
「…さすがと称えるのも業腹ですが、負極界四惑星を絶対の恐怖で支配した超魔人だけのことはあります。
覚醒するとほぼ同時にザジナス配下の遠征隊員たちを多数血祭りに上げ、たちどころに宝麗仙宮を制圧してしまった模様ですね…」
「くッ…そ、それでレイガルは…聞くところではババイヴに絶対の忠誠を誓っているとかいうあのアクメピア星人はやはり彼奴の蹶起に追従しておるのかねッ!?」
「はははッ…あ、いや失礼。
やはり怨敵であるアイツの動向は気になるご様子ですね。
実は現在、彼はとある任務を帯びて他県に滞在中でして、大教帝の覚醒には一切関与しておりません。
もちろんしばらくすれば戻って来るでしょうがね──頼もしい二人の友を連れて。
とはいえ彼らはむしろ“反大教帝主義者”と見なしてよいのですから、本来ならばレイガルとの共闘はあり得ぬはずなのです…ところが。
例のカイツ星爵は月面上に潜む股肱の臣であるウィラーク艦長に命じて遠征隊の存在自体を消去すべく、皮肉にも浄化委員会の虎の子ともいうべき討伐隊を出撃させたようです。
この連中こそ、ついさっきあなたの飛翔基地を取り囲み、無礼な罵言を投げ付けたD‐EYESなる三人組の悪たれ小僧どもですが…。
つまりこのままゆけば、彼らとレイガルら三戦士の激突は必至──遅くとも今夜中には火蓋が切られるものと思われます」
「当然そこにババイヴが加わるか…。
とはいえ戦力的にはあまりにも心許ないといわざるを得んが、君自身は戦闘の行方をどう見ておるのだ?
もとより戦局はレイガルが帯同する二人の友とやらの力量に大きく左右されることになりそうだが…」
果たして人間時代の名残かそれとも演技かは定かではなかったが、それ自体が凄まじい凶器であろう鋼の両腕を組んでウ~ンと唸った髑髏戦士は、申し訳なさそうにこの含みのある質問に回答する。
「──こればかりは分かりませんねえ…。
個人的には強力な神霊闘術師でもある指揮官の支援もあって、D‐EYESが勝利するのではと予想しておりますが、まず何よりの脅威と懸念されるのがやはり土壇場に追い詰められた際に発現するであろう大教帝の“究極的潜在能力”ではないでしょうか?
そしてもう一つ未知数なのが、これまたわが不肖の後輩である太鬼真護という星渕特抜生の存在なのですが…」
「た、太鬼真護だとッ!?
きゃ…彼奴めがレイガルと行動を共にしておるのかッ!?」
「──そうです。通常時ならば考えられませんが…。
現在、ヤツはわが銀魔星の宿敵であるペトゥルナワスの帝界聖衛軍においていわば副将格のポジションにあり、本来ならば負極界勢と何らの接点もないわけですからね。
ですが持ち前の狡猾な計算によって言葉巧みにレイガルらに接近し、遠征隊は言うに及ばず、負極界四惑星においても屈指の戦闘者である二人を戦功のため利用しようともくろんでいるようです──いやはや、汲めども尽きせぬ唾棄すべき悪知恵にはただただ呆れ果てるばかりですが、戦闘者としての実力はひょっとするとレイガル以上かもしれません…!
そして残るは“ペティグロス最強戦士”との称号を持つラゼム=エルド。
レイガルや太鬼に比して地味な存在と見る向きもありましょうが、わが銀魔星的見解においては最も評価すべき兵であり、その境遇にも多分に同情すべき悲劇の軍人と申せましょう…。
何故ならばレイガルには崇拝する大教帝が傍らに在り、太鬼もまた信奉する聖剣皇を利するために今夜の戦いに臨むわけですが、彼エルドには母星から見棄てられたという痛切な悲哀のみがあり、ズタズタに傷付けられた自尊心を抱いたままで負極界首脳部が絶対の勝算を持って送り込む強力な刺客たちを迎撃せねばならぬわけですからね…」
「……」
「もちろん、ガズムオルをも凌駕するペティグロスの兵器開発技術が生み出した【特装戦甲】を纏った百戦錬磨の彼がポッと出の新兵どもに易々と仕留められるとも思えませんが、三者中誰よりも不安定な精神状態であるだけに、最も戦死リスクに曝されていると見なせましょう…」
「……」
「──さて、ここで気になるのは、博士ご自身がどう動かれるのかということなのですが…。
ここで一つ私が掴んだ情報をご披露しますと、フザケたことに太鬼は破壊した人工戦士の〈目玉〉を得意の念術で支配下に置き、あろうことかそれを媒介にあなたにババイヴ健在の証拠を突き付けて激昂させ、宿敵誅滅のための刺客を派遣させようと企んでいるということなのです…!」
「ううぬッ、何と狡猾なッ…!!」
「全くです。
その行状を観察する限り、ヤツには誇り高き星渕精神が根本的に欠如していると断ぜざるを得ない。
尤も伝統ある校風を踏み躙ることを生き甲斐にしていた四元ごとき反逆的異端児に心酔する時点でお里が知れるというものですが、かくなる上は母校愛に燃える先輩として渾身の鉄拳制裁もやむなし、との認識に至っている次第なのですがね…。
まあそれはともかく、このままではあの太鬼真護が厚顔にもあなたに出動要請してくることは確実──ですが今すぐ人工戦士群を出撃させ、連中の帰島前にババイヴを斃してしまえば少なくとも、早くて十数時間後に到着するであろうD‐EYESとは交戦せずとも済むわけです…」
されど既に肚は決まっていたのか、復讐に燃える蒼頭星人の返事は速やかだった。
「──なるほど分かった。
貴君の貴重な情報提供には大いに感謝する…誠に忝ない。
提言通り今すぐ“最強”の美沙門を筆頭に、残る3体の人工戦士を出撃させよう。
主目標はいうまでもなくババイヴ=ゴドゥエブンたが、レイガル及び太鬼真護も生かしておくわけにはいかん…!
特に三番目の抹殺に関しては、先程帰還した美沙門が真っ先に私に訴えてきたことでもあるのでな…!!」
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