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終章 LASTBATTLE ON THE EARTH
DEATHGAME-ISLAND③
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6匹の鋼蛇に巻き付かれたラゼム=エルドが十数メートル上空から地面に叩き付けられた瞬間、球形戦艦内で観戦する四人の負極界軍関係者から何ともいえぬ失笑が漏れた。
「無様な…!
こと地上戦においては圧倒的な優位性を誇る鋼帝巨蛇が潜んでいることが分かっていながら熱光弾長銃一挺を頼りに正面突破を図るとは、まさに素人同然の無為無策というべきだッ!
ここはどう考えても空中から館に接近すべきだったろうに…むろんその選択をすれば邸内からの狙撃リスクに曝されることにはなるが、見えざる鋼蛇に地中から襲われる危険性を鑑みればはるかにマシだッ!!」
1本の髪も無い頭部全体を紅潮させて同星人を罵る“ペティグロスの兵器博士”ゼウィル長官に彼と同じ長椅子に陣取るウィラーク艦長と志門博士が大きく頷いて同調するが、用意された豪奢な黒革張りの一人用ソファの背凭れに寄りかかり、眠そうな半眼でスクリーンを眺める黒蛇星爵ことジェスラ=ルギオムは物憂げにこうコメントした。
「いや、いずれの方法を採ろうが結果は同じでしょう。
むしろ私としてはかねて注目していたビドゥロ氏の実力を目の当たりにできて大いに満足していますがね…」
「おお、なるほど…!
戦功者のケイファーは別として、以前より星爵はビドゥロのみは救出に値すると申しておられましたが、たしかに彼独特の白兵戦思想によって開発された蛇型兵器は興味深い存在といえましょうからね…」
あながち追従ばかりとはいえぬウィラーク自身の本音が混じった言葉にルギオムも頷く。
「そういうことです…私個人としては鋼蛇を更に洗練強化させた上で量産し、対銀魔星の秘密兵器として用いたいともくろんでいるのですよ…。
尤もうっかりこの構想をわが盟友に洩らしてしまい、彼も大いに興味を示していたことから、今頃はより一層ハイパー化した“ペティグロス版鋼帝巨蛇”を完成させているはずですがね…。
それに何事も自力志向の彼としては立案者とはいえわざわざ他星人に大きな顔をさせるのを潔しとはせぬでしょうから、ビドゥロが帰星したところで知的英雄として祀り上げられることはまずないでしょう…」
この冷ややかな見立てに、“同業者”としてビドゥロに密かなライバル意識を抱いているらしいゼウィルが意を得たりとばかりにほくそ笑みつつ訊ねる。
「ということは、われわれもデータのみを収集して戦艦内で独自の蛇型兵器を製造し、彼自身は見捨てるということですか?」
「いや、私としてはそこまで割り切れませんね…ただエルドごとき弱卒を何人仕留めようが意味はありませんから、来襲してくることが確実な帝界聖衛軍の猛攻をみごと凌げるようであれば手を差し伸べようということです。
まあ、その場合はD‐EYESの諸君かニリーネ嬢に連れ帰ってもらえばいいでしょう──肝心の鋼帝巨蛇も今のようにバラせば特殊戦闘機で持ち帰れるはずですしね…」
「なるほど…。
ああそういえば、あの二人と行動を共にしていた太鬼真護なる星渕特抜生はどうしたのでしょうか?」
白髯を撫でながら首を捻る志門に微笑みかけながら黒蛇が説明する。
「どうやら彼に憑依し、今や意識の主宰者となった愉快な“異世界の魔霊クン”に対して激しい怨恨を有する地上人…ハッキリ種明かしをすれば虹岡霊術団総帥の娘が強烈な霊的攻撃を仕掛けて一時的に人事不省の状態に追いやったようですね…。
しかも途中で私の観察に気付いたらしく、現場の部屋全体をスッポリと濃密な【霊霧】で覆って完全シャットアウトされてしまいました…むろん強行突破しようと思えばできたのですが、何やら俗臭芬芬としたつまらん内容らしかったので早々に退散しましたが…。
ただ彼女の力量自体は素晴らしいものでしたよ…いや全く、一般地球人にあれだけの超常的なサイコパワーを横溢させた戦士が何ゆえに存在するのか…しかも雷の聖使のごとく聖闘防霊団が意図して誕生させたワケでもないのに?
まあそれこそ例の星渕学園の面々や新たに発見した海王児一族のように未知なる可能性を秘めた希少種は現実に息づいており、志門のような具眼の士が注意して探索すれば必ずやそれなりの成果が上がるのがこの地球という惑星の面白いところでもあるのですが、ね…」
「いや…恐縮であります」
完全に脱俗した仙人のごとき風貌を少年のように赤らめて一礼する志門克久であったが、それを目の端で捉えたウィラークとゼウィルは真性男色家の彼が黒蛇に個人的好意を抱いてしまったらしいことを素早く察知して苦笑を禁じ得なかった。
「…ところで星爵、例の蛸ノ宮ですが、ババイヴ撃破という宿願を達成し、虎の子の人工戦士の奇襲によってレイガルをも返り討ちにした以上は異常に執着する雷の聖使を追って月面に向かって来るのは必定──むろんタイミングが合えばD‐EYESに迎撃させよと姪に命じてはおりますが、それを運良く突破してきた場合はわれわれの手で粉砕することになるワケで、その際にはやはりまずギルガを動かすことに…?」
このウィラークの問いに「当然です」とそっけなく頷いた黒蛇は、「ですが」と含みを持たせた口調で続ける。
「これは私の能力の限界もあって確言できる話ではないので、一つの仮説として聞いて下さい。
どうやら銀魔星は既にあの蒼頭星人と接触を持ち、甘言を弄して自陣に加えることに成功したようです。
そして第一惑星の本陣から地球圏に向けて攻撃艦が差し向けられた模様──しかも独自に開発した超宙航法により数日後には到着する確率が高い…。
これは生粋の機械生命体である連中が艦と完全一体化できるがゆえの離れ業でしょうが、主目的が忍者艦隊の撃滅であることは間違いなさそうですね…ということは当然ながらギルガごときの手に負えるはずもなく、ヤツには分相応の蒼頭星人を受け持たせて手強い銀魔星艦はウィラーク艦の総力を上げて迎撃せねばなりますまいな…!」
「無様な…!
こと地上戦においては圧倒的な優位性を誇る鋼帝巨蛇が潜んでいることが分かっていながら熱光弾長銃一挺を頼りに正面突破を図るとは、まさに素人同然の無為無策というべきだッ!
ここはどう考えても空中から館に接近すべきだったろうに…むろんその選択をすれば邸内からの狙撃リスクに曝されることにはなるが、見えざる鋼蛇に地中から襲われる危険性を鑑みればはるかにマシだッ!!」
1本の髪も無い頭部全体を紅潮させて同星人を罵る“ペティグロスの兵器博士”ゼウィル長官に彼と同じ長椅子に陣取るウィラーク艦長と志門博士が大きく頷いて同調するが、用意された豪奢な黒革張りの一人用ソファの背凭れに寄りかかり、眠そうな半眼でスクリーンを眺める黒蛇星爵ことジェスラ=ルギオムは物憂げにこうコメントした。
「いや、いずれの方法を採ろうが結果は同じでしょう。
むしろ私としてはかねて注目していたビドゥロ氏の実力を目の当たりにできて大いに満足していますがね…」
「おお、なるほど…!
戦功者のケイファーは別として、以前より星爵はビドゥロのみは救出に値すると申しておられましたが、たしかに彼独特の白兵戦思想によって開発された蛇型兵器は興味深い存在といえましょうからね…」
あながち追従ばかりとはいえぬウィラーク自身の本音が混じった言葉にルギオムも頷く。
「そういうことです…私個人としては鋼蛇を更に洗練強化させた上で量産し、対銀魔星の秘密兵器として用いたいともくろんでいるのですよ…。
尤もうっかりこの構想をわが盟友に洩らしてしまい、彼も大いに興味を示していたことから、今頃はより一層ハイパー化した“ペティグロス版鋼帝巨蛇”を完成させているはずですがね…。
それに何事も自力志向の彼としては立案者とはいえわざわざ他星人に大きな顔をさせるのを潔しとはせぬでしょうから、ビドゥロが帰星したところで知的英雄として祀り上げられることはまずないでしょう…」
この冷ややかな見立てに、“同業者”としてビドゥロに密かなライバル意識を抱いているらしいゼウィルが意を得たりとばかりにほくそ笑みつつ訊ねる。
「ということは、われわれもデータのみを収集して戦艦内で独自の蛇型兵器を製造し、彼自身は見捨てるということですか?」
「いや、私としてはそこまで割り切れませんね…ただエルドごとき弱卒を何人仕留めようが意味はありませんから、来襲してくることが確実な帝界聖衛軍の猛攻をみごと凌げるようであれば手を差し伸べようということです。
まあ、その場合はD‐EYESの諸君かニリーネ嬢に連れ帰ってもらえばいいでしょう──肝心の鋼帝巨蛇も今のようにバラせば特殊戦闘機で持ち帰れるはずですしね…」
「なるほど…。
ああそういえば、あの二人と行動を共にしていた太鬼真護なる星渕特抜生はどうしたのでしょうか?」
白髯を撫でながら首を捻る志門に微笑みかけながら黒蛇が説明する。
「どうやら彼に憑依し、今や意識の主宰者となった愉快な“異世界の魔霊クン”に対して激しい怨恨を有する地上人…ハッキリ種明かしをすれば虹岡霊術団総帥の娘が強烈な霊的攻撃を仕掛けて一時的に人事不省の状態に追いやったようですね…。
しかも途中で私の観察に気付いたらしく、現場の部屋全体をスッポリと濃密な【霊霧】で覆って完全シャットアウトされてしまいました…むろん強行突破しようと思えばできたのですが、何やら俗臭芬芬としたつまらん内容らしかったので早々に退散しましたが…。
ただ彼女の力量自体は素晴らしいものでしたよ…いや全く、一般地球人にあれだけの超常的なサイコパワーを横溢させた戦士が何ゆえに存在するのか…しかも雷の聖使のごとく聖闘防霊団が意図して誕生させたワケでもないのに?
まあそれこそ例の星渕学園の面々や新たに発見した海王児一族のように未知なる可能性を秘めた希少種は現実に息づいており、志門のような具眼の士が注意して探索すれば必ずやそれなりの成果が上がるのがこの地球という惑星の面白いところでもあるのですが、ね…」
「いや…恐縮であります」
完全に脱俗した仙人のごとき風貌を少年のように赤らめて一礼する志門克久であったが、それを目の端で捉えたウィラークとゼウィルは真性男色家の彼が黒蛇に個人的好意を抱いてしまったらしいことを素早く察知して苦笑を禁じ得なかった。
「…ところで星爵、例の蛸ノ宮ですが、ババイヴ撃破という宿願を達成し、虎の子の人工戦士の奇襲によってレイガルをも返り討ちにした以上は異常に執着する雷の聖使を追って月面に向かって来るのは必定──むろんタイミングが合えばD‐EYESに迎撃させよと姪に命じてはおりますが、それを運良く突破してきた場合はわれわれの手で粉砕することになるワケで、その際にはやはりまずギルガを動かすことに…?」
このウィラークの問いに「当然です」とそっけなく頷いた黒蛇は、「ですが」と含みを持たせた口調で続ける。
「これは私の能力の限界もあって確言できる話ではないので、一つの仮説として聞いて下さい。
どうやら銀魔星は既にあの蒼頭星人と接触を持ち、甘言を弄して自陣に加えることに成功したようです。
そして第一惑星の本陣から地球圏に向けて攻撃艦が差し向けられた模様──しかも独自に開発した超宙航法により数日後には到着する確率が高い…。
これは生粋の機械生命体である連中が艦と完全一体化できるがゆえの離れ業でしょうが、主目的が忍者艦隊の撃滅であることは間違いなさそうですね…ということは当然ながらギルガごときの手に負えるはずもなく、ヤツには分相応の蒼頭星人を受け持たせて手強い銀魔星艦はウィラーク艦の総力を上げて迎撃せねばなりますまいな…!」
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