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第1章 妖術鬼の愛娘
【覇闘】の掟①
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「…今更言うのもアレだが、とてもいい趣味とは言えんな…。
尤も稼業を意識しての演出のつもりなのかもしれんが…。
せめて、『魔笛』あたりにすりゃいいものを…」
「でもモーツァルトの着メロに、果たしてその曲あんのかよ?
まあ、探しゃああるんだろうが…。
それよりテメーいっつもケチつけやがるが、あのドブ川を引っ掻き回したような〈ブラックメタル〉なんざよりゃよっぽどいい趣味だと思うぜ…!」
したたかに酔った盟友の非難めいた視線を傲然とはね返しつつ巨漢が反撃するが、自身の愛好物をあげつらわれたイケメン整体師が忽ち目を吊り上げていきり立った。
「何いっ!?
てめえ一回も聴いたことねえくせに、何を聞いたふうなことをッ‼」
──聴くに耐えんという意味ではどっちも同じじゃんか…。
そもそも、今の音楽シーンに【SILKY⚔BRADES】以外に聴くに値するシロモノがあるっていうのかよ?
…17年の悩み多き人生において、唯一の心のオアシスというべき5人組のアイドルユニットの光り輝く麗姿を想起しつつ心中で吐き捨てた黎輔であったが、目下の最大の苦悩は二年越しの推しである百年に一人レベルの美貌&歌唱力&ダンス力を誇る不動のセンター(もちろん人気もダントツ)=桂城聖蘭に熱愛が発覚したという衝撃の事実である!
意外にも相手は最も身近に潜むミュージシャンをはじめとする芸能関係者などではなく、新進気鋭にして超絶美形の青年実業家ということであったが、よほどの〈上○国民〉ででもあるものか、腹立たしいことにその正体は闇のベールに包まれたままであった(そもそも住む世界が違うのだから知り得たところでどうなるものでもないが)…。
「うおっ!?、お、おい、ちょっと待ってくれよ!
何と明日の対戦相手から電話がかかって来たぜ‼」
「…な、何だとッ?
だがどうして光城家だと分かる!?」
アルコールの魔力によって普段のクールさを根こそぎ剥奪されたか、無様に狼狽する星愁に黙って差し出されたスマホ画面を覗き込んだ二人の目を、
“光霊至聖教団 岡山県支部 T野分教会”
の文字が強かに打った。
「そういや、相手は全国に根を張るカルト集団だったんだっけ…。
(不謹慎にも含み笑いしつつ)だが、何でまたT野から…?
リラックスするため…いや、明日の運試しのためにナイター競輪でもやってんのかよ?
それに、何で連中がアンタの番号を知ってんだ?」
「知るかよ…とりあえず出るしかねえだろ」
まずジョッキの底に残った烏龍茶を飲み干し、ボリュームを最大にしてからスピーカーをONにした剛駕嶽仁だが、最初からまともな会話を交わすつもりはないらしく、
「ああ!?一体何の用だよッ!?」
とまずは痛烈な先制パンチをかました。
当然それも想定内の反応であったのであろう、一瞬息を呑む気配こそ感じられたものの、直ちに落ち着いた野太い声が返される。
「いや、戸惑うのは尤もだ…、
だが、こっちとしても決戦を明日に控えてこんな電話を掛けるのは心苦しい限りだということだけは察してもらいたい…。
実はな…」
──コイツ、オレより渋い声してやがる…ということは…。
忽ち闘志を掻き立てられた自称“備前の覇王”は精一杯凄みを効かせて割って入った。
「それより、何でオレの番号知ってんだよ?
気の毒な信者使ってコソコソスパイ行為やってんじゃねえぞコラァッ‼
ああ?そうじゃねえスかね!?
“光至教最強戦士”光城玄矢さんよッ‼」
返答は、銅鑼を打ち鳴らしたかの如き爆笑であった。
巨漢と酔漢はぽかんと口を開けて理解不能を表明するが、聡明なる高校生は渋面で無糖炭酸水を飲み干し、コップを叩き付けて苛立ちを表現する。
──全くアホだよな!
これで一気に会話の主導権を握られちまったし、その流れ次第じゃ明日の覇闘にも大いに影響するだろう…。
少なくともさっきまでは嶽さんと玄矢の戦闘力は少なくとも五分、と見てたけど、どうやら雲行きが怪しくなってきちゃったぜ…。
…光城玄矢の野放図な高笑いはたっぷり15秒は続き、ようやく会話に復帰したものの、まだ尾を引いているようであった。
「グフフハッ…ああ、どうも失礼。
だが、剛駕嶽仁…いや、【ヤマルウト】(岡山とオカルトを掛け合わせた店名)オーナーさんよ、フリマやオークションサイトに堂々と載っけといてその言い草はねえんじゃね!?」
「あっ…‼」
まさに取り返しの付かない痛恨のミスであった。
やらかしちまった…まさに絵に描いたようなTHE・自爆じゃねえか…!
──ああ、これで“岡山の剛駕嶽仁は後先考えず感情を爆発させるイタすぎるおバカ“との烙印を押され、瞬く間に敵陣営に知れ渡ることだろう…。
ちきしょう…せっかく苦心して作り上げた〈オカルトショップオーナー〉という、“神秘と凄みある知性”を演出するためのキャラ設定がこれで台無しじゃねえか‼
…こうなったら明日、玄矢を全殺しして口を塞ぐ(手遅れだが)しかこの恥辱を雪ぐ術はねえ…!
かくて主導権をガッチリと握った光城一族の嫡男は、一旦飲料で唇を湿したものとみえ、舌も滑らかに喋り始めた。
「まあ、そっちもキャリアを重ねる過程で少なからぬダメージを脳に蓄積してるだろうし、多少の物忘れはやむを得んだろう…。
…くっくくく(苦しそうな忍び笑い)…。
幸いにも、オレにはまだそこまでの症状はないがな…。
ひっひひ…それにな、光城家はアンタの店からネットで何度も購入してる、いわば“お得意様“なんだぜ…。
おっと、誤解するなよ?
もちろんオレにそんな不健全な趣味は無くて、もっぱら買ってるのはオカルト狂いの末っ子(ついでに引きこもりの中学生)・橙哉だがな…。
だが喜べよな、我が妹ながらすっげえ美人で画家を目指してる美大生の長女(名前は教えられねーよ、当たり前だろうが!)もちょくちょくアンタの“フリマの出店”を物色してるらしいぜ。
ド田舎のショップのくせに、妙に品揃えが充実してるんだってよ。
ついこないだも、何万もする東欧の幻想画家の画集をまとめ買いしたって言ってたぜ。
ホームページの店主日記もその濃すぎる内容にハマって毎日チェックしてるとか…。
ああ、それから、倉敷にはぜひ一度行きたい美術館があるから、その折には絶対ヤマルウトに立ち寄りたいって…、
…バーカ、ウソに決まってんだろうが!
てめえの立場も忘れて調子に乗ってんじゃねえぞ、このクソ田舎のゴリラ野郎ッ‼」
相手が一通り言いたいことを言い終えて溜飲が下がったのを見計らい、剛駕嶽仁が静かに語り始めた。
「…さっきから黙って聴いてりゃ、とても“宗教関係者”とは思えねえ発言のオンパレードだが、テメエらの人間性なんざ一皮剝きゃあその程度だろうからまあそれはいい…。
だが、これだけは言わせてもらうぜ…。
テメエ、明日が楽しみだな。
もうガキじゃねえんだから分かってるだろうが、一旦吐いたツバは飲み込めねえぜ…!
覚えとけっ、岡山をバカにする奴はたとえ誰であってもこの〈備前の覇王〉剛駕嶽仁が許さねえッ‼
なあ、プライド高き東京人さんよ、
テメエが反吐が出るほど嫌いらしいこの〈大都会〉で、人生最後の一夜をせいぜい楽しめやッ‼」
尤も稼業を意識しての演出のつもりなのかもしれんが…。
せめて、『魔笛』あたりにすりゃいいものを…」
「でもモーツァルトの着メロに、果たしてその曲あんのかよ?
まあ、探しゃああるんだろうが…。
それよりテメーいっつもケチつけやがるが、あのドブ川を引っ掻き回したような〈ブラックメタル〉なんざよりゃよっぽどいい趣味だと思うぜ…!」
したたかに酔った盟友の非難めいた視線を傲然とはね返しつつ巨漢が反撃するが、自身の愛好物をあげつらわれたイケメン整体師が忽ち目を吊り上げていきり立った。
「何いっ!?
てめえ一回も聴いたことねえくせに、何を聞いたふうなことをッ‼」
──聴くに耐えんという意味ではどっちも同じじゃんか…。
そもそも、今の音楽シーンに【SILKY⚔BRADES】以外に聴くに値するシロモノがあるっていうのかよ?
…17年の悩み多き人生において、唯一の心のオアシスというべき5人組のアイドルユニットの光り輝く麗姿を想起しつつ心中で吐き捨てた黎輔であったが、目下の最大の苦悩は二年越しの推しである百年に一人レベルの美貌&歌唱力&ダンス力を誇る不動のセンター(もちろん人気もダントツ)=桂城聖蘭に熱愛が発覚したという衝撃の事実である!
意外にも相手は最も身近に潜むミュージシャンをはじめとする芸能関係者などではなく、新進気鋭にして超絶美形の青年実業家ということであったが、よほどの〈上○国民〉ででもあるものか、腹立たしいことにその正体は闇のベールに包まれたままであった(そもそも住む世界が違うのだから知り得たところでどうなるものでもないが)…。
「うおっ!?、お、おい、ちょっと待ってくれよ!
何と明日の対戦相手から電話がかかって来たぜ‼」
「…な、何だとッ?
だがどうして光城家だと分かる!?」
アルコールの魔力によって普段のクールさを根こそぎ剥奪されたか、無様に狼狽する星愁に黙って差し出されたスマホ画面を覗き込んだ二人の目を、
“光霊至聖教団 岡山県支部 T野分教会”
の文字が強かに打った。
「そういや、相手は全国に根を張るカルト集団だったんだっけ…。
(不謹慎にも含み笑いしつつ)だが、何でまたT野から…?
リラックスするため…いや、明日の運試しのためにナイター競輪でもやってんのかよ?
それに、何で連中がアンタの番号を知ってんだ?」
「知るかよ…とりあえず出るしかねえだろ」
まずジョッキの底に残った烏龍茶を飲み干し、ボリュームを最大にしてからスピーカーをONにした剛駕嶽仁だが、最初からまともな会話を交わすつもりはないらしく、
「ああ!?一体何の用だよッ!?」
とまずは痛烈な先制パンチをかました。
当然それも想定内の反応であったのであろう、一瞬息を呑む気配こそ感じられたものの、直ちに落ち着いた野太い声が返される。
「いや、戸惑うのは尤もだ…、
だが、こっちとしても決戦を明日に控えてこんな電話を掛けるのは心苦しい限りだということだけは察してもらいたい…。
実はな…」
──コイツ、オレより渋い声してやがる…ということは…。
忽ち闘志を掻き立てられた自称“備前の覇王”は精一杯凄みを効かせて割って入った。
「それより、何でオレの番号知ってんだよ?
気の毒な信者使ってコソコソスパイ行為やってんじゃねえぞコラァッ‼
ああ?そうじゃねえスかね!?
“光至教最強戦士”光城玄矢さんよッ‼」
返答は、銅鑼を打ち鳴らしたかの如き爆笑であった。
巨漢と酔漢はぽかんと口を開けて理解不能を表明するが、聡明なる高校生は渋面で無糖炭酸水を飲み干し、コップを叩き付けて苛立ちを表現する。
──全くアホだよな!
これで一気に会話の主導権を握られちまったし、その流れ次第じゃ明日の覇闘にも大いに影響するだろう…。
少なくともさっきまでは嶽さんと玄矢の戦闘力は少なくとも五分、と見てたけど、どうやら雲行きが怪しくなってきちゃったぜ…。
…光城玄矢の野放図な高笑いはたっぷり15秒は続き、ようやく会話に復帰したものの、まだ尾を引いているようであった。
「グフフハッ…ああ、どうも失礼。
だが、剛駕嶽仁…いや、【ヤマルウト】(岡山とオカルトを掛け合わせた店名)オーナーさんよ、フリマやオークションサイトに堂々と載っけといてその言い草はねえんじゃね!?」
「あっ…‼」
まさに取り返しの付かない痛恨のミスであった。
やらかしちまった…まさに絵に描いたようなTHE・自爆じゃねえか…!
──ああ、これで“岡山の剛駕嶽仁は後先考えず感情を爆発させるイタすぎるおバカ“との烙印を押され、瞬く間に敵陣営に知れ渡ることだろう…。
ちきしょう…せっかく苦心して作り上げた〈オカルトショップオーナー〉という、“神秘と凄みある知性”を演出するためのキャラ設定がこれで台無しじゃねえか‼
…こうなったら明日、玄矢を全殺しして口を塞ぐ(手遅れだが)しかこの恥辱を雪ぐ術はねえ…!
かくて主導権をガッチリと握った光城一族の嫡男は、一旦飲料で唇を湿したものとみえ、舌も滑らかに喋り始めた。
「まあ、そっちもキャリアを重ねる過程で少なからぬダメージを脳に蓄積してるだろうし、多少の物忘れはやむを得んだろう…。
…くっくくく(苦しそうな忍び笑い)…。
幸いにも、オレにはまだそこまでの症状はないがな…。
ひっひひ…それにな、光城家はアンタの店からネットで何度も購入してる、いわば“お得意様“なんだぜ…。
おっと、誤解するなよ?
もちろんオレにそんな不健全な趣味は無くて、もっぱら買ってるのはオカルト狂いの末っ子(ついでに引きこもりの中学生)・橙哉だがな…。
だが喜べよな、我が妹ながらすっげえ美人で画家を目指してる美大生の長女(名前は教えられねーよ、当たり前だろうが!)もちょくちょくアンタの“フリマの出店”を物色してるらしいぜ。
ド田舎のショップのくせに、妙に品揃えが充実してるんだってよ。
ついこないだも、何万もする東欧の幻想画家の画集をまとめ買いしたって言ってたぜ。
ホームページの店主日記もその濃すぎる内容にハマって毎日チェックしてるとか…。
ああ、それから、倉敷にはぜひ一度行きたい美術館があるから、その折には絶対ヤマルウトに立ち寄りたいって…、
…バーカ、ウソに決まってんだろうが!
てめえの立場も忘れて調子に乗ってんじゃねえぞ、このクソ田舎のゴリラ野郎ッ‼」
相手が一通り言いたいことを言い終えて溜飲が下がったのを見計らい、剛駕嶽仁が静かに語り始めた。
「…さっきから黙って聴いてりゃ、とても“宗教関係者”とは思えねえ発言のオンパレードだが、テメエらの人間性なんざ一皮剝きゃあその程度だろうからまあそれはいい…。
だが、これだけは言わせてもらうぜ…。
テメエ、明日が楽しみだな。
もうガキじゃねえんだから分かってるだろうが、一旦吐いたツバは飲み込めねえぜ…!
覚えとけっ、岡山をバカにする奴はたとえ誰であってもこの〈備前の覇王〉剛駕嶽仁が許さねえッ‼
なあ、プライド高き東京人さんよ、
テメエが反吐が出るほど嫌いらしいこの〈大都会〉で、人生最後の一夜をせいぜい楽しめやッ‼」
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