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第二章 かくて【中立教界】は戦場となった
那崎弓葉、絶体絶命!①
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てっきり自分が任命されるものと思い込んでいた執教士長が、よりにもよって異世界(魔法王界)からの来訪者にかっさらわれようとしていることなど露ほども知らぬ元凶悪殺人犯の教軍超兵・煬赫(戸倉一志)は、胡座をかいて顎を撫でさすりながらもうじき現実になるはずの甘美な未来への妄想に耽っていたが、3メートルほどの距離を隔てて両膝を抱えて蹲り(コイツ、ジリジリとオレ様から遠ざかろうとしてねえか?)、この世の終わりのような絶望の表情で俯いている指月 亘に、王者の余裕からくる鷹揚さを嫌らしく滲ませながらこう声をかける。
「まあ、そう固くなるでない……。
実はな、全教軍超兵中でも最高レベルにあるオレ様の透視力で戦況を俯瞰してみたところでは、師匠が乗り込んだ本体に先駆けてティリールカを急襲した50体もの仔ザヌザたちは、押っ取り刀で迎撃に出てきた戦闘機どもを翻弄しつつ、まずは愛華領最大の資金源である神霊薬花園を火の海にすることに成功したようだ──ホレ、そんな死にそうな面してねえで、その目ン玉に我が教軍の大戦果を刻みつけるがいい……どうだ、富◯山大噴火に匹敵する壮大な眺めじゃねえか?
ここまでイージーだと、わざわざ本体が出張してくる必要があったのかすら疑わしくなるな……何せ竹澤の糞ババアは言わずもがな、最大の脅威ともいえる最強操獣師のメデューサも戦闘不能に追い込んじまった訳だしな──残るはNo.2の萩邑りさらだが、奴を葬るのにゃ仔が3匹もいりゃ十分だろ……」
こうペラペラとまくし立てながら陰険な眼差しで指月少年を観察する戸倉であったが、ただその場をやり過ごすためだけに僅かに首を動かして教界方面に視線を送ったらしい同胞に、著しい忠誠心の欠如を認めて声を荒げる。
「オラァッ!何だそのダラケた仕草はッ!?
大体テメエ、さっきから態度がなってねえぞッ!!
いいかッ、オレ様が言ったことをもう忘れやがったのか、この煬赫こそがもうじき愛華領の絶対者として君臨することをッ!?
その暁にはだな、今ここで行儀よくしてりゃ新参者にゃ勿体なさすぎるほどのポジションに取り立ててやるかと思ってたんだが、そんな態度じゃオレ様の傍に置いとくのすら業腹だわッ!
したがってテメエの身柄は鬼より怖え我が師匠に委ねて今後一切関わらねえことに決めたから、せいぜい覚悟しとけッ!!」
故郷の地上世界においては大罪人である自分が受けるはずであった〈死刑宣告〉を、何も知らぬ年少の遭難者へ逆にかましてほくそ笑んだ戸倉一志であったが、5体の仔ザヌザに顔面と両手足を張り付かれて(腕と脚を攻撃する刃獣は二つ折りになりながら万力の様に締め上げる)完全に動きを封じられた絆獣が自動的にか或いは操獣師自身の決断かは定かではないが、あたかも巨木が倒れるように地獄の戦場と化した広大な薬花園の一角で仰向けに崩れ落ち、大の字になった漆黒の人型絆獣の逞しい胸筋の中央部から、直径2メートルほどの巨大な黒真珠を彷彿とさせる光球が出現してふわりと舞い上がったのを心眼で確認して焦りまくる。
「──なななッ!?
そろそろ腰を上げようと思っちゃいたが、予想より随分展開が早えじゃねえかッ!?
まああの娘は偉大なる教聖が直々に捕獲命令を出されたほどの重要人物だからオレが駆けつけるまで仔ザヌザどもがガッチリ保護してくれてるだろうが、一刻も早く身柄を確保して打ち合わせ通り白老森で師匠を待ってねえと大事な評価にキズがつくッ!──こうしちゃおられんッッ!!」
かくて勢いよく立ち上がった“赤系虹ミイラ”(聖団内で流通する蔑称)煬赫は、熾烈な憎悪と心からの安堵が入り混じった複雑な表情の指月 亘に見送られながら一目散に駆け出すのであった!
✦
前夜の狂乱によって、もはや“潜在的反逆者”の烙印を押されてしまった雷堂 玄は独房にブチ込まれこそしなかったものの、あてがわれていた個室に完全軟禁状態となっていた。
目下、玄の生体認証は消去されて退室するのは不可能である上に、廊下で目を光らせているのはなまじの番兵など足元にも及ばぬ脅威である2体の医門機とあっては、脱出するには“この手段”しか存在しないのであるが……
『──ダメだ、錬装できねえ……!
(顔面蒼白になりながら)
予想はしてたが、やはり【砦】も激オコとみえて〈錬装化無期限凍結処分〉を食らっちまったらしい……しかしコイツはヤベえことになっちまった……。
はたしてこれからどうなるか……それこそ医療が専門の愛華領の精神病棟にでも放り込まれるか、それとも可哀想な雅桃ちゃんみたく砦に戻されて、生き地獄みてえな〈矯正プログラム〉を潜在意識レベルで叩き込まれることになるのか──最悪のケースとして考えられるのはおそらくこの二択だろうが、弓葉タンが近くにいるだけ前のヤツのがマシだろうぜ……!
しかしそれにしても首が痛え……。
さすがに最強錬装者の称号はダテじゃなかったな──何気ない絞め技一つとっても他の連中のそれとは破壊力がレベチだぜ……そもそも向こう見ずに向かっていけたのもあくまで鏡の教聖のエグい催眠術にかかってたからで、素面じゃそもそもあの圧倒的な闘気と絶対的な力量差にブルっちまってまともに向き合うことすら不可能だろう……ん?何かドアの向こうで気配がするぞ……もしかしてオレ、このまま連行されて拷問でもされちまうのかよッ!?』
迫りくる恐怖の予感に震えおののく“絆獣聖団の問題児”が上品な金色の毛布で身を覆い隠そうとした刹那、医門機どもに護られてにこやかな表情のゼド=メギンが入室してきた──。
「まあ、そう固くなるでない……。
実はな、全教軍超兵中でも最高レベルにあるオレ様の透視力で戦況を俯瞰してみたところでは、師匠が乗り込んだ本体に先駆けてティリールカを急襲した50体もの仔ザヌザたちは、押っ取り刀で迎撃に出てきた戦闘機どもを翻弄しつつ、まずは愛華領最大の資金源である神霊薬花園を火の海にすることに成功したようだ──ホレ、そんな死にそうな面してねえで、その目ン玉に我が教軍の大戦果を刻みつけるがいい……どうだ、富◯山大噴火に匹敵する壮大な眺めじゃねえか?
ここまでイージーだと、わざわざ本体が出張してくる必要があったのかすら疑わしくなるな……何せ竹澤の糞ババアは言わずもがな、最大の脅威ともいえる最強操獣師のメデューサも戦闘不能に追い込んじまった訳だしな──残るはNo.2の萩邑りさらだが、奴を葬るのにゃ仔が3匹もいりゃ十分だろ……」
こうペラペラとまくし立てながら陰険な眼差しで指月少年を観察する戸倉であったが、ただその場をやり過ごすためだけに僅かに首を動かして教界方面に視線を送ったらしい同胞に、著しい忠誠心の欠如を認めて声を荒げる。
「オラァッ!何だそのダラケた仕草はッ!?
大体テメエ、さっきから態度がなってねえぞッ!!
いいかッ、オレ様が言ったことをもう忘れやがったのか、この煬赫こそがもうじき愛華領の絶対者として君臨することをッ!?
その暁にはだな、今ここで行儀よくしてりゃ新参者にゃ勿体なさすぎるほどのポジションに取り立ててやるかと思ってたんだが、そんな態度じゃオレ様の傍に置いとくのすら業腹だわッ!
したがってテメエの身柄は鬼より怖え我が師匠に委ねて今後一切関わらねえことに決めたから、せいぜい覚悟しとけッ!!」
故郷の地上世界においては大罪人である自分が受けるはずであった〈死刑宣告〉を、何も知らぬ年少の遭難者へ逆にかましてほくそ笑んだ戸倉一志であったが、5体の仔ザヌザに顔面と両手足を張り付かれて(腕と脚を攻撃する刃獣は二つ折りになりながら万力の様に締め上げる)完全に動きを封じられた絆獣が自動的にか或いは操獣師自身の決断かは定かではないが、あたかも巨木が倒れるように地獄の戦場と化した広大な薬花園の一角で仰向けに崩れ落ち、大の字になった漆黒の人型絆獣の逞しい胸筋の中央部から、直径2メートルほどの巨大な黒真珠を彷彿とさせる光球が出現してふわりと舞い上がったのを心眼で確認して焦りまくる。
「──なななッ!?
そろそろ腰を上げようと思っちゃいたが、予想より随分展開が早えじゃねえかッ!?
まああの娘は偉大なる教聖が直々に捕獲命令を出されたほどの重要人物だからオレが駆けつけるまで仔ザヌザどもがガッチリ保護してくれてるだろうが、一刻も早く身柄を確保して打ち合わせ通り白老森で師匠を待ってねえと大事な評価にキズがつくッ!──こうしちゃおられんッッ!!」
かくて勢いよく立ち上がった“赤系虹ミイラ”(聖団内で流通する蔑称)煬赫は、熾烈な憎悪と心からの安堵が入り混じった複雑な表情の指月 亘に見送られながら一目散に駆け出すのであった!
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前夜の狂乱によって、もはや“潜在的反逆者”の烙印を押されてしまった雷堂 玄は独房にブチ込まれこそしなかったものの、あてがわれていた個室に完全軟禁状態となっていた。
目下、玄の生体認証は消去されて退室するのは不可能である上に、廊下で目を光らせているのはなまじの番兵など足元にも及ばぬ脅威である2体の医門機とあっては、脱出するには“この手段”しか存在しないのであるが……
『──ダメだ、錬装できねえ……!
(顔面蒼白になりながら)
予想はしてたが、やはり【砦】も激オコとみえて〈錬装化無期限凍結処分〉を食らっちまったらしい……しかしコイツはヤベえことになっちまった……。
はたしてこれからどうなるか……それこそ医療が専門の愛華領の精神病棟にでも放り込まれるか、それとも可哀想な雅桃ちゃんみたく砦に戻されて、生き地獄みてえな〈矯正プログラム〉を潜在意識レベルで叩き込まれることになるのか──最悪のケースとして考えられるのはおそらくこの二択だろうが、弓葉タンが近くにいるだけ前のヤツのがマシだろうぜ……!
しかしそれにしても首が痛え……。
さすがに最強錬装者の称号はダテじゃなかったな──何気ない絞め技一つとっても他の連中のそれとは破壊力がレベチだぜ……そもそも向こう見ずに向かっていけたのもあくまで鏡の教聖のエグい催眠術にかかってたからで、素面じゃそもそもあの圧倒的な闘気と絶対的な力量差にブルっちまってまともに向き合うことすら不可能だろう……ん?何かドアの向こうで気配がするぞ……もしかしてオレ、このまま連行されて拷問でもされちまうのかよッ!?』
迫りくる恐怖の予感に震えおののく“絆獣聖団の問題児”が上品な金色の毛布で身を覆い隠そうとした刹那、医門機どもに護られてにこやかな表情のゼド=メギンが入室してきた──。
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