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第二章 かくて【中立教界】は戦場となった
那崎弓葉、絶体絶命!②
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「ライドウ君、具合はどうかね?
担当医の話だと、頸部にごく軽い捻挫が認められるものの懸念された精神面も含めて何ら問題はないということだったが……?」
患者に深い安心感を与える絶対の自信に満ちた穏やかな眼差しを注がれた玄は、むろん警戒心は解かぬまでもどうやら最悪の事態は免れそうだと密かに安堵しながら「はい、ありがとうございます……。
おかげさまでどうやら大丈夫みたいです……」と能う限りの同情心を惹くため、精一杯のか細い声で応じる。
「それはよかった……何しろ君も周知していたであろう事前情報通り、ついに我がティリールカに呪わしい神牙教軍の魔手が伸びてきたのだ。
既に数十体もの飛翔系刃獣の襲来が確認されており、つい今しがた当教界死守の使命を帯びたチェイズ闘士団の勇士たちが戦闘機を駆って迎撃に飛び立ったところだ──」
『……そういや、20分ほど前、神霊薬花園の端っこに突貫工事でこさえた滑走路からガートスの発進音が微かに聞こえてきたな……にしても随分急だぜ、開戦は早くてもてっきり数日後と踏んでたが……』
毛布から顔を出して神妙に俯く戦闘不能者に、若き指導者は思わぬ言葉を投げかけてきた。
「さて、そうなると歴戦の勇者たる君たち絆獣聖団に本領発揮してもらわねばならぬ訳だが、鏡の教聖の奸智によって主力たるべき操獣師勢はガタガタの状態にある……。
そして何よりも痛いのは最強の誉れ高いクリストファー操獣師が瀕死の重傷を負い、参戦がほぼ絶望的である点だ……」
「……」
「むろん我々には彼女に匹敵する特級操獣師であるリサラ・ハギムラ嬢が控えてくれてはいるが、更に先発隊の母体ともいうべき大型刃獣が接近中との凶報もあり、いかにハギムラ操獣師が優秀だとて、他に出撃可能な2体の絆獣が共に初陣とあっては、我々としても尋常ならざる事態に最大限の危機感を持たざるをえない……」
「……」
「しかもリサ…いやハギムラ操獣師の話ではナザキ操獣師の絆獣は格闘戦特化の人型であるため、飛行能力を得るためにはサハラ操獣師の駆る飛翔系と合体する必要があるとのことだが、それも訓練を開始した矢先で熟達にはほど遠いという……」
「……」
「かくなる上はハギムラ操獣師と闘士団航空戦隊との連携に最後の望みをかけるしかない訳だが、実は私自身は決して悲観している訳ではない……」
「……!?」
ここまで聞いて、勝手に一人で絶望していた“絆獣聖団の問題児”は、闇夜に突如として光が差した思いでパッと表情を輝かせるが、「それが何かはここでは言えないが」と釘を差されてガッカリする。
「さて、ここで話題を君自身に転じたいのだが許していただけるかな?」
かくて一瞬の歓喜は冷酷な現実によって瞬殺され、またもや毛布を引っ被り上げたい衝動に駆られる玄であったが、むろん尋問に応じぬ訳にはいかぬ。
「単刀直入に伺いたいのだが──君は現在、錬装化能力を保持しているのかね?」
この完全想定外の問いかけに呆然となり、即座に返事もできない錬装者に対し、その表情から目ざとく回答を読み取ったゼド=メギンは、
「──そうか……それは残念だな。
いや、決して昨晩の君のふるまいを擁護する訳ではないが、個人の見解として最も責められるべきはあのように特殊で危険な尋問法を、しかも剣呑極まる教軍超兵に対して強行させた聖団本部と、あたかも奴僕のごとく唯々諾々と従った“現場責任者”にあると考える──」
「え、ええッ!?」
所属組織に対して慢性的な反抗心をくすぶらせている玄が思わず声を上げてしまったほどにこの発言は意外であり、ここに至って初めて愛華領次期教率者の美しいブルーの双眸を直視できたのであるが、その慈愛に満ちた蠱惑的な輝きは同性である彼ですら魅了されずにはいられなかった。
「実はねライドウ君、我々“新世代の指導者たち”は旧来の教界という枠組みを超え、共に手を携えて困難に立ち向かうための連合組織を結成しているのだが、図らずも我が愛華領の受難がその最初の事例となってしまったようで忸怩たる思いに駆られているところなのだ──だがまあそれはやむをえぬとして、我々が運用し、日々開発努力を重ねる技術力に関しては些かの……いや絶対的な自負を持っていると断言してよい……!」
「はあ、なるほど……」
「そしてこれまでは天響神エグメドの申し子を自認する絆獣聖団のみが行使しうると信じられてきた幾多の超技術をも我が物としつつあるのだッ!」
「な、何ですってッッ!?」
あたかも雷のごとく叩きつけられた衝撃的宣言に驚愕する雷堂 玄──されど当然ながら天才薬創士の眼差しは真剣そのものである。
「──驚くのもムリはない。
しかしそれが事実であることは、遠からずハギムラ操獣師が証明してくれるはずだ……そうか、たしか君は彼女の旧聖幻晶が破損している事実を知らなかったな……。
(ここでゼドはその経緯を手短に説明し、現在りさらの額に輝いているのは極智の眼が独自開発したより強力な新型であることを告げる)
ふふふ、驚きが覚めやらぬようだが、ならばこうは考えられないかね?
──即ち、我々の手をもってすれば、現在君が蒙っている〈錬装機能無期限凍結〉という重い処罰を、たちまち解除して差し上げられるということが、ね……!」
担当医の話だと、頸部にごく軽い捻挫が認められるものの懸念された精神面も含めて何ら問題はないということだったが……?」
患者に深い安心感を与える絶対の自信に満ちた穏やかな眼差しを注がれた玄は、むろん警戒心は解かぬまでもどうやら最悪の事態は免れそうだと密かに安堵しながら「はい、ありがとうございます……。
おかげさまでどうやら大丈夫みたいです……」と能う限りの同情心を惹くため、精一杯のか細い声で応じる。
「それはよかった……何しろ君も周知していたであろう事前情報通り、ついに我がティリールカに呪わしい神牙教軍の魔手が伸びてきたのだ。
既に数十体もの飛翔系刃獣の襲来が確認されており、つい今しがた当教界死守の使命を帯びたチェイズ闘士団の勇士たちが戦闘機を駆って迎撃に飛び立ったところだ──」
『……そういや、20分ほど前、神霊薬花園の端っこに突貫工事でこさえた滑走路からガートスの発進音が微かに聞こえてきたな……にしても随分急だぜ、開戦は早くてもてっきり数日後と踏んでたが……』
毛布から顔を出して神妙に俯く戦闘不能者に、若き指導者は思わぬ言葉を投げかけてきた。
「さて、そうなると歴戦の勇者たる君たち絆獣聖団に本領発揮してもらわねばならぬ訳だが、鏡の教聖の奸智によって主力たるべき操獣師勢はガタガタの状態にある……。
そして何よりも痛いのは最強の誉れ高いクリストファー操獣師が瀕死の重傷を負い、参戦がほぼ絶望的である点だ……」
「……」
「むろん我々には彼女に匹敵する特級操獣師であるリサラ・ハギムラ嬢が控えてくれてはいるが、更に先発隊の母体ともいうべき大型刃獣が接近中との凶報もあり、いかにハギムラ操獣師が優秀だとて、他に出撃可能な2体の絆獣が共に初陣とあっては、我々としても尋常ならざる事態に最大限の危機感を持たざるをえない……」
「……」
「しかもリサ…いやハギムラ操獣師の話ではナザキ操獣師の絆獣は格闘戦特化の人型であるため、飛行能力を得るためにはサハラ操獣師の駆る飛翔系と合体する必要があるとのことだが、それも訓練を開始した矢先で熟達にはほど遠いという……」
「……」
「かくなる上はハギムラ操獣師と闘士団航空戦隊との連携に最後の望みをかけるしかない訳だが、実は私自身は決して悲観している訳ではない……」
「……!?」
ここまで聞いて、勝手に一人で絶望していた“絆獣聖団の問題児”は、闇夜に突如として光が差した思いでパッと表情を輝かせるが、「それが何かはここでは言えないが」と釘を差されてガッカリする。
「さて、ここで話題を君自身に転じたいのだが許していただけるかな?」
かくて一瞬の歓喜は冷酷な現実によって瞬殺され、またもや毛布を引っ被り上げたい衝動に駆られる玄であったが、むろん尋問に応じぬ訳にはいかぬ。
「単刀直入に伺いたいのだが──君は現在、錬装化能力を保持しているのかね?」
この完全想定外の問いかけに呆然となり、即座に返事もできない錬装者に対し、その表情から目ざとく回答を読み取ったゼド=メギンは、
「──そうか……それは残念だな。
いや、決して昨晩の君のふるまいを擁護する訳ではないが、個人の見解として最も責められるべきはあのように特殊で危険な尋問法を、しかも剣呑極まる教軍超兵に対して強行させた聖団本部と、あたかも奴僕のごとく唯々諾々と従った“現場責任者”にあると考える──」
「え、ええッ!?」
所属組織に対して慢性的な反抗心をくすぶらせている玄が思わず声を上げてしまったほどにこの発言は意外であり、ここに至って初めて愛華領次期教率者の美しいブルーの双眸を直視できたのであるが、その慈愛に満ちた蠱惑的な輝きは同性である彼ですら魅了されずにはいられなかった。
「実はねライドウ君、我々“新世代の指導者たち”は旧来の教界という枠組みを超え、共に手を携えて困難に立ち向かうための連合組織を結成しているのだが、図らずも我が愛華領の受難がその最初の事例となってしまったようで忸怩たる思いに駆られているところなのだ──だがまあそれはやむをえぬとして、我々が運用し、日々開発努力を重ねる技術力に関しては些かの……いや絶対的な自負を持っていると断言してよい……!」
「はあ、なるほど……」
「そしてこれまでは天響神エグメドの申し子を自認する絆獣聖団のみが行使しうると信じられてきた幾多の超技術をも我が物としつつあるのだッ!」
「な、何ですってッッ!?」
あたかも雷のごとく叩きつけられた衝撃的宣言に驚愕する雷堂 玄──されど当然ながら天才薬創士の眼差しは真剣そのものである。
「──驚くのもムリはない。
しかしそれが事実であることは、遠からずハギムラ操獣師が証明してくれるはずだ……そうか、たしか君は彼女の旧聖幻晶が破損している事実を知らなかったな……。
(ここでゼドはその経緯を手短に説明し、現在りさらの額に輝いているのは極智の眼が独自開発したより強力な新型であることを告げる)
ふふふ、驚きが覚めやらぬようだが、ならばこうは考えられないかね?
──即ち、我々の手をもってすれば、現在君が蒙っている〈錬装機能無期限凍結〉という重い処罰を、たちまち解除して差し上げられるということが、ね……!」
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