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第十九章 麓戸との再会
三者面談
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吹奏楽部の音が再びパート練習に戻ったのか遠くでバラバラに聞こえた。
麓戸が、ふうっと溜め息をついた。椅子の背に、背中をつけて、天井を仰向いた。
その後、小坂の顔を見て、
「恥ずかしながら、率直に言って、息子の成績はあまりよくないのでしょう?」
と聞いてきた。
「いや……ああ……」
今まで、麓戸は、小坂のSMの主人だったのだ。会うときはプレイの状態だった。電話でも、麓戸は主従関係を乱すことはなかった。それが、麓戸のスタイルだった。
なのに、今は、教師と生徒の保護者という関係性。
小坂は、戸惑った。
「息子には、仕事を手伝わせたいと思っています」
麓戸が言った。
「仕事?」
まさか麓戸は村田にいかがわしい商売の手伝いをさせようというのか?
「将来は会社を譲りたい」
麓戸は言った。
「はあ」
麓戸の説明によると、麓戸は、いくつかの会社を持っているらしかった。
あのアダルトショップと秘密クラブも引き継がせるのだろうか。主人となった村田と店でプレイをしている自分の姿を想像した。
「私も、この高校の卒業生です」
麓戸が言った。
「えっ、そうなんですか」
麓戸はアウトローな雰囲気があった。だから、意外だった。
神崎先生を知っているとは言っていたが、この高校でのことだったのか。
まさか、麓戸もこの高校出身だったとは。
「生徒会長の候補にもなったことがあるんですよ。知っているでしょうこの学校の生徒会長の威力を」
麓戸は誇らしそうに言った。
しかも、生徒会長候補に?
切れ者だとは思っていたが、そんなに優秀だったのか? 生徒会長には、文武両道で人望もある心身共に強健な者しかなれないのに。
「はい。僕も、候補になったことがあります」
小坂は言いにくい話題が出たと思った。
「ほう、それは奇遇ですね。先生も生徒会長だったとは、さすがですね」
麓戸の言葉が小坂の嫌な記憶に触れた。
「いえ、候補になっただけです。僕は、生徒会長にはなりませんでした」
そう。小坂は、ラグビー部の性処理係だったから。そんな過去を持つ人間は、生徒会長になどなれない。そういう判断がくだされたのだ。小坂は選挙戦から排除された。
「そうですか。それなら、私と同じですね」
違う。同じなんかじゃない。
選挙戦で負けて、生徒会長になれなかったわけではないんだ。戦うことすら、させてもらえなかった。
立ち合い演説会の演説原稿だって、作ってあったのに。何度も何度も読み上げて、暗記するくらい練習して。
「わかりますよ。あなたが何者だったか。なぜなら私もそうだったから」
麓戸が言った。
「違います。同じなんかじゃない」
小坂は、こぶしを握りしめた。
「ほう。同じではない、と」
麓戸が、小坂のまなざしをとらえて言った。
過去が目の前によみがえり、ぼんやりしてきた小坂のまなざしを。
麓戸は、小坂のまなざしを、過去から引き離すように、とらえて言った。
麓戸の強いまなざしも、小坂を現実に、この場所へ、引き戻すだけの力はなかった。
「はい」
小坂は、ほとんど聞いていなかった。
自分が何をしゃべっているのかも、わからなかった。ただ、人形のように、決められたことを口にして口をパクパクしているように感じた。
意識のとんだまま、規定通りの会話で、なんとか三者面談を乗りきった。
ときおり、机の下で、村田の足や、麓戸の足が小坂の足にぶつかってきたのを覚えている。それぞれが、それぞれの思惑で、小坂の顔を見て、ニヤニヤしてきた。だが、小坂は、それどころではなかった。
面談を終え、父子が立ち上がり、小坂も立ち上がった。
「じゃあ、部活に行ってくるね」
村田は、以前とは違う、年相応の笑顔を見せて快活に言った。
麓戸も村田に応えて、父親の顔で、村田に手を振った。
麓戸が、ふうっと溜め息をついた。椅子の背に、背中をつけて、天井を仰向いた。
その後、小坂の顔を見て、
「恥ずかしながら、率直に言って、息子の成績はあまりよくないのでしょう?」
と聞いてきた。
「いや……ああ……」
今まで、麓戸は、小坂のSMの主人だったのだ。会うときはプレイの状態だった。電話でも、麓戸は主従関係を乱すことはなかった。それが、麓戸のスタイルだった。
なのに、今は、教師と生徒の保護者という関係性。
小坂は、戸惑った。
「息子には、仕事を手伝わせたいと思っています」
麓戸が言った。
「仕事?」
まさか麓戸は村田にいかがわしい商売の手伝いをさせようというのか?
「将来は会社を譲りたい」
麓戸は言った。
「はあ」
麓戸の説明によると、麓戸は、いくつかの会社を持っているらしかった。
あのアダルトショップと秘密クラブも引き継がせるのだろうか。主人となった村田と店でプレイをしている自分の姿を想像した。
「私も、この高校の卒業生です」
麓戸が言った。
「えっ、そうなんですか」
麓戸はアウトローな雰囲気があった。だから、意外だった。
神崎先生を知っているとは言っていたが、この高校でのことだったのか。
まさか、麓戸もこの高校出身だったとは。
「生徒会長の候補にもなったことがあるんですよ。知っているでしょうこの学校の生徒会長の威力を」
麓戸は誇らしそうに言った。
しかも、生徒会長候補に?
切れ者だとは思っていたが、そんなに優秀だったのか? 生徒会長には、文武両道で人望もある心身共に強健な者しかなれないのに。
「はい。僕も、候補になったことがあります」
小坂は言いにくい話題が出たと思った。
「ほう、それは奇遇ですね。先生も生徒会長だったとは、さすがですね」
麓戸の言葉が小坂の嫌な記憶に触れた。
「いえ、候補になっただけです。僕は、生徒会長にはなりませんでした」
そう。小坂は、ラグビー部の性処理係だったから。そんな過去を持つ人間は、生徒会長になどなれない。そういう判断がくだされたのだ。小坂は選挙戦から排除された。
「そうですか。それなら、私と同じですね」
違う。同じなんかじゃない。
選挙戦で負けて、生徒会長になれなかったわけではないんだ。戦うことすら、させてもらえなかった。
立ち合い演説会の演説原稿だって、作ってあったのに。何度も何度も読み上げて、暗記するくらい練習して。
「わかりますよ。あなたが何者だったか。なぜなら私もそうだったから」
麓戸が言った。
「違います。同じなんかじゃない」
小坂は、こぶしを握りしめた。
「ほう。同じではない、と」
麓戸が、小坂のまなざしをとらえて言った。
過去が目の前によみがえり、ぼんやりしてきた小坂のまなざしを。
麓戸は、小坂のまなざしを、過去から引き離すように、とらえて言った。
麓戸の強いまなざしも、小坂を現実に、この場所へ、引き戻すだけの力はなかった。
「はい」
小坂は、ほとんど聞いていなかった。
自分が何をしゃべっているのかも、わからなかった。ただ、人形のように、決められたことを口にして口をパクパクしているように感じた。
意識のとんだまま、規定通りの会話で、なんとか三者面談を乗りきった。
ときおり、机の下で、村田の足や、麓戸の足が小坂の足にぶつかってきたのを覚えている。それぞれが、それぞれの思惑で、小坂の顔を見て、ニヤニヤしてきた。だが、小坂は、それどころではなかった。
面談を終え、父子が立ち上がり、小坂も立ち上がった。
「じゃあ、部活に行ってくるね」
村田は、以前とは違う、年相応の笑顔を見せて快活に言った。
麓戸も村田に応えて、父親の顔で、村田に手を振った。
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