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第十九章 麓戸との再会
イケメン教師、心乱れる
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三者面談の後、麓戸は息子の村田悪照ばかりか、級長の宮本まで連れて、食事に行くと帰っていった。
麓戸は小坂も誘ってくれた。麓戸に、せっかく食事に誘われたのに、小坂は断ってしまった。
いっしょに行けばよかったか?
小坂は自問する。
本当は行きたかった。麓戸から食事に誘われるなんて。ずっと会っていなかったのだ。我慢したのだ。食事くらいいいじゃないか。
麓戸ともう少し、いっしょの時間を過ごしたかった。その想いが胸をしめつける。
いや無理だ。やめた方がいい。断って正解なのだ。
何度も問い返しては、帰結する答え。
二人きりならよかった。麓戸と二人きりで外食するなら、喜んで行きたかった。
でも、生徒といっしょだなんて。
麓戸とあんな行為をした後に、どんな顔をして生徒たちと食事をすればいいのだ。
麓戸に夢中で、ぼうっとなった顔を、生徒たちに見られたくない。
でも会いたい。
小坂は仕事が手につかなかった。
麓戸のことばかり脳裏に浮かぶ。
集中できなかった。
これでは仕事にならない。
小坂はため息をついてノートパソコンをシャットダウンしパタリと閉じた。
「お先に失礼します」
同僚の数人が、黙ってこっちを見ただけで、誰も小坂に答えない。最近とみに同僚がよそよそしい。
校長にそのことを訴えても、
「君に嫉妬しているのだよ。君が優秀で、私が君ばかり可愛がるから」
と笑って言ったり、
「君に手を出されないように、私が皆を牽制しているからだよ」
と言ってみたり、何が真実かわからない。
校長や生徒たち、保護者との関係を誤解されているのかもしれない。そう思えば、誤解をときたくなる。しかし校長は、
「放っておきなさい」
などと言う。
「私は、いつだって小坂君の味方だよ。私だけじゃ不服かい?」
などと言う。
同僚に話したところで理解してもらえないだろう。それに、皆、忙しく、自分のことで手一杯なのだ。
小坂は、一人で食事をした後、大人しく家に帰るつもりだった。
だが、車は自然と麓戸の店に向かう。通いなれた道だった。
小坂は車を降りて建物を見上げる。
来てしまった。
麓戸はビルの最上階、ペントハウスに住んでいる。部屋の明かりはついていなかった。まだ帰宅していないのだろう。
麓戸の店のドアの前まで行ってみたが閉まっていた。
店の駐車場に戻り、小坂は車の中で待った。
ずきずきと痛みのように胸が疼く。
会いたい。
さっき会ったばかりだというのに、もうこんな気持ちになるなんて。
だらしがないな。
あの人はそう言って笑うだろうか。口元に浮かぶニヒルな笑い。
それから激しく乱暴に服を剥がれて。噛みつくような激しい交わりをしたい。獣のように。
そしてぐったりと泥のように眠りたい。朝まで。
幸福に目覚める。カーテンの隙間から差しこむ光。
もう少し。眠っていたい。まどろむ。
まどろみの中で感じる気配。目を開けるとあの人がいる。
自分の身体は裸だ。舌が身体を這う。
あぁ。
小坂は妄想に耽り、車の中で一人、身体を熱くした。
ヘッドライトの明かりが、サーチライトのように闇を照らした。車が滑るように駐車場に入ってきた。麓戸の車だ。
小坂は急いで車を降りた。
麓戸はなかなか車から降りてこなかった。もしや一人ではないのか。小坂は不安に駆られた。
村田とまだ一緒かもしれない。いや愛人の一人を連れてきているのか。誰か恋人がいるのかも。否定したいようなことが次々に頭に浮かんだ。
ややあって麓戸は車から降りてきた。
一人だ。
よかった。小坂はほっとして、泣き出したいような気持ちになった。
ビルの入り口に立っている小坂に気づいて麓戸は驚いたような顔をした。
「ずっと、ここで待っていたのか?」
小坂は咎められたように思った。人目につくじゃないかと。
「いえ、車の中で待っていました」
長い時間待っていたことを恥ずかしく感じた。
「どうしてそんな。連絡をよこせばいいのに」
麓戸はあきれたように言う。
「まあ、いい。上で話を聞こう」
麓戸は小坂の背に手を回した。
麓戸は小坂も誘ってくれた。麓戸に、せっかく食事に誘われたのに、小坂は断ってしまった。
いっしょに行けばよかったか?
小坂は自問する。
本当は行きたかった。麓戸から食事に誘われるなんて。ずっと会っていなかったのだ。我慢したのだ。食事くらいいいじゃないか。
麓戸ともう少し、いっしょの時間を過ごしたかった。その想いが胸をしめつける。
いや無理だ。やめた方がいい。断って正解なのだ。
何度も問い返しては、帰結する答え。
二人きりならよかった。麓戸と二人きりで外食するなら、喜んで行きたかった。
でも、生徒といっしょだなんて。
麓戸とあんな行為をした後に、どんな顔をして生徒たちと食事をすればいいのだ。
麓戸に夢中で、ぼうっとなった顔を、生徒たちに見られたくない。
でも会いたい。
小坂は仕事が手につかなかった。
麓戸のことばかり脳裏に浮かぶ。
集中できなかった。
これでは仕事にならない。
小坂はため息をついてノートパソコンをシャットダウンしパタリと閉じた。
「お先に失礼します」
同僚の数人が、黙ってこっちを見ただけで、誰も小坂に答えない。最近とみに同僚がよそよそしい。
校長にそのことを訴えても、
「君に嫉妬しているのだよ。君が優秀で、私が君ばかり可愛がるから」
と笑って言ったり、
「君に手を出されないように、私が皆を牽制しているからだよ」
と言ってみたり、何が真実かわからない。
校長や生徒たち、保護者との関係を誤解されているのかもしれない。そう思えば、誤解をときたくなる。しかし校長は、
「放っておきなさい」
などと言う。
「私は、いつだって小坂君の味方だよ。私だけじゃ不服かい?」
などと言う。
同僚に話したところで理解してもらえないだろう。それに、皆、忙しく、自分のことで手一杯なのだ。
小坂は、一人で食事をした後、大人しく家に帰るつもりだった。
だが、車は自然と麓戸の店に向かう。通いなれた道だった。
小坂は車を降りて建物を見上げる。
来てしまった。
麓戸はビルの最上階、ペントハウスに住んでいる。部屋の明かりはついていなかった。まだ帰宅していないのだろう。
麓戸の店のドアの前まで行ってみたが閉まっていた。
店の駐車場に戻り、小坂は車の中で待った。
ずきずきと痛みのように胸が疼く。
会いたい。
さっき会ったばかりだというのに、もうこんな気持ちになるなんて。
だらしがないな。
あの人はそう言って笑うだろうか。口元に浮かぶニヒルな笑い。
それから激しく乱暴に服を剥がれて。噛みつくような激しい交わりをしたい。獣のように。
そしてぐったりと泥のように眠りたい。朝まで。
幸福に目覚める。カーテンの隙間から差しこむ光。
もう少し。眠っていたい。まどろむ。
まどろみの中で感じる気配。目を開けるとあの人がいる。
自分の身体は裸だ。舌が身体を這う。
あぁ。
小坂は妄想に耽り、車の中で一人、身体を熱くした。
ヘッドライトの明かりが、サーチライトのように闇を照らした。車が滑るように駐車場に入ってきた。麓戸の車だ。
小坂は急いで車を降りた。
麓戸はなかなか車から降りてこなかった。もしや一人ではないのか。小坂は不安に駆られた。
村田とまだ一緒かもしれない。いや愛人の一人を連れてきているのか。誰か恋人がいるのかも。否定したいようなことが次々に頭に浮かんだ。
ややあって麓戸は車から降りてきた。
一人だ。
よかった。小坂はほっとして、泣き出したいような気持ちになった。
ビルの入り口に立っている小坂に気づいて麓戸は驚いたような顔をした。
「ずっと、ここで待っていたのか?」
小坂は咎められたように思った。人目につくじゃないかと。
「いえ、車の中で待っていました」
長い時間待っていたことを恥ずかしく感じた。
「どうしてそんな。連絡をよこせばいいのに」
麓戸はあきれたように言う。
「まあ、いい。上で話を聞こう」
麓戸は小坂の背に手を回した。
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