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第二十一章 麓戸の追憶(麓戸視点)
麓戸と池井 7
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神崎は、唖然としたような顔をした後、慌てたように言葉を継いだ。
「麓戸君、それは誤解だよ。彼とはそんな」
麓戸は神崎の言い訳をさえぎった。
「隠しても無駄です」
麓戸の言葉に、神崎は「見られていたのか」というような苦い顔をした。
「別にいいですよ。俺も校内でセックスしまくってますし」
麓戸は教師を前にそう言って嘯いて見せた。
神崎の弱味を握り優位な立場に立てた余裕がそうさせた。
神崎は麓戸の片手を取り両手でその手を包むように握りこんで言った。
「池井君をよろしく頼む」
低い声で力強くそう言ったあと、池井に背を向けるようにして麓戸の耳に口を近づけて小さく、
「私も困っていたんだ」
と囁いた。
神崎は麓戸を仲間と認めたような近しさをことさらに示しているように麓戸には思えた。麓戸は、神崎の擦り寄りをはねつけて言った。
「邪魔になったから、俺に押し付けるんですね」
困っていただなんて、自分がそうさせたのに。池井がかわいそうだった。
「そういうわけじゃない。もともとそんなつもりじゃなかったんだ」
神崎は言った。
そうかもしれない。神崎は悪くないのかもしれない。本当に最初は善意から池井を助けかばっていたのだろう。そんな風にも思えた。
自分が神崎を憎んでいるのは、好きな後輩を取られたからだ。
だけど、だからって池井とあんな行為。それも、ただの愛情ある行為じゃない。サディスティックでマニアックなあんな行為。
酷いじゃないか。俺は我慢してるのに。
第一、神崎は教師だ。しかも結婚するだって? 池井を一生大切にするわけじゃないなら手を出すなよ。求められても拒めよ!
悲しくて涙が出そうだった。
未成年に手を出してんなよ! しかも教え子に! ふざけんな!
麓戸は心の中で泣いていた。
辞めろよ。今すぐ教師をやめろよ。一生未成年に近づくな!
泣くつもりはなかったのに、頬を伝う熱いものが涙だと気づいた。
「麓戸君……」
神崎が動揺したように肩に手をまわしてきた。
触んな! このペド野郎! 馴れ馴れしい!
神崎が、麓戸の名を呼ぶのさえ気色が悪いと思えてきた。
「私もこんな関係はよくないと思っていたんだ」
神崎の言葉には自己保身しかない。
悔しくて涙しか流れない。
池井のために何か言ってやりたいのに、口を開いたら嗚咽が漏れそうで何一つ言えない。
弱い。あまりにも弱い。
俺だって、神崎に甘えたい。
いやもう甘えてしまっているのでは。神崎の前で涙なんか流しているのだから。
池井ばかり神崎に可愛がられて悔しかったのでは。自分も神崎に優しくされたかったのでは。
麓戸は、神崎とプレイしている池井を見て激しく興奮した。何度もその情景を思い出しては抜いた。学校のトイレに駆け込んで個室で前を擦って。野外で自慰したことも、誰もいない汚い公園のトイレでいやらしい声をあげてしたこともあった。
「あなたに言われなくたって、池井のことは大切にするつもりでしたけどね。俺も池井にはさんざん言ってたんですから。早く神崎先生とは別れろって」
麓戸はやっとのことで言い返した。
自己反省に負けている場合ではない。
「付き合っていたわけじゃない」
神崎は抜け抜けと言い放った。
「えっ。僕と付き合ってましたよね?」
神崎の言葉に驚いた池井が悲痛な声をあげた。
「もういいから、行きなさい」
神崎は疲れたような顔をして手で生徒たちを追いやった。
神崎は華々しい結婚式を挙げたそうだった。
神崎がハネムーンから帰ってきた日、池井は学校の屋上から飛び降りた。
池井は神崎の担任の生徒ではなく、正式なラグビー部員でもなかった。それで、神崎が責任を取らされることにはならなかったのだろう。
「麓戸君、それは誤解だよ。彼とはそんな」
麓戸は神崎の言い訳をさえぎった。
「隠しても無駄です」
麓戸の言葉に、神崎は「見られていたのか」というような苦い顔をした。
「別にいいですよ。俺も校内でセックスしまくってますし」
麓戸は教師を前にそう言って嘯いて見せた。
神崎の弱味を握り優位な立場に立てた余裕がそうさせた。
神崎は麓戸の片手を取り両手でその手を包むように握りこんで言った。
「池井君をよろしく頼む」
低い声で力強くそう言ったあと、池井に背を向けるようにして麓戸の耳に口を近づけて小さく、
「私も困っていたんだ」
と囁いた。
神崎は麓戸を仲間と認めたような近しさをことさらに示しているように麓戸には思えた。麓戸は、神崎の擦り寄りをはねつけて言った。
「邪魔になったから、俺に押し付けるんですね」
困っていただなんて、自分がそうさせたのに。池井がかわいそうだった。
「そういうわけじゃない。もともとそんなつもりじゃなかったんだ」
神崎は言った。
そうかもしれない。神崎は悪くないのかもしれない。本当に最初は善意から池井を助けかばっていたのだろう。そんな風にも思えた。
自分が神崎を憎んでいるのは、好きな後輩を取られたからだ。
だけど、だからって池井とあんな行為。それも、ただの愛情ある行為じゃない。サディスティックでマニアックなあんな行為。
酷いじゃないか。俺は我慢してるのに。
第一、神崎は教師だ。しかも結婚するだって? 池井を一生大切にするわけじゃないなら手を出すなよ。求められても拒めよ!
悲しくて涙が出そうだった。
未成年に手を出してんなよ! しかも教え子に! ふざけんな!
麓戸は心の中で泣いていた。
辞めろよ。今すぐ教師をやめろよ。一生未成年に近づくな!
泣くつもりはなかったのに、頬を伝う熱いものが涙だと気づいた。
「麓戸君……」
神崎が動揺したように肩に手をまわしてきた。
触んな! このペド野郎! 馴れ馴れしい!
神崎が、麓戸の名を呼ぶのさえ気色が悪いと思えてきた。
「私もこんな関係はよくないと思っていたんだ」
神崎の言葉には自己保身しかない。
悔しくて涙しか流れない。
池井のために何か言ってやりたいのに、口を開いたら嗚咽が漏れそうで何一つ言えない。
弱い。あまりにも弱い。
俺だって、神崎に甘えたい。
いやもう甘えてしまっているのでは。神崎の前で涙なんか流しているのだから。
池井ばかり神崎に可愛がられて悔しかったのでは。自分も神崎に優しくされたかったのでは。
麓戸は、神崎とプレイしている池井を見て激しく興奮した。何度もその情景を思い出しては抜いた。学校のトイレに駆け込んで個室で前を擦って。野外で自慰したことも、誰もいない汚い公園のトイレでいやらしい声をあげてしたこともあった。
「あなたに言われなくたって、池井のことは大切にするつもりでしたけどね。俺も池井にはさんざん言ってたんですから。早く神崎先生とは別れろって」
麓戸はやっとのことで言い返した。
自己反省に負けている場合ではない。
「付き合っていたわけじゃない」
神崎は抜け抜けと言い放った。
「えっ。僕と付き合ってましたよね?」
神崎の言葉に驚いた池井が悲痛な声をあげた。
「もういいから、行きなさい」
神崎は疲れたような顔をして手で生徒たちを追いやった。
神崎は華々しい結婚式を挙げたそうだった。
神崎がハネムーンから帰ってきた日、池井は学校の屋上から飛び降りた。
池井は神崎の担任の生徒ではなく、正式なラグビー部員でもなかった。それで、神崎が責任を取らされることにはならなかったのだろう。
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