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オデトと外商瀬川
小坂オデトと外商の男
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午後の陽光が、麓戸のマンションの広いリビングに差し込んでいた。小坂オデトは、ソファに腰掛け、静かに待っていた。
インターホンの音が鳴り、オデトは小さく息をついた。麓戸から「外商が来る」と事前に告げられていた。
ドアを開けると、そこにはスーツに身を包んだ男が立っていた。年齢は三十代後半か。整った顔立ちに、自信に満ちた笑みを浮かべている。手には大きなトランクが二つ。
「先日は、ありがとうございました、小坂オデト様。デパートの外商部、麓戸様の店の特別会員でありました、瀬川と申します。お品物をお持ちしました」
先日、リーダー格だった男性だ。麓戸の店の……という自己紹介に動揺しながらも、
「……お待ちしておりました。どうぞ、お入りください」
と、オデトは平静を装い、男をリビングに招き入れた。
瀬川は慣れた手つきでトランクを開き、テーブルの上に品々を並べ始めた。ハイヒール、ストッキング、ガーターベルト、スリップ、そしてウィッグ。どれも上質で繊細だった。だが、オデトの視線は品物よりも瀬川の顔に注がれていた。
「あの、瀬川さんは……麓戸さんの店で?」
瀬川の手が一瞬止まり、ゆっくりと顔を上げた。その瞳には、遊び心と懐かしさが混ざっていた。
「はい、オデト様。相変わらずお美しい。こうして、お品物を納めさせていただくことになり光栄です」
オデトの記憶が徐々に蘇ってきた。麓戸の経営する秘密倶楽部。薄暗い部屋、そして、この男の視線。
「麓戸様に懇意にしていただいている者ですので、ご安心を」
瀬川はにこやかに答え、テーブルの上のスリップを手に取った。
「さて、サイズのご確認を。オデト様、お召しになっていただけますか?」
オデトの頬がわずかに熱を帯びた。だが、麓戸の声が頭をよぎる。「彼は信頼できる。任せておけ」
「……分かりました」
瀬川の視線の下、オデトは着ていたシャツとスラックスを脱ぎ、渡されたスリップを身につけた。薄い生地が肌に滑り、ストッキングを履くために足を上げると、瀬川が自然な動作でガーターベルトを差し出した。まるでこの瞬間を何度も想像していたかのように、瀬川の指先は無駄がなかった。
「完璧です」
瀬川の声は低く、どこか熱を帯びていた。
「ウィッグもお試しになりますか?」
その時、玄関のドアが開く音がした。麓戸だった。スーツ姿の彼は、部屋の様子を一瞥し、満足げに頷いた。
「瀬川、順調か?」
「はい、麓戸様。オデト様にぴったりの品々です」
「そうか。では、頼んだよ」
麓戸はオデトに軽く微笑みかけ、すぐに踵を返した。「仕事がある。夕方までには戻る」
ドアが閉まり、部屋には再び静寂が訪れた。オデトは瀬川の視線を感じながら、ウィッグを手に取った。鏡に映る自分は、別人のようだった。瀬川の囁きが耳元で響く。
「オデト様、倶楽部でなさっていたような姿を、見せてくださいませんか?」
オデトの心は揺れた。麓戸の不在、瀬川の誘惑、そして自分自身がこの状況にどこか惹かれていることに。
インターホンの音が鳴り、オデトは小さく息をついた。麓戸から「外商が来る」と事前に告げられていた。
ドアを開けると、そこにはスーツに身を包んだ男が立っていた。年齢は三十代後半か。整った顔立ちに、自信に満ちた笑みを浮かべている。手には大きなトランクが二つ。
「先日は、ありがとうございました、小坂オデト様。デパートの外商部、麓戸様の店の特別会員でありました、瀬川と申します。お品物をお持ちしました」
先日、リーダー格だった男性だ。麓戸の店の……という自己紹介に動揺しながらも、
「……お待ちしておりました。どうぞ、お入りください」
と、オデトは平静を装い、男をリビングに招き入れた。
瀬川は慣れた手つきでトランクを開き、テーブルの上に品々を並べ始めた。ハイヒール、ストッキング、ガーターベルト、スリップ、そしてウィッグ。どれも上質で繊細だった。だが、オデトの視線は品物よりも瀬川の顔に注がれていた。
「あの、瀬川さんは……麓戸さんの店で?」
瀬川の手が一瞬止まり、ゆっくりと顔を上げた。その瞳には、遊び心と懐かしさが混ざっていた。
「はい、オデト様。相変わらずお美しい。こうして、お品物を納めさせていただくことになり光栄です」
オデトの記憶が徐々に蘇ってきた。麓戸の経営する秘密倶楽部。薄暗い部屋、そして、この男の視線。
「麓戸様に懇意にしていただいている者ですので、ご安心を」
瀬川はにこやかに答え、テーブルの上のスリップを手に取った。
「さて、サイズのご確認を。オデト様、お召しになっていただけますか?」
オデトの頬がわずかに熱を帯びた。だが、麓戸の声が頭をよぎる。「彼は信頼できる。任せておけ」
「……分かりました」
瀬川の視線の下、オデトは着ていたシャツとスラックスを脱ぎ、渡されたスリップを身につけた。薄い生地が肌に滑り、ストッキングを履くために足を上げると、瀬川が自然な動作でガーターベルトを差し出した。まるでこの瞬間を何度も想像していたかのように、瀬川の指先は無駄がなかった。
「完璧です」
瀬川の声は低く、どこか熱を帯びていた。
「ウィッグもお試しになりますか?」
その時、玄関のドアが開く音がした。麓戸だった。スーツ姿の彼は、部屋の様子を一瞥し、満足げに頷いた。
「瀬川、順調か?」
「はい、麓戸様。オデト様にぴったりの品々です」
「そうか。では、頼んだよ」
麓戸はオデトに軽く微笑みかけ、すぐに踵を返した。「仕事がある。夕方までには戻る」
ドアが閉まり、部屋には再び静寂が訪れた。オデトは瀬川の視線を感じながら、ウィッグを手に取った。鏡に映る自分は、別人のようだった。瀬川の囁きが耳元で響く。
「オデト様、倶楽部でなさっていたような姿を、見せてくださいませんか?」
オデトの心は揺れた。麓戸の不在、瀬川の誘惑、そして自分自身がこの状況にどこか惹かれていることに。
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