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少年と悪友
ものやおもふと人の問ふまで
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だが、村田は、また変なことを言いだした。
「宮本、このビルの上に、アダルトショップがあるの知ってるか?」
村田は、宮本の顔をのぞきこんで、にやにやした。
「いろいろエッチなグッズとか売ってるらしいぜ?」
村田は建物の方向を見上げた。
宮本は、ふいを突かれて、恥ずかしさに固まってしまったので、ただ棒読みで、
「へえ、そうなんだ」
とだけ答えた。
村田が、宮本の表情を盗み見るようにしているのがわかったので、宮本は、村田の視線を意識しないように努めた。
「それも、ただのアダルトショップじゃないんだ」
村田は、急に声をひそめた。
「ゲイ専門なんだってさ」
宮本の耳元に村田の熱っぽい息がかかった。
宮本は、恥ずかしさにカッと頬が熱くなった。村田に、宮本が小坂先生をどんなふうに好きかということを、見抜かれた、と思った。
村田は精悍な顔つきで、宮本に比べてずっと男らしいがっしりした体格をしていた。夏服の、まぶしいワイシャツの白が、宮本の眼を射ぬいた。
「俺はゲイってわけじゃないけど」
と、わざわざ村田は断ってから続けた。
「偶然、ネットを見てたら、この店のことがのってたんだ」
宮本たちは、立ち止まり、ビルを見上げた。表に、それとわかる看板などの表示は出ていなかった。
「下校中に、寄り道は、まずいよ」
宮本の腕をつかんで、ビルの入り口にひっぱりこもうとする村田に、宮本はあらがって言った。
「しかも、アダルトショップなんて」
村田の強い力に、ひきずられるようにして、宮本は少しかげったビルの内部に足を踏み入れた。
「十八歳未満と高校生は立ち入り禁止だろ」
まぶしい日射しの表から、ほの暗い内側に入ったとき、宮本の目はぼんやりしてよく見えなかった。
テナントの案内表示をいちべつした村田は、
「ほら、これだよ」
と『ブラック・スワン』という店名を指差した。白いプラスチックの板に無造作に油性ペンで書かれた表示に、
「あやしげだね」
と、宮本は、後ずさりした。
「行ってみろよ」
村田は、きもだめしか何かのように、宮本の背を押して、けしかけた。
「制服で?」
宮本は抗議した。エレベーターから人が降りてきたので、宮本たちは、びっくりして、歩道へ飛び出した。逃げるように少し走ってから、走るのをやめて村田が、また、宮本に言った。
「私服のときに、こっそり行ってみろよ。だって、宮本って、最近、そういうことで悩んでるんじゃないのか?」
「え?」
村田は、宮本のことを、心配してくれていたのだろうか?
「片思いの恋わずらいとか、ただでさえつらいのにさ」
ものや思ふと人の問ふまで……平兼盛。村田の目に、宮本は、ずいぶん思いつめているように見えていたんだろうか。
「相手が男で、その上、教師だからな」
しのぶれど色に出でにけり我がこひは……。
「ぼくは、別に」
宮本は、あわてて否定した。
「実際に、どうこうしたいとか考えてないし!」
「ほんとかぁ?」
村田は、疑わしげに口の端を片方あげて笑った。
「ほんとだよ」
村田は、それはどうかな、とでもいうように「ふふ」と、ふくみ笑いをした。見透かされているようだった。
「じゃあな」
村田は、ふだんの爽やかな笑顔にもどると、宮本に手を振って別れた。村田の笑顔にだまされちゃいけない、村田はエロの申し子だ、と宮本は胸に刻んだ。
次の日、宮本は、極力、村田の目をさけていた。昨日のことが恥ずかしかったからだ。それでも、放課後、学校行事の仕事で遅くなり、教室に戻ると、村田に出くわしてしまった。
「あのさあ、宮本君、俺のこと、何、無視してんの?」
目を合わせないようにした宮本に、村田が言ったので、宮本は観念して顔を上げた。
「今日は部活に出たんだ?」
宮本が尋ねると、
「そうだよ。毎日さぼるわけにもいかないからね」
と村田は要領良さげに答えた。
「ふうん」
昨日、愚痴っていたけど、結局、村田は部活に行ってるのか。村田は、
「もしかして、俺が宮本のこと待ってたんじゃないかって期待した?」
などと言いだした。はあ? 自惚れてるな、これだからモテるやつは……と宮本はあきれた。宮本は、なるたけ素っ気なく答えてやった。
「全然」
宮本の、そっけない言い方が効いたのか、村田は、口をへの字に曲げた。
「実を言うと、ちょっとだけ待ってたんだ……」
村田は、うつむいて、はにかんだような上目づかいで宮本を見た。
教室には、宮本たちのほかに誰もいなかった。しんとした教室。校庭かどこか遠くで生徒たちの声がするばかりだった。宮本を見つめる村田の表情にただならぬものを感じて、宮本はたじろぎ後ずさりした。村田は、宮本に手を伸ばしてきて、宮本はすぐに捕まえられた。村田は、ぎゅうっと宮本を抱きしめて、宮本を困惑させた。
「何すんだよ……放せよ」
宮本は、村田の腕の中でもがいた。
「どうして? 感じちゃうから?」
村田は、どういうつもりなのだろう。
「うん……」
村田に抱きしめられて、なぜか、宮本の下半身が反応していた。
「へぇ、そうなんだぁ? それって、俺でも、いいってことじゃない?」
村田が嬉しそうに言った。
「昨日も言ったけど、俺は宮本となら、いいよ」
村田は、自分とエッチなことをしてもいいというのだ。宮本は、ためらった。好奇心がないわけではなかった。でも、自分が好きなのは、村田ではなかった。自分が好きなのは、小坂先生だ……。宮本は、自覚した。
「宮本が小坂のこと好きでも、それとこれとは、話は別だろ? だって、実際、先生とつきあえるわけないんだしさ」
村田は宮本に、うんと言わせしようとしているようだった。小坂先生とつきあう? そんなこと、考えもつかなかった。そんなふうに思っていたわけではなかった。自分がだれかとつきあうだなんて、まだ、ずっと先のことのように思えていた。
「別に、ぼくは、小坂先生とつきあいたいだなんて、ひとことも言ってないよ」
宮本は村田から逃れようと、もがきながら言った。
「へえ、宮本は、小坂とつきあいたくないんだ? 俺は、できることなら、小坂に思いっきり突っこんで、腰振らせて、よがらせてやりたいけどな」
村田は、乱暴な目つきになって、そう言い放つと、宮本を壁に押しつけた。
「え……」
村田の顔が近くなり、村田の熱い息が宮本の頬にかかった。
「宮本、好きだよ」
村田は、つけたしのように、そう言うと、宮本に唇を近づけてきた。
「ちょっと待ってよ……」
宮本はろうばいした。
「どうして?」
「だめだよ……」
宮本が村田の体を押しやろうとしていると、
「そこ、何している」
と声がかかった。宮本におおいかぶさっていた村田が、驚いたように身を離した。
「宮本、このビルの上に、アダルトショップがあるの知ってるか?」
村田は、宮本の顔をのぞきこんで、にやにやした。
「いろいろエッチなグッズとか売ってるらしいぜ?」
村田は建物の方向を見上げた。
宮本は、ふいを突かれて、恥ずかしさに固まってしまったので、ただ棒読みで、
「へえ、そうなんだ」
とだけ答えた。
村田が、宮本の表情を盗み見るようにしているのがわかったので、宮本は、村田の視線を意識しないように努めた。
「それも、ただのアダルトショップじゃないんだ」
村田は、急に声をひそめた。
「ゲイ専門なんだってさ」
宮本の耳元に村田の熱っぽい息がかかった。
宮本は、恥ずかしさにカッと頬が熱くなった。村田に、宮本が小坂先生をどんなふうに好きかということを、見抜かれた、と思った。
村田は精悍な顔つきで、宮本に比べてずっと男らしいがっしりした体格をしていた。夏服の、まぶしいワイシャツの白が、宮本の眼を射ぬいた。
「俺はゲイってわけじゃないけど」
と、わざわざ村田は断ってから続けた。
「偶然、ネットを見てたら、この店のことがのってたんだ」
宮本たちは、立ち止まり、ビルを見上げた。表に、それとわかる看板などの表示は出ていなかった。
「下校中に、寄り道は、まずいよ」
宮本の腕をつかんで、ビルの入り口にひっぱりこもうとする村田に、宮本はあらがって言った。
「しかも、アダルトショップなんて」
村田の強い力に、ひきずられるようにして、宮本は少しかげったビルの内部に足を踏み入れた。
「十八歳未満と高校生は立ち入り禁止だろ」
まぶしい日射しの表から、ほの暗い内側に入ったとき、宮本の目はぼんやりしてよく見えなかった。
テナントの案内表示をいちべつした村田は、
「ほら、これだよ」
と『ブラック・スワン』という店名を指差した。白いプラスチックの板に無造作に油性ペンで書かれた表示に、
「あやしげだね」
と、宮本は、後ずさりした。
「行ってみろよ」
村田は、きもだめしか何かのように、宮本の背を押して、けしかけた。
「制服で?」
宮本は抗議した。エレベーターから人が降りてきたので、宮本たちは、びっくりして、歩道へ飛び出した。逃げるように少し走ってから、走るのをやめて村田が、また、宮本に言った。
「私服のときに、こっそり行ってみろよ。だって、宮本って、最近、そういうことで悩んでるんじゃないのか?」
「え?」
村田は、宮本のことを、心配してくれていたのだろうか?
「片思いの恋わずらいとか、ただでさえつらいのにさ」
ものや思ふと人の問ふまで……平兼盛。村田の目に、宮本は、ずいぶん思いつめているように見えていたんだろうか。
「相手が男で、その上、教師だからな」
しのぶれど色に出でにけり我がこひは……。
「ぼくは、別に」
宮本は、あわてて否定した。
「実際に、どうこうしたいとか考えてないし!」
「ほんとかぁ?」
村田は、疑わしげに口の端を片方あげて笑った。
「ほんとだよ」
村田は、それはどうかな、とでもいうように「ふふ」と、ふくみ笑いをした。見透かされているようだった。
「じゃあな」
村田は、ふだんの爽やかな笑顔にもどると、宮本に手を振って別れた。村田の笑顔にだまされちゃいけない、村田はエロの申し子だ、と宮本は胸に刻んだ。
次の日、宮本は、極力、村田の目をさけていた。昨日のことが恥ずかしかったからだ。それでも、放課後、学校行事の仕事で遅くなり、教室に戻ると、村田に出くわしてしまった。
「あのさあ、宮本君、俺のこと、何、無視してんの?」
目を合わせないようにした宮本に、村田が言ったので、宮本は観念して顔を上げた。
「今日は部活に出たんだ?」
宮本が尋ねると、
「そうだよ。毎日さぼるわけにもいかないからね」
と村田は要領良さげに答えた。
「ふうん」
昨日、愚痴っていたけど、結局、村田は部活に行ってるのか。村田は、
「もしかして、俺が宮本のこと待ってたんじゃないかって期待した?」
などと言いだした。はあ? 自惚れてるな、これだからモテるやつは……と宮本はあきれた。宮本は、なるたけ素っ気なく答えてやった。
「全然」
宮本の、そっけない言い方が効いたのか、村田は、口をへの字に曲げた。
「実を言うと、ちょっとだけ待ってたんだ……」
村田は、うつむいて、はにかんだような上目づかいで宮本を見た。
教室には、宮本たちのほかに誰もいなかった。しんとした教室。校庭かどこか遠くで生徒たちの声がするばかりだった。宮本を見つめる村田の表情にただならぬものを感じて、宮本はたじろぎ後ずさりした。村田は、宮本に手を伸ばしてきて、宮本はすぐに捕まえられた。村田は、ぎゅうっと宮本を抱きしめて、宮本を困惑させた。
「何すんだよ……放せよ」
宮本は、村田の腕の中でもがいた。
「どうして? 感じちゃうから?」
村田は、どういうつもりなのだろう。
「うん……」
村田に抱きしめられて、なぜか、宮本の下半身が反応していた。
「へぇ、そうなんだぁ? それって、俺でも、いいってことじゃない?」
村田が嬉しそうに言った。
「昨日も言ったけど、俺は宮本となら、いいよ」
村田は、自分とエッチなことをしてもいいというのだ。宮本は、ためらった。好奇心がないわけではなかった。でも、自分が好きなのは、村田ではなかった。自分が好きなのは、小坂先生だ……。宮本は、自覚した。
「宮本が小坂のこと好きでも、それとこれとは、話は別だろ? だって、実際、先生とつきあえるわけないんだしさ」
村田は宮本に、うんと言わせしようとしているようだった。小坂先生とつきあう? そんなこと、考えもつかなかった。そんなふうに思っていたわけではなかった。自分がだれかとつきあうだなんて、まだ、ずっと先のことのように思えていた。
「別に、ぼくは、小坂先生とつきあいたいだなんて、ひとことも言ってないよ」
宮本は村田から逃れようと、もがきながら言った。
「へえ、宮本は、小坂とつきあいたくないんだ? 俺は、できることなら、小坂に思いっきり突っこんで、腰振らせて、よがらせてやりたいけどな」
村田は、乱暴な目つきになって、そう言い放つと、宮本を壁に押しつけた。
「え……」
村田の顔が近くなり、村田の熱い息が宮本の頬にかかった。
「宮本、好きだよ」
村田は、つけたしのように、そう言うと、宮本に唇を近づけてきた。
「ちょっと待ってよ……」
宮本はろうばいした。
「どうして?」
「だめだよ……」
宮本が村田の体を押しやろうとしていると、
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