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3、病院

マッドサイエンティストに嫉妬

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「面識は……あります」
 素直な西島は、もう、マッドサイエンティストに感化されていた。イカ相手に面識などと言って。やはり、マッドサイエンティストは、高校生の教育上に有害だ。断固、排除せねば、と安田は思う。

 だが西島は、
「あのイカがまだ少年だった頃のことです。僕は、ボルネオ島で、あのイカと遊びました」
などと、遠くを見つめるような目で、夢見がちに語り始めてしまった。
 イカを「少年」と呼ぶなんて……! そんなイカ研究所職員に毒された発想を。安田は、西島の将来を案じた。
 西島が将来、イカ研職員になったら、どうしよう。マッドサイエンティストの同僚になってしまう。
 一方で、白衣を着た若き研究者の西島を想像すると、安田の顔は、自ずと、ほころんだ。それも、いいかもしれない。
 しかし、
「なぜボルネオ島」
 安田の心のツッコミと同じことを、マッドサイエンティストが口にした。しまった、マッドサイエンティストなんかとシンクロしてしまった。
 そう思う安田は、自分がマッドサイエンティストに嫉妬していることに、その時、まだ、気づいていなかった。 
「僕が幼少のころ、ボルネオ島に長期滞在したんです」
 西島が丁寧に答えた。なのに、 
「だからなぜボルネオ島」
 とマッドサイエンティストは、マッドサイエンティストらしく、どうでもいいことにこだわって話を前に進ませない。
 「父の仕事の関係で」
 無垢な西島は、マッドサイエンティストを疑りもせず、まじめに答えている。
 「お父さんは何の仕事」

 安田が咳ばらいすると、やっとマッドサイエンティストの思考回路は、どうでもいい質問をやめて本題に戻った。 
「それで、長じて、あのイカは、君に恋して追いかけてきたんだね。ロマンだね」 
とマッドサイエンティストは弱って死にそうなイカのことを想ってか、涙をぬぐった。 

 全く空気を読まないマッドサイエンティストめ! イカの暴力被害者の前で、あんな凶暴淫乱イカに肩入れして泣くなんて! イカなんて早く死ねばいいのに、と安田は思った。
  また、安田は、「イカは西島と幼なじみだったのか! イカめ、そんな幼少時から西島をつけねらっていたとは!」と思う。一方で、「いやいや、そんな風にイカに嫉妬するなんて、人間としてイカがなものか」とイカに汚染された思考で思った。
  いや、イカに愛される西島に嫉妬した時より、マシになっている。
 少なくともイカではなく、人間を好きであるわけだから。と、安田は自分に言い聞かせた。「回復を焦らないように」と医師やカウンセラーに忠告されたではないか。
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