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3、病院

イカの交接腕

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 無垢な生徒の西島は、マッドサイエンティストの問いに素直に答える。
「はい。僕は、英語もインドネシア語も話せませんし、することもなかったので。それに、僕は友達がいなくて。イカが、初めてできた親友だったんです」
 イカが親友だって? マッドサイエンティストの解釈を補強するような発言をする西島に、安田は、はらはらした。 
「その時から、イカは巨大だったのか?」 
マッドサイエンティストは、イカを平然と人のように扱う西島の発言には、なんの疑問も抱かぬようだった。 
「違います。その時は、まだ彼も、普通のイカでした」
 普通のイカ? え? そうなのか? なら、なぜ、あのイカとわかる?
 ああ、そうか。西島は海洋生物オタクだった。イカ研究所職員並みの、イカの個体識別能力を持っているのかもしれない。 
「まだ、生殖器も発達してなくて」
 西島は顔を赤らめた。いきなり性的な話をしだすなんて。大丈夫か、西島。
 「生殖器? イカの交接腕のことか?」
 マッドサイエンティストが聞き返した。

  イカの脚は十本というが、二本は手のような働きをする。人間も脚が四本と言えるが、そのうち、手は二本だ。 
「あ、そうです。再会したら、すごく立派になっていて」
安田は、そんなことには気づかなかった。十本の脚の、どれがどれだなどと。西島は、公接腕と普通の腕を見分ける余裕があったのか?
 まさか。いやな予感がした。ひょっとして、西島は、幼少時から、イカとイカれた遊びをしていたのでは? 安田は、話の展開を危ぶんだ。 
「なるほど。君は、イカについて詳しいんだね」
 マッドサイエンティストが、仲間を見つけたというように、目を輝かせて、身を乗り出した。 
「あのイカは、イカとタコのハイブリッド種だ。新種だね。吸盤にイカのように鋭いギザギザがない。タコの吸盤のように吸い付くんだね。普通のダイオウイカとは違ってエロに特化しているのかもしれない。そこを研究したくてね」
ハイブリッドイカ……。エロに特化だと?

「ちょっと、マッドサイエンティスト、じゃなかった、研究者さん」
 安田は、あわてて制止した。
 安田が、マッドサイエンティストと呼びかけたところで、すぐにマッドサイエンティストは反応して、こちらを向いた。自覚があるらしい。
 「質問ぜめは、そのくらいにしておいたらどうでしょうか。彼はトラウマ治療も、まだ途中なんです」
 と、安田は提案した。
 「そうですね。じゃあ、質問事項を、後ほど主治医宛てにメールしますので」
 マッドサイエンティストは、意外と、すぐに引き下がり、部屋を出ていった。
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