待夜駅と碧翠堂

リリーブルー

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路地裏

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 人は、いろいろな顔を持つ。夜の顔、昼の顔。
 街もまた同じだ。昼の顔、夜の顔。

 湿った路地にきらきらと光が零れる。
 アスファルトに雨の匂いがする。つやつや光る黒いアスファルトは、猫の舌のように、なまめかしい。
 灰色のブロック塀の上で、置き物のようにじっと動かない猫が緑色の目を光らせている。
 アスファルトを革靴の底が舐める音がする。シタッ、シタッと。靴底とアスファルトの間から雨が染み出す音がする。アスファルトから靴底が離れる音がする。
 表の大通りを行き交う車のタイヤが雨をはじく音がする。アスファルトを離れるとき、ビシャっとしたタイヤの足音がする。
 路地は、ほの暗い。優しく、ほの暗い。
 人の心の傷みに触れないくらいに、ほの暗い。その人の泣き面を映さないくらいに。
 表の通りにタクシーの灯が見える。オレンジ色の車体にぽっと灯がともる。黒いスーツの男が降り立つ。目深に被った帽子。羽織った雨よけのトレンチコート。黒くきっちり巻かれたコウモリ傘。片手で帽子を押さえる。背の高い男。
 少し、風が吹く。潮風の混じった細かい絹の雨。小糠雨。霧のように煙る雨。雨が舞う。
 トレンチコートの裾が舞う。ネクタイとジャケットの間に三つぞろいのベストがのぞく。
 タクシーの走り去る雨を含んだタイヤの音がする。
 シタッシタッと男の革靴の音がする。
 路地の隙間から、ガス灯の灯がこぼれる。きらきらと夢のようにあふれる。手のひらからこぼれ落ちた色とりどりの金平糖が、ころころと転がり落ちて、宝石のように、道の上に輝く。そんな光。
 遠い思い出のような、手探りの光。
 男の影法師が長く路地にのびる。人影は、小さな店の階段を降りる。時を溯るように。
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