されど空の蒼さを知る

白

姫華､彼女はそう名乗った｡


｢私､身体売ってるの｣


彼女は俯いたままそう言った｡
横からはどんな顔をしてるかは見えなかったが､地面の水面が彼女の感情を映し出した｡
それは名前や金髪と紅のドレスの華やかな見た目からは想像できない何も無い顔だった｡

マネキン､そのものだった｡


｢売るものがあっていいな｣
皮肉混じりに俺は言った｡


彼女は動じなかった｡


そんな静かな時間が続いたが､気まずさはなかった｡
俺には分かる｡彼女も何もない人だって｡
本当に価値があるって自覚してる人は外見を無理に磨こうとはしない｡裸の自分を愛してるからだ｡

｢､､､｡｣

そんなことを考えてまた自分の何もなさに気付き笑うと俺は考えるのをやめた｡
考えたとこでそれは全て意味を成さないのはわかってたからだ｡
そう結論づけて俺は建物の隙間から見える夜空を眺めてた｡



｢ねぇ｡｣
彼女は口を開いた｡

｢ん｡｣

｢あたしを買ってく？｣

｢んー､｣

｢､､､｡｣

｢やめとく｡｣

｢そっか｡｣


そう言うと彼女は静かに立ち上がり､お礼を言うと人混みの中に後ろ指を刺されながらに消えていった｡

その背中を見送った後､俺も巣に帰った｡



｢故にここで言われる事象というのは､､､｣

大袈裟に拡がった緑色の板に教授は板書しながら､解説をする｡
俺はノートに丸写しする｡

未来への投資､そんな場所に縛られて三年経った｡
入りたての頃は肩に力が入って､緊張してたあの初々しさは消え､今は単位を求めて吸収してもすぐに抜けるスポンジみたいな穴だらけの人間となった｡

隣には誰もいない｡
いや､いなくていい｡


｢､､､｡｣


終業のチャイムが鳴り､次の教室に移動する｡


(孤独なものだな､たくさん人がいるなか歩いてるのに誰にも声をかけられないだなんて｡)


華やかな大学生活｡そんなものは縁のない話だ｡
すれ違う髪を染めた華やかなワンピースを着る女､イケてる髪型と服装を誇る男､そんな奴らを見ても何も思わない｡

真面目に授業を受けろ
だなんて大義名分を述べるわけじゃない｡

所詮みんな独りなんだ､寂しいんだ､

って思うと何も考えなくなっただけだ｡
そして俺は自分の時間を浪費していく｡


学校が終わり､俺は気付けば｢あそこ｣前を通っていた｡





そこには駄菓子の入った袋を片手に立っている姫華がいた｡