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終章
遠水天に連なりて碧し
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改めて水神として天上し、天帝に報告すると、その場で生涯番うことを許された。かなり照れくさいものではあったが、これで添い遂げることも契ることも罪にはならないと思えると、とても心が晴れやかだ。このことは、流文よりもずっと清江のほうが感じ入るところだったのだろうと思われた。拍手で祝辞をくれた天帝に、清江は拝礼の姿勢をなかなか解こうとはしなかった。
離れて左程時間も経っていないのに、二人で戻った清江の邸は、ひどく懐かしいもののように感じられた。
話を聞きつけたのか、勘が働いたのか、さっそくやって来た天鳴に盛大にからかわれ、そこで繰り広げられた清江と天鳴との応酬に声を立てて笑うのも、とても幸せな気分だった。
そして、夜毎清江と床を共にすることも。
彼の求めは底知れず、かなり頑張るがいつも疲れ果てて、流文が先に寝てしまう。そのたびに翌朝彼の腕の中で目覚めるのだが、運が良ければ彼の寝顔を拝むことができる。
眠る彼を起こすのに、悪戯をするのもまた新しい楽しみとなった。鼻をつまんだり、額をつついたり、興が乗る日は脇をくすぐったりと、いろいろやる。そのたびに、ちょっとめんどくさげに眉をひそめてから瞼を開き、清江はおはようを言ってくれる。そして彼は一度流文の肩を抱き、素肌を愛し気に小さく撫でるのだ。
彼の神気を受け入れたことで気力体力共に強化されたようで、一晩で消費した体力も翌朝には回復しており、その辺が便利すぎて笑えるのだが、それでも少し激しすぎた晩の翌朝は、清江は少し申し訳なさそうに「大事ないか」と聞いてくる。
すべてが満ち足りていた。そんな穏やかな毎日に、二人が少し慣れてきた頃。
「やっぱり、私、地上で過ごすことにします」
そう、流文は清江に言った。何日も前に決心していたことで、言いにくさには強引に目を瞑ったが、それにしても清江の反応は予想通りだった。
「そうなのか?」
実に正直に難色を示す渋顔は、なかなかに見ものだった。美しい眉間にくっきりと縦皺が刻まれる。
「ええ。だめですか? 行き来するってことですよ。行きっぱなしじゃないです」
宥めるような言い方になり、それがかえって反発を強めるかと思ったが、清江は実に素直に拗ねた。
「……いいさ。君の好きにしなさい」
どうせそういうことになると思っていただとか、君は私と居たいんじゃなかったのかとか、ぶつぶつと文句を言う清江である。二千年の神が、これ。予想通りに過ぎて、なんだか笑ってしまうほどに可愛い。
「天界が退屈なのは前から言っていたことだからな。仕方ないだろうさ」
「あなたがどうしても私をひとときも離したくないって仰るなら、考えますけどね。言っちゃいます?」
「揶揄うな。始終いろとは言わん」
それでは流文が窮屈だろうと独り言を追加した清江、始終いてもいいのだと言いたいところを我慢したようだ。
「会いに来ますからね、しょっちゅう。寂しがらないでくださいね」
「神になってから、生意気になったものだな。私がいなければ何もできなかったのが噓のようだ」
「天上が自信になったのは確かです。あなたにも、卑屈になると怒られましたしね。強気で行こうって思います」
「……悪いとは言っていない」
「では、ほかに言わせたいことがあるんでしょう?」
「ん?」
「あなたに想われていることも、誇らしいことですから。片恋の時期ではこんな晴れやかな気持ちにはなれなかった」
「……そうか」
「はい。清江、すべてあなたのおかげです」
「……うまいことを言う」
本当のことですと流文が言うと、清江は一歩こちらに近づき、そして流文の頭を胸に抱き寄せた。親が我が子にするように。
「想い合ったから、少しくらい離れても平気だと言うのだな?」
耳元に、注ぐように囁いて問う。
「ええ。こんな気持ちになるなんて、不思議なんですけどね。あなたがここで待っていてくれるならって、そう思えるんです」
「人の世が好きなのだな」
「はい。勝手を許してくれますか」
「止める気はない。気のすむようにしなさい。私はここから君を見ている」
それくらいは当然だろう文句は言わせないぞと言わんばかりだ。それには、流文も了承した。
「あなたの事も呼び出していいですか? あの廟から呼べば何とかなりますよね」
「どこからでも。君の声を聞き逃しはせぬさ。呼ばれずとも、余計なことをしていたら仕置きをしに行く」
「ふふ。浮気とかですか? 龍神様の悋気って怖そうですよね」
「……何の根拠が?」
「えーっと。なんとなくの、印象です」
言って、流文は今、自分がずいぶんと得意げな顔をしているのだろうと思った。
また呆れ顔の清江を残し、流文は自室に入った。実は、いつでも発てるように旅支度は済ませてある。といっても、いつもの笠と杖、少ない日用品は背に負っても疲れないほどしかない。それから路銀を白い道服の懐に。
こんな質素な格好も、久ぶりだ。機能的で、身軽で申し分ない。気が増し体も強くなったようだから、軽装でも十分旅はできる。
じゃあ、行きます。邸の門の前で、流文は言った。行き来は自在だ。いつでも、清江を求めれば、ここに戻ることもできる。
それでも清江は、もう癖になったように、流文の腰を抱き寄せ顔を近づけた。
「必要ないのに」
「要らぬか?」
「ほしいです!」
神気ではなく、互いの思いを伝えるための口づけは、深く甘い。名残を惜しんでなかなか終われないうちに、その気になってしまうのが少し困りものだ。
それでも。ゆっくりと唇を離し、抱き合った腕をほどく。
「行っておいで」
清江の声に、流文は手を振って笑みを返した。
◇◇◇
廟の前に降り立ち、久しぶりの地上を楽しむ心で足取りが軽い。
また、流文は放浪の旅を始めることにした。今は空も飛べるが、自分の足が地を踏みしめる感覚が好きで、変わらず徒だ。
道服の上に薄い外套を身に着け、笠を深くかぶり、町を歩く。久しぶりに麺でも食べようか。それとも、早々に町を出て遠くまで行ってみようか。うきうきと心が弾むのを感じる。
季節はいつの間にか進み、地上はもう夏が近づいていた。目にする木々の緑が煌めくように鮮やかで、その青い薫りが風を爽やかに彩る。足元の草も濃い緑を競うように茂らせ、道端を覆い始めていた。
地上はとめどなく変化を繰り返す。山も川も、そのたびに見せる姿を変え、人の目を心を楽しませてくれる。晴れ渡る日も、雨に濡れそぼる日も、それぞれに過ごし方があって、そのすべてが愛しく感じるのは、やはり流文が人として仙として長く生きていたせいなのだろう。
天上から見る地上の景色も美しい。けれども流文は、見下ろすのではなくて、見渡したいと思うのだ。この場所から見えぬものは、自分の足でそこへ行って見ればいい。大樹の陰に咲く野の花は、自分がしゃがんでみなければ見つけることもできないのだ。
こうしてまた歩き始めた流文を、清江はどんな思いで見ているのか。本当のところはわからない。けれども、寂しいなら降りてきてくれるだろう。なので問題はない。彼とて、自身の守る河から見える景色を愛している人だ。また共に河原へ並び立ち、眺めることもできよう。
いつまでも同じ場所にいてはつまらない。ひとまずは町を出て、また次の町へと向かう途中のことだった。
「あれ、あなた……!」
淡々と続く一本道の、遠く向こうから歩いてくる道師が流文の姿を見、声を張り上げた。
見覚えのある面差しに背格好。自分とよく似た旅装束だ。それが、流文の姿を見るなり破顔し、大きく手を振って駆け寄ってくる。
「お久しぶりです。お元気でしたか。こんなところでお会いできるなんて」
流文の前にたどり着き、息を整えて言った道師は、この間とは違い調子は良さそうだ。気が快活に巡っているのが、近くにいるだけで感じられる。
流文が水神力を得て一番変化を感じたのは、身の回り全ての水の巡りを感じ、ある程度操ることができる能力を身に着けた点だ。それにより、人の気の巡りとともに、体の水の巡りも同じように見える。これまでも、その者に触れればある程度わかったが、今は気にせずとも自然に感じ取れる。今日、この人は調子がいいとか悪いとか、そういったことがすぐにわかる。そして、まだ人にやったことはないが、流文の力で整えてやることもできそうである。
清江のような力も歴史も影響力もあるわけではないが、なにか人の役に立てるならば、願ってもないことだ。そうして徳を積むことで、また新たな使命が見えてくることもあるだろう。
「うん。君は? 元気にしていたか?」
「ええ、お陰様で、またこうして旅を続けています」
「力は安定した?」
「それも、大丈夫です。この前は暴走気味だったんですが。うまく操れるようになってきましたよ。あなたのおかげかもしれません」
「大したことはしてないよ。でも、それならよかった。近々天上もできるかもしれないね。その時はよろしく」
道師の明るい笑みにつられ、流文も気分がいい。こうして、自分と近い存在に知り合いができてしまったことも、単純にうれしかった。さっそく出くわし、なかなかに縁も遠くないらしい。ならば繋ごう。
「あなたは天仙でしたか」
「最近そんなようなものになった、ってとこね。あの時はまだ半端な出来損ないだったけど。なんとか」
これの説明は果てしなく長くなるので、全部割愛だ。これでも神の端くれになったとかも、とりあえずは伏せておく。その過程に確実に道師の前世がかかわることも、今は言うべきではない。
「なのに、徒で旅を?」
「ここが好きなんでね。天界とは行き来するけど、基本はこっち。君は天界に憧れる?」
「実は、それほどでも。だから、行けても地仙止まりでいいと思っています。天界っていろいろ厳しそうじゃないですか。縛られるのは嫌いです」
道師の言葉に裏はなさそうだ。少々ひねくれていた流文とは違い、初めからそんな気はないというところであるようだ。彼もやはり自由を好む性格なのだろう。
「はは。なるほど。天界、実はそんなに窮屈じゃない。むしろ退屈するかもしれないね。でも、地上が好きならそれでいいさ。ここで善行を積めば一度天上させられるもんだけど……、断ればいい」
「え、どういうことです?」
驚き半分興味半分で、道師の目が丸くなった。よく表情が変わり、愛嬌のある男だと思う。
「地上で徳を積むと、天帝の目に留まって、天仙にするべく天界に連れて行かれるんだ。皆だいたいは天仙になりたがるんだろうけど、嫌なら地上に戻してもらえばいい。それでも、天帝の御加護はあるから」
「いいのでしょうか、天意に背いても」
「今の天帝は、そういうのには寛大だよ。心配ない」
「親しくされているのですか?」
「いいや、親しくなんて恐れ多い。でも、お世話になったことがあって。お人柄はよく知っている」
彼は、ほーとか、へーとか言いながら、感心している。自分は天上したくないと言いながら、興味津々といったところだ。この気性のいくらかは前世に起因するのかもしれないと考えると、清江がどの辺に惹かれたのかを察することもできてしまうのが悔しい。
「あなたとは、また会えますか?」
「まあ、たぶんね」
道師の表情がまた明るくなった。こちらへの好意をこういうかたちで自然に見せられては、喜ばずにいられないじゃないか。この男、嫌いじゃない。もしもこのまま縁が繋がるのであれば、いい友になれるのかもしれない。
それは、もちろん成り行きだ。そうではあるが、縁に頼って流文にできることがあるならば、少しだけ手繰り寄せてもよいのではないかと思った。
あ、そうだと、取ってつけたような言葉で流文は彼を引き止めた。手を振り道のあっちとこっちへ別れようとしていた道師が、おやと眉を上げる。
「えっと、君……」
「印爽(イン シュアン)です」
「私は、向流文。爽、もし覚えていたらだけど、二月の二日、その先の町で春龍節がある。毎年私もそこへ行くよ。次の時には、よかったら遊びにおいで」
「そうですか。何か特別な祭りなのですか?」
「ああ。華やかな祭りで楽しいし、龍神様が降り立つ日だ。会いたければ、おいで」
「龍神に会えるのですか! ええ、ぜひ!」
ああ、罪深いことをしたかな。少なくとも、かなりのお節介だっただろう。もしかして自分の首を絞めた?
心でそんなことを思いながら、楽しみだと言って声を弾ませる爽に、別れの挨拶をする。
「それじゃ、また会おう」
「ええ、互いの旅の安全を」
「ああ。息災でね」
何も知らない爽が、また彼の旅路を再開させたのを見送り、流文も目指す先へと足を踏み出す。
とりあえず、天から抗議の声は届かない。あのひとのことだから、今のやり取りも上から見ていて、今頃盛大なため息をついていることだろう。
爽が元気でいる姿を見せてやりたいと思ったのだ。あれから清江も、彼を天から見守ってはいるのだろう。しかし、清江が地上に降りてくる春龍節のその時は、向き合って会うことができる。
彼が、自身と玉風のことを爽に語って聞かせることはないだろう。しかし、それでも。何も覚えていない爽だからこそ、改めて出会い、一言二言を交わすくらいはしたいのではないかと思う。自分が彼を見守っていることを、それとなく告げることくらいしたいのではないかと。それが、彼らにとってひとつの節目になることだろう。
湧き上がる万感の思いは、後から流文が受け止めてやればいい。
◇◇◇
「清江、春龍節ですよ!」
床の中、流文が飛び起きて叫ぶ。今日は、眠る清江に要らぬちょっかいをかける余裕はなかった。
天界は変化がなさ過ぎて、つい暦の感覚を失念してしまうのが困りものだ。特に、清江に用がなく、流文が久しぶりに天界に戻った場合になかなか床から出してもらえないので、時の経過がわからなくなりがちだ。
地上はやっと冬を超えたばかりのまだ肌寒い朝であっても、天界は常に快適。寒さで目覚めるということもない。
「わかっている。今日降りる」
もぞりと身じろぎをし、片手を掛布から出して顔を覆っている長い髪をかき上げた清江は、まだどこか眠そうな声で言った。
「懐かしいですね! 私たちの出会い記念ですね」
「……そうだな」
あれから、まる一年が経ったということだ。
旅をしていると、月日の経つのは割と早く感じるものだ。暦の上で今日とわかっていても、清江との出会いから一年というと、改めて感じてみてやっと実感がわいてきた流文である。
もう、一年。そんな思いと同時に、まだ一年とも感じる。これから、もっとずっと長い年月清江と連れ添っていくのだろ思うと、一年など瞬きほどの時間なのだろうけれども。
「ねえ、清江? 今日はもしかすると、面白いことが起こるかもしれません」
寝台から起き、脱ぎ散らしていた肌着を身に着ける手を途中で止めて、流文は言った。
「なんだ、また女に声をかけられて、恋仲だと言うのか?」
返す清江は、まだ横たわったままだ。
「ああ、そんなこともありましたね。それだと、今は嘘じゃないですし。よかったですね」
「あのなあ……」
ふうと息をつく清江を見、流文はそんな些細な出来事を覚えてくれていたことに気を良くした。
そういえば、清江は一体どのへんから、流文を想ってくれていたのだろうか。あの時はまだだったのだろうかと想像を巡らせ、いつか訪ねてみようと心に決めた。
「今日はそうじゃないです。でも、起こらないかもしれないから、起こってから楽しみましょう」
さて、あの道師……爽は今日、あの町に現れるだろうか。清江は今、彼の足取りを把握しているのだろうか。あの時の約束を清江が見ていたのならば、何が起こるかを想像することもできそうだが、覚えているかどうかはわからないし、聞かない。あまり先回りしすぎるのはつまらないではないか。
運命の再会をやり直すことができるのか。それがどういったものになるかも、わからないから面白い。清江さえ望めば叶う、そういうきっかけさえあれば、いいのだと思う。
「まあ、いいんだがな。君はずいぶんと楽しそうだな」
どこまで承知しているのだか、清江は少し他人事のような素振りだ。勝手にせよとでも思ってくれているならば上々である。
……いや、実はちゃんと心づもりをしているのではないかとも思う。それほど鈍感なひとではない。そのうえで、偶然の再会をどのように果たすのかを決めて、この落ち着きならば。
「楽しいですよ。やっぱりまた町歩きします?」
「ああ。それもいいだろう」
「で、廟の陰でイチャイチャしましょう」
「……」
「それはダメですか?」
「……君がしたいなら」
こういうことは断らないのだから。なかなかに享楽的なところがあって、面白い。流文に付き合う体で自分も結構楽しんでいることの多い清江である。涼しい顔に似合わずというあたりが本当に愛しくて、強引にいろんなことをさせてみたいと思ってしまう。
「ふふ。今年は特別、龍神様のご加護がありそうですね」
「そうだな」
「ここの龍神様は縁結びのご利益があるよって噂でも流しましょうか?」
「はしゃぎすぎだ」
「そうですか? 知ってますよ。私と契りを結んでから、あなたの力もまた強くなりましたよね。安定しているし。温かみがあります。それって私のおかげですよね? これは人々に大盤振る舞いするのがよくないですか?」
「はいはいわかったわかった」
掛布から手が伸び、流文の腕が掴まれた。そのままぐいと引かれ、また床に横たえられてしまう。
「子供のようだな、君は」
「すみません。はしゃいでしまって」
「構わないがな。すべて、本当のことだ。君がそれで幸せならば、なによりだ」
「はい」
清江が両手で流文の体を抱き寄せた。君がいるからだと、声にならないほどの囁きが耳に届く。
「夜明けまではまだ時間がある。もう少しここにいなさい」
「はーい」
流文は、清江の胸に頬を埋めた。
◇◇◇
地上に日が昇りかける時刻。大河の岸に、神が降り立った。荘厳にして静謐、重厚かつ穏やかな神気が彼を包んでいる。長い髪と衣の袖を風にそよがせ、美貌の水神は胸の前で印を結び、それから一つゆっくりと呼吸をする。
神はそっと瞑目し、やがてその身から、流れ出るように、目に見えぬ力が溢れた。眼前の河の水面を伝い、それを超えた向こう岸までも、彼の神気は音もたてずに静かに流れ、水に地に次第に染み渡っていく。
その隣に、身を寄せるように立つ一人の神がいる。彼も、傍らで目を閉じた。大水神の御業を見守るように、また補佐でもするように、同じようにそこにあり、祈りをささげているようであった。
やがてゆっくりと日が昇り、瞬く間に朝霧が晴れた。
ジャンとひとつ、背後の町から銅鑼の音がした。祭りの始まりを告げる合図である。
人々が起き出し、生活を始めるとともに、春龍節は幕を開ける。彼らの気配が活気を帯び、ざわめき始めるのを背に、ふたりは申し合わせたようにそっと目を開いた。
そして、言葉なく見つめ合い、ささやかな笑みを交わす。
「……」
神が、一つ頷いた。これでいいだろうと、伝えたのだ。
もう一人の神が、ふわりと笑った。
「清江、行きますか」
「そうだな」
ふたりは衣を翻し、岸を離れた。
河は、豊かな水をたたえたまま、朝日を煌めかせながらゆったりと流れていく。一羽の水鳥が水面に降り、浮かんでそっとその羽を休めた。
――― 完 ―――
題名は、李珥「花石亭」より引用
離れて左程時間も経っていないのに、二人で戻った清江の邸は、ひどく懐かしいもののように感じられた。
話を聞きつけたのか、勘が働いたのか、さっそくやって来た天鳴に盛大にからかわれ、そこで繰り広げられた清江と天鳴との応酬に声を立てて笑うのも、とても幸せな気分だった。
そして、夜毎清江と床を共にすることも。
彼の求めは底知れず、かなり頑張るがいつも疲れ果てて、流文が先に寝てしまう。そのたびに翌朝彼の腕の中で目覚めるのだが、運が良ければ彼の寝顔を拝むことができる。
眠る彼を起こすのに、悪戯をするのもまた新しい楽しみとなった。鼻をつまんだり、額をつついたり、興が乗る日は脇をくすぐったりと、いろいろやる。そのたびに、ちょっとめんどくさげに眉をひそめてから瞼を開き、清江はおはようを言ってくれる。そして彼は一度流文の肩を抱き、素肌を愛し気に小さく撫でるのだ。
彼の神気を受け入れたことで気力体力共に強化されたようで、一晩で消費した体力も翌朝には回復しており、その辺が便利すぎて笑えるのだが、それでも少し激しすぎた晩の翌朝は、清江は少し申し訳なさそうに「大事ないか」と聞いてくる。
すべてが満ち足りていた。そんな穏やかな毎日に、二人が少し慣れてきた頃。
「やっぱり、私、地上で過ごすことにします」
そう、流文は清江に言った。何日も前に決心していたことで、言いにくさには強引に目を瞑ったが、それにしても清江の反応は予想通りだった。
「そうなのか?」
実に正直に難色を示す渋顔は、なかなかに見ものだった。美しい眉間にくっきりと縦皺が刻まれる。
「ええ。だめですか? 行き来するってことですよ。行きっぱなしじゃないです」
宥めるような言い方になり、それがかえって反発を強めるかと思ったが、清江は実に素直に拗ねた。
「……いいさ。君の好きにしなさい」
どうせそういうことになると思っていただとか、君は私と居たいんじゃなかったのかとか、ぶつぶつと文句を言う清江である。二千年の神が、これ。予想通りに過ぎて、なんだか笑ってしまうほどに可愛い。
「天界が退屈なのは前から言っていたことだからな。仕方ないだろうさ」
「あなたがどうしても私をひとときも離したくないって仰るなら、考えますけどね。言っちゃいます?」
「揶揄うな。始終いろとは言わん」
それでは流文が窮屈だろうと独り言を追加した清江、始終いてもいいのだと言いたいところを我慢したようだ。
「会いに来ますからね、しょっちゅう。寂しがらないでくださいね」
「神になってから、生意気になったものだな。私がいなければ何もできなかったのが噓のようだ」
「天上が自信になったのは確かです。あなたにも、卑屈になると怒られましたしね。強気で行こうって思います」
「……悪いとは言っていない」
「では、ほかに言わせたいことがあるんでしょう?」
「ん?」
「あなたに想われていることも、誇らしいことですから。片恋の時期ではこんな晴れやかな気持ちにはなれなかった」
「……そうか」
「はい。清江、すべてあなたのおかげです」
「……うまいことを言う」
本当のことですと流文が言うと、清江は一歩こちらに近づき、そして流文の頭を胸に抱き寄せた。親が我が子にするように。
「想い合ったから、少しくらい離れても平気だと言うのだな?」
耳元に、注ぐように囁いて問う。
「ええ。こんな気持ちになるなんて、不思議なんですけどね。あなたがここで待っていてくれるならって、そう思えるんです」
「人の世が好きなのだな」
「はい。勝手を許してくれますか」
「止める気はない。気のすむようにしなさい。私はここから君を見ている」
それくらいは当然だろう文句は言わせないぞと言わんばかりだ。それには、流文も了承した。
「あなたの事も呼び出していいですか? あの廟から呼べば何とかなりますよね」
「どこからでも。君の声を聞き逃しはせぬさ。呼ばれずとも、余計なことをしていたら仕置きをしに行く」
「ふふ。浮気とかですか? 龍神様の悋気って怖そうですよね」
「……何の根拠が?」
「えーっと。なんとなくの、印象です」
言って、流文は今、自分がずいぶんと得意げな顔をしているのだろうと思った。
また呆れ顔の清江を残し、流文は自室に入った。実は、いつでも発てるように旅支度は済ませてある。といっても、いつもの笠と杖、少ない日用品は背に負っても疲れないほどしかない。それから路銀を白い道服の懐に。
こんな質素な格好も、久ぶりだ。機能的で、身軽で申し分ない。気が増し体も強くなったようだから、軽装でも十分旅はできる。
じゃあ、行きます。邸の門の前で、流文は言った。行き来は自在だ。いつでも、清江を求めれば、ここに戻ることもできる。
それでも清江は、もう癖になったように、流文の腰を抱き寄せ顔を近づけた。
「必要ないのに」
「要らぬか?」
「ほしいです!」
神気ではなく、互いの思いを伝えるための口づけは、深く甘い。名残を惜しんでなかなか終われないうちに、その気になってしまうのが少し困りものだ。
それでも。ゆっくりと唇を離し、抱き合った腕をほどく。
「行っておいで」
清江の声に、流文は手を振って笑みを返した。
◇◇◇
廟の前に降り立ち、久しぶりの地上を楽しむ心で足取りが軽い。
また、流文は放浪の旅を始めることにした。今は空も飛べるが、自分の足が地を踏みしめる感覚が好きで、変わらず徒だ。
道服の上に薄い外套を身に着け、笠を深くかぶり、町を歩く。久しぶりに麺でも食べようか。それとも、早々に町を出て遠くまで行ってみようか。うきうきと心が弾むのを感じる。
季節はいつの間にか進み、地上はもう夏が近づいていた。目にする木々の緑が煌めくように鮮やかで、その青い薫りが風を爽やかに彩る。足元の草も濃い緑を競うように茂らせ、道端を覆い始めていた。
地上はとめどなく変化を繰り返す。山も川も、そのたびに見せる姿を変え、人の目を心を楽しませてくれる。晴れ渡る日も、雨に濡れそぼる日も、それぞれに過ごし方があって、そのすべてが愛しく感じるのは、やはり流文が人として仙として長く生きていたせいなのだろう。
天上から見る地上の景色も美しい。けれども流文は、見下ろすのではなくて、見渡したいと思うのだ。この場所から見えぬものは、自分の足でそこへ行って見ればいい。大樹の陰に咲く野の花は、自分がしゃがんでみなければ見つけることもできないのだ。
こうしてまた歩き始めた流文を、清江はどんな思いで見ているのか。本当のところはわからない。けれども、寂しいなら降りてきてくれるだろう。なので問題はない。彼とて、自身の守る河から見える景色を愛している人だ。また共に河原へ並び立ち、眺めることもできよう。
いつまでも同じ場所にいてはつまらない。ひとまずは町を出て、また次の町へと向かう途中のことだった。
「あれ、あなた……!」
淡々と続く一本道の、遠く向こうから歩いてくる道師が流文の姿を見、声を張り上げた。
見覚えのある面差しに背格好。自分とよく似た旅装束だ。それが、流文の姿を見るなり破顔し、大きく手を振って駆け寄ってくる。
「お久しぶりです。お元気でしたか。こんなところでお会いできるなんて」
流文の前にたどり着き、息を整えて言った道師は、この間とは違い調子は良さそうだ。気が快活に巡っているのが、近くにいるだけで感じられる。
流文が水神力を得て一番変化を感じたのは、身の回り全ての水の巡りを感じ、ある程度操ることができる能力を身に着けた点だ。それにより、人の気の巡りとともに、体の水の巡りも同じように見える。これまでも、その者に触れればある程度わかったが、今は気にせずとも自然に感じ取れる。今日、この人は調子がいいとか悪いとか、そういったことがすぐにわかる。そして、まだ人にやったことはないが、流文の力で整えてやることもできそうである。
清江のような力も歴史も影響力もあるわけではないが、なにか人の役に立てるならば、願ってもないことだ。そうして徳を積むことで、また新たな使命が見えてくることもあるだろう。
「うん。君は? 元気にしていたか?」
「ええ、お陰様で、またこうして旅を続けています」
「力は安定した?」
「それも、大丈夫です。この前は暴走気味だったんですが。うまく操れるようになってきましたよ。あなたのおかげかもしれません」
「大したことはしてないよ。でも、それならよかった。近々天上もできるかもしれないね。その時はよろしく」
道師の明るい笑みにつられ、流文も気分がいい。こうして、自分と近い存在に知り合いができてしまったことも、単純にうれしかった。さっそく出くわし、なかなかに縁も遠くないらしい。ならば繋ごう。
「あなたは天仙でしたか」
「最近そんなようなものになった、ってとこね。あの時はまだ半端な出来損ないだったけど。なんとか」
これの説明は果てしなく長くなるので、全部割愛だ。これでも神の端くれになったとかも、とりあえずは伏せておく。その過程に確実に道師の前世がかかわることも、今は言うべきではない。
「なのに、徒で旅を?」
「ここが好きなんでね。天界とは行き来するけど、基本はこっち。君は天界に憧れる?」
「実は、それほどでも。だから、行けても地仙止まりでいいと思っています。天界っていろいろ厳しそうじゃないですか。縛られるのは嫌いです」
道師の言葉に裏はなさそうだ。少々ひねくれていた流文とは違い、初めからそんな気はないというところであるようだ。彼もやはり自由を好む性格なのだろう。
「はは。なるほど。天界、実はそんなに窮屈じゃない。むしろ退屈するかもしれないね。でも、地上が好きならそれでいいさ。ここで善行を積めば一度天上させられるもんだけど……、断ればいい」
「え、どういうことです?」
驚き半分興味半分で、道師の目が丸くなった。よく表情が変わり、愛嬌のある男だと思う。
「地上で徳を積むと、天帝の目に留まって、天仙にするべく天界に連れて行かれるんだ。皆だいたいは天仙になりたがるんだろうけど、嫌なら地上に戻してもらえばいい。それでも、天帝の御加護はあるから」
「いいのでしょうか、天意に背いても」
「今の天帝は、そういうのには寛大だよ。心配ない」
「親しくされているのですか?」
「いいや、親しくなんて恐れ多い。でも、お世話になったことがあって。お人柄はよく知っている」
彼は、ほーとか、へーとか言いながら、感心している。自分は天上したくないと言いながら、興味津々といったところだ。この気性のいくらかは前世に起因するのかもしれないと考えると、清江がどの辺に惹かれたのかを察することもできてしまうのが悔しい。
「あなたとは、また会えますか?」
「まあ、たぶんね」
道師の表情がまた明るくなった。こちらへの好意をこういうかたちで自然に見せられては、喜ばずにいられないじゃないか。この男、嫌いじゃない。もしもこのまま縁が繋がるのであれば、いい友になれるのかもしれない。
それは、もちろん成り行きだ。そうではあるが、縁に頼って流文にできることがあるならば、少しだけ手繰り寄せてもよいのではないかと思った。
あ、そうだと、取ってつけたような言葉で流文は彼を引き止めた。手を振り道のあっちとこっちへ別れようとしていた道師が、おやと眉を上げる。
「えっと、君……」
「印爽(イン シュアン)です」
「私は、向流文。爽、もし覚えていたらだけど、二月の二日、その先の町で春龍節がある。毎年私もそこへ行くよ。次の時には、よかったら遊びにおいで」
「そうですか。何か特別な祭りなのですか?」
「ああ。華やかな祭りで楽しいし、龍神様が降り立つ日だ。会いたければ、おいで」
「龍神に会えるのですか! ええ、ぜひ!」
ああ、罪深いことをしたかな。少なくとも、かなりのお節介だっただろう。もしかして自分の首を絞めた?
心でそんなことを思いながら、楽しみだと言って声を弾ませる爽に、別れの挨拶をする。
「それじゃ、また会おう」
「ええ、互いの旅の安全を」
「ああ。息災でね」
何も知らない爽が、また彼の旅路を再開させたのを見送り、流文も目指す先へと足を踏み出す。
とりあえず、天から抗議の声は届かない。あのひとのことだから、今のやり取りも上から見ていて、今頃盛大なため息をついていることだろう。
爽が元気でいる姿を見せてやりたいと思ったのだ。あれから清江も、彼を天から見守ってはいるのだろう。しかし、清江が地上に降りてくる春龍節のその時は、向き合って会うことができる。
彼が、自身と玉風のことを爽に語って聞かせることはないだろう。しかし、それでも。何も覚えていない爽だからこそ、改めて出会い、一言二言を交わすくらいはしたいのではないかと思う。自分が彼を見守っていることを、それとなく告げることくらいしたいのではないかと。それが、彼らにとってひとつの節目になることだろう。
湧き上がる万感の思いは、後から流文が受け止めてやればいい。
◇◇◇
「清江、春龍節ですよ!」
床の中、流文が飛び起きて叫ぶ。今日は、眠る清江に要らぬちょっかいをかける余裕はなかった。
天界は変化がなさ過ぎて、つい暦の感覚を失念してしまうのが困りものだ。特に、清江に用がなく、流文が久しぶりに天界に戻った場合になかなか床から出してもらえないので、時の経過がわからなくなりがちだ。
地上はやっと冬を超えたばかりのまだ肌寒い朝であっても、天界は常に快適。寒さで目覚めるということもない。
「わかっている。今日降りる」
もぞりと身じろぎをし、片手を掛布から出して顔を覆っている長い髪をかき上げた清江は、まだどこか眠そうな声で言った。
「懐かしいですね! 私たちの出会い記念ですね」
「……そうだな」
あれから、まる一年が経ったということだ。
旅をしていると、月日の経つのは割と早く感じるものだ。暦の上で今日とわかっていても、清江との出会いから一年というと、改めて感じてみてやっと実感がわいてきた流文である。
もう、一年。そんな思いと同時に、まだ一年とも感じる。これから、もっとずっと長い年月清江と連れ添っていくのだろ思うと、一年など瞬きほどの時間なのだろうけれども。
「ねえ、清江? 今日はもしかすると、面白いことが起こるかもしれません」
寝台から起き、脱ぎ散らしていた肌着を身に着ける手を途中で止めて、流文は言った。
「なんだ、また女に声をかけられて、恋仲だと言うのか?」
返す清江は、まだ横たわったままだ。
「ああ、そんなこともありましたね。それだと、今は嘘じゃないですし。よかったですね」
「あのなあ……」
ふうと息をつく清江を見、流文はそんな些細な出来事を覚えてくれていたことに気を良くした。
そういえば、清江は一体どのへんから、流文を想ってくれていたのだろうか。あの時はまだだったのだろうかと想像を巡らせ、いつか訪ねてみようと心に決めた。
「今日はそうじゃないです。でも、起こらないかもしれないから、起こってから楽しみましょう」
さて、あの道師……爽は今日、あの町に現れるだろうか。清江は今、彼の足取りを把握しているのだろうか。あの時の約束を清江が見ていたのならば、何が起こるかを想像することもできそうだが、覚えているかどうかはわからないし、聞かない。あまり先回りしすぎるのはつまらないではないか。
運命の再会をやり直すことができるのか。それがどういったものになるかも、わからないから面白い。清江さえ望めば叶う、そういうきっかけさえあれば、いいのだと思う。
「まあ、いいんだがな。君はずいぶんと楽しそうだな」
どこまで承知しているのだか、清江は少し他人事のような素振りだ。勝手にせよとでも思ってくれているならば上々である。
……いや、実はちゃんと心づもりをしているのではないかとも思う。それほど鈍感なひとではない。そのうえで、偶然の再会をどのように果たすのかを決めて、この落ち着きならば。
「楽しいですよ。やっぱりまた町歩きします?」
「ああ。それもいいだろう」
「で、廟の陰でイチャイチャしましょう」
「……」
「それはダメですか?」
「……君がしたいなら」
こういうことは断らないのだから。なかなかに享楽的なところがあって、面白い。流文に付き合う体で自分も結構楽しんでいることの多い清江である。涼しい顔に似合わずというあたりが本当に愛しくて、強引にいろんなことをさせてみたいと思ってしまう。
「ふふ。今年は特別、龍神様のご加護がありそうですね」
「そうだな」
「ここの龍神様は縁結びのご利益があるよって噂でも流しましょうか?」
「はしゃぎすぎだ」
「そうですか? 知ってますよ。私と契りを結んでから、あなたの力もまた強くなりましたよね。安定しているし。温かみがあります。それって私のおかげですよね? これは人々に大盤振る舞いするのがよくないですか?」
「はいはいわかったわかった」
掛布から手が伸び、流文の腕が掴まれた。そのままぐいと引かれ、また床に横たえられてしまう。
「子供のようだな、君は」
「すみません。はしゃいでしまって」
「構わないがな。すべて、本当のことだ。君がそれで幸せならば、なによりだ」
「はい」
清江が両手で流文の体を抱き寄せた。君がいるからだと、声にならないほどの囁きが耳に届く。
「夜明けまではまだ時間がある。もう少しここにいなさい」
「はーい」
流文は、清江の胸に頬を埋めた。
◇◇◇
地上に日が昇りかける時刻。大河の岸に、神が降り立った。荘厳にして静謐、重厚かつ穏やかな神気が彼を包んでいる。長い髪と衣の袖を風にそよがせ、美貌の水神は胸の前で印を結び、それから一つゆっくりと呼吸をする。
神はそっと瞑目し、やがてその身から、流れ出るように、目に見えぬ力が溢れた。眼前の河の水面を伝い、それを超えた向こう岸までも、彼の神気は音もたてずに静かに流れ、水に地に次第に染み渡っていく。
その隣に、身を寄せるように立つ一人の神がいる。彼も、傍らで目を閉じた。大水神の御業を見守るように、また補佐でもするように、同じようにそこにあり、祈りをささげているようであった。
やがてゆっくりと日が昇り、瞬く間に朝霧が晴れた。
ジャンとひとつ、背後の町から銅鑼の音がした。祭りの始まりを告げる合図である。
人々が起き出し、生活を始めるとともに、春龍節は幕を開ける。彼らの気配が活気を帯び、ざわめき始めるのを背に、ふたりは申し合わせたようにそっと目を開いた。
そして、言葉なく見つめ合い、ささやかな笑みを交わす。
「……」
神が、一つ頷いた。これでいいだろうと、伝えたのだ。
もう一人の神が、ふわりと笑った。
「清江、行きますか」
「そうだな」
ふたりは衣を翻し、岸を離れた。
河は、豊かな水をたたえたまま、朝日を煌めかせながらゆったりと流れていく。一羽の水鳥が水面に降り、浮かんでそっとその羽を休めた。
――― 完 ―――
題名は、李珥「花石亭」より引用
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