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06 衰えるフレキ
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◇◇◇◇
なにやら俺には戦いの才能があったらしい。
弟妹たちの巣立ちから二年が経ち、十五歳になった俺は、
「…………」
『参った』
十回に六回ぐらい、試合でフレキに勝てるようになった。
しかも、魔力を押さえたまま、つまり黒目黒髪のままで、である。
『強く……なったな』
「いや、試合だし。本当の殺し合いなら、フレキのほうが強いだろう?」
フレキは牙と爪。そして多種多様な攻撃と防御の魔法を繰り出して戦う。
そして、俺は木剣と木の盾、攻撃と防御の魔法を駆使して戦っていた。
『当たり前じゃ。それに、人族に限らず、敵はいくらでも卑怯な手を使ってくるものじゃし』
練習試合では殺し合いではないのだ。
治癒効果のある魔法といった便利なものが、この世界にはない以上、どうしても互いに本気は出せない。
「そういえばフレキ。右からの攻撃を見切るの、苦手でしょう?」
『……ん? ああ、やっと気付いたか。あえてじゃ』
「あえて?」
『左右の攻撃への反応速度をずらすことで、その違いに気付けるか試したのじゃ』
「そうだったのか。フレキの弱点を見つけたと思ったのに!」
『あまいわ。……とはいえ、練習だろうと、わしに勝てる時点で――』
そこまで言って、フレキは口ごもった。
「ん? フレキ?」
「――カハッカハッ」
フレキが苦しそうに咳き込み始める。
「フレキ!」
俺は駆け寄ってフレキの背中を撫でた。
『ああ、すまぬ、季節の変わり目ゆえ、風邪でも引いたのかもしれぬ』
今は冬から春になりかけの季節だ。
寒暖差が激しく、確かに体調を崩しやすい季節ではある。
最近、フレキは突然咳き込むことが多くなった。
そしてその頻度は多くなっていると思う。
「フレキ、歳か」
『何を言う……いや、まあ確かに歳だが、まだまだ若い者には……』
「戦闘訓練してくれるのは嬉しいけど、しばらく休んだほうがいいかもしれないね」
『馬鹿なことを言うな。フィルを鍛える前に、わしに万一のことがあれば、未練が残って天に還れぬわ』
「……それは死神の使徒の元従者としては、とてもまずいのでは」
『もちろん良くない。死ぬよりも良くない。そして恐ろしい』
強い未練を残して死んだ場合、その魂が天に還れないことがある。
この場合の天とは、つまり輪廻の輪であり、死神の御許でもある。
『天に還れなかった魂は、徐々に自我を失い……亡者となることもある』
そうなる前に、死神の御許に魂を還すことが、死神の使徒の大切な役割だ。
『わしは、未練なく生き、死神さまの御許へ還るのじゃ』
死神の使徒の従者だったことに誇りを持っているフレキとしては、そのようなことは絶対に避けたいのだろう。
『他の魔狼の何倍も生かしていただいたうえ、この世に未練を残すなど、恥ずかしいことじゃ』
「フレキが死んだときは、きっとすぐに死神さまの御許にいけるよ」
『……我の魂がもし残ったら、フィル、頼むぞ』
「わかった。万が一のときは任せて。……いや、俺が死神の使徒になれるかはわからないけど」
『なんだ、頼りないではないか。 そこは必ず俺が還してやるぐらいのことはいわぬか』
そういいながら、フレキは尻尾をゆっくりと揺らす。
なにやら俺には戦いの才能があったらしい。
弟妹たちの巣立ちから二年が経ち、十五歳になった俺は、
「…………」
『参った』
十回に六回ぐらい、試合でフレキに勝てるようになった。
しかも、魔力を押さえたまま、つまり黒目黒髪のままで、である。
『強く……なったな』
「いや、試合だし。本当の殺し合いなら、フレキのほうが強いだろう?」
フレキは牙と爪。そして多種多様な攻撃と防御の魔法を繰り出して戦う。
そして、俺は木剣と木の盾、攻撃と防御の魔法を駆使して戦っていた。
『当たり前じゃ。それに、人族に限らず、敵はいくらでも卑怯な手を使ってくるものじゃし』
練習試合では殺し合いではないのだ。
治癒効果のある魔法といった便利なものが、この世界にはない以上、どうしても互いに本気は出せない。
「そういえばフレキ。右からの攻撃を見切るの、苦手でしょう?」
『……ん? ああ、やっと気付いたか。あえてじゃ』
「あえて?」
『左右の攻撃への反応速度をずらすことで、その違いに気付けるか試したのじゃ』
「そうだったのか。フレキの弱点を見つけたと思ったのに!」
『あまいわ。……とはいえ、練習だろうと、わしに勝てる時点で――』
そこまで言って、フレキは口ごもった。
「ん? フレキ?」
「――カハッカハッ」
フレキが苦しそうに咳き込み始める。
「フレキ!」
俺は駆け寄ってフレキの背中を撫でた。
『ああ、すまぬ、季節の変わり目ゆえ、風邪でも引いたのかもしれぬ』
今は冬から春になりかけの季節だ。
寒暖差が激しく、確かに体調を崩しやすい季節ではある。
最近、フレキは突然咳き込むことが多くなった。
そしてその頻度は多くなっていると思う。
「フレキ、歳か」
『何を言う……いや、まあ確かに歳だが、まだまだ若い者には……』
「戦闘訓練してくれるのは嬉しいけど、しばらく休んだほうがいいかもしれないね」
『馬鹿なことを言うな。フィルを鍛える前に、わしに万一のことがあれば、未練が残って天に還れぬわ』
「……それは死神の使徒の元従者としては、とてもまずいのでは」
『もちろん良くない。死ぬよりも良くない。そして恐ろしい』
強い未練を残して死んだ場合、その魂が天に還れないことがある。
この場合の天とは、つまり輪廻の輪であり、死神の御許でもある。
『天に還れなかった魂は、徐々に自我を失い……亡者となることもある』
そうなる前に、死神の御許に魂を還すことが、死神の使徒の大切な役割だ。
『わしは、未練なく生き、死神さまの御許へ還るのじゃ』
死神の使徒の従者だったことに誇りを持っているフレキとしては、そのようなことは絶対に避けたいのだろう。
『他の魔狼の何倍も生かしていただいたうえ、この世に未練を残すなど、恥ずかしいことじゃ』
「フレキが死んだときは、きっとすぐに死神さまの御許にいけるよ」
『……我の魂がもし残ったら、フィル、頼むぞ』
「わかった。万が一のときは任せて。……いや、俺が死神の使徒になれるかはわからないけど」
『なんだ、頼りないではないか。 そこは必ず俺が還してやるぐらいのことはいわぬか』
そういいながら、フレキは尻尾をゆっくりと揺らす。
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