死神の使徒はあんまり殺さない~転生直後に森に捨てられ少年が、最強の魔狼に育てられ死神の使徒になる話~

えぞぎんぎつね

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11 不死者の王

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 俺は慌てて横に飛んで距離を取る。
 真横に現われるまで、まったく気配を感じることができなかった。

「そう慌てるな」

 その何者かは笑顔で、優しい口調でそう言った。
 そいつは、人族の男に見える。

 年の頃は二十代。身長が高く、精悍な顔をしていた。
 だが、生物の気配がない。

「お前、本当に人か?」 
「人のような下等な生物ではない」
『油断するでない! あやつは不死者の王ノーライフキングじゃ!』
 フレキが叫んだ。

 不死者の王。
 不死神の祝福を受けた不死者は腐敗が遅くなる。それでも緩やかに腐敗していく。
 ごく稀に、不死神の祝福を受けても、自我を保ち、肉体を制御し続け、全く腐敗しない者がいる。

 その者を不死者の王と呼ぶ。
 不死者の王こそ、不死神が考える地上における完全な存在なのだ。
 いつか、不死者の王だけで、地上を満たすことが不死神の目的だという。

 数万年、数十万年、数億年かかろうと、地上から死や病気、あらゆる苦しみをなくしたい。
 不死神は、あくまでも善意で、そう考えているのだ。

「死神の使徒に会うのは久しぶりだな。少し遊んでいってやろう」

 不死者の王の周りに十の火球が出現する。
 その火球が俺目がけて飛んできた。

 単にかわせば、森が燃える。
 俺は十の水球を作って、十の火球を撃ち落とす。

「ふむ。未熟な使徒と思いきや、最低限の魔法は使えるか。育てたのは貴様だな?」
 そういって、不死者の王はフレキを見る。

『……』
 フレキはその背後に母や弟妹たちをかばいつつ、何が起こっても対応できるように油断なく構えている。

「まあよい。未熟な死神の使徒を相手にして、怪我をしてもつまらぬ」

 不死者の王がそういうと同時に俺たちの周囲に動く骸骨の集団が現われる。
 人、狼、熊、猿の骸骨が、合わせて十体いた。

「骨はよく洗えば、臭くないゆえ、隠すのに最適なんだ」

 不死者の王は機嫌良く笑った。
 腐肉の付いた不死者の腐臭で魔狼の鼻をごまかし、密かに骸骨を呼び寄せていたのだろう。

「死神の使徒よ。お前にはこいつらで充分だろう」

 そういって、不死者の王は、俺たちに背を向けて歩き出す。
 同時に、十体の骸骨が、俺をめがけて攻撃を開始する。

「まさか、逃げるのか!?」
 俺は骸骨の攻撃を凌ぎつつ、不死者の王の背中に向けて声を掛ける。

「ああ、君子危うきに近寄らず、というだろう?」
「俺が恐ろしいのか? 臆病なことだ」

 敢えて挑発するように言ってみるが、
「当たり前だ。未熟とはいえ、死神の使徒。なにをされるかわからぬ」
 不死者の王はこちらを振り返ることすらせずに言う。

「十体では足りぬか?」
 そういうと同時に動く骸骨がさらに二十体ほど現われる。
 それだけでは終わらない。続々と骸骨が沸いてきていた。

『不死者の王は、万年生きることを至上命題にしておる。だから臆病なのじゃ』

 数万年、数億年掛けて、地上を不死者の王で一杯にする。
 それが不死神の願いならば、不死者の王が危険に近づこうとしないのも道理である。

「ガアアアウ!」
 フレキが吠えると、母と弟妹たちとその父が一斉に骸骨に躍りかかる。

『骸骨は我らに任せるのじゃ。牙が通じるゆえくみしやすい!』
「ガガウ!」

 フレキも、母も弟妹たちの父も、そして弟妹たちも強かった。
 骸骨も弱くはないが、フレキたちに比べれば遅い。

 フレキたちは骸骨の弱点である仙骨と胸骨を牙と爪で的確に破壊している。
 俺は骸骨には仙骨と胸骨を中心に魔力が流れているとフレキに教わったことを思い出した。

『フィル!』

 フレキは目で、不死者の王を仕留めろと言っている。
 今なら不死者の王は後ろを向いているし、大量の骸骨への対応で俺たちが手一杯だと思っている。
 ならば、奇襲できる可能性はある。

「……」

 一瞬、フレキや母たちを置いて、不死者の王を追っていいものかと迷った。
 嫌な予感もする。

 だが、フレキや母たちの牙は容易く骸骨を砕いている。
 骸骨はフレキや母たちに触れることすらできていない。
 任せてもきっと大丈夫だ。
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