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16.5 辺境の大都市ゼベシュ

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 俺は大型犬ぐらいの大きさになったフレキを連れて、ゼベシュの門へと向かう。

『中ではわしはなるべく話さぬからな?』
「わかってる」

 人語を話す魔物など、滅多にいないから目立ちすぎる。
 人々に恐れられている死神の使徒としては、目立つのは避けたいところだ。

『まあ、工夫して、耳元で話せば大丈夫であろうが』
「耳元で?」

 次の瞬間、
『こういうことじゃ』
「うお」
 耳元でフレキの声がした。

『何を驚く。わしは口で話しているわけではない。魔法で話しておるのじゃ』
「なるほど。音の起点を、フレキの口ではなく俺の耳元にしたと」
『そういうことじゃ。これならばまず聞き取られまい。とはいえ』
「念のためになるべく話さない?」
『そういうことじゃ。それと言うまでも無いことでであるが……』
「黒髪黒目を維持し続けろでしょ?」
『わかっているのならばよい』

 俺は銀髪赤目だったから、捨てられたのだ。
 それほど、人族の間で、忌み嫌われる髪色と目の色と言えるだろう。
 強敵と戦うとき以外は、魔力を抑えて、黒髪黒目を維持すべきなのだ。

 門の前まで移動すると、門番が俺とフレキを見て少し身構えた。

「そこで止まれ。ああ、それでいい。見ない顔だな」
「ああ、田舎から冒険者になるために出てきたところなんだ。この狼は相棒だ」
「冒険者志望か。まだ若いのに……。家業を継げ。親を心配させるなよ」
「この前、母が亡くなったばかりなんだ。家業もない」
「……そうか。それで、冒険者に……。そうか、頑張るんだぞ」
「ああ、ありがとう」

 母が亡くしたばかりと聞いた門番は途端に同情的になった。
 魔導具で犯罪歴を調べられたあと、通行料を払い名前を書かされた。

 仮身分証を発行してもらって、ゼベシュの中に入る。
 通行料はフレキが持っていたお金で支払った。きっと先代使徒の遺産だろう。

「ほう。綺麗な街並みだな。まるで異国の中世のようだ」
『中世?』

 俺が独り言を呟くと、フレキが小声で尋ねてくる。
 耳元で発せられた小さい声だからか、周囲の通行人はまったく気付いていない。
 むしろ、俺が怪しまれないように気をつけなければなるまい。

「前世の世界にあった時代区分だよ。中世は俺のいた現代から千年ぐらい前かな?」

 個人的な記憶は全くないのに、そういう記憶はなぜかあった。
 それでも自分の住んでいた国の名前や、この街並みを持つ地域の名前は思い出せない。
 どういう理屈かわからないが、恐らく死神の力に違いない。

『ふむ。千年前の、それも異国の街並みを知っているとは、フレキの前世は歴史学者だったのかもしれぬな』
「そうかな?」
『わしの生きたたった二百年の間ですら街並みは大きく変わる。国が変わればなおさらじゃ』
「そういわれたらそうかも」
『千年前どころか、三百年前の街並みすら、わしにはわからぬ。よほど深い歴史研究をしたのであろう』
「……そういわれたら、確かに。俺は歴史学者だったのかもしれないと思いはじめてきたぞ」

 そんなことを話しながら、のんびり歩いていると、嫌な気配を感じた。
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