死神の使徒はあんまり殺さない~転生直後に森に捨てられ少年が、最強の魔狼に育てられ死神の使徒になる話~

えぞぎんぎつね

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33.5 人神の使徒の苦悩

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 それから、リリイは大きく息を吸い、意を決したように、語り出す。
 
「十日後。ゼベシュの街に、不死者の大群が押し寄せようとしています」
「大群が?」

 俄には信じがたい。

「どこで得た情報なんだ?」

 リリイは神像をチラリと見る。
 人神からの神託なのかも知れない。

「……ゼベシュが大量の不死者に襲われてしまいます。それでどうすれば良いか人神に祈り、尋ねていたのです」

 昨日のリリイは明るく、朗らかだった。
 だが、今のリリイは今にも死にそうなほどだ。
 恐らく今朝の礼拝か、昨夜の礼拝で、神託を受けたのだろう。

「人神さまは対処法は教えてくれたのか?」

 リリイはゆっくりと首を振る。

「人神は、きっと人の手で乗り越えることを希望しておられるのでしょう」

 人族を加護する神なのだから、守ってやれば良いのにと思う。

 だが、神の考えること。
 使徒である身でも、理解できないことは多い。

 神は我らより、はるかに高次の領域に住まう方々なのだから、理解できなくても当然だ。
 きっと、俺たちには理解不能な、対処法を教えない理由が神にはあるのだろう。

「ならば、民に逃げるように言わないのか?」
「言ってどうなるのでしょう。逃げられるのは貴族や裕福な者たちだけです」
「それはそうかもしれないが……」
「人神の使徒である私は、生まれや財産の有無で人を選別することはありません」

 リリイの言いたいことはわかる。
 人神の使徒の場合は、それが使徒としてのあり方なのだろう。

「多くを助けるために、少数を犠牲にすることはあっても、逆はありません」
「なるほど」

 教えなければ、全滅する。ならば少数の金持ちだけでも逃がせば良い。
 そう思わなくはない。

「もし、貴族や富裕なものたちでも、逃げられない状況になってから、伝えれば……」
 そこまでいって、リリイは言いよどむ。

「貴族たちは自分の命が惜しいから、不死者を撃退しようとするかもしれないな」

 そうなれば、ゼベシュの住民の大勢は死ぬだろうが、全滅は免れるかも知れない。
 その方が死者は少なくなると、リリイは考えているのだろう。

「それに、人神の神殿が援助をし逃がしたとしても。大きな都市であるゼベシュの民を受け入れられる都市はありません」

 ゼベシュには数万の人族がいるのだ。
 逃がすのは容易ではない。

「それに、逃げれば逃げた先まで、不死者が追ってくるだけでしょう」

 そうなれば、逃げた先の大都市の民も無事ではすまない。
 亡くなる人族は一層増える。

「ならば、冒険者たちに……」
「いま伝えれば、冒険者たちは逃げてしまうでしょう」

 冒険者が逃げれば、街を守る者がいなくなる。
 万に一つもゼベシュの民が生き残る確率はなくなってしまうだろう。

「だからといって……、教えなければ準備もできないぞ?」
「フィルさま。私はどうすればいいのでしょう?」

 リリイは青ざめた顔に、泣きそうな表情を浮かべている。

「先代ならば……どうしたのでしょう?」

 アンナを助けた先代。
 政治力があり、権勢を持った先代人神の使徒ならば、なんとかしたかも知れない。
 きっと王家や各地の領主や、冒険者ギルドにも呼びかけて、軍備を整えて迎え撃てたかも知れない。
 いや、十日で対処することは、先代でも無理に違いない。

「使徒さまの苦悩はわかったよ」

 そういうと、リリイはすがるような目で俺を見た。
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