最強魔導師は不毛の大地でスローライフを送る ~凶悪な魔物が跋扈し瘴気漂う腐界でも、魔法があれば快適です~

えぞぎんぎつね

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07 【回想】モラクスとの出会い

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  ◇◇◇◇

 俺は辺境開拓騎士に任命された後、すぐに準備をして三日後には王都を出た。
 王都から腐界までは馬車を乗り継いで、およそ三十日の道のりだ。


 草木がまばらな荒野を歩き、腐界まであと徒歩で十日までの位置にやってきた時のこと。

「べぇぇぇぇ」

 一キロ先を、小さな牛が腐界の方からとぼとぼと歩いて来るのが見えた。
 俺は魔法で視力と聴力を強化できるので、遠くを楽に見通せるし小さな音も聞き逃さない。

「……べぇぇ」
 その鳴き声は、まるで母牛を探しているようで、とても悲しげだった。

「なんで……こんなところに牛? しかも子牛」

 子牛にしても小さい。生まれてすぐの牛より小さいぐらいだ。
 俺は思わず周囲を見回すが、親牛はいない。

「近くには人里もないし、野良牛かな?」

 最寄りの人里までは徒歩で二日かかる。
 歩いている道は、行商人も通らないような獣道のような道である。

「ふーむ。あんなに鳴いていたら、狼とか熊を呼び寄せないか?」

 少し心配になっていたら、
「べぇぇぇ、も!」
 ――KISYAAAAA
 魔物が現れて、子牛に襲いかかった。
 魔物にしては小さい。中型犬ぐらいの大きさの、リス型の魔獣だ。

 俺にとっては雑魚。だが子牛にとっては恐ろしい魔獣である。

「まずい」
 俺が走り出す。
 助けた後どうするのだとも思う。

 子牛を瘴気漂う腐界に連れて行くわけにはいかない。
 一旦保護した後、近くの人里まで遠回りしてそこで預けて――。

 そこまで一瞬で考えて、いやどうせ間に合わないとも考える。
 距離は一キロあるのだ。

 間に合わなかったとしても、俺は全力で向かう。

 だが、子牛は戦いはじめた。
「モオオオ!」

 突進して、角がまだ生えていない頭を魔獣にぶつけて弾き飛ばす。

 ――KISYAAA
「モッモ!」
 一匹の魔獣を弾き飛ばしたが、二匹目が背後から襲いかかる。

「モー!」
 馬がするように、後ろ足で蹴飛ばす。

「……強いな」

 だが、子牛は震えてていた。恐ろしくて怯えているのだ。
 それでも、勇気を振り絞り戦っている。

「……」

 その姿を見たとき、胸がつまった。
 小さい頃、俺を助けるために戦ってくれた愛犬を思い出した。

 子牛は懸命に戦っているが、三匹目が現れる。
 お尻にかみつかれて、「べえええ!」と悲鳴をあげた。

魔槍ハスタ
 
 やっと魔法の有効範囲まで近づけたので、魔槍の魔法を放って魔物を始末した。

「も?」

 驚いた様子の子牛は俺をじっと見る。

「危害は加えないからな」

 怯えさせないよう、子牛に優しく声をかけながら、ゆっくりと近づいていく。
 牛だから言葉の意味はわからないが、声音は伝わるものだ。

 百メートルまで近づいたとき、それまでじっと俺を見つめていた牛が、
「もぅもぅもぉぉぅ」
 と鳴きながら駆けてきた。

「おお、どうしたどうした。人恋しいのか? やっぱり人に飼われていたのか?」
「もぅ~」
「それにしても、お前子牛なのに強いなぁ。弱くても魔物だというのに」

 普通の動物は魔物相手に戦うことは難しい。魔物は小さくても速くて強いからだ。

 俺に体を押しつけてくる子牛を撫でながら怪我を調べる。
 全身が傷だらけだ。今ついた傷だけでない。ずっと魔物に襲われ続けたのかもしれない。

「……深い傷もあるな。薬を塗ってあげよう」
「もぅ」
「お前は本当に凄いな」

 余程の幸運に恵まれたとしても、魔物から逃げ続けることは難しいものだ。

 俺は自作の治療薬を子牛の傷に塗りながら考える。

「……どうしようかな。最寄りの人里まで連れて行くとなると……二日はかかるし」
「も?」

 子牛は俺を見て首をかしげている。
 今まで幸運だったのかもしれないが、このままではそう長くは生き延びられないだろう。

「だからといって、腐界に連れて行くわけには行かないし。仕方ない。人里まで――」
『いく』
「いくって、どこに?」
『ふかい』
「いやいや、腐界は瘴気が……って、お前話せるのか?」
『はなせる。せいじゅうだから』

 子牛はキリッとした表情で、尻尾をぶんぶんと振った。
 そういえば、聖獣の中でも、特に賢い個体は人語を話すと聞いたことがある。

『ありがと。たすけてくれて』
「ああ、それは気にしなくていい」
『けがも。ありがと』
「それも気にするな。って、聖獣っていうと確か魔物と戦う獣たちだよな」
『そう。かあさまが――』

 すると子牛は自分の身の上話を語り始めた。 
 母牛が凶悪な魔物と戦った際、子牛は逃げるように言われたという。

 次の日、母牛と魔物が戦った場所に戻ったら、母牛はいなかった。
 それから子牛は母牛を探して、さまよい続け、魔物から逃げ続けたのだ。

「……そっか。お前も大変だな」

 俺の両親も命を賭けて、俺を魔物から逃してくれた。
 俺と子牛は同じだ。

 俺の両親はそのまま死んだ。母牛も死んでいるだろう。
 生きていたら、子牛を放置しないはずだからだ。

『ふかいにいく。かあさまさがす』

 だが、子牛にお前の母は死んでいるとは言えなかった。

「そっか。だが腐界は瘴気が……」
『だいじょうぶ。せいじゅうだから』

 そう言ってから、子牛は真剣な表情で言う。

『つれていって。おねがい』

 こんな子供にそういわれたら、もう放ってははおけない。

「わかった、一緒に行こう」
「もっもー『ありがと』」


 子牛は嬉しそうに尻尾を振った。

 その日はそのまま、その場にテントを張って休むことにした。
 治療したとは言え、傷だらけだった子牛を休ませるためである。

「俺はティル。ティル・リッシュだ。辺境開拓騎士っていう――」

 食事の準備をしながら、自己紹介をすると、子牛はもしゃもしゃと草を食べていた。

「なんて呼べば良い? 名前はないのか?」
『ない』
「かあさまにはなんて呼ばれてたの?」
『かわいいぼうや。いいこ』
「そっか」

 母牛には大切に育ててもらっていたのだろう。

『ねね、てぃる。なまえつけて』
「うーん。俺は名前考えるのに苦手なんだけどな」
『つけて』
「じゃあ……モラクス。昔の伝承に出てくる賢い牛の名前だ」
「もっも! 『もらくす!』」

 モラクスは、俺の付けた名前をとても気に入ってくれたようだった。

  ◇◇◇◇
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