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リッチ戦の翌日はさすがに疲れてダンジョンは休んだ。
久しぶりに家の中でゴロゴロとしてネット小説を読み、昼寝なんかをしたりテレビを見ながらおやつを食べたり、なんてことない一日を過ごした。

翌日から学校に通いつつも帰ったらダンジョン攻略を進める日々に戻る。
といってもリッチ戦の時の事を考えて焦らずスキルや魔術を育てながらにシフトしたけれど。
管理者からのメッセージ通り6階層からはスライム以外も出るようになった。
中型犬ほどの大きさのネズミや角の生えた兎、翼を広げると私よりも大きいのではないかと思われる蝙蝠も8階層で出てくるようになった。
スライムだけしか出てきていない状態にさすがに辟易としていたので出てくる魔物の変化は身を引き締めるのには十分だった。
ネズミは弱いけれど仲間をすぐに呼ぶし、角兎はタンタン!と二回後ろ足で地面と叩いたと思ったら首めがけて跳んでくるし。
蝙蝠は超音波攻撃で方向感覚をおかしくするからどれも数が少なければ瞬殺することにしている。
転移のブレスレットのお陰で時間がかなり短縮されたのも大きい。
徒歩で出入り口から8階層まで行くのに急いでも数時間かかってしまうのだ。

うちの下にこんな大きなものが出来て下水管とか水道管とか大丈夫なのだろうかと思う。
まぁファンタジー要素故に大丈夫なんだろうけれど。

行き帰りの憂いがなくなればあとは時間の限りダンジョンの攻略をしつつ己を鍛えるだけだ。
……因みに私がバイトしていたホームセンターはダンジョンが出来てしまい閉店してしまったので今は無職である。
コツコツと無理をせずに、でも隠し部屋の宝箱は出来るだけ取って、できれば地図を隅々まで反映させられるように――と気づけば3月になっていた。


探求者試験の試験予約が開始された当日である。


『今日は探究者資格を得るための試験を受けるための予約開始日ですが、どうやら予約が集中しすぎてサーバーが落ちてしまったようで――』
でしょうね、なんて思いながら朝食のトーストをかじる。
ボーナスで得たスキルやらなんやらが良い感じに作用して【万能収納】の中も潤い始めている。
まさかこんなにスクロールが得られると誰が思うのか。
基本の属性の魔術スクロールはもちろん、レアっぽい聖属性もあったので好奇心でついでに取得しておいたけれど。

もう、何か吹っ切れたかのように有用そうなスクロールがあったら取得するようにしている。
戦闘系スキルや魔術は一つ使って取得してその後は使って熟練度を上げるようにした。
やっぱりスクロールで底上げしても下地が出来ていないので体がちゃんとついていけていないし、本来の力を出せていないように感じたからだ。
コツコツと頑張って自分の力にして、そしていつか庭のダンジョンを踏破する。
それが私の目標である。



「見なさいよ、アタシ探究者試験に受かったのよ!」
右手でカードを突き出し、左手で横髪をはらいながら言ってくる連れ子愛莉。
「…はぁ」
朝からげんなりである。
資格試験は開始して3日目で締め切られ、翌週に試験が実地されたらしい。
予約がちゃんとできた人にはまず日付と会場それに試験IDが送られ、当日会場に向かうとまず能力の鑑定から行われるらしい。
指紋認証のような機械に手を置かされて、側のタブレットに己のステータスが表示されるのだそうだ。
実際に受けた人がSNS上で呟いていたし、テレビでも資格試験の実際の内容~とリポーターが受けていた。
因みにリポーターさんはスキルに【歌唱】とあった。
歌うの好きな人だったからなぁ。

そのステータス確認でまず確認されるのが戦闘系スキル及び魔術の有無。
これが無いと次の実技の試験を受けられないのだそうだ。
大抵の人ならば【体術】は持っているものだけど体を動かすことが極端に嫌いな人にはついていないのだそうだ。
しかも【剣術】とか【弓術】とかも幼少期から習い事として剣道や柔道といった道場に通っていたり自己鍛錬をしていない限りは有していないと。
因みに今のところ適性魔術を持っていた人は居ないそうだ。

スクロールが出回ったらやばいことになりそうだと思いながら、未だにこちらに赤い文字で(仮免)と書かれたカードを見せている連れ子愛莉をちらりと見る。
【看破の魔眼】で見たけれど、この子に戦闘系スキルなんて一つも無いんですが。
というか資格に仮免なんてあるのか?とそっちの方が気になってしまった。

因みに資格カードの偽装は犯罪になる。

「アンタじゃぜえええったいに受からないと思うけど!アタシは1回でとれたから!!!」
勝ち誇ったように体を反らせて笑う。
「…はぁ」
なんで今日に限ってこいつのクラスと合同授業なんだと心の中でげんなりとしているとやっと教師がやってきて面倒くさいのを席に追いやってくれた。
傍にいたクラスメイトが気の毒そうな顔をしてくるけれど、彼らもあいつが面倒くさいことは知っているので関わってこない。

あの仮免、鑑定したら『戦闘系スキルを所持していなかった愛娘を不憫に思った父親の手作り』って出たんですけど。
たしか再婚相手、結構な大企業の管理職でダンジョン出来てからダンジョンに関わる部署に異動になってなかったっけ?と思い出す。
……やめておこう。触らぬ神に祟りなしである。
あの母親と再婚し、あの母子の横暴な態度にも何も言わない人なので同類なのだろう。
…いつか盛大に裁かれますように――そう思いながらも始まった授業に耳を向けノートをとる。
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