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藤森さんとのダンジョン攻略は順調だった。
戦うのは主に藤森さんとコタローで私や横田さんはサポート役。
他のダンジョンを経験しているだけあって4階層までは問題なく進むことが出来た。
ただし、5階層の王様スライムには苦戦していたけれど。

「こんな大きなスライム詐欺じゃね?!」
「一応階層ボスだからねぇ。物理効かないから気を付けて~。ギブなら言ってね」
「がんばる!」
という事で藤森さんは王様スライムに拳をラッシュで打ち込む。
ただ打撃は全てぷるんとボディに吸収されて効いていない。
それでも王様スライムの攻撃をかわしながらいろんな方向から拳を打ち込んでいるから藤森さんは戦闘センスがいいのだと思う。
「これでも魔術の熟練度は上がったと思ってるんですけどね…」
言いながら《風の槍ウインドランスを放つ横田さん。
コタローも爪から小さな斬撃を飛ばしているけれど王様スライムの身を削り切れていない。
「もーーーー!ちょっとは効きなさいよー!」
文句を言いつつもラッシュは止まらない。
「体内に響く攻撃なら効くかもだけど表面を殴るだけじゃねぇ…」
最近私の『拳闘術』の熟練度があがり覚える事が出来た技がある。
衝撃インパクト』というダメージを内面にぶつける事が出来る技だ。
これなら王様スライムの核にダメージを与えられるし、硬い殻や鎧に守られている相手でもダメージを与えられると思う。
けど熟練度5で覚えた技なのでまだ2になったばかりの藤森さんには先が長い話である。

「ギブ!」
「はいはい。衝撃インパクト
ギブアップした藤森さんと入れ替わり、私も王様スライムに拳を打ち込む。
技ありきなので拳に紫電がまとわりついている。
拳を打ち付けられた王様スライムはそのプルンとボディをびくりと震わせると、そのままくたり…と形状を崩し消えてしまう。
「今の何…?」
「拳闘術の熟練度5で覚える衝撃インパクト
「…5かぁ…」
使えるようになればとても心強いけれど、使えるようになるまでが長いと思う。
私はスキルを覚えやすく熟練度も上がりやすい恩恵があるけど普通の人なら…。
「私もそこを目指す…!」
そんなの関係ないと言わんばかりに藤森さんの瞳は輝いていた。

王様スライムとの戦闘で疲れたという藤森さんと家に戻る。
ダンジョン攻略は根を詰めてもダメだという事でまだ気力が残っててもボス戦後は無理をしないというのが私のルールである。
横田さんはスライムまみれなコタローを洗うという事で拠点に戻っていった。
「なにこのロールケーキ…おいしいんだけど…!」
「ありがとうございます」
「っは?まさかの手作り?」
「料理スキル様々だよね」
特技がスキル化すると結構恩恵が与えられる。
料理の手際が良かったり、熟練度が上がると道具が必要なくなったり。
料理はほぼ毎日やるので熟練度が貯まる貯まる。
ミキサーとか自動泡だて器とかもういらないんですよ?
「眞守さんなんで男子じゃないの?」
「そっくりそのまま返すよ」
なんでー?!とぷりぷりする藤森さんを見て笑ってしまう。
うちの事は結構有名な話だから、学校で話してくれる子は居てもこうやってうちに来てくれた子は今まで居なかった。
きっとこれからもないだろうと思っていたことがダンジョンが出来たことをきっかけに良い方向に進んでいる。
試練だとか慈悲だとか言っていた神様に少し感謝したくなった。


「…すずちゃん、お客さんが来たんだけどね…?」
水樹さんが来客を知らせるが少し困ったような顔をしている。
「客?」
「あたし別の部屋にいっておこうか?」
「あー…多分奏ちゃんも知ってる人だから大丈夫なんじゃないかなぁ…」
歯切れ悪く水樹さんは言うと『案内するね』と戻っていった。
「誰だろ?」
「ね」
2人で小首を傾げあう。


「ダンジョンから助けてもらった事感謝する」
「「…だれ?」」
案内されて入ってきたのは白尾さんと…赤毛の青年だった。
なんとなく誰かに似ているような気がするんだけど…。
「くくく…、だってさ」
白尾さんは面白そうに笑っている。
「そりゃないぞ、眞守、藤森」
「え?先生?!」
「まじで?!!!」
今聞いた声は聞き慣れた先生の声だった。
「なんでさっき声作ってたんですか…」
「見た目こんなんなっただろ?まさか髪と目でこんなに変わるとは思わなかった…」
そういう先生の髪は赤く、目は琥珀色だった。
「一応髪染めたりしたんだけど翌日には元通りになっててさ」
「偽装スキルは…?」
「眞守ちゃんみたいにほいほいスクロールゲットできないからね?」
「…わかってますよ?」
他のダンジョンでスクロール一本発見されるのが月に一度程度とか、出ても戦闘系の体術とか剣術とか棒術とか当たり障りのない奴だって事は…。
魔術のスクロールに今とんでもない額がついているという事も。
4~5本売れば一生安泰かもしれない。

「譲ってもらいたいところだが、それはこれから一稼ぎしてから頼むよ」
「「一稼ぎ?」」
藤森さんと声を重ねて聞けば、先生はニヤリと笑った。
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