私の運命は高嶺の花【完結】

小夜時雨

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二章・愛の世界

今日のお仕事

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 ほぼ所在地不明といっても過言ではないぐらい、世界中をあくせく歩き回って仕事をしているため、かつての祖国とはいえ一ヶ国に長く居座り仕事をするのは珍しい。

 酒で肥やしに肥やした腹を揺らしながら、どっこいしょと歩く後ろ姿はどこからどう見てもただのオッサンである。ちなみに結婚はしていない。愛の女神を信仰する教会で修道女をしていた因果かと思わんでもなかったが、うっすらハゲかかった頭を撫でつつ考えてもわからないことはわからないし、ぶっちゃけモテなかったので、以上の大半の理由でもって独り身のまま。前世からの因縁は実に困ったものである。

 さて、と今回の情報を頼りに私はとある公爵邸に向かっていた。
馬車はいい。快適だ。金を注いで乗り心地を良くした私は悪くない。移動、移動、移動の日々なのである。今回は珍しいだけで。一週間以上、昔の故郷であるアネモネス国に滞在しているのには訳がある。
 頭の中で情報を精査する。
過ぎ去るアネモネス国首都の景色を尻目に、私は思い起こしていた。

 (確か……、)

 アネモネス脆弱国ならではの事情だが、とある公爵が運命に出会い、想い極めて人前で婚約破棄をしたという。

 いつもの運命的事情であれば、まあ良かったのだが(良く無いが、)問題は、お相手がかなりの有力貴族かつ金持ちであったところにある。
カンカンになり、運命なんてなんのその、な態度に出たのだ。公爵自身はこの国の運命宗教に染まっているのでさぞ驚愕しただろう、政略結婚の相手が運命を気にせずむしろ破格の慰謝料を要求してきた。

 もともと公爵自身が貧しいゆえの婚約であったため、相手に事情が通じなかったというのもある。契約違反というわけだ。もっというと、お相手は他国の先進的教育を受けた有力家女子であった。
同じ自国で教育を受けるのが普通かと思いきや、今や昔、隣国という、非常に仲睦まじい友好国からの帰国子女であったため、揉めに揉めた。政略結婚相手の家は非常に文明的な考え方を持っており、いくら魔法やら奇跡が起きるといっても現実を直視していたのである。

 また、公爵は魅力的な男だった。これが一番良くなかった。
実力主義なところがある有力家の女子は公爵に惚れ込んでいたという。(あ、この展開は前世でも見たなあ)と一瞬、前世を眇めたが、今世の時代、女子は強かった。

 少なくとも私よりは強かった。

 (ええと……)

 資料を取り出し、くるくると捲るとそれは出てきた。
 そういえばまだ絵姿は見ていなかったんだよね。

「着きましたよ」

馬車が止まった。

(まあいいか)

この時、私がこの資料をきちんと読んでさえいれば、また展開は違ったのかもしれない。
長く商売をしてきた自信が裏打ちされた気安い態度をとる私。我ながら実に舐め腐った驕りである。
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