41 / 59
終章・女神
待ち合わせ
しおりを挟む
迎えに行く、と言われたが、入場券の時刻がちょうどダフォーディル学院の授業終了後から直接向かったほうがよさそうな塩梅だったため、待ち合わせをしてから行くことが決定した。
私はできうる限り目立たない場所を指定し、ヴィクリス様も頷いてくださった。ありがたい。これ以上有名人に近づくと怖いことになるかもしれない。特に肉食女子が。
その日は、朝からソワソワとして落ち着かなかった。
「わーお姉ちゃんが緊張してるー」
「うわーだっせ」
基本的に騒がしい兄と妹を物理的に静かにさせて。
その足で、ただちに学院へと向かう。
(落ち着け、落ち着け)
前世における、山小屋ドキドキッ体験よりも大丈夫じゃないか? なあ、私よ。
冬山登山はやめるべきだったなあ……。いくら輸出で大儲けするための調査とはいえ。
さて、そんなことよりも待ち合わせは早めに向かったほうが良い。特にお偉いさん相手には。
そういった生活の知恵のようなものは前世からの教えとして、この魂に刻んでいたはずなのに、ダフォーディル学院の制服のまま待ち合わせ場所にたどり着けば、居た。ヴィクリス様だ。あの爽やな着こなし、隙のない見た目……遠目からもチラホラと気にしているらしい人々の視線を一身に集めている姿は間違いなくやんごとなき王子様です。ありがとうございました。
……そう言って、帰宅できたらどんなに気が楽か。30分早めに辿り着くことができて良かったと思うべきか。
「ニバリスさん」
「……すみません、私、遅れてしまいましたか」
一応、体裁を整えて謝罪すると。
彼はにこやかに流す。
「いいえ。俺が早すぎたんです。
嬉しすぎて、1時間以上も早めにきてしまいました」
(ではいつからここに……?)
と、彼の手にある本に目がいく。
ヴィクリス様は、ああ、と私の興味の先を教えてくれた。
どうやら暇つぶしに読書をしていたらしい。その度胸、さすがの担力である。彼の一挙一足をこれでもかとばかりに、こんなにも周囲の関心を集めているのに。学院の僻地を指定したはずなのに、これぞカリスマというべきか。
「運命についての本です。
30年前のものですね」
「へえ、年代物ですね」
「ええ。古い年代のものですが、
これでもまだ読みやすいほうでして……」
彼曰く、あの修道院敷地内に併設してあるヴィクリス様と出会った時の建物に詰まってた本だとかで、あの中でも近代言語に近い叙述をしてあり、非常に読みやすいのだとか。
重厚感もあって、立派な装丁の本を片手で持つのがサマになるのは王子様だけかもしれない。
「さらに古い資料や書物もありますが、
虫が這っていたり、
ところどころ誤字やら変な思想が入ってたり、
とにかく当時のこととはいえ、
なかなか読みづらくて……」
必要に駆られて勉強のひとつとして読書はすることはあれども、ヴィクリス様のように日常的に読むようなことはしてこなかった。それは前世においても同じ。
「……すごいですね」
「え?」
「私は全然、読む気も起きなくて」
なんとも情けない話だが、私の苦手な部分だった。読書のような、一箇所でじっとしているような行為は。
「そうでしょうか?」
「はい」
そうやって、ひとつのことに熱中することも才能だろう。
私はできうる限り目立たない場所を指定し、ヴィクリス様も頷いてくださった。ありがたい。これ以上有名人に近づくと怖いことになるかもしれない。特に肉食女子が。
その日は、朝からソワソワとして落ち着かなかった。
「わーお姉ちゃんが緊張してるー」
「うわーだっせ」
基本的に騒がしい兄と妹を物理的に静かにさせて。
その足で、ただちに学院へと向かう。
(落ち着け、落ち着け)
前世における、山小屋ドキドキッ体験よりも大丈夫じゃないか? なあ、私よ。
冬山登山はやめるべきだったなあ……。いくら輸出で大儲けするための調査とはいえ。
さて、そんなことよりも待ち合わせは早めに向かったほうが良い。特にお偉いさん相手には。
そういった生活の知恵のようなものは前世からの教えとして、この魂に刻んでいたはずなのに、ダフォーディル学院の制服のまま待ち合わせ場所にたどり着けば、居た。ヴィクリス様だ。あの爽やな着こなし、隙のない見た目……遠目からもチラホラと気にしているらしい人々の視線を一身に集めている姿は間違いなくやんごとなき王子様です。ありがとうございました。
……そう言って、帰宅できたらどんなに気が楽か。30分早めに辿り着くことができて良かったと思うべきか。
「ニバリスさん」
「……すみません、私、遅れてしまいましたか」
一応、体裁を整えて謝罪すると。
彼はにこやかに流す。
「いいえ。俺が早すぎたんです。
嬉しすぎて、1時間以上も早めにきてしまいました」
(ではいつからここに……?)
と、彼の手にある本に目がいく。
ヴィクリス様は、ああ、と私の興味の先を教えてくれた。
どうやら暇つぶしに読書をしていたらしい。その度胸、さすがの担力である。彼の一挙一足をこれでもかとばかりに、こんなにも周囲の関心を集めているのに。学院の僻地を指定したはずなのに、これぞカリスマというべきか。
「運命についての本です。
30年前のものですね」
「へえ、年代物ですね」
「ええ。古い年代のものですが、
これでもまだ読みやすいほうでして……」
彼曰く、あの修道院敷地内に併設してあるヴィクリス様と出会った時の建物に詰まってた本だとかで、あの中でも近代言語に近い叙述をしてあり、非常に読みやすいのだとか。
重厚感もあって、立派な装丁の本を片手で持つのがサマになるのは王子様だけかもしれない。
「さらに古い資料や書物もありますが、
虫が這っていたり、
ところどころ誤字やら変な思想が入ってたり、
とにかく当時のこととはいえ、
なかなか読みづらくて……」
必要に駆られて勉強のひとつとして読書はすることはあれども、ヴィクリス様のように日常的に読むようなことはしてこなかった。それは前世においても同じ。
「……すごいですね」
「え?」
「私は全然、読む気も起きなくて」
なんとも情けない話だが、私の苦手な部分だった。読書のような、一箇所でじっとしているような行為は。
「そうでしょうか?」
「はい」
そうやって、ひとつのことに熱中することも才能だろう。
10
あなたにおすすめの小説
優しすぎる王太子に妃は現れない
七宮叶歌
恋愛
『優しすぎる王太子』リュシアンは国民から慕われる一方、貴族からは優柔不断と見られていた。
没落しかけた伯爵家の令嬢エレナは、家を救うため王太子妃選定会に挑み、彼の心を射止めようと決意する。
だが、選定会の裏には思わぬ陰謀が渦巻いていた。翻弄されながらも、エレナは自分の想いを貫けるのか。
国が繁栄する時、青い鳥が現れる――そんな伝承のあるフェラデル国で、優しすぎる王太子と没落令嬢の行く末を、青い鳥は見守っている。
『影の夫人とガラスの花嫁』
柴田はつみ
恋愛
公爵カルロスの後妻として嫁いだシャルロットは、
結婚初日から気づいていた。
夫は優しい。
礼儀正しく、決して冷たくはない。
けれど──どこか遠い。
夜会で向けられる微笑みの奥には、
亡き前妻エリザベラの影が静かに揺れていた。
社交界は囁く。
「公爵さまは、今も前妻を想っているのだわ」
「後妻は所詮、影の夫人よ」
その言葉に胸が痛む。
けれどシャルロットは自分に言い聞かせた。
──これは政略婚。
愛を求めてはいけない、と。
そんなある日、彼女はカルロスの書斎で
“あり得ない手紙”を見つけてしまう。
『愛しいカルロスへ。
私は必ずあなたのもとへ戻るわ。
エリザベラ』
……前妻は、本当に死んだのだろうか?
噂、沈黙、誤解、そして夫の隠す真実。
揺れ動く心のまま、シャルロットは
“ガラスの花嫁”のように繊細にひび割れていく。
しかし、前妻の影が完全に姿を現したとき、
カルロスの静かな愛がようやく溢れ出す。
「影なんて、最初からいない。
見ていたのは……ずっと君だけだった」
消えた指輪、隠された手紙、閉ざされた書庫──
すべての謎が解けたとき、
影に怯えていた花嫁は光を手に入れる。
切なく、美しく、そして必ず幸せになる後妻ロマンス。
愛に触れたとき、ガラスは光へと変わる
狂おしいほど愛しています、なのでよそへと嫁ぐことに致します
ちより
恋愛
侯爵令嬢のカレンは分別のあるレディだ。頭の中では初恋のエル様のことでいっぱいになりながらも、一切そんな素振りは見せない徹底ぶりだ。
愛するエル様、神々しくも真面目で思いやりあふれるエル様、その残り香だけで胸いっぱいですわ。
頭の中は常にエル様一筋のカレンだが、家同士が決めた結婚で、公爵家に嫁ぐことになる。愛のない形だけの結婚と思っているのは自分だけで、実は誰よりも公爵様から愛されていることに気づかない。
公爵様からの溺愛に、不器用な恋心が反応したら大変で……両思いに慣れません。
私は彼に選ばれなかった令嬢。なら、自分の思う通りに生きますわ
みゅー
恋愛
私の名前はアレクサンドラ・デュカス。
婚約者の座は得たのに、愛されたのは別の令嬢。社交界の噂に翻弄され、命の危険にさらされ絶望の淵で私は前世の記憶を思い出した。
これは、誰かに決められた物語。ならば私は、自分の手で運命を変える。
愛も権力も裏切りも、すべて巻き込み、私は私の道を生きてみせる。
毎日20時30分に投稿
【完結】王子妃候補をクビになった公爵令嬢は、拗らせた初恋の思い出だけで生きていく
たまこ
恋愛
10年の間、王子妃教育を受けてきた公爵令嬢シャーロットは、政治的な背景から王子妃候補をクビになってしまう。
多額の慰謝料を貰ったものの、婚約者を見つけることは絶望的な状況であり、シャーロットは結婚は諦めて公爵家の仕事に打ち込む。
もう会えないであろう初恋の相手のことだけを想って、生涯を終えるのだと覚悟していたのだが…。
婚約破棄したら食べられました(物理)
かぜかおる
恋愛
人族のリサは竜種のアレンに出会った時からいい匂いがするから食べたいと言われ続けている。
婚約者もいるから無理と言い続けるも、アレンもしつこく食べたいと言ってくる。
そんな日々が日常と化していたある日
リサは婚約者から婚約破棄を突きつけられる
グロは無し
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる