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終章・女神
悪役令嬢、開幕
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私が知っている限りでは、アネモネス脆弱国における婚約破棄はごく最近まで行われてきた。
それこそ今の劇のように、伯爵子息や公爵令嬢など、豊かな規模で……。
劇場はやや広めで、用意された席は周りに見えづらいが舞台は見栄えのするところだった。
お昼を過ぎた時間帯なせいか、やってくる客は私のような学生もいれば、主婦もいる。正装もいるにはいたが、気軽すぎる格好でさえなければ大丈夫なようだ。学生割引もあるらしく、専用の枠もあるとか。
(ずいぶんと力が入ってる)
しょっちゅうイベントはやっているらしく、夜の部もあるようだ。
椅子に置いてあったご案内の紙を開いて眺める限りでは、大人ちっくなムード漂う催し物が予定されている。
……個人的にはそっちが気になるけど、これはこれで面白いかもしれない。
出だしからして、婚約破棄である。
ザワザワとした空気が瞬時にピン、と空気が張り詰めた、唾を飲むような緊張感のある場に変わった。
「わたくしのどこが気に入らなかったのです?」
「貴様は運命ではないからだ」
「まあ……お話になりませんわね」
王子様役の人がしゃしゃり出てきて、びしっと決めポーズらしきものをしながら立ち回りをする。
「なぜ理解できない?
運命だけは、誰にも邪魔できぬ存在なのだ。
この世の何よりも愛らしい……」
「……わたくしが気に入らぬとその娘に悪戯をしたことを
お叱りになるのではないのですね」
「そんな迷惑をも、ものともしないのが運命の愛よ」
(おっと、運命のお相手がかわいそうな話になってきたぞ……)
しかしその運命の女がキラキラとし目で傍にいる王子様役を見つめているので、結果オーライか。
若干ギャグっぽい物語展開だが、概ね乙女ちっくに二人は幸せなキスをして終了になった。
……ところどころ、アネモネス国への毒が混じっている気がするのは気のせいではないだろう。
むしろ運命の相手大好きな運命教が嫌いなことを、この脚本家は意思表明しているのかもしれない。
問題は、私の隣にその本元みたいなお人が座って、にこやかに拍手をしていることだ。
アンコールが始まる。
「……運命に勝てないなんて。
そんなこと、ありえませんわ……」
なんでか国外へ追放された悪役令嬢が、情熱的に何か、大きな壺を前にしてぐるぐると棒を突っ込んで回している。
ブツブツと呪文のようなものを呟きながら、くふふ、と笑っている。
まさしく魔女。
「わたくしの人生に、大負けの文字なくってよ!」
オーホッホッホッホ!
高笑いが響き渡る。
うおおおお、とどこからか固唾を飲んでいた聴衆から声が上がり、悪役令嬢ファンがいることはわかったが、続編への足がかり的な展開にもっていったのは上手い。相手を打ち負かしたい、という復讐心かもしれないが、そういったものが胸の内に込み上げている彼女はこの世の誰よりもいっとき、輝いて見えた。
この演劇を最後まで見ていた私を、横からじっと見つめていた青い視線のことも忘れ、思考に囚われながらも楽しんだ。
それこそ今の劇のように、伯爵子息や公爵令嬢など、豊かな規模で……。
劇場はやや広めで、用意された席は周りに見えづらいが舞台は見栄えのするところだった。
お昼を過ぎた時間帯なせいか、やってくる客は私のような学生もいれば、主婦もいる。正装もいるにはいたが、気軽すぎる格好でさえなければ大丈夫なようだ。学生割引もあるらしく、専用の枠もあるとか。
(ずいぶんと力が入ってる)
しょっちゅうイベントはやっているらしく、夜の部もあるようだ。
椅子に置いてあったご案内の紙を開いて眺める限りでは、大人ちっくなムード漂う催し物が予定されている。
……個人的にはそっちが気になるけど、これはこれで面白いかもしれない。
出だしからして、婚約破棄である。
ザワザワとした空気が瞬時にピン、と空気が張り詰めた、唾を飲むような緊張感のある場に変わった。
「わたくしのどこが気に入らなかったのです?」
「貴様は運命ではないからだ」
「まあ……お話になりませんわね」
王子様役の人がしゃしゃり出てきて、びしっと決めポーズらしきものをしながら立ち回りをする。
「なぜ理解できない?
運命だけは、誰にも邪魔できぬ存在なのだ。
この世の何よりも愛らしい……」
「……わたくしが気に入らぬとその娘に悪戯をしたことを
お叱りになるのではないのですね」
「そんな迷惑をも、ものともしないのが運命の愛よ」
(おっと、運命のお相手がかわいそうな話になってきたぞ……)
しかしその運命の女がキラキラとし目で傍にいる王子様役を見つめているので、結果オーライか。
若干ギャグっぽい物語展開だが、概ね乙女ちっくに二人は幸せなキスをして終了になった。
……ところどころ、アネモネス国への毒が混じっている気がするのは気のせいではないだろう。
むしろ運命の相手大好きな運命教が嫌いなことを、この脚本家は意思表明しているのかもしれない。
問題は、私の隣にその本元みたいなお人が座って、にこやかに拍手をしていることだ。
アンコールが始まる。
「……運命に勝てないなんて。
そんなこと、ありえませんわ……」
なんでか国外へ追放された悪役令嬢が、情熱的に何か、大きな壺を前にしてぐるぐると棒を突っ込んで回している。
ブツブツと呪文のようなものを呟きながら、くふふ、と笑っている。
まさしく魔女。
「わたくしの人生に、大負けの文字なくってよ!」
オーホッホッホッホ!
高笑いが響き渡る。
うおおおお、とどこからか固唾を飲んでいた聴衆から声が上がり、悪役令嬢ファンがいることはわかったが、続編への足がかり的な展開にもっていったのは上手い。相手を打ち負かしたい、という復讐心かもしれないが、そういったものが胸の内に込み上げている彼女はこの世の誰よりもいっとき、輝いて見えた。
この演劇を最後まで見ていた私を、横からじっと見つめていた青い視線のことも忘れ、思考に囚われながらも楽しんだ。
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