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終章・女神
悪役令嬢、閉幕
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カーテンが降り、わーっと観劇の熱が頬にのぼる。
私以外の顧客も同じく火照ったらしく、興奮した態であれこれと知人や友人たちと会話を楽しみながら、席から立ち上がる。帰宅の準備だ。私も同様に身支度をし、出口へ向かう。隣にはヴィクリス様である。
「どうでしたか?
劇は。
とても熱中されてましたね」
「そうですね……」
恥ずかしながら、とてつもなく面白かったです、はい。
王家仕様のいつもの外見では判別不明な一般的な馬車がしれっといつの間にか目の前にいて、外に出たらすぐに乗ることができた。
(御者も玄人だな……)
変なとこに関心しながら、紳士に私を乗せてくれるヴィクリス様の手をとって乗り込む。
(王家の馬車だから、凄腕が馬車を操るのも当然か)
向かいの席に主である王子様がゆるりと座り、帰宅することになった。
「あの精神力は素晴らしかったですね」
「悪役令嬢の、ですか?」
「はいそうです。
とても……力強く、生命力すら感じました」
「はは……確かに」
追放されても、めげない雑草魂。いや、貴族魂。
最高だった。
(実際には凹んだりするだろうし、
そう簡単に貴族の令嬢が野外で生き延びれるはずもないけど)
あの調子では、きっとあの娘は王子の心を取り戻しに帰るんだろう。
ひたむきで、一途。
私には眩しい心だ……。
「ニバリス嬢。
もし、君に運命が現れたら、あなたはどうするのですか?」
まるで抉られるかのような痛みが胸中に生じたが、知らんぷりして私は……多少は歪みが出たのかもしれないが、それなりに顔の体裁を整えつつも、じっと私を見つめている本物の王子様に回答した。
「そんなの……、
わからないですよ」
「え?」
「もし運命なんて人が現れたとしても。
私には……わかりません。
よっぽど、魅力的な人でない限り行動に移せない」
両目を軽く見開かれたが、そうか、とヴィクリス様は小さく頷いた。
私は言葉を続けた。
「だって、そうでしょう?
確かに、奇跡が起きるかもしれない。
けど……」
その時の状況や環境による、としか。
車窓からは、かつて第三王子様が闊歩していた街並みが蹄の足音と共に通り過ぎていく。
(確かに、私にとっての運命の王子様はとても魅惑的で、
格好良い人だったから……)
「……けど?」
青い瞳が、ゆらり、と揺れるような目で私を見ている。
考えた。修道女になったとき。
薬草を束にしているとき、網籠を作っているとき、食事の準備をしているとき。
眠るとき、祈る時間も。
(私は、彼の振る舞いを許せるだろうか、と)
たとえ運命だとしても、将来的に夫婦になるとしたら、どちらかが偏っていてもいけない。
片寄りすぎてもいけないのだ。
私の紡いだ言葉は、真実。
「いくら見た目が良くても、
どんなにすごい人だって言われても、
私にとって一途で親切で、優しくて、
私を大事にしてくれて……、
喜びや幸せを分かち合える人でないと嫌です。
……つまり、
女関係が派手な、
間違いなくふしだらな人は、
お断り、
ということです」
新聞やら家族やら、とにかく誰もが第三王子の素行の悪さは知られていた。
普段の節操のなさが酷過ぎた。
たとえ出会えたとしてもあの行動は無い。
他の女と触れた口や手で私に触れるなんて。片腹痛い。
「嫌いです」
そう、私は猛烈に嫉妬していたのだ。
私を見つけないくせに、好き勝手に他の女のものになった男なんて。
潔癖といっていもいいだろう、だって、私には彼しかいなかったから。
運命の恋なんて。
私以外の顧客も同じく火照ったらしく、興奮した態であれこれと知人や友人たちと会話を楽しみながら、席から立ち上がる。帰宅の準備だ。私も同様に身支度をし、出口へ向かう。隣にはヴィクリス様である。
「どうでしたか?
劇は。
とても熱中されてましたね」
「そうですね……」
恥ずかしながら、とてつもなく面白かったです、はい。
王家仕様のいつもの外見では判別不明な一般的な馬車がしれっといつの間にか目の前にいて、外に出たらすぐに乗ることができた。
(御者も玄人だな……)
変なとこに関心しながら、紳士に私を乗せてくれるヴィクリス様の手をとって乗り込む。
(王家の馬車だから、凄腕が馬車を操るのも当然か)
向かいの席に主である王子様がゆるりと座り、帰宅することになった。
「あの精神力は素晴らしかったですね」
「悪役令嬢の、ですか?」
「はいそうです。
とても……力強く、生命力すら感じました」
「はは……確かに」
追放されても、めげない雑草魂。いや、貴族魂。
最高だった。
(実際には凹んだりするだろうし、
そう簡単に貴族の令嬢が野外で生き延びれるはずもないけど)
あの調子では、きっとあの娘は王子の心を取り戻しに帰るんだろう。
ひたむきで、一途。
私には眩しい心だ……。
「ニバリス嬢。
もし、君に運命が現れたら、あなたはどうするのですか?」
まるで抉られるかのような痛みが胸中に生じたが、知らんぷりして私は……多少は歪みが出たのかもしれないが、それなりに顔の体裁を整えつつも、じっと私を見つめている本物の王子様に回答した。
「そんなの……、
わからないですよ」
「え?」
「もし運命なんて人が現れたとしても。
私には……わかりません。
よっぽど、魅力的な人でない限り行動に移せない」
両目を軽く見開かれたが、そうか、とヴィクリス様は小さく頷いた。
私は言葉を続けた。
「だって、そうでしょう?
確かに、奇跡が起きるかもしれない。
けど……」
その時の状況や環境による、としか。
車窓からは、かつて第三王子様が闊歩していた街並みが蹄の足音と共に通り過ぎていく。
(確かに、私にとっての運命の王子様はとても魅惑的で、
格好良い人だったから……)
「……けど?」
青い瞳が、ゆらり、と揺れるような目で私を見ている。
考えた。修道女になったとき。
薬草を束にしているとき、網籠を作っているとき、食事の準備をしているとき。
眠るとき、祈る時間も。
(私は、彼の振る舞いを許せるだろうか、と)
たとえ運命だとしても、将来的に夫婦になるとしたら、どちらかが偏っていてもいけない。
片寄りすぎてもいけないのだ。
私の紡いだ言葉は、真実。
「いくら見た目が良くても、
どんなにすごい人だって言われても、
私にとって一途で親切で、優しくて、
私を大事にしてくれて……、
喜びや幸せを分かち合える人でないと嫌です。
……つまり、
女関係が派手な、
間違いなくふしだらな人は、
お断り、
ということです」
新聞やら家族やら、とにかく誰もが第三王子の素行の悪さは知られていた。
普段の節操のなさが酷過ぎた。
たとえ出会えたとしてもあの行動は無い。
他の女と触れた口や手で私に触れるなんて。片腹痛い。
「嫌いです」
そう、私は猛烈に嫉妬していたのだ。
私を見つけないくせに、好き勝手に他の女のものになった男なんて。
潔癖といっていもいいだろう、だって、私には彼しかいなかったから。
運命の恋なんて。
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