私の運命は高嶺の花【完結】

小夜時雨

文字の大きさ
44 / 59
終章・女神

夕日の立ち昇る空より曇天

しおりを挟む
 私にとって、あの人は初恋だ。認めよう。
何よりも結ばれるべきだという世情や、運命と愛の女神だって推奨する運命の王子様だった。
 それなのに。
修道女になった私は、みじめに新聞を切り抜いて集めたり、記事に第二子誕生の内容を読んではため息をついていたのだ。本当に、苦しくてたまらなかった。
 俗世を捨てたくせに、捨てきれない。
 中途半端だった。
何年も、何十年も、そうして年を経て、ひっそりと死んだ。

 ただ、私はそんな生き方も……嫌いじゃなかった。

(第三王子だけは許さないけど)
本当に運命を愛しているなら、運命の相手を求めているなら手段があったはずだ。いくら王家が未成年の王族を秘匿していたとしても、わざわざ女好きにならなくても方法はあったはずである。一体なんのための王家か。
 
「……バカも嫌いです」

自分自身もバカだと思う時があった。修道女の時代の話だ。
けど、どうしようもなかった。
自己憐憫に浸るしかなかったし、現実は厳しい。私がしゃしゃり出てきたところで、もしかしたらひっそりと始末されててもおかしくはないぐらい、隣国との仲は現代に続いている。ある意味、分岐点だった。この国と、未来と。
弱気になるのも無理はない、なんたって小娘でしかない。
家族もいた。宿屋だけど、手堅く生計をたてている。姉だっている。可愛い甥っ子が生まれたばかり。
私のこの運命という恋心のせいで、何もかもを失うわけにもいかなかった……。

選択肢はあった。
野菜の皮むきをしていたときや、火がなかなかつかなくて寒さに指を擦り合わせたり、細い糸が針になかなか通せなくて小さめな息をついたとき。
私は、その選択肢に思いを馳せたのである。

”嫌い”

そう言い切った瞬間の、窓際にいるヴィクリス様のお顔といったら。
なんて言ったらいいのでしょう、とても気の毒で、眉尻が下がっていた。

「ふふ……」

思わず苦笑がこぼれてしまう。
解せない表情のヴィクリス様に、私は慰めを投げた。

「もちろん、その言葉は私にもかかる意味合いの言葉です」
「そう、ですね……。
 第三王子は……女性を取っ替え引っ替えでしたから」
「ああ、……それもありますが」

唾を飲み込んだ。

「さっさと忘れてしまえばよかったのに、
 とも思うのですよ、ヴィクリス様」

失恋は誰にだって経験のあるもののひとつだ。
不運にも、私にはたったひとつ、いや。
ふたつ、あったけど。

「どう、して」

ヴィクリス様は先輩らしからぬ戸惑いをみせている。

「俺は……忘れられません。
 忘れられませんよ、ニバリス嬢……」
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

どうぞ、おかまいなく

こだま。
恋愛
婚約者が他の女性と付き合っていたのを目撃してしまった。 婚約者が好きだった主人公の話。

優しすぎる王太子に妃は現れない

七宮叶歌
恋愛
『優しすぎる王太子』リュシアンは国民から慕われる一方、貴族からは優柔不断と見られていた。 没落しかけた伯爵家の令嬢エレナは、家を救うため王太子妃選定会に挑み、彼の心を射止めようと決意する。 だが、選定会の裏には思わぬ陰謀が渦巻いていた。翻弄されながらも、エレナは自分の想いを貫けるのか。 国が繁栄する時、青い鳥が現れる――そんな伝承のあるフェラデル国で、優しすぎる王太子と没落令嬢の行く末を、青い鳥は見守っている。

『影の夫人とガラスの花嫁』

柴田はつみ
恋愛
公爵カルロスの後妻として嫁いだシャルロットは、 結婚初日から気づいていた。 夫は優しい。 礼儀正しく、決して冷たくはない。 けれど──どこか遠い。 夜会で向けられる微笑みの奥には、 亡き前妻エリザベラの影が静かに揺れていた。 社交界は囁く。 「公爵さまは、今も前妻を想っているのだわ」 「後妻は所詮、影の夫人よ」 その言葉に胸が痛む。 けれどシャルロットは自分に言い聞かせた。 ──これは政略婚。 愛を求めてはいけない、と。 そんなある日、彼女はカルロスの書斎で “あり得ない手紙”を見つけてしまう。 『愛しいカルロスへ。  私は必ずあなたのもとへ戻るわ。          エリザベラ』 ……前妻は、本当に死んだのだろうか? 噂、沈黙、誤解、そして夫の隠す真実。 揺れ動く心のまま、シャルロットは “ガラスの花嫁”のように繊細にひび割れていく。 しかし、前妻の影が完全に姿を現したとき、 カルロスの静かな愛がようやく溢れ出す。 「影なんて、最初からいない。  見ていたのは……ずっと君だけだった」 消えた指輪、隠された手紙、閉ざされた書庫── すべての謎が解けたとき、 影に怯えていた花嫁は光を手に入れる。 切なく、美しく、そして必ず幸せになる後妻ロマンス。 愛に触れたとき、ガラスは光へと変わる

狂おしいほど愛しています、なのでよそへと嫁ぐことに致します

ちより
恋愛
 侯爵令嬢のカレンは分別のあるレディだ。頭の中では初恋のエル様のことでいっぱいになりながらも、一切そんな素振りは見せない徹底ぶりだ。  愛するエル様、神々しくも真面目で思いやりあふれるエル様、その残り香だけで胸いっぱいですわ。  頭の中は常にエル様一筋のカレンだが、家同士が決めた結婚で、公爵家に嫁ぐことになる。愛のない形だけの結婚と思っているのは自分だけで、実は誰よりも公爵様から愛されていることに気づかない。  公爵様からの溺愛に、不器用な恋心が反応したら大変で……両思いに慣れません。

私は彼に選ばれなかった令嬢。なら、自分の思う通りに生きますわ

みゅー
恋愛
私の名前はアレクサンドラ・デュカス。 婚約者の座は得たのに、愛されたのは別の令嬢。社交界の噂に翻弄され、命の危険にさらされ絶望の淵で私は前世の記憶を思い出した。 これは、誰かに決められた物語。ならば私は、自分の手で運命を変える。 愛も権力も裏切りも、すべて巻き込み、私は私の道を生きてみせる。 毎日20時30分に投稿

【完結】王子妃候補をクビになった公爵令嬢は、拗らせた初恋の思い出だけで生きていく

たまこ
恋愛
 10年の間、王子妃教育を受けてきた公爵令嬢シャーロットは、政治的な背景から王子妃候補をクビになってしまう。  多額の慰謝料を貰ったものの、婚約者を見つけることは絶望的な状況であり、シャーロットは結婚は諦めて公爵家の仕事に打ち込む。  もう会えないであろう初恋の相手のことだけを想って、生涯を終えるのだと覚悟していたのだが…。

25年の後悔の結末

専業プウタ
恋愛
結婚直前の婚約破棄。親の介護に友人と恋人の裏切り。過労で倒れていた私が見た夢は25年前に諦めた好きだった人の記憶。もう一度出会えたら私はきっと迷わない。

婚約破棄したら食べられました(物理)

かぜかおる
恋愛
人族のリサは竜種のアレンに出会った時からいい匂いがするから食べたいと言われ続けている。 婚約者もいるから無理と言い続けるも、アレンもしつこく食べたいと言ってくる。 そんな日々が日常と化していたある日 リサは婚約者から婚約破棄を突きつけられる グロは無し

処理中です...